CAOS(慢性胎盤剥離羊水過少症候群)

今回は、慢性胎盤剥離羊水過少症候群(CAOS: Chronic Abruption Oligohydramnios Sequence)について説明します。

妊娠20週未満の性器出血が続き、明らかな破水がなくとも次第に羊水が少なくなる病態をさします。

CAOSは慢性の胎盤早期剥離の状態であり、胎盤血流の虚血状態から羊水過少になると考えられています1)。

胎盤血流の虚血状態は胎児発育不全を、羊水過小により児は肺の未成熟や四肢の拘縮をきたし、予後(intact survival)として良くないことが多くの報告であがっています。

CAOSの検査所見として、超音波検査では羊水が少なめであること以外に胎盤血腫がみられることがあります。妊娠末期に起こりうる常位胎盤早期剥離と異なり、母体の採血異常が表れることは少ないです。

臨床所見として、妊娠中期の性器出血が続く場合はCAOSの可能性も念頭において経過をみる必要があります。

CAOSは発症週数の観点から妊娠継続についてセンシティブな病態・病状の一つです。当院で疑った場合は高次施設へご紹介する運びとなります。

引用文献

1) Acute placental abruption: Pathophysiology, clinical features, diagnosis, and consequences. UpToDate.

文責 院長

腹帯はした方が良いのか

1ヶ月が経過し、やっと背中と首の痛みがとれました。最近は忙しく、PCを操作している姿勢が続いたり、処置中はどうしても「巻き肩」姿勢が続いていたのが痛みの原因だったようです。最近はストレッチや正しい姿勢の保持を心がけています。

姿勢に関連するトピックということで、妊娠中に訴えの多い腰痛についてご説明します。

妊娠の腰痛の機序

妊娠によりおなかが大きくなってくると、体の重心が前に移るため、上半身を反らした反り腰の姿勢で立ったり座ったりするようになります。

そのため背中から腰にかけて負担が大きくなり、腰痛をきたすのです。

対策

腹帯を着用し、腹部・腰部を支持することで姿勢の安定を取るとよいでしょう1)。

私がいう「腹帯」とは、戌の日に安産を願うためのものではなく(腰痛が出やすい時期と関係はします)、骨盤を引き締め腹部・腰部を支えるためのタイプのものを言っております。腰痛の時期によって腹帯の形は異なりますので、ご質問あれば外来助産師と是非相談なさってください。

腰痛に対し、湿布は推奨しません。どうしても薬剤等に頼りたい場合は、漢方の「芍薬甘草湯(しゃくやくかんぞうとう)」を処方することがあります。

ACOG(American College of Obstetricians and Gynecologists)は

・ヒールの低い(全てフラットのものではなく)シューズを履く

・重い荷物を持ち上げる時は誰かにお願いする

・ベッドは柔らかすぎないようにする

・立ち上がる時は背筋が真っ直ぐに保持する

・椅子に背中をサポートする用具を付ける

・痛みのある部位を把握し、マッサージをしてもらう(整体など)

ことらを推奨しています2)。

引用文献

1) 産婦人科ファーストタッチ

2) Maternal adaptations to pregnancy: Musculoskeletal changes and pain, UpToDate

文責 院長

血圧測定法と高血圧の定義

「外来だといつもより血圧が高い」、そんな声を度々耳にしますので、今回は血圧の測定方法と高血圧の定義に触れようと思います。

血圧測定法

5分以上の安静後、上腕に巻いたカフが心臓の高さにあることを確認し、座位で1〜2分間隔にて2回血圧を測定し、その平均値をとります。通常院内にある自動血圧計は、計測機の高さや測り方はそのまま指示どおり行ってください。

測定の30分以内はカフェインや喫煙は控えましょう

・初回の測定時には左右の上腕で測定し、10mmHg以上異なる場合は高い数値を採用します。もちろん何かしらの合併症を見落とさないためです。

定義①高血圧とは収縮期血圧140mmHg以上または拡張期血圧90mmHgです。この数値は妊婦も一般成人も同様です。

定義②:妊娠時に高血圧を認めた場合、妊娠高血圧症候群と定義されます1)。

妊娠高血圧症候群は

・妊娠高血圧腎症

・加重型妊娠高血圧腎症

・妊娠高血圧

・高血圧合併妊娠

に分類されます。各詳細はまた今後のブログでお話させていただきます。

健診において高血圧(140/90mmHg以上)を認めた場合

・家庭でも血圧測定を行ってもらい、白衣高血圧との鑑別を行います。

・家庭血圧でも135/85mmHg以上の場合はやはり高血圧を疑います。

*白衣高血圧と判断された場合でも、妊婦さんは注意が必要です。その後約40%の妊婦さんが妊娠高血圧を発症したとの文献もあるのです2)。

文責 院長

引用文献

1) 妊娠高血圧症候群の診療指針2021. メジカルビュー社

2) Brown MA, et al: The natural history of white coat hypertension during pregnancy. BJOG 2005

産婦人科ファーストタッチ. じほう, 2022

胎児奇形とその予防にできること

こんにちは、副院長の石田です。

妊娠、出産は大きな喜びである反面、新しく生まれて来る命には様々な心配がつきまといます。その中でも胎児奇形は妊娠中から最も気にされることの一つでしょう。そこで本日は赤ちゃんの奇形とご両親ができる対策についてお話ししたいと思います。

赤ちゃんの奇形について

胎児奇形は大小合わせると生きて産まれてくる赤ちゃんの2〜4%に起こるとされています 1)2)。この数字は時代や人種などによって大きく変わることは無かったとされていますが、その一方で奇形を種類別に細かく見ていくと文化や地域の影響によって発生率に差が出ることもあるようです 3)4)5)。例えばアジア人では他の人種と比べて顔面や骨格系の先天異常が多いということです。

胎児奇形の原因

胎児奇形は受精卵が細胞分裂を繰り返す中で大まかに人の形を作るまでの間(器官形成期)に何らかの原因で正常な発達ができなかったことにより発症します。器官形成期は妊娠12週までとされており、逆にそれ以降に何かがあっても奇形という症状にはほとんど結びつかないと考えられています。ちなみに妊娠3週末までに胎児が重大な影響を受けた場合は流産になるため、そこを超えて妊娠が継続する場合には胎児奇形のリスクは考えなくて済むことが多いです。胎児奇形の原因は様々ですが、ダウン症などの染色体異常を含めた遺伝子の異常がある場合や、他にも風疹やトキソプラズマ症などの感染症、麻薬やタバコを含めた薬剤、放射線、水銀などの化学物質に催奇形性があることは広く知られています。

胎児奇形を予防するためにできること

胎児奇形の多くは必ずしもはっきりとした原因があって発生しているわけではないので、確実に予防するというのは極めて難しいですが、「不要に赤ちゃんのリスクを上げない」という意味での対策は可能です。
まず、栄養バランスの良い食事と適度な運動を心がけるようにしましょう。メカニズムは不明な部分も多いですが、栄養の偏りや肥満は胎児奇形のリスクを上昇させることが知られています 6)。
もともと持病のある女性では病気自体や使用中のお薬によって赤ちゃんに影響が出ることがあります。具体例としては高血圧、糖尿病、甲状腺疾患、てんかん、精神疾患などはよく拝見しますが、その他にも悪性腫瘍や高脂血症、自己免疫疾患など様々です。しかし、多くの疾患では妊娠に先駆けて病状を安定させたり使用薬剤を調整することによって安全に妊娠、出産することができますので、まずは主治医に妊娠の希望があることを伝えてみてください。
放射線や特定の化学薬品を使用する職業の人たちは極力それらへの曝露を防ぐことも必要かもしれません。妊娠を考えるようになったら職場とも相談するようにしましょう。
その他では禁煙や飲酒を控えるのはもちろんのこと、妊活前に風疹ワクチンを接種したり葉酸サプリの服用を開始しておくことは非常に効果的です。

まとめ

本日は胎児奇形とその予防法についてご紹介いたしました。特に重度の奇形は妊娠4〜7週に発症することが多いとされていますが、妊娠に気づくのが通常5〜6週くらいであり、妊娠前から対策しておかないと間に合いません。また、妊娠を目指す女性はもちろん、その配偶者をはじめ家族やひいては社会全体が協力していくことでより大きな効果が期待できます。もちろん病気がある=不幸という単純な話ではありませんが、上記の予防は赤ちゃんだけでなくご自身や周りの人たちの健康にとっても大切なことですので「やってみようかな」と思っていただいた方は是非試してみてください。

1) Fledkamp ML, et al. BMJ. 2017;357:j2249
2) Benjamin S Harris, et al. Obstet Gynecol Surv. 2017 Feb;72(2):123-135
3) Mai CT, et al. Birth Defects Res. 2019;111(18):1420
4) Alexander C Egbe. Pediatr Neonatol. 2015 Jun;56(3):183-8
5) Alexander Egbe, et al. Ethn Dis. Spring 2015;25(2):226-31
6) Weber KA, et al. Am J Epidemiol. 2018;187(4):668

PUPPP

妊娠中は腹部が大きく伸展することで水分が減少するなどの理由から妊娠線や湿疹ができやすくなります。なかでも妊娠後半期に特徴的な湿疹・丘疹をきたすもので『PUPPP』と呼ばれる疾患があります。

PUPPP(Pruritic Urticarial Papules and Plaques of Pregnancy)、日本語に置き換えると

『妊娠性そう痒性丘疹』

といいます。

PUPPPの特徴は妊娠後半期(末期)に妊婦腹部からそう痒性丘疹・水疱疹が出現し、やがて末梢まで拡大します。

なお分娩後は速やかにに消退することも特徴です。

初産婦に多い傾向があります。

病因

・腹壁の過伸展による結合組織の損傷

・血管透過性亢進による炎症反応

など

治療

・Strongクラス以上のステロイド外用剤:StrongのステロイドⅢ群としてメサデルム®︎、リンデロン-V®︎、フルコート®︎など

+、追加でヘパリン類似物質

・抗ヒスタミン薬の内服:第一世代は眠気に注意

+、追加でプレドニゾロン15mg/日の内服:ここまでの状態であれば高次施設での管理を推奨

鑑別診断

・妊娠性痒疹:とも呼ばれ、妊娠中期と妊娠末期のタイプに分別される。四肢から好発し、掻痒性丘疹と掻いた痕の皮疹から成る

・妊娠性疱疹:『Herpes gestationis』とも呼ばれ、表皮下水疱を形成する

・多形滲出性紅斑:感染のみならず薬疹などの中毒疹を含む

・アトピー性皮膚炎

参考文献;

妊娠と皮膚病変. 診断と治療Vol. 83-No. 2

PUPPP. 皮膚病診療. 29(8); 927-930

(院長執筆)