逆子とはどのような状態なのか

妊娠末期以降、いわゆる妊娠28週以降から逆子を気にするようになるのですが、一体どういう状態か、確認しましょう。

「逆子」とは、ご存知のとおり児の位置として「骨盤位」が正式名称です。

母体に対し、児の位置や向きは胎位胎向胎勢の3つから表現されます。

胎位とは母体軸に対し胎児軸はどのようになっているかを示すものです。分類として

・縦位

・横位

・斜位

があります。そのうち縦位は内診時の児の先進部分によって

▪️頭位

▪️骨盤位

とさらに分けられるのです。

骨盤位においては主に

⚫️単殿位(児のお尻が1番下)

⚫️複殿位(児が足を曲げて、あぐらをかいているか体育座りになっている様な状態)

な状態があります。

骨盤位は英語で” Breech presentation”と訳されます。この「presentation」とは英米式の児の産道における位置と先進部の表現の一つに相当します。英米式はその他の表現で『position』という分娩中の児の向きを表現するものがあります。

骨盤位においても「position」の英語表現を用いられる時もありますが、この場合は分娩経過の表現と捉えてください。現在は骨盤位分娩が少なくなっているのであまり耳にしたことがないと思いますが、骨盤位分娩において(当然ながら内診で頭位の方位点[determining point]である後頭[Occiput]は触れないので)児の仙骨(Sacrum)を主として分娩中の児の向きを表現します。よって骨盤位分娩で内診時、児の仙骨が母体の左斜め前を向いているとpositionの表現法は

『LSA』

となるのです。

文責 院長

熱中症に五苓散

連日暑い日が続きますが、皆さんいかがお過ごしでしょうか。

熱中症の身近な対策といえば水分補給(塩分も忘れずに)ですが、ドラッグストアなどで売っている漢方薬も熱中症対策として存在します。それは

『五苓散(ゴレイサン)』

です。

五苓散の効能・効果の中に「暑気あたり」があります。いわゆる熱中症の初期状態に相当します。

五苓散は水滞(本来であれば体内に排出されるべき水分が体内にとどまっている状態)を改善する漢方の一つです。

五苓散は柴苓湯(五苓散+小柴胡湯)とともに、妊娠中の浮腫やめまいに対し使用されるされることも多い漢方薬です。

配合生薬の一つに猪苓(チョレイ)が含まれています。これは水液代謝を調節し不要な水分を排泄する作用を持ち、膀胱炎に対する漢方薬にも多く含まれています。

五苓散は高山病による頭痛や二日酔いにも症状の軽減効果があるようです。熱中症の軽〜中等度以内の症状での頭痛にも効果があるかもしれませんね。

文責 院長

妊娠中に飛行機に乗って大丈夫?

こんにちは、副院長の石田です。

さて、世の中が徐々にアフターコロナの雰囲気になる中で国内外とも飛行機を使って移動される方も増えているようです。もうすぐお盆ということもあり妊婦さんの中には旅行や帰省を検討中の方も多いかとは思いますが、良く聞かれるのが「飛行機乗って大丈夫ですか?」というご質問です。そこで本日は妊娠に対する飛行機移動の影響について解説したいと思います。

飛行機での移動は妊婦さんにとって安全なのか

結論から言うと、飛行機での移動は妊娠中でも特に問題ないと言われています。妊娠中に1回でも飛行機に乗った妊婦さんを調査したところ、乗らなかった人と比べて性器出血の発症率、早産率、妊娠高血圧症候群の発症率などで差はなかったというデータが出ていました 1)。また、60万人以上の妊婦さんを対象とした臨床研究において飛行機に搭乗した妊婦さんでは出生体重が平均9g、妊娠週数が平均0.36日ほど統計学的に優位に増加したという報告もありましたが、もしそれが正しいとしても赤ちゃんの健康に影響があるような重大な話ではないでしょう 2)。宇宙線と言われる放射線による赤ちゃんへの影響を懸念する人もいますが、こちらは地上と比べると被曝量は高まるものの、その違いは微々たるものであり気にする必要はなさそうです。ただし、パイロットやキャビンアテンダント、そして頻繁に飛行機を使用する人に関しては問題となるレベルに到達することがあるようで、そういった仕事や生活環境にある人は個別に対応する必要があるということでした 3)4)。

飛行機での旅行の際の注意事項

さて、妊婦さんが飛行機に乗ること自体は問題ないわけですが、その一方で注意すべきこともあります。まず、妊婦さんは深部静脈血栓症という危険な病気にかかるリスクが高いです。細かい解説は別の記事に改めますが、この病気は特に飛行機内のような長時間動けない状況でかかりやすいです。そのため妊婦さんは着圧ストッキングの着用、こまめな水分補給、座席でできる体操などを行なって予防に努めていただくのがおすすめです。また、飛行機で移動する先は当然遠方になりますが、例えばもし旅行先で早産になってしまった場合、場所と週数によっては赤ちゃんは助からないか、良くて新生児集中治療室での長期入院になります。その際には少なくとも父母のどちらかは赤ちゃんが退院するまでずっとその街での生活を余儀なくされるため精神、体力、そして経済的に大きな負担が強いられることになります。国内での帰省であればまだいいでしょうが、もし海外旅行の場合は旅行保険が妊娠関連の疾患や新生児の治療をカバーすることは極めて稀であり高額の治療費が請求されることもありえます。そのため私は外来で経過良好な妊婦さんに「飛行機で旅行してもいいですか?」と聞かれた時には「どうしても必要な移動であれば止めませんが」と前置いたうえで上記のリスクをお伝えして慎重に検討してもらうようにしています。

まとめ

というわけで本日は妊婦さんと飛行機での旅行についてのお話でした。妊娠は常に状態が急激に変わり得る不安定な状態なので、本音を言うと妊娠中はあまり遠方に出かけないほうがいいかなと思っています。ただ、どうしても移動しなければいけない事情がある妊婦さんにおかれましては上記のようなリスクを十分ヘッジできるような旅行計画をたてられることをお勧めします。

1) Mala Freeman, et al. Arch Gynecol Obstet. 2004 May;269(4): 274-7.
2) Hila Shalev Ram, et al. PLoS One. 2020 Feb 6;15(2):e0228639.
3) Robert J Barish. Obstet Gynecol. 2004 Jun;103(6):1326-30
4) ACOG Committee Opinion No. 746. Obstet Gynecol. 2018 Aug;132(2):e64-e66

お腹の赤ちゃんに臍の緒が巻いているか心配になった時に読む話

こんにちは、副院長の石田です。

臨月も近くなり、いよいよお産を意識し始めると気になってくるのが「臍の緒が赤ちゃんの首に巻きついていたらどうしよう?」という心配です。実際、少なくない妊婦さんに「うちの子、大丈夫ですか?」と聞かれるので、本日はこの件について解説したいと思います。

臍の緒が首に巻きついているとどうなるのか?

結論から言うと赤ちゃんへの影響はあまり考えなくて良いようです。首に臍帯が巻きついている場合は出生直後の赤ちゃんの元気度を表すアプガースコアが低くなる傾向があるようですが、一方で胎児死亡や新生児集中治療室への入院率は上昇しなさそうと言うことで、それが深刻な状況に発展することはほとんどないようです 1)2)。また、分娩中に胎児心拍異常の出現率が上がるかもしれないと考えられている一方で、諸説あるものの脳性麻痺を含む神経障害などの発生に関しては「明らかな影響はなさそう」というのが多数派の見解のようです 2)3)4)。

当院での対応

上記の通り出生直後の赤ちゃんの立ち上がりが悪くなる可能性があること、エビデンスは定かではないものの分娩の最後に少し引っ張られて出にくくなることがある印象から、念のため当院では37週の妊婦健診時に首への臍帯巻絡がないかどうかチェックして記録に残してスタッフ間で情報共有しています。ただ、医学的にはそれが赤ちゃんの予後に大きな影響を与える可能性は低いこと、そうは言っても「臍帯が赤ちゃんの首に巻いていますよ」と聞くと必要以上に妊婦さんとご家族を心配させてしまう可能性が高いことから積極的にお伝えしてはいません。一方で内緒にしているわけでもないので、その際に聞かれれば正直にお答えもしています。

まとめ

ということで本日は臍帯巻絡についてお話ししてみました。我が子の首がロープのようなもので絞められていると想像するとちょっと怖い気もしますが、実は20%程度の赤ちゃんに臍帯巻絡は見られるとされており、そんなに珍しいものでもありません 1)。日本産婦人科医会のウェブサイトでも「心配しすぎないで大丈夫ですよ」と案内されていますが、実臨床の経験としてもほとんどの赤ちゃんは問題なく生まれてくるので安心していただいて大丈夫です 5)。ただ、「それでも気になるから知っておきたい!」という妊婦さんもいらっしゃることと思いますので、気になる時には超音波検査中に遠慮なく院長や私に聞いてみてください。

1) Dexter J L Hayes, et al. PLoS One. 2020 Sep 24;15(9):e0239630
2) Eyal Sheiner, et al. Arch Gynecol Obstet. 2006 May;274(2):81-3
3) Gutvirtz G, et al. Early Hum Dev. 2019;133:1
4) Ogueh O, et al. Acta Obstet Gynecol Scand. 2006;85(7):810
5) 日本産婦人科医会. 女性の健康Q&A: https://www.jaog.or.jp/qa/confinement/200819/

CAOS(慢性胎盤剥離羊水過少症候群)

今回は、慢性胎盤剥離羊水過少症候群(CAOS: Chronic Abruption Oligohydramnios Sequence)について説明します。

妊娠20週未満の性器出血が続き、明らかな破水がなくとも次第に羊水が少なくなる病態をさします。

CAOSは慢性の胎盤早期剥離の状態であり、胎盤血流の虚血状態から羊水過少になると考えられています1)。

胎盤血流の虚血状態は胎児発育不全を、羊水過小により児は肺の未成熟や四肢の拘縮をきたし、予後(intact survival)として良くないことが多くの報告であがっています。

CAOSの検査所見として、超音波検査では羊水が少なめであること以外に胎盤血腫がみられることがあります。妊娠末期に起こりうる常位胎盤早期剥離と異なり、母体の採血異常が表れることは少ないです。

臨床所見として、妊娠中期の性器出血が続く場合はCAOSの可能性も念頭において経過をみる必要があります。

CAOSは発症週数の観点から妊娠継続についてセンシティブな病態・病状の一つです。当院で疑った場合は高次施設へご紹介する運びとなります。

引用文献

1) Acute placental abruption: Pathophysiology, clinical features, diagnosis, and consequences. UpToDate.

文責 院長