コロナワクチン接種が不安な方へ(6月7日時点)

私達医療従事者のみならず、いよいよ一般の方々も新型コロナワクチン接種の機会が迫ってきています。そこで本日以下の内容を記載することにしました。

にしじまクリニックに来院される方で、コロナワクチンの接種に対して質問があるのは

・妊婦さん

・ピル内服中

の方々が大半を占めます。

まず妊婦さんのコロナワクチン接種についてです。厚生労働省のホームページでは、「感染リスクの高い妊婦は積極的に接種を推奨する」と明記されています。

・感染者が多い地域に在住

・医療従事者、保健介護従事者

・重症化リスク(肥満、糖尿病など)がある

方々が適応とされています。

また私院長は、感染リスクという観点から上記のみならずエッセンシャルワーカーや里帰り分娩予定の方々も接種が望ましいと考えています。

以下、厚生労働省のホームページをリンクさせておきます(よくまとまっていると思います)。

https://www.cov19-vaccine.mhlw.go.jp/qa/0027.html

ただし、器官形成期である妊娠12週までは念のためコロナワクチンの接種時期をずらした方がよろしいかと思います。

続いて、低容量ピルを内服している方で血栓症が心配、という訴えも多く聞かれます。

今一度お考えいただければ思いますが、低容量ピル内服中の血栓症のリスクより、妊娠に契機とした血栓症のリスクがずっと高いのです。

先ほど申し上げたとおり厚生労働省、日本産科婦人科学会、日本感染症学会らが「妊婦のワクチン接種は可能」としている時点で、婦人科におけるピル内服中の方らも現時点ではワクチン接種は問題ないと考えます。

静脈血栓塞栓症(VTE: Venous ThromboEmbolism)の発症頻度はACOG(American College of Obstetricians and Gynecologists)によれば

妊婦は5〜20/10000婦人/年間

であります。一方低容量ピル使用者の静脈血栓塞栓症の発症頻度は3〜9/10000婦人/年間程度なのです1)。

また私の雑感ですが、ピル大国の欧米で、ピル内服中の方らがわざわざ内服を中止して新型コロナワクチンを接種しているとは考えにくいです。

ただし、コロナワクチン接種の際には問診表にピルの内服をしていることを記載し、問診でも必ず申告するようお願いします。

以上となりますが、それでもコロナワクチン接種を打ってもよいのか心配、というお問い合わせが今後予想されます。申し訳ありませんが、当院では電話でのご相談は安全上の観点からお断りします。当院ではHPVワクチンも含め、ご相談を対面で行っております。お手数ですが外来を予約していただくか、またはオンライン診療を予約していただき、個別対応させていただきます。

参考文献

1) CQ501. OC・LEPガイドライン

新型コロナウイルスのワクチンはmRNAワクチン

日本で医療従事者から接種が始まったファイザー製の新型コロナウイルスに対するワクチンは、『mRNAワクチン』というこれまでになかった全く新しいタイプのワクチンです。

これまで私たちが接種を経験してきたワクチンはウイルスの一部のタンパク質を投与し、それに対して免疫を得る仕組みでした。

新型コロナウイルスは、表面に多数のブロッコリーが突き刺さった様な形をしています。このブロッコリーに当たるものは『スパイク蛋白』といい、新型コロナウイルスが人体の細胞に侵入するための蛋白質です。ワクチンで利用するmRNAとはこのスパイク蛋白の情報の一部でいわば「設計図」にあたります。

よってmRNAワクチンは、スパイク蛋白の情報の一部であるmRNAを投与しているのです。ワクチン投与後、細胞内ででスパイク蛋白のみが作られ、これを目印に免疫の働きによって新型コロナウイルスに対応する抗体が作られます。

mRNAワクチンは新しい技術のため、なかには将来身体への影響を懸念する方もいらっしゃるかもしれませんが、その心配はいりません。細胞の核内にあるDNAからmRNAが作られる流れはありますが、この流れは一方通行で、逆にmRNAからはDNAは作ることはできません。またmRNAは核内に入ることができません。よってこのmRNAは人の遺伝情報(DNA)に組み込まれることはありません。

参考文献

新型コロナワクチンについて. 国立国際医療研究センター病院ホームページ

産後にスルピリド

スルピリド(ドグマチール®︎)は本来、胃潰瘍の治療薬として開発され、1979年から発売されている薬です。また、ジェネリック品が数多く発売されています。評判の良い薬ほど、ジェネリック品が多く出回りますから、ドグマチールは良い薬の1つといえます。

やや多めの量を用いると、気分が晴れず落ち込んだり、悲観的になったり、眠れないなどのうつ症状を癒すことも可能なお薬です。スルピリドはノルアドレナリンの放出を促進するため、脳の活動をよくして、気持ちが前向きになるのを助けてくれます。いわゆる、「抗精神病薬」としては作用が穏やかで、軽いうつ病などにも使われます。

ドグマチールの副効果として、プロラクチンというホルモンの上昇により、乳汁分泌が起こります。これを利用して、母乳分泌不全の授乳婦に母乳分泌促進薬としても用いることができます。なお乳児への有害事象の報告はありません1)。

副作用としては不眠(用量による)、眠気、めまい、口の渇き、吐き気、便秘などがみられることがあります。なお眠気については、注意力や反射運動能力が低下することがありますので、車の運転などはお控えください。

新型コロナウイルスの影響で文字通り『social distancing』の影響から産後うつ病が増えているといわれています。にしじまクリニックでは産後診で『CUS(心配・不安・安全の問題)』を取り込んだ問診や、エジンバラ産後うつ病評価票のご記入で医療・行政を含めた継続的支援体制の構築を行なっています。私院長を含め、外来医療スタッフへ

心配(Concerned)・不安(Uncomfortable)なことがあり、ご本人にとって安全の問題(Safety issue)があれば

早めにご相談ください。その解決策の一つとして、スルピリド(ドグマチール®︎)に頼ってもよいかもしれません。

参考書;

1) 妊娠と授乳

2) 今日の治療薬

ワクチンの開発はとても大変だし時間もかかる

こんにちは、副院長の石田です。

年初以来ずっと話題の中心に居座っているコロナウイルスに対して世界中が一刻も早いワクチンの開発を心待ちにしていますが、その期待に応えようと9月10日時点で38のワクチン候補が人間での臨床試験(いわゆる治験)に入っているほか、少なくとも93のワクチン候補が動物実験されているそうです 1)。そんな中、アストラゼネカが開発しているワクチンの臨床試験中、被験者に深刻な副作用が発生したとして世界中で治験が中断されました 2)。被験者の方の健康状態が心配されるとともに、ワクチンまでの道のりが一筋縄ではいかないことを改めて感じたニュースでした。というわけで本日はワクチンの開発ってそもそもどんな感じなのかをお話ししようと思います。

ワクチン開発の流れ

ワクチンには大きく分けて安全性、免疫原性(免疫を作る力)、そして実際に作った免疫が人間を守れるという3つの性能が要求されますが、そういった有効なワクチンを作成するには以下のようなプロセスを経る必要があります 3)。

1. 探索段階(Exploratory stage)
ワクチン候補となる物質を決める段階です。通常は弱らせた病原菌そのものやウイルスの断片、細菌が放出する毒素などが原料になります。
2. 臨床前段階(Pre-Clinical stage)
培養した細胞や動物を使った実験を行います。この結果を用いて人間での実験の際の投与量などが暫定的に決まります。
3. 臨床試験(Clinical development)
実際に人間に投与してみる段階です。その目的と規模により第1相〜第3相までに分けられます。
4. 承認(Regulatory review and approval)
これまでの実験結果を然るべき機関で審議し、世の中に出して良いかどうかを決定します。
5. 製造(Manufacturing)
承認を受けた製品を製薬会社が製造します。
6. 品質管理(Quality control)
発売後も投与された患者さんのデータは収集され続け、もし有害事象があったり、副作用が無くても効果も無いなど問題があれば適宜承認を見直されたりします。

上記の通り、実際に人間での投与が始まるのは臨床試験からになりますが、このパートは次のように、さらに3段階に分けられています 4)。

第1相:通常100人に満たないくらいの小さな規模の試験で、健康な志願者に投与されます。ここでの主目的は効果の評価というよりも安全性の確認です。重篤な副作用が出ないか、安全な投与量はどの程度かが確認されます。
第2相:続いて数百人規模の試験が行われます。この相でも引き続き安全性が確認されるとともに人体の免疫機能が投与後にどのように反応するかが確認されます。
第3相:ここまで来ると数千人以上の大規模臨床試験となり、ワクチンの安全性はもちろんのこと、接種した人としていない人を偽薬を使用しながら比較してワクチンが本当に有効なのかを確かめます。

ワクチン開発にかかる時間

さて、上記のように様々な課題をクリアしてやっと実用化されるのがワクチンなのですが、これら一連の作業にはどのくらいの期間が必要だと思いますか?実は最初の探索期間だけでも通常数年はかかると言われています。加えてその後の基礎研究、臨床試験を経て慎重な審議を重ねた上で製品化されるので、結局開発期間に何十年とかかることはザラにあるんですね。実際病気が発見されてからワクチンができるまでの期間で言うと、麻疹こそ10年程度ですが子宮頸がんワクチン(パピローマウイルス)は25年、髄膜炎菌やチフスなんかだと100年近くを要しています。HIV(1983年〜)やマラリア(1880年〜)のワクチンは世界中で研究されているにも関わらず未だに存在していませんし、COVID-19と同じコロナウイルスが起こすSARSに至っては開発自体が断念されました 5)。実は治療用の薬品も上記と同様のプロセスで製品化されていくのですが、ワクチンの承認がより厳しいのは「病気の人に使うのか、健康な人に使うのか」という違いが大きいです。治療薬なら1万人に1人重篤な副作用が出るとしても残りの難病の人が治るのであれば認可されるかもしれませんが、ワクチンだとそうはいきませんよね。もともと健康な人が病気にならないために投与するのでその分安全基準が厳しいわけです。現在報道されているような「1年半で新型コロナのワクチンを開発する!」というのは実現したら素晴らしいことだけど、それを真に受けて期待し過ぎていると大きく裏切られることになる可能性があります。

そんなだからこそワクチン接種をお勧めしたい。

別に皆さんをがっかりさせたいわけではありませんが、ワクチン開発は各種報道で出ているほど簡単な話ではないんですね。では、先の見えないワクチン開発が進む中で我々が今やっておくべきことは何でしょうか?これは色々とご意見があると思うんですけど、私としては是非皆さんに現存している安全性の確立したワクチンを接種していただきたいと考えています。と言うのも、実はコロナに限らず世の中にはこれまでも怖い感染症はたくさんありました。9月12日現在で新型コロナウイルスによる死亡者数は1423人ですが、年間10000人が診断されて3000人が亡くなっている子宮頸がんや、毎年高齢者を中心に約10万人もの命を奪っている肺炎の一番の原因である肺炎球菌はワクチンで予防が可能です。新型コロナは基本再生産数(R0)=1〜2で連日報道されていましたが、麻疹(はしか)はR0=12~18だし子供を含めて結構命に関わります 6)。大人になって風疹抗体が低下してしまった人たちがもっと積極的にワクチンを接種してくれれば風疹の周期的な流行は起こらずに赤ちゃんの眼や耳、心臓の障害の発生を防げるかもしれません。その他にもインフルエンザや帯状疱疹など大人になっても受けるべきワクチンはたくさんあります。感染症の脅威を世界が認識した今だからこそ、我々が現在持っているワクチンという盾の価値を再認識し、打てるワクチンを積極的に接種する良い機会ではないでしょうか?それに、社会全体でのワクチン接種率が上がれば接種した本人の防御になるだけで無く、抗体が付きにくい人たちのことを守ることもできるんです。

まとめ

当院では子宮頸がんワクチンはもちろん、抗体が低い女性やそのパートナーの方への麻疹・風疹ワクチン、かかりつけ妊婦さんのインフルエンザワクチン(季節限定)などをご用意しています。自分と周りの大切な人を守るために、是非接種をご検討ください。

1) The New York Times. Coronavirus Vaccine Tracker: https://www.nytimes.com/interactive/2020/science/coronavirus-vaccine-tracker.html

2) NHK: https://www3.nhk.or.jp/news/html/20200909/k10012608481000.html

3) CDC. Vaccines & Immunizations: https://www.cdc.gov/vaccines/basics/test-approve.html

4) K Singh, et al. J Postgrad Med. 2016 Jan-Mar;62(1):4-11

5) Our World in Data: https://ourworldindata.org/vaccination

6) Fiona MG et al. Lancet Infect Dis. 2017 Dec;17(12):e420-e428

新型コロナウイルス感染症に関する抗体検査

以前に比べ、新型コロナウイルス感染症の発生動向が落ち着いたのは事実です。今週末から都県をまたいだ移動も可能となり、今後はいかに必要な情報を収集し、必要なセルフコントロールを実践できるかどうかが重要と私院長は考えています。

その一つとして、先日当院ではアロマスタッフや当直医を含む全48人に、新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)定量抗体を実施しました。

結果は、全員『陰性』でした。

抗体検査とは血液の中の特異抗体を検出する方法です。一般的にウイルスの特異抗体の産生には感染後 2〜3 週間かかると言われています。

よって抗体測定・検査は『診断』に用いると言うより感染が既に起こっており、その後抗体を保有しているかどうかを把握する、疫学調査・サーベイランスにおいて有用です。

大まかに抗体検査は2種類あります。

・イムノクロマトグラフィー法:ラボラトリーにあるような特別な機器を必要とせず、(簡易)キットを用いて定性試験として 陽性か陰性かを判定することができます。ただし、精度にあまり期待できないとされています。

・定量検査:血液検査機を使用し、化学発光を用いて定量的に抗体価を測定する精密検査で、イムノクロマトグラフィー法より信頼性がある言えます。当院ではRoche社の”Elecsys Anti-SARS-CoV-2″ ECLIA法を使用しました。

当院スタッフの全員『陰性』という結果は、スタッフも当院へ来院される患者様もセルフコントロールをしっかり行っていた結果と私院長は捉えています。改めてこれまでのご協力に、私院長から心より感謝を申し上げます。

「自分は大丈夫なのか」、なかなか状態や判断をつかみにくい感染動向であります。当院を一つのコミュニティーとして、サーベイランス目的とし今回の定量抗体検査を実施しました。結果をふまえ、今後も必要な感染対策を考え続けて外来と病棟の運営を行ってまいります。

参考)

日本感染症学会 新型コロナウイルス感染症に対する検査の考え方