産後の避妊について

こんにちは、副院長の石田です。

出産直後は赤ちゃんのお世話に慣れるまでお母さんたちは大忙しで、昼も夜も無くなりますが、だんだん育児のペースがつかめてきて余裕が出始めると夫婦生活も再開されてきます。本日はそんな産後の避妊についてのお話です。

産後はいつぐらいから排卵が始まるのか

分娩後の月経開始は非常に個人差があります。中には数ヶ月で開始する人もまれではあるもののいらっしゃいますし、逆に再開まで1年以上かかる人も多いです。ただ、生理よりも先に排卵が再開している人が多くいるといわれており、妊娠にはこちらが主に関わってきます。分娩後の排卵再開は最短で非授乳婦では4週間程度、授乳婦で2ヶ月半くらいという報告があり1) 、その間に適切な避妊をされずに気がついたら妊娠していたということもあるため注意が必要です。

どのような避妊方法があるのか

お手軽なのはコンドームです。処方も必要がないし、適切な使用は高い避妊効果以外にも感染症の予防効果も含めたメリットがあります。ただ、装着感が苦手などコンドームを使用しづらい状況があるご夫婦には他の避妊法をご提案することになります。

1)低用量ピル

いわゆる“避妊ピル”で、毎日決まった時間に1錠ずつ、シートの流れに沿って服用するのが一般的です。避妊成功率もとても高い上に服用期間に応じて卵巣癌や子宮体癌、大腸癌などの発生頻度を抑えてくれるなどメリットが示されています。2)3)4) ただ、産後のお母さんたちは深部静脈血栓症という命に関わるような恐い病気のハイリスクでありピルはその病気を起こしやすくする副作用があるため、授乳婦であれば原則的には妊娠の影響がしっかりと抜けてくる分娩半年後くらい、非授乳婦であれば21日以降を目安に処方されることが多いです。

2) 子宮内避妊器具(ミレーナ®️)

子宮の中に入れるタイプの避妊具で、ホルモン剤が添加されており徐々に溶け出す仕組みになっています。最長で5年くらい入れておけますが、定期的な位置のチェックだけで他の手間がかからないためとても楽です。産後は2ヶ月くらいしたら入れることが可能です。初期費用が高くて驚かれる方もいらっしゃいますが、5年間ピルを飲み続けるのと比較するとこちらの方が圧倒的に安いです。

まとめ

産後は生理が来るまでの間、なんとなく避妊が疎かになりがちですが、慎重な家族計画はどのご家庭にとっても大切なことです。万が一避妊に失敗した場合でも、(条件はありますが)緊急避妊が可能ですのでお気軽に最寄りの産婦人科へご相談ください。

1) Cronin TJ, et al. Lancet 1968; 2: 422-424

2) Havrilesky, LJ et al. Obstet Gynecol 2013; 122: 139-147

3) Gierisch JM, et al. Cancer Epidemiol Biomarkers Prev 2013; 22: 1931-1943

4) Martinez ME, et al. Cancer Epidemiol Biomarkers Prev 1997; 6: 1-5

緊急避妊薬について

こんにちは、副院長の石田です。

全ての女性にとって妊娠するかしないかの選択は社会的にも身体的にもとても大きな決断の一つですが、デリケートな話題であるほか文化的な要素も影響して日本では女性が主導権を取ってコントロールするのが難しい場面もあるかもしれません。本来は男性がしっかりと自覚しなければいけない部分ではありますが、いざという時には女性のためのレスキュープランが存在します。ということで本日はアフターピル、モーニングピルの名前でもお馴染みの緊急避妊薬についてお話ししたいと思います。

どんな人が緊急避妊をするべきか

基本的には妊娠を希望しないにも関わらず、適切な避妊方法が取られない性交があった全ての生殖可能な女性が対象となります。具体的には単純に避妊しなかった、ピルを飲み忘れた、コンドームが破損した、腟外射精のみしたなどが挙げられますが、その他にはもちろん性暴力被害者の方も含まれます。

緊急避妊の方法

以前はYuzpe(ヤッペ)法という2回の内服が必要な方法が採られていましたが、2011年からはレボノルゲストレルというお薬を1回飲めばよい方法(LNG単回投与法)が認可されて主流になりました。いずれも性交があってから72時間以内の内服で有効とされており、妊娠阻止率は85%前後と言われています。「意外と低いじゃないか」と思われる方もいらっしゃるでしょうが、これに加えて元々1回の性交で妊娠する確率が10%前後しかないことを計算に入れると結局緊急避妊薬を使った後の避妊成功率は97%以上に昇ります 1) 。内服後は95%の女性に予定月経日の7日以内で月経が来ますのでそれが確認できたら避妊成功ということになります。逆に月経が来ない場合には避妊失敗の可能性がありますので妊娠反応を確認する必要があります。

LNG単回投与法は副作用もほとんど無く、アレルギーがあったりしなければまず安全に使用できる避妊方法ですが、授乳中の方に限っては内服後24時間授乳を中止していただく必要があります。ちなみに海外では2010年頃からUlipristalというレボノルゲストレルと同じくらい安全なのに性交後120時間まで有効なお薬 2) が出て主流になっています。日本でもどこかの製薬会社が販売しようとしているという噂を聞きましたが、まだよく分かりません。

処方の受け方

海外では町の薬局で手軽に買える国も多いですが、日本ではまだ産婦人科を受診しないと薬を手に入れることはできません。また、大きい病院では救急対応などを優先させるために原則として緊急避妊薬は処方していないことも多く、主にクリニックで取り扱われている傾向があります。24時間いつでも処方を謳っている施設もありますが、上記の通り72時間以内に内服すれば良いので落ち着いて最寄りの産婦人科へ診療日に受診されるということで大丈夫です。(事前に薬の取り扱いがあるかどうか、電話やホームページなどで確認しましょう。)そうは言っても大型連休中はうっかり72時間以内に診療日が無い場合もあります。そういう時にはお近くの「お産を取り扱っているクリニック」に問い合わせてみると良いでしょう。「お産を取り扱っている=24時間必ず医師が常駐している」ということになりますので休日でも処方を受けられる可能性が高くなります。

ちなみに処方を希望される女性が未成年の場合、どうしたら良いのかパニックになってしまうかもしれませんが、原則的には保護者の同意などは必要ありませんので安心してお問い合わせいただければと思います(※)。ご両親としてはお子様が薬を必要としている状況はとても気になるかと思いますが、成人しているかどうかに関わらず避妊に関しては全ての女性に平等に自己決定権があるというのが基本原則です。病気ではないので自費診療となりますが、逆に保険を使用することもないためプライバシーは守られます。当院では避妊指導料込みで¥15,000(税別)で処方をお受けしていますので必要な場合はお気軽にご相談ください。

また、不幸にも性犯罪に巻き込まれてしまった被害者の方に関しては、警察に被害を届け出ていただくと診察、検査、緊急避妊薬の処方、中絶などにかかる費用を公費で負担してもらえる制度があります 3) 。被害を訴え出るのはとても勇気の要ることですが、そういった選択肢があるということも皆様には知っておいていただきたいです。

(※)病院によってポリシーが異なる場合がありますので必ずご自身の責任で各受診先へお問い合わせください。

1) Novikova N, et al. Contraception 2007 Feb; 75(2): 112-8

2) Glasier AF, et al. Lancet 2010; 375: 555-562

3) https://www.npa.go.jp/hanzaihigai/whitepaper/w-2019/pdf/zenbun/pdf/hd1s.pdf

ミレーナ®︎について

最近、テレビによる効果かミレーナ®についてのご質問が多く、ブログに載せることにしました。

ミレーナ®はレボノルゲストレル放出子宮内システム、いわば黄体ホルモンを放出する子宮内デバイス(器具)です。

ちなみに、『レボノゲストレル』は緊急避妊薬としても使われる黄体ホルモンです。なお先日ピルについてのブログ投稿でも書かせていただきましたので、是非とももう一度いただければと思います。

ピルについて

現在日本ではミニピル、いわゆる黄体ホルモン単独のピルが、緊急避妊薬以外には用いることができないため、血栓のリスクを理論上さげるためには、このミレーナが有効と考えます。

治療の適応は過多月経月経困難症となります。

自費診療として避妊目的にも使用可能です。

参照サイトhttps://whc.bayer.jp/mirena/mirena/index.html

にしじまクリニックではご来院後にまず問診、その後外来診療でエコーによる子宮の評価、性感染症がないかどうか等をチェックさせていただきます。可能なら子宮がん検診もお勧めします。それらの結果で異常ないことを確認した後、子宮内へミレーナ®を挿入します。

挿入装着時期は月経開始後1週間以内を目安にしてください。

ミレーナ®の使用を開始してから数ヵ月間3ヶ月が目安)は月経時期以外の出血がみられことがあります。 しかし、通常は時間の経過とともに減少します。

装着後は定期的な診察・受診をお願いしています。装着留置期間は5年間です。

装着希望の方の注意点として、『子宮は筋肉による蠕動運動がある』ことがキーポイントになります。せっかく良い位置に挿入しても後にミレーナ®︎の位置が下降てしまうことがあるのです。よって、分娩後6週未満の方は装着を控えていただきます。子宮復古のため、オキシトシンという体内ホルモンによる子宮収縮が起こり、装着後のずれや子宮穿孔のリスクがあるからです。

気になる点ございましたら、私院長もしくは副院長石田にご相談ください。

今後ますます、経験のみならず正しい知識とエビデンスを活用し、できるだけ皆様の気持ちに寄り添える診療をしていく所存です。一緒にお悩みを解決していきましょう。

参考文献;

バイエル薬品株式会社 Web conference(2019年11月21日)

Essential obstetric and newborn care, 2015 edition

ピルについて

月経(生理)のある動物はそう多くはありません。ご存知でしたか?

ヒト、女性は通常月1回生理が起き、痛みや症状が伴うストレスは男性と比べ計り知れません。昔と比べ、現代の女性は出産回数が少ないです。ということは月経の回数も多いことになります。

そこでピルのお話、となってきます。初めてピルが使われたのは1960年代となります。21日内服し7日間休薬するタイプで、これは内服コンプライアンスの関係から、要するにカレンダーで合わせた飲み方ということになります。月1回の出血があれば安心するという方々がいらっしゃるのも事実です。しかしながら、ある研究結果から、月1回の生理は医学的に健康と関係なく、No health benefitであるということがわかっています。

それであれば、できるだけ生理の回数が少ない方が良いとの考えで、最近は120日間連続内服するピルも使われてはじめています。実際、にしじまクリニックでもこの処方をさせていただくことがあります。

ピルはLEPやOCと呼ばれます。

LEPとはLow dose Estrogen Progestin、いわゆる月経困難症や子宮内膜症などの疾病に対して使うピルを指します。よって保険適応となります。避妊目的には使用しませんが、結局のところ服用中は基本的に妊娠はしません。

避妊目的に用いるピルがOCでOral Contraceptiveと呼ばれます。

ちなみに妊孕性(妊娠)については、LEPおよびOCを中止すれば可能です。

日本ではLEPもOCも『エストロゲン+黄体ホルモン』のコンバイン製剤なので、あとはエストロゲンの濃度や黄体ホルモンの種類に製剤の違いがあります。

今回は保険適応となるLEP製剤を説明します。

・ルナベルULD:エチニルエストラジオール(以下EE)+ノルエチステロン(第1世代)

・ジェミーナ:EE+レボノルゲストレル(第2世代)

・ヤーズフレックス:EE+ドロスピレノン(第4世代)

現在はエストロゲン系、いわゆるエチニルエストラジオール(EE)の濃度を少なくし、血栓症や乳がんのリスクを減らそうとする製剤が選択されます。ちなみに、EEは卵巣から直接分泌されるエストラジオールとは異なり、採血で反映されない外因性のものです。EEはエストラジオールの4〜8倍活性があり、よって50歳以上の方はエストロゲンの活性ありすぎて血栓症のリスクが高く、原則使用禁止がうたわれています。

また、黄体ホルモン中に含まれるアンドロゲンを減らすことで脂質プロファイル悪化、体重増加、多毛、ニキビを減らすことができます。世代が上がる程アンドロゲンが少ないのです。また、ドロスピレノンは月経前症候群(PMS)の効果が期待できるとされています。

黄体ホルモンの中で『レボノルゲストレル』は緊急避妊薬や子宮内デバイスのミレーナ®に使用されることを知っておいてもよいかもしれません。

他国ではミニピルと呼ばれる、黄体ホルモン単独のOCがあり、ドロスピレノン単独のOCは血栓症のリスクをさらに減らすことができます。残念ながら日本では内服薬に関してはそれがないので、血栓症のリスクを減らすためには

・ピルを中断する回数を少なくする

・OC単独の血栓症リスクに比べ、喫煙者がOC内服によりは約2.5倍以上増加することを理解してもらう(だから喫煙者は処方控えさせていただきます)

・前兆を伴う片頭痛もちの方は禁止

などの条件を確認しつつ私たちは処方しています。

あと、都市伝説(?)的なものとして、太りやすい、浮腫みやすいのでは、とのご質問をいただきますが、LEPおよびOCは原則代謝を上げるため太りませんし、浮腫みが増悪し続けることはありません。これは信頼できるエビデンスを提供するコクランレビューにも明記されています。

OC服用者は将来の子宮体癌、卵巣癌、大腸癌リスクを減らします。

子宮頸癌の予防ははワクチンで、適応年齢が過ぎているならがん検診を欠かさずお願いします。

ピルは欧米ではLife design drugsとも呼ばれます。月経に伴う症状が辛くて学業に支障が出たら困りますよね?またピルは女性アスリートにも用いられる薬なのです。

月経でお困りの場合はご来院いただき、私院長もしくは副院長へご相談ください。

執筆 院長

参考)

OC・LEPガイドライン

第8回埼玉県女性医療フォーラム

今日の治療薬

Essential obstetric and newborn care, MSF book 2015 edition