女性の梅毒所見

最近、梅毒患者が増加しているというニュースを見聞きすることも多いかと思います。今回は梅毒の所見について説明します。

感染が成立してから3週間程度の潜伏期間を経て、皮膚や粘膜に発疹を認める顕症梅毒のうち第1期梅毒(初期硬結、硬性下疳[hard chancre]:潰瘍)は、女性では小陰唇から大陰唇や子宮頸部などに現れます。口腔性交の場合には口唇にも出現します。

1期の数ヶ月後に発症する第2期梅毒以降は多彩な臨床症状を呈し、

・梅毒バラ疹:手掌をはじめとする上半身に好発する淡紅色の皮疹。一旦自然消退し、数ヶ月経つと丘疹や乾癬が現れます。

・口腔内の乳白斑

扁平コンジローマ:外陰部できやすい

などから診断されます。

なお1期と2期を合わせて「早期梅毒」と呼ばれます。

女性においては様々な皮疹を呈するので梅毒と気づかない(気づかれない)まま妊娠した場合、児の先天梅毒の危険性があり、最近の流行状況から要注意な感染症と言えるでしょう。

梅毒は採血による血清定性反応から診断もつき、

STS法(RPR)とTPHA法(TP抗体)がともに陽性の場合は梅毒と診断します。

梅毒に対する持続性ペニシリン製剤(ステルイズ®︎)が約1年半前から薬価収載となりました。バイシリンG®︎は顆粒製剤の内服で2週〜1ヶ月以上継続を要するのに対し、ステルイズ®︎は注射製剤なので調整・投与方法が簡便になりました(筋注製剤です)。早期梅毒の場合はステルイズ®︎筋注の単回投与で治療が可能とされています。

文責 院長

新年度からの変更点、シルガード9の定期接種方法

本日令和5年4月1日の新年度から、制度にいくつかの変更があります。

婦人科の制度変更として本日からHPVワクチンの『シルガード9』が定期接種として導入されました。

▪️小学校6年生〜15歳未満の女子

2回接種で完了

▪️15歳以上の女子

従来どおり3回接種(ただし15歳になるまでに既に『シルガード9』を1回接種していれば、2回での接種が完了)

▪️既に4価ワクチンの『ガーダシル』を1回または2回接種した女子

次回も同様に『ガーダシル』を接種する、もしくは『シルガード9』の接種も可能

となります。

『シルガード9』も『ガーダシル』も、当院で既に多くのお子さんが接種、またはキャッチアップ接種を済ませています。適時の接種を行えば子宮頸がんの予防効果は70〜90%と言われていますので、接種対象でまだ行なっていない方は当院へご相談いただければと思います。

他、新年度における産科の制度変更として、ご加入の健康保険から支給される出産育児一時金が42万円から50万に増額となり、にしじまクリニックではその分産婦さんの負担が減ることになります。例えば自然経腟分娩の場合、分娩予約金をお支払いしていれば、退院時のお支払いは19,000円から、となります。

https://nishijima-clinic.or.jp/info02.html

分娩のご予約のお問い合わせが多くなることが予想されますので、ご妊娠され、当院で分娩を希望される場合は早めの受診をお願いできれば幸いです。

分娩予約状況につきましては当院HPの「お知らせ」からご確認いただけます。https://nishijima-clinic.or.jp

文責 院長

ピルとの併用に注意が必要な薬

ピル内服において、他の薬との併用に注意が必要なものを今回説明します。

・ピルの効果が低下する薬

抗てんかん薬、一部の抗菌薬 (リファンピシン)など

抗結核薬の一つであるリファンピシンはピルの併用により、ピルの成分であるエチニルエストラジオール(以下EE)の代謝を促進するので不正性器出血(非器質性子宮出血)の増加や妊娠例が報告されています。特に低用量ピルといわれるEE 30μg(0.03mg)未満の製剤(ヤーズ®︎、ルナベルULD®︎、ジェミーナ®︎)との併用はピルの効果が不十分となる可能性があります。

・ピルの効果が強まる薬

アセトアミノフェン

・併用すると併用した薬の効果が低下するもの

アセトアミノフェン、抗てんかん薬、GnRHアゴニスト/アンタゴニスト薬(子宮筋腫や子宮内膜症に対する薬) など

・併用すると併用した薬の効果が強まるもの

三環系抗うつ薬、ステロイド、シクロスポリン(免疫抑制薬)、テオフィリン(気管支喘息治療薬の一つ)、オメプラゾール(胃酸分泌抑制薬)

三環系抗うつ薬の内服はそれ自体の薬効が強まる恐れがあり、投与量を減らすなどの対応が必要です。また向精神薬全般に言えることですが、相互作用から非器質性子宮出血の原因となることがあります。

上記薬剤から身近な薬で併用注意が必要なのは、市販でも販売されているアセトアミノフェン(タイレノール、ノーシン、セデス、ナロン など)でしょうか。

アセトアミノフェンの併用はそれ自身の効果が減弱し、ピルの効果は増強する可能性があります。

よってピルを内服したばかりでまだ生理痛が心配な時は、ロキソプロフェンなどのNSAIDsを処方するのが無難かと思います。なおNSAIDsとピルの併用により血栓症のリスクが上がることはないとされています1)。

参考文献

1) CQ113. OC・LEPガイドライン2020年度版

文責 院長

ピルの経済学

こんにちは、副院長の石田です。

近年は社会のリテラシー上昇に伴いピルが市民権を得ているように感じます。一昔前は女性がピルを使っていると言うと、無根拠に後ろめたい空気感すらありましたのでそれを思うと隔世の感がありますね。さて、心理的ハードルが下がりつつあるとはいえ、ピルを飲み続けることに関しては薬代に加えて通院費用などの経済的負担、そして通院にかかる時間や体力、さらには毎日同じ時間帯に内服を続けるという手間などから二の足を踏まれる女性も多いかもしれません。そこで本日はいつもと違う視点でピルについて考えてみたいと思います。

ピルの種類と値段

ピルには色々種類があるのですが、1ヶ月あたり概ね700〜3000円くらいで購入することができます。値段に4倍近くばらつきがあるのは月経困難症と診断された方には保険が適用されるからです。細かい違いはあるものの、どのピルでも大きな意味での効果効能は同様に期待できるため保険のピルの方がいいじゃん!となりそうですが、製剤によって体に合う・合わないがあったり、保険適用の製剤でも先発品だと自費処方のピルとそんなに自己負担額が変わらない場合もあります。むしろ自費処方の製剤ではネットで購入しやすかったり多めの量をまとめて購入しやすかったりと融通が効きやすいため便利だと感じる人も多いかもしれません。いずれにしてもここで言いたいのはピル自体の費用は一番高くて月3000円くらいだと言うことです。

ピルの経済効果

では、逆にピルを内服しなかった場合の損失について見てみましょう。ピルの恩恵をどれほど受けられるかは女性一人ひとりで違いますが、社会全体として見てみると日本では月経困難症だけでも6862億円の損失が見積もられています 1)。このうち労働生産性低下による損失が4911億円と約72%を占めており生理痛をコントロールできるだけでもこれほどの経済効果が期待できるのが分かります。また、同様に日本人を対象にした別の研究によると月経困難症の患者さんを症状から解放できた場合、個人レベルでも通院費や薬剤費を払ったとしても失われずに済む利益の方が大きいとされています 2)。これらは飽くまで月経困難症のみを考慮した話ですが、ピルには他にも月経前症候群(PMS)の改善、卵巣がんを含めたいくつかの悪性腫瘍予防効果、性暴力被害を含めた望まれない妊娠を防ぐ避妊効果、ニキビの治療効果、子宮内膜症による不妊の予防効果などもあるため、これらによる直接、間接での損失を考慮するとピル内服による経済的な利益はそれ以上になると考えられます。

まとめ

上記の試算に関しては月経の程度などによって受けられる恩恵に個人差があると思われますが、学校や仕事、家事など生活に影響が出るほどの月経痛がある人にとってピルの内服は「投資」としての視点に立つならば高いリターンが期待できると思われます。また、同様に定額を払い続ける保険と比較すれば、20代半ばの方の終身医療保険の支払いとそれほど変わらない程度の金額であり、かつ保険と違って体に良い効果が得られることを考えれば納得感があるでしょうか?
絶対額で見ると決して安い買い物ではないかもしれませんが費用対効果はとても高いお薬ですので、生理痛や月経前症候群などでお困りの女性は是非前向きにご検討ください。

1) Erika Tanaka, et al. J Med Econ. 2013 Nov;16(11):1255-66
2) Ichiro Arakawa, et al. Cost Eff Resour Alloc 2018 Apr 10;16:12

流産手術関連の略語

医療用語に関し、特に私の世代ではドイツ語より英語が主流で教わってきましたが、中には混在して医療従事者間で話されている時があります。今回は流産手術関連の用語の略語について解説していきます。

「アウス」

人工妊娠中絶することを俗語では「堕ろす」と呼んでいますが、

医療現場では「アウス」と呼ぶことが多いです。「アウス」は、ドイツ語で

「掻爬(そうは)」を意味する「Auskratzung(アウスクラッツング), Ausräumung(アウスロイムン(グ))」が由来の和製通俗略語です(*)。kratzenは「引っ掻く」、räumenは「取り除く」という意味の動詞で、Ausは「外へ」を表すので、前者は(子宮内を掻き出すことから)子宮内掻把術、後者は(子宮内容を取り除くことから)子宮内容除去術と訳します。

*Auskratzung、Ausräumungというドイツ語の分離動詞の前綴り部分に相当するところだけで全体の意味が代表されてしまうという、不思議な和製通俗略語です。 ちなみに英語で流産はabotionで人工妊娠中絶は、直訳すればartificial abortionになりますが、英語圏ではTermination of Pregnancy(ToP)などと呼んでいます。

D&C,VA

子宮内容除去術を行う際には頸管拡張(cervical Dilatation)を行うことが多いので、「拡張と掻爬」を英語で「Dilatation and Curettage」と呼び、頭文字をとって「D&C」との略称で呼んでいました。近年は掻爬ではなく、吸引が主流なので「VA(Vacuum Aspiration)」という言葉をよく用います。

KA

人工的に流産させる人工妊娠中絶はKünstlicher Abort(クンストリッシャー・アボルト)なので、略して「KA」と呼んでいます。

実はドイツ語のKは「カー」と発音し、Aは「アー」と発音するので、 KAの正しいドイツ語読みは「カーアー」なのですが、昔から(英語読みで)「ケーエー」と呼ぶ医療従事者もいます。

一方、自然流産のことをドイツ語でSA(Spontanes Abort(シュポンターナス・アボルト)といいますが、「ケーエー」同様に英語の略語読みで「SA(エスエー)」と呼んでいます。ちなみに英語で自然流産はspontaneous abotionで、略語は同じく「SA」となります。

文責 院長