胎児奇形とその予防にできること

こんにちは、副院長の石田です。

妊娠、出産は大きな喜びである反面、新しく生まれて来る命には様々な心配がつきまといます。その中でも胎児奇形は妊娠中から最も気にされることの一つでしょう。そこで本日は赤ちゃんの奇形とご両親ができる対策についてお話ししたいと思います。

赤ちゃんの奇形について

胎児奇形は大小合わせると生きて産まれてくる赤ちゃんの2〜4%に起こるとされています 1)2)。この数字は時代や人種などによって大きく変わることは無かったとされていますが、その一方で奇形を種類別に細かく見ていくと文化や地域の影響によって発生率に差が出ることもあるようです 3)4)5)。例えばアジア人では他の人種と比べて顔面や骨格系の先天異常が多いということです。

胎児奇形の原因

胎児奇形は受精卵が細胞分裂を繰り返す中で大まかに人の形を作るまでの間(器官形成期)に何らかの原因で正常な発達ができなかったことにより発症します。器官形成期は妊娠12週までとされており、逆にそれ以降に何かがあっても奇形という症状にはほとんど結びつかないと考えられています。ちなみに妊娠3週末までに胎児が重大な影響を受けた場合は流産になるため、そこを超えて妊娠が継続する場合には胎児奇形のリスクは考えなくて済むことが多いです。胎児奇形の原因は様々ですが、ダウン症などの染色体異常を含めた遺伝子の異常がある場合や、他にも風疹やトキソプラズマ症などの感染症、麻薬やタバコを含めた薬剤、放射線、水銀などの化学物質に催奇形性があることは広く知られています。

胎児奇形を予防するためにできること

胎児奇形の多くは必ずしもはっきりとした原因があって発生しているわけではないので、確実に予防するというのは極めて難しいですが、「不要に赤ちゃんのリスクを上げない」という意味での対策は可能です。
まず、栄養バランスの良い食事と適度な運動を心がけるようにしましょう。メカニズムは不明な部分も多いですが、栄養の偏りや肥満は胎児奇形のリスクを上昇させることが知られています 6)。
もともと持病のある女性では病気自体や使用中のお薬によって赤ちゃんに影響が出ることがあります。具体例としては高血圧、糖尿病、甲状腺疾患、てんかん、精神疾患などはよく拝見しますが、その他にも悪性腫瘍や高脂血症、自己免疫疾患など様々です。しかし、多くの疾患では妊娠に先駆けて病状を安定させたり使用薬剤を調整することによって安全に妊娠、出産することができますので、まずは主治医に妊娠の希望があることを伝えてみてください。
放射線や特定の化学薬品を使用する職業の人たちは極力それらへの曝露を防ぐことも必要かもしれません。妊娠を考えるようになったら職場とも相談するようにしましょう。
その他では禁煙や飲酒を控えるのはもちろんのこと、妊活前に風疹ワクチンを接種したり葉酸サプリの服用を開始しておくことは非常に効果的です。

まとめ

本日は胎児奇形とその予防法についてご紹介いたしました。特に重度の奇形は妊娠4〜7週に発症することが多いとされていますが、妊娠に気づくのが通常5〜6週くらいであり、妊娠前から対策しておかないと間に合いません。また、妊娠を目指す女性はもちろん、その配偶者をはじめ家族やひいては社会全体が協力していくことでより大きな効果が期待できます。もちろん病気がある=不幸という単純な話ではありませんが、上記の予防は赤ちゃんだけでなくご自身や周りの人たちの健康にとっても大切なことですので「やってみようかな」と思っていただいた方は是非試してみてください。

1) Fledkamp ML, et al. BMJ. 2017;357:j2249
2) Benjamin S Harris, et al. Obstet Gynecol Surv. 2017 Feb;72(2):123-135
3) Mai CT, et al. Birth Defects Res. 2019;111(18):1420
4) Alexander C Egbe. Pediatr Neonatol. 2015 Jun;56(3):183-8
5) Alexander Egbe, et al. Ethn Dis. Spring 2015;25(2):226-31
6) Weber KA, et al. Am J Epidemiol. 2018;187(4):668

PUPPP

妊娠中は腹部が大きく伸展することで水分が減少するなどの理由から妊娠線や湿疹ができやすくなります。なかでも妊娠後半期に特徴的な湿疹・丘疹をきたすもので『PUPPP』と呼ばれる疾患があります。

PUPPP(Pruritic Urticarial Papules and Plaques of Pregnancy)、日本語に置き換えると

『妊娠性そう痒性丘疹』

といいます。

PUPPPの特徴は妊娠後半期(末期)に妊婦腹部からそう痒性丘疹・水疱疹が出現し、やがて末梢まで拡大します。

なお分娩後は速やかにに消退することも特徴です。

初産婦に多い傾向があります。

病因

・腹壁の過伸展による結合組織の損傷

・血管透過性亢進による炎症反応

など

治療

・Strongクラス以上のステロイド外用剤:StrongのステロイドⅢ群としてメサデルム®︎、リンデロン-V®︎、フルコート®︎など

+、追加でヘパリン類似物質

・抗ヒスタミン薬の内服:第一世代は眠気に注意

+、追加でプレドニゾロン15mg/日の内服:ここまでの状態であれば高次施設での管理を推奨

鑑別診断

・妊娠性痒疹:とも呼ばれ、妊娠中期と妊娠末期のタイプに分別される。四肢から好発し、掻痒性丘疹と掻いた痕の皮疹から成る

・妊娠性疱疹:『Herpes gestationis』とも呼ばれ、表皮下水疱を形成する

・多形滲出性紅斑:感染のみならず薬疹などの中毒疹を含む

・アトピー性皮膚炎

参考文献;

妊娠と皮膚病変. 診断と治療Vol. 83-No. 2

PUPPP. 皮膚病診療. 29(8); 927-930

(院長執筆)

切迫早産(総論)

切迫早産(Threatened Preterm Labor/Delivery)とは

早産期(妊娠22週〜37週未満)に下腹痛、性器出血、破水などの症状に加え規則的な子宮収縮があり、内診では子宮口開大などが認められ早産の危険性が高い状態を切迫早産といいます。

文字通り早産が「切迫」していることを通常示すのですが、実際の臨床ではこの状態におちいらないよう健診での検査や処方、または入院管理などを行います。

早産の原因

絨毛膜羊膜炎による切迫早産と、前期破水が自然早産の約2/3を占めます。

早産のハイリスク群

・早産の既往

・多胎妊娠

・子宮頸部円錐切除後

・子宮頸管長の短縮(妊娠24週の経腟超音波で、頸管長がおおよそ30mm未満だと35週以前の早産リスクが高まる報告があります1))

・細菌性腟症

・前期破水

・喫煙(喫煙本数と早産率が明らかな相関関係があると日本産婦人科医会でも公表しています2))

細菌性腟症から腟炎をきたし、その後絨毛膜羊膜炎となる

乳酸桿菌を主とする腟内の正常細菌叢が複数の菌種に置き換わった状態を細菌性腟症(BV: Bacterial vaginalis)といい、この状態に炎症が起きると細菌性腟炎となるのです。

炎症が起きるとプロスタグランジンという物質が分泌され、子宮が収縮します。

その後蛋白分解酵素である顆粒球エラスターゼが分泌され、頸管熟化の要因となるのです。

子宮頸管熟化機構

子宮頸部は主にコラーゲン線維で構成され、これらが分解することにより組織が軟化・熟化しひいては子宮頸管長の短縮につながります。

炎症によりサイトカインという物質が増加し、これがコラーゲン線維・組織が分解する働きを起こします。加えて先ほど述べたプロスタグランジンが生成・分泌され、子宮収縮をもたらすのです。

(院長執筆)

参考文献

1) Iams JD. NEJM 334(9)567, 1996

2) 左合治彦. 飲酒、喫煙と先天異常 https://www.jaog.or.jp/sep2012/JAPANESE/jigyo/SENTEN/kouhou/insyu.htm

妊娠と腰痛

こんにちは、副院長の石田です。

さて、腰痛は妊娠女性のお悩みとして最もよく聞かれるものの一つです。程度は人によって様々ですが、重いと極端に生活の質(QOL)を損なうことがあるためありふれた訴えだからと言って無視できません。というわけで本日は妊娠中の腰痛についてお話ししようと思います。

腰痛で困っている妊婦さんたち

こちらは報告によってばらつきがあり、かつ人種によっても違いがありそうなので一概には言えませんが、妊婦さんの実に60〜80%近くが妊娠中に腰痛を感じているとされています 1)2)。リスクとしては、妊娠前から腰痛に悩まされている、前の妊娠でも腰痛があった、多胎妊娠(双子とか)、肥満などが挙げられますが、外来で日々診察していると必ずしもこれらのリスクが無くても腰痛を訴えられる人はよくいらっしゃる印象です 3)。ちなみに妊娠が終了すると腰痛は改善する傾向があるみたいです 2)。

妊娠中に腰痛が起こりやすくなる原因

腰痛自体は様々な要因が重なり合って引き起こされますが、妊娠に限って考えると以下のような体の変化が影響しています 4)5)。
①大きくなった子宮とそれによる重心の変化に対応するために背骨の弯曲が強くなる。
②お腹が大きくなり、腹筋が引き伸ばされて弱くなることで背中を支える筋肉に過度な負担がかかるようになる 。
③妊娠によるホルモンの影響で背骨の関節が緩み、それを支えるために周りの筋肉に過度な負担がかかるようになる。
これ以外にも無意識にお腹を庇うような歩き方になって腰に負担がかかっているとか、妊娠して運動量が落ちるため筋肉量も低下して腰痛が悪くなるとか色々と理由は考えられると思いますが、いずれにしても妊娠は体に様々な形で負担を強いているということが分かりますね。

妊娠中の腰痛対策 6)

では、妊娠中に腰痛を患ってしまうのはしょうがないとして、実際にそうなってしまった時にはどうした良いのでしょうか?
まず、ヒールの高い靴は避けるようにしましょう。ヒールが高いと体が前に傾くため、姿勢を保つのに背中の筋肉に大きな負担がかかるようになります。座るときはしっかりと背中を支えてくれる背もたれがある椅子を選ぶのが良いとされますが、しっくり来ない時は小さな枕を腰のところに挟んでみると良いかもしれません。何かを持ち上げる時はしっかりと膝を曲げて屈み、背中を真っ直ぐにしたまま下半身で上げるようにしましょう。寝る際にはベッドのマットレスが柔らかすぎると腰痛を悪化させる傾向があります。また、膝を曲げて寝ると腰の負担が軽減するので抱き枕などを脚で挟んで寝るのが効果的です。運動は妊娠で歪みがちな姿勢を矯正し、各所の関節を支える筋肉を強く保つため腰痛を軽減する効果があるので推奨されています。その他「トコちゃんベルト」のような骨盤を支持するグッズも販売されており、人によってはかなり効くようなので試してみるのも良いと思います。ただ、実は巻き方が結構難しかったりするのでもし効果が実感できない場合には妊婦健診の際にかかりつけの施設で助産師さんに相談してみてください。

まとめ

というわけでいかがだったでしょうか?妊娠中の腰痛にお悩みの皆さんにとって少しでも参考になれば幸いです。ちなみに腰痛が夜間に悪化する、足の痺れや動かしにくさがある、発熱や体重減少など他の症状がある、排尿・排便などがスッキリしなくなってきたなどが見られる場合には、何か妊娠とは別の深刻な腰痛の原因が見つかることもありますので速やかに主治医に相談してみてください。

1) Wang SM, et al. Obstet Gynecol. 2004;104(1):65

2) Thorell E, et al. BMC Pregnancy Childbirth. 2012;12:30. Epub 2012 Apr 17

3) Biddal M, et al. Arthritis Rheumatol. 2016;68(5):1156

4) Katonis P, et al. Hippocratia 2011;15(3):205-210

5) Marnach ML, et al. Obstet Gynecol. 2003;101(2):331

6) American College of Obstetricians and Gynecologists. Frequently asked questions: Back pain during pregnancy

妊娠中の消化器系の変化

妊娠に伴い、女性ホルモン量の変化により体調の様々な体調変化が生じます。本日は消化器系にフォーカスしたいと思います。

女性ホルモンの一つである黄体ホルモン(プロゲステロン)が増加することにより、

消化器平滑筋が弛緩し、消化管の運動が低下します。

腸の運動機能が低下します。食物の消化管通過時間は延長し、

胃もたれや便秘を引き起こします。

また食道括約筋が緩んで逆流性食道炎を起こしやすくなります。

子宮も平滑筋からできており、プロゲステロンの作用により子宮壁を大きくするため、妊娠子宮は胃を圧迫し、胃内容自体も縮小します。そして大腸をも圧迫し便秘を助長するのです。

これらの症状に加え、妊娠によるホルモン変化から、つわりが妊娠5週〜16週頃まで続きます。妊娠16週頃になるとプロゲステロンの上昇は前に比べて漸増・上昇が緩慢となるので、その頃につわりが落ち着いてくる一つの要因とされています。

上記症状の対策としては、(つわりがある程度落ち着けば)バランスのとれた食事を行います。生活リズムを整え、規則的な時間に食事を摂ることも重要です。

下剤として酸化マグネシウムは腸管内容を軟化し、腸管を刺激して内容を排泄させる効果のある機械的下剤の一種です。適応は便秘症はもちろんのこと、制酸作用があり胃炎に対しても効果があることをお知らせしておきます。

逆流性食道炎に対しては1回の摂取量を少量にして、食事回数を増やす(3食から4分割食にする)ことをお勧めします。

(院長執筆)