カンジダ腟症のリスク因子

こんにちは、副院長の石田です。

男性はあまりピンと来ない人も多いかもしれないですが、女性にとって「カンジダ」はとても一般的で煩わしい病気の一つです。カビの一種であるカンジダ菌による腟内の感染症で、人によっては夜も眠れないくらいの強い痒みを引き起こすため生活の質に大きなインパクトがあります。そこで本日はカンジダ腟症のリスクについて少しお話ししたいと思います。

カンジダ腟症のメカニズム

Candida albicansという菌が原因の90%を占めるとされていますが、この菌は直腸や皮膚に普段からいる常在菌であり、これらが腟に紛れ込んで増殖することにより発症すると言われています 1)。ただ、年齢層によって違いはあるものの症状がない女性でも10%以上で腟内にカンジダ菌が検出されることから、必ずしもそこにいるからと言って悪さをするわけでもなさそうです 2)。

カンジダ腟症のリスク因子

最も有名なリスク因子に抗菌薬の使用があげられます。元々腟内には常在菌と言って色々なバイキンが仲良く暮らしていますが、何かの病気の治療として抗菌薬を投与されると腟内にも効いてしまい常在菌のバランスが崩れるため、カンジダが入ってきた時に増殖しやすくなると言われています 3)。また、糖尿病の患者さんでは血糖コントロールが不良だったり、治療薬としてSGLT2阻害薬(スーグラ®︎、フォシーガ®︎など)を使用していると、尿糖上昇の影響でカンジダが免疫による排除を受けにくくなるため発症しやすくなります 4)5)6)。妊娠やホルモン補充療法により女性ホルモンの量が増えるような状況もカンジダのリスクになると考えられています。この機序については不明なことも多いですが、やはり免疫系への影響が考えられているようでした 7)。そのほか、低容量ピルの使用や食事、(性病ではないものの)性生活のあり方などもカンジダ発症への影響について議論があるようですが、結論には至っていないようです。

まとめ

本日は女性のよくあるお悩みとしてカンジダについて簡単に解説しました。上記のように因果関係が示唆されるリスクは複数確認されているものの、明らかな原因がなく発症することも多いです。いずれにしても世の女性におかれましては外陰部の清潔を適切に保ちつつ規則正しい生活を送っていただきながら、それでも痒くなってしまった時には最寄りの産婦人科に相談してみてください。

1) Gonçalves B, et al. Crit Rev Microbiol. 2016 Nov;42(6):905-27.
2) C Tibaldi, et al. Clin Microbiol Infect. 2009 Jul;15(7):670-9.
3) Wilton L, et al. Drug Saf. 2003;26(8):589.
4) Hostetter MK. Diabetes. 1990;39(3):271.
5) Donders GG. Curr Infect Dis Rep. 2002;4(6):536
6) Nyirjesy P, et al. Curr Med Res Opin. 2014;30(6):1109.
7) Pizga Kumwenda, et al. Cell Rep. 2022 Jan 4;38(1):110183.

繰り返す流産について

こんにちは、副院長の石田です。

在胎22週未満で胎児心拍が停止してしまう、あるいは胎児が娩出されてしまうなどの理由で妊娠が終わってしまうことを流産と言います。診察で確認された正常妊娠のうち概ね15%程度が流産になると言われていますが、2.6〜5.0%の確率で2回連続する反復流産や、0.7〜1.0%の確率で3回以上連続する習慣流産となることがあります。ただでさえつらい流産を複数回経験するのは本当に悲しいことですが、本日はこのことについてガイドラインに沿って解説したいと思います 1)。

流産を繰り返してしまう原因

国際的に明確な定義はありませんが、日本では流産または死産を2回以上経験した状態を不育症と呼びます。最も重要な流産リスクは加齢とされていますが、それ以外の原因としては子宮奇形や子宮筋腫・腺筋症などの子宮因子、抗リン脂質抗体に代表される自己免疫疾患、甲状腺機能異常症などの内分泌疾患、そして夫婦の隠れた染色体異常などがよく挙げられます。その一方で半分近くの患者さんで原因不明というデータもあり対応は決して簡単ではありません 2)。いずれにしても複数回の流産を主訴に受診された患者さんにはこれらの異常を念頭に検査を行っていくことになります。「夫婦の隠れた染色体異常」というのが分かりづらいかもしれませんが、染色体異常には「均衡型」と言って保有していても症状が出ないものがあります。具体的には相互転座やロバートソン転座などですが、これが男性か女性のどちらか(あるいは両方)にあると受精卵の染色体異常はより深刻なものとなり、流産のリスクが上昇すると考えられています。しかし夫婦の染色体検査は値段が高い割に必ずしも頻繁に異常が見つかるわけでもなく決してコスパの良い検査ではないこと、仮に異常が見つかっても治療法が存在しないため当人に責任を感じさせるだけになってしまう可能性があることなどから、検査前には患者さんと医療者が検査の意義について十分に話し合っておくことが重要です。

不育症の治療

原因と思われる疾患が見つかった場合には可能な範囲でそれに沿った治療を行っていくことになりますが、原因不明の際に有効とされる治療ははっきりしていません。しかしその一方で流産を5回経験している患者さんでも50%以上の人が最終的に無治療で赤ちゃんを授かれるというデータもあり、必ずしも悲観的になり過ぎる必要はないようです。

まとめ

というわけで本日は流産を繰り返してしまう患者さんの対処法についてご説明しました。一般的には2〜3回流産を経験した場合には不育症専門の施設へご紹介することが多いと思いますが、必ずしも統一した基準はないためその都度医療者と患者さんでよく話し合って対応していく形になります。もし「自分たちは流産を繰り返しているけどどうかな?」と思う方は一度最寄りの産婦人科に相談してみるといいかもしれません。

1) 日本産科婦人科学会/日本産婦人科医会 産婦人科診療ガイドライン 産科編2023 CQ204
2) Abramson J, et al. Thyroid. 2001;11(1):57

Safe abortionについて考える

女性の健康を守るための安全な人工妊娠中絶ケア「Safe abortion」をどこでも行えるよう、WHOは2003年にガイダンス初版を刊行しました。

https://apps.who.int/iris/bitstream/handle/10665/42586/9241590343-eng.pdf

ということは既に20年が経っているのです。それまで日本はどうだったでしょうか?

WHOガイドラインでは

妊娠9週までの中絶は薬剤(メフィーゴ®︎パック)による人工妊娠中絶(推奨の強さ:強)を、

妊娠12週頃(日本では妊娠12週未満)の外科的人工妊娠中絶では真空吸引法(推奨の強さ:強)を

推奨しています。

また規則、政策及び人権面の検討事項に関する推奨事項として

「安全な中絶ケアへのアクセスの妨げ・適時のサービス提供の妨げは撤廃されなければならない」

とも明記されています。

日本では真空吸引法は2018年から(やっと)保険適応収載となり、

薬剤による人工妊娠中絶は2023年に始まったばかりです。内服法としてメフィーゴ®︎パックを扱える登録施設はまだ少ない状況ではありますが、現在日本で行う経口妊娠中絶薬のスケジュール方法は、日本産婦人科医会らが安全な中絶ケアを実現するため、有識者が熟慮し作成したものだと私は感じています。

人工妊娠中絶の方法を選択可能な海外では内服法(薬剤)か手術法(外科的)かは半々の施行率となっています。

薬剤による人工妊娠中絶か外科的人工妊娠中絶かは医療施設が決めるのではなく、妊娠した女性が決める権利であってほしいと思います。

埼玉県内でメフィーゴ®︎パックを扱う産婦人科施設https://www.linepharma.co.jp/search_du.php?pre=埼玉県

文責 院長

人工妊娠中絶方法の選択

先日のブログでもお話しさせていただきましたが、にしじまクリニックでは6月から人工妊娠中絶の方法を

・内服法(メフィーゴ®︎パック):1錠目のミフェプリストンの内服が妊娠9週0日を超えない場合

・手術法(真空吸引法):妊娠12週を超えない場合

を選択できるようになりました。

ではどちらを選択したらよいのか、以下表にまとめました。

無断転載禁止

その他当院に関連する内服法または手術法の注意事項

▫️内服法

・入院日の曜日の指定がある(それに伴い1錠目のミフェプリストン内服日の指定もある)

・入院後翌朝になっても胎嚢排出がない場合は手術法へ移行し、その際は当院は手術法と同様の費用になる

▫️手術法

・原則、子宮頸管の拡張のために手術前日に外来受診指示がある:前日の受診が難しい場合は手術当日に子宮頸管拡張を行うが時間を要するため入院費が別途請求

▫️共通事項

・入院前検査、特に感染症(梅毒など)が発覚した場合は処置日が変更となる

退院後、2回の外来診療は必ず受診していただく(当院治療指針):内服法も手術法も退院後出血や子宮炎症の可能性あり退院後もフォローアップが必要。外来で今後の避妊方法についても説明

以上、人工妊娠中絶方法についてでした。いずれにせよ、母体保護法第14条に適応しかつこれらの留意事項や入院・外来受診を流れをしっかり理解いただけたうえでの処置となります。

文責 院長

メフィーゴ®︎パック序論

日本は今まで外科処置しか選べなかった人工妊娠中絶が、今月末以降内服薬による中絶薬、メフィーゴ®︎が新たに人工妊娠中絶の選択肢として増えます。

▪️適応:子宮内妊娠が確認された妊娠9週0日以下の人工妊娠中絶、なお最初の内服のミフェプリストンの内服日が妊娠9週0日以下におさめなければなりません。また次の内服のミソプロストールは卵・胎嚢が排出されるまで入院管理が必要です。

稽留流産はメフィーゴ®︎の適応とはなりません。

メフィーゴ®︎パックは2種類の内服薬がセットとなり、母体保護法指定医の管理下で投薬となり、かつ2剤目からは胎嚢排出まで入院・院内管理が必要です。

・ミフェプリストン1錠200mg:いわゆる「抗黄体ホルモン薬」であり、妊娠を継続させるホルモンをストップします。初回の内服として妊娠9週0日以下の時点で内服します。

↓ミフェプリストン内服から36〜48時間後に来院し、その後入院・院内管理となります。

・ミソプロストール200μg錠(計4錠):子宮頸管熟化作用に加え、子宮収縮作用を促し胎嚢を排出させます。なおミソプロストールの内服方法は少々特殊ですので、処方医登録を受けた施設で指導を仰いでください。

ミソプロストール投与後24時間までに胎嚢が排出(人工妊娠中絶が成功)する確率は93%(そのうち61%がミソプロストール投与後4時間で胎嚢が排出)です。

ミソプロストール投与24時間後も胎嚢排出を認めない場合は、従来どおり子宮内容除去術を行います。

にしじまクリニックにおいても私院長、副院長石田ともにe-learningを済ませ、処方医登録の完了待ちの状態です。当院で運用が可能となりましたら、改めてホームページ上で告知いたします。

文責 西島翔太、なお詳細につきましてはかかりつけ産婦人科医・母体保護法指定医にご相談ください。