男子中学生たちに子宮頸がんワクチンをお勧めしたい

こんにちは、副院長の石田です。

私は産婦人科医なので、普段仕事で関わる人の大部分は女性です。しかし本日は、普段はほぼ接点のない男子中学生に向けて、子宮頸がんワクチンの接種を提案したいと思っています。子宮がない男子は当然子宮頸がんにも罹りませんが、それでもこのワクチンを接種することには大きなメリットがあります。

ほとんどの子宮頸がんはパピローマウイルスの感染によって発病しますが、男性の場合は一生子宮頸がんになることはない一方で、のどや陰茎、肛門のがんや、尖圭コンジローマという性病の原因にはなります。がんによって形や機能を損なったり、カリフラワーのようなコンジローマが群生している陰茎や肛門の写真はネットを検索すればいくらでも出てきますが、これらの病気がいかに皆さんのQOL(人生の質)に負の影響を与えるかは簡単に想像できると思います。しかしそれらの病気をワクチン接種で予防できるとすれば、それは素晴らしいことです。現代では性の多様化が進んでいますが、もし恋愛対象が女性の場合、あなたが子宮頸がんワクチンを打ったと彼女が知れば、男子にも関わらず女性の健康に当事者意識を持って関わろうとする姿に惚れ直すことは間違いありません。きっと彼女のご両親も、あなたを信じて大事な娘を快く預けてくれることでしょう。(※あくまで個人の感想です。)

このワクチンが世に出て約20年経ちますが、世界に先駆けて接種を進めたオーストラリアでは重篤な副作用がほとんど無いまま、2035年には子宮頸がんが国内から撲滅される見込みが立つほどの有効性を示しています。また、すでに東京都内では男子が無料で接種できる自治体も増えており、きっとこの流れは他の近隣自治体にも波及してくるでしょう。ちなみに埼玉県でも秩父市や熊谷市など、男子の接種に助成金を出す市町村があります。特にそういった場所では前述のメリットに対して接種により抱えるリスクはほぼありません。小児科や産婦人科での接種が可能ですが、小さな子供や女性だらけの診療所を受診するのは抵抗を感じるでしょうか?そんなことを気にする必要はありません。妻も小児科医である私から言わせれば、待合室にいる周りの患者は誰もあなた方を気にしていないので心配無用です。

とは言え、もちろんワクチン接種を強いる気はありません。自分の体よりも社会のために打つとして「思いやりワクチン」という言葉もありますが、誤解を恐れずに言うのであれば、私はワクチンは接種する人を守ることが本質であり、社会全体での感染症の抑制は副次的な効果だと考えています。どんな医療行為も一人ひとりがしっかり納得した上で自分の意思で受けるべきであり、誰かに押し付けられるものではありません。ただ、思春期男子である皆さんがもしこのワクチンを接種してくれたら、それはきっとあなたと社会にとって少し良い未来につながるでしょうし、もし接種をしなかったとしてもこの記事が女性の健康という一つの社会課題に目を向けるきっかけになってくれると嬉しいです。

百日咳ワクチン

百日咳(pertussis)

百日咳は、百日咳菌という細菌によって引き起こされる呼吸器系の感染症です。病気の名前の通り、激しい咳が長引きます。百日咳にかかった大人は乳幼児にうつす可能性があり、特に乳幼児はワクチン接種前に感染すると重症化する可能性があります。

百日咳はワクチンがある

日本では百日咳に対して3種または4種混合ワクチンの定期接種が生後2ヶ月以降に実施されます。よってその接種期間前に百日咳を乳児にうつさない事が重要です。

欧米では妊娠末期の妊婦に百日咳ワクチンを接種する事が一般的です。いわゆる「母子免疫ワクチン」で、日本で昨年から本格的に始まったRSウイルスワクチンと同様に考え方です。

DTaP(トリビック®︎)は妊婦への皮下接種が可能

トリビック®︎DPT(ジフテリア、百日咳、破傷風)3混合ワクチンで日本で定期接種として導入されています。不活化ワクチンであり、本来はDTaPは小児用として用いられますが添付文章上、妊婦への接種が可能です。0.5mL(1バイアル)を皮下注射を行います。推奨接種時期は妊娠27・28週〜36週です。

*成人用のTdap(現在日本では未認可)は後日改めて説明します。

https://www.vaccine4all.jp/news-detail.php?npage=2&nid=138

トリビック®︎の接種については、当院では希望される妊婦さんから同意のうえ行っております。詳細はかかりつけの産婦人科医と相談なさったうえ接種を検討してください。

文責 にしじまクリニック院長

妊婦さんへのりんご病の影響

こんにちは、副院長の石田です。

私の妻が小児科医なのですが、先日「今年はりんご病が流行ってる」という話になりました。確かに「この前、子供がりんご病になっちゃいました。」という妊婦さんもたまにいらっしゃるので調べてみると、どうやら本当に患者さんが増えているようです。
NHKのサイトより

そこで本日は妊娠とりんご病について少しお話ししてみようと思います。

りんご病とは

パルボウイルスB19感染による伝染性紅斑という病気の別名です。経過中に両頬が赤くなるその見た目からりんご病とも呼ばれますが、日本では約5年周期で流行が見られ、1回の流行は1〜2年続くとされています。(実際、前回の流行は2019年頃でした。)一度感染するとその後は終生免疫を獲得すると考えられており、現在本邦における妊娠可能年齢女性の抗体保有率は概ね50%程度と推計されています。一般的には感染すると5〜10日程度の潜伏期を経て発熱、咳、咽頭痛、関節痛などのいわゆる風邪症状で発症し、その後5日程度して特徴的な頬と体の赤みが出現します。このうち患者が最もウイルスを排出するのは風邪っぽい症状の時であり、頬の赤みが出てりんご病だったと気づく頃にはもはや感染力はありません。

妊娠中の感染

妊婦がパルボウイルスB19に感染すると17〜33%に胎児感染を生じますが、このウイルスは胎児の造血システムに干渉して胎児貧血や胎児水腫を引き起こすことが知られています。また、特に妊娠初期で感染した場合は流産や胎児死亡の原因になることが知られており注意が必要です。一方で胎児水腫は母体感染から8週以内に起こることがほとんどであり、それを過ぎると確率は大きく下がります。また、胎児水腫となった場合も34%は自然寛解したという報告もあるため感染したかもと思ってもそれだけで悲観し過ぎることはないのかもしれません。また、感染後に胎児死亡とならず無事出産された場合、赤ちゃんに長期的な後遺症が残るかどうかは研究によって結果にバラつきがあるため、今のところはあるとも無いとも言えない状況です。

まとめ

本日は妊娠とりんご病について解説いたしました。妊娠中の感染に対しては超音波などで胎児貧血の徴候が見られた場合に胎児輸血を行ったりすることはあるものの、できる治療は極めて限定的です。加えてワクチンなども無く感染予防も簡単ではありませんが、現在妊娠している方は注意してお過ごしください。

RSウイルス母子免疫ワクチン「アブリスボ®︎」

RSウイルス母子免疫ワクチン「アブリスボ®︎」が、当院でも採用となりました。

RSウイルス感染症について
RSウイルス感染症は呼吸器疾患であり、免疫が不十分な新生児から高齢者まで感染するリスクがあります。

RSウイルスは生後1歳までに50%以上が、2歳までにほぼ100%が感染し、終生免疫は獲得されず再感染がみられます。乳幼児における肺炎の約50%、細気管支炎の50~90%がRSウイルス感染症によるとされており、小児科医が対応する感染症の大きな原因となっています。

症状は軽症の感冒様症状から下気道症状(咳、呼吸困難、喘鳴[ぜんめい])に至るまで様々で、特に生後6か月齢未満で感染すると重症化します。

日本では毎年約12万~14万人の2歳未満の乳幼児がRSウイルス感染症と診断され、そのうち約4分の1に入院が必要と推定され、日本においても重症例(酸素投与以上)では、0.3%程度が死亡しているとされます。
RSウイルス感染による乳児の入院は、基礎疾患を持たない正期産児も多く、入院発生数は生後1~2か月時点でピークとなります。このようにRSウイルス感染症の疾病負荷は極めて大きく、基礎疾患の有無にかかわらず生後早期から予防策が必要な感染症なのです。

RSウイルス感染症の重症化抑制する対策として
RSウイルス感染症に対しては有効な治療薬はなく、対症療法しかありません。そのため予防が重要となり、RSウイルス感染症の重症化抑制薬としてこれまでパリビズマブ(シナジス®︎) が早産児や先天性心疾患など基礎疾患のあるハイリスク児に限定して使用されます。

しかし、RSウイルス感染症による入院の大部分を占める、『基礎疾患のない』正期産児に対して、シナジス®︎は健康保険適用外(自費診療)となり、非常に高額です。

よってRSウイルス母子免疫ワクチン
現状、小児に有効なRSウイルスワクチンは開発されておらず、そこで着目されたのがRSウイルス母子免疫ワクチン「アブリスボ®︎」です。

妊婦に接種することにより、母体のRSウイルスに対する中和抗体価を高め、胎盤を通じて母体から胎児へ中和抗体が移行することで、新生児・乳児におけるRSウイルスを原因とする下気道疾患を予防します。妊娠24~36週の妊婦に筋肉内に1回接種しますが、28週から36週の接種によりさらに有効性が高くなる可能性があります。生後6か月までの重度のRSウイルス関連下気道感染症、医療機関の受診を必要とするRSウイルス関連下気道感染症に対しての有効性が臨床試験で証明されています。
承認前の臨床試験(国際共同第Ⅲ相試験)において、母体のワクチン接種により重度のRSウイルス関連下気道感染症に対して、生後90日で81.8%、180日で69.4%の減少が認められました。また医療機関の受診を必要とするRSウイルス関連下気道感染症に対して生後90日で57.1%、180日で51.3%の減少が認められました。

有害事象および重篤な有害事象はワクチン群とプラセボ群で同程度でした。

以上から、RSウイルスワクチンは、『基礎疾患のない』乳児に対するRSウイルス感染症の予防に寄与することが期待されます。

執筆 院長

子宮頸がんワクチンのキャッチアップ接種が終了します。

こんにちは、副院長の石田です。

子宮頸がんワクチンは文字通り子宮頸がんを予防するワクチンです。正確には子宮頸がんの原因となるパピローマウイルスへの感染を防ぐことにより間接的に子宮頸がんが発生しないようにしています。2007年に人への接種を開始して以来、今では100カ国以上で定期接種となり、積極的に打ち続けた国では子宮頸がんの発生率が90%も低下しているようです。また、このワクチンは子宮頸がんだけでなく肛門がん、外陰がん(腟、陰茎など)、中咽頭がんや尖圭コンジローマという性病も予防してくれるため、男性にとっても有益なワクチンとなっています。我が家も先日中学生になった長男に接種を開始しました。

日本では社会的に副反応への懸念が高まった影響から永らく接種控えが起こっていましたが、2022年から積極勧奨が再開しました。それに伴い対象者であったにも関わらず接種機会を逃してしまった可能性がある平成9〜19年度生まれの女性にキャッチアップ接種として無料でのワクチン提供が行われていますが、この制度が2025年3月で終了します。ワクチンは3回打ち終わるのに半年かかるので、対象者は9月までに打ち始めないと接種に最大で7万5千円〜10万円程度の自己負担が発生してしまいます。もちろんキャッチアップ接種の期間が終わっても自費で打つことは可能ですが、ご希望の方はこの期間内に打ち終えられるよう早めのご予約をお勧めします。

最近では15〜39歳を指してAYA (Adolescent & Young Adult) 世代と呼びますが、この世代の女性がかかる悪性腫瘍で最も多いものの一つが子宮頸がんとされています。若くして大きな病気にかかるのはとても大変なことですが、一方で子宮頸がんは「予防」と「定期検診による早期発見」の両方が可能な珍しい疾患です。まだお済みでない方は、是非この機会に接種をご検討ください。