COVID-19 まとめ①:コロナウイルスについて

こんにちは、副院長の石田です。

コロナウイルス、いよいよエラいことになってきましたね。皆さん既に医療者並にたくさんの知識を備えていらっしゃることとは思いますが、色々と情報も出揃ってきているので改めてこのブログでまとめてみようと思います。というわけで今回はコロナウイルスについてです。

コロナウイルスとは

コロナウイルスとは動物と人間の双方に感染することができるエンベロープウイルスでウイルス表面に独特なスパイクを持っているのが特徴です。その形が王冠に見えることからラテン語で王冠を表す「コロナ」が名前になったんですね。ちなみにエンベロープとはウイルス表面を覆っている膜のことで、感染対象の細胞内に侵入したり免疫による攻撃を回避する役割を持っていますが、それ自体は脂質でできていることからアルコールなどで容易に破壊されるため消毒が楽です。風邪の10〜15%、特に流行の最盛期には大人の上気道感染症の1/3はコロナウイルスが原因とされているくらいありふれたウイルスなので、それ自体は目新しくありません。

※写真は国立感染症研究所のウェブサイトからお借りしてきました。

新型コロナウイルスはどのように発見されたのか

2019年12月、湖北省武漢で肺炎の集団発生が確認されました。そこで原因微生物を特定するべく患者さんの検体より採取されたゲノム配列を解析したところ、新型のコロナウイルスが発見されたということです。このウイルスはSARS-CoV-2 (Severe Acute Respiratory Syndrome Coronavirus 2) と名付けられました。これにちなんでよくある誤解ですが、COVID-19というのはウイルスの名前ではなくウイルスが引き起こす「病気の名前」です。エイズを起こすのがHIVというウイルスであるのと一緒ですね。

感染経路

疫学調査により武漢にある海鮮市場から発生したのではないかと考えられていますが、本当の発生源は未だによく分かっていません 。ただ、現在は人から人への感染がメインと考えられています 1)2)。今のところ有力視されている感染経路は飛沫感染と接触感染です。患者さんの咳やくしゃみなどにより体外に出た小さな粒子が他人の口や鼻などの粘膜に付着することで伝染していくんですね。飛沫感染の場合、通常2m以上は飛ばないので他人との距離を保つことが予防にとって重要になります。ただ、空気中でウイルスが3時間程度漂ったという報告もあり、今後この知見は変わってくるかもしれません 3)。以上のことから予防には手洗い、うがい、マスクの他、不要不急の外出や他人との接触を避けること、またよく手が触れる場所は積極的に消毒することが勧められているわけですね。

潜伏期間

感染から14日間が潜伏期間と考えられていますが、これは最長14日間というだけで実際には5.2日間くらいがウイルスへの暴露から発症までの平均的な時間と考えられています 4)5)。なので「本日の新規感染者は2週間前の感染状況を反映している」というのは誤解のある部分で、実際には検査に最長で数日かかることを考えても概ね1週間〜2週間前くらいにウイルスをもらった人達の人数ということになります 6)。

まとめ

今回はコロナウイルスの特徴をご紹介いたしました。皆さんが既に知っている情報も多いとは思いますが、参考になったら幸いです。次回はCOVID-19について症状を含め臨床的な話をご紹介しようと思います。

1) 厚生労働省:新型コロナウイルス感染症 診療の手引き 第1版

2) WHO: Novel Coronavirus Situation Report-1

3) van Doremalen N, et al. N Engl J Med. 2020 Mar 17

4) Special Expert Group for Control of the Epidemic of Novel Coronavirus Pneumonia of the Chinese Preventive Medicine Association. Zhonghua Yu Fang Yi Xue Za Zhi. 2020 Feb 14; 41(2): 139-144

5) Li Q, et al. N Engl J Med. 2020 Mar 26; 382(13): 1199-1207

6) 厚生労働省:新型コロナウイルスに関するQ&A

当院での消毒対応とご家庭でのヒント

にしじまクリニックでは『エビデンスの基づいた診療を提供する』事をモットーに、私院長と副院長石田はディスカッションを日々重ねています。

新型コロナウイルスに対し情報が錯綜していますが、『本当の知るべきこと』は先人達がエビデンスを積み重ねた医学書などからも十分参考になります。

例えば消毒に関して、にしじまクリニックでは、通常の感染予防策として以下添付したマニュアルで運用しています。これは新型コロナウイルスであろうとも十分対応が可能なのです。

このマニュアルのタイトル表記で『MRSA』とありますが、これは抗菌薬に耐性のあるブドウ球菌(Methicillin Resistant Staphylococcus Aureus)を指し、ウイルスの他、院内の感染・伝搬を絶つべき菌の一つです。

『消毒薬の抗微生物スペクトラムと適応対象』の表をご覧いただけますか。ここに菌とウイルスに対し消毒効果のある薬剤一覧が確認できます。

ウイルスは構造からエンベロープウイルスとノンエンベロープウイルスに分けられます。新型コロナウイルスはエンベロープ(いわゆる膜のある)ウイルスで、アルコール消毒剤がこのウイルスにダメージを与えることができます

ちなみに胃腸炎を引き起こす『ノロウイルス』はノンエンベロープウイルスで、アルコール消毒剤が有効ではありません。ではどのウイルスにも有効なのは何か、それは

次亜塩素酸ナトリウム

です。ちなみに哺乳瓶の消毒などに用いる

ミルトン(またはピジョン哺乳びん除菌料1%次亜塩素酸ナトリウム

(液体漂白剤のハイターは5%)

です。経済産業省のホームページ

0.05%次亜塩素酸ナトリウムで机やドアノブを消毒

を新型コロナウイルスに対し推奨しています。これは当院の消毒マニュアルでも濃度がほぼ一致します。

ミルトンを0.05%へ希釈するには20倍希釈になります。上の表をご確認ください。

*取り扱いを気をつけていただきたく、使いきる、ということで500mLペットボトルで用意するならミルトン25mL(ミルトンのキャップ1杯)を入れ、水で薄めて(希釈して)ください。要するに

ミルトン(1%次亜塩素酸ナトリウム)25mL +水475mL=0.05%次亜塩素酸ナトリウム希釈液500mL

となります。

その他注意点として、次亜塩素酸ナトリウムは金属腐食性と漂白作用があります次亜塩素酸ナトリウムで清拭(せいしき)し数分後、さらに水拭きすることも覚えておいてください

まとめとして、新型コロナウイルスに対する消毒は市販の手指アルコール消毒剤で対応可能なのですが、最近はマスクより市場に出回っていない気がします。それならハンドソープを用いてしっかり手指を洗いましょう。ただし、お子さまを含め『手洗い』を完璧にできる方々は少ないです。手洗いに合わせて、お互い触れる機会が多い物には0.05%次亜塩素酸ナトリウムで清拭しましょう。

参考)

サラヤホームページ https://pro.saraya.com/kansen-yobo/bacteria-virus/2019-nCoV.html

ミルトンホームページ https://milton.jp/ekitai/index.html

新型コロナウイルス感染症 市民向け感染予防ハンドブック(第2版)http://tmpuh.net/第2版新型コロナウイルス感染症_市民向けハンドブック_20200316.pdf

*下線で強調しましたが、『次亜塩素酸ナトリウム』と『次亜塩素酸水』は異なります。

妊婦の新型コロナウイルス対策(概論)

昨日(2/6)、日本産科婦人科学会から新型コロナウイルスの予防策についてメールが届きました。このブログではその内容をベースに、他の信頼できるサイトの内容を組み合わせ、新型コロナウイルスについて、妊婦の皆さまの対策の概論を載せることにします。

新型コロナウイルスとは

発熱や上気道症状を引き起こすウイルスで、現状ヒト-ヒト感染が成立している。ヒトに感染するコロナウイルスは、今まで6種類のコロナウイルスが知られており、うち2つ(2002年のSARS[中国]、2012年のMERS[中東])が重症肺炎をきたした。

妊婦への影響

妊婦は妊娠していない方々に比べ免疫力が低め(寛容)のため、感染すると重症化しやすくなる可能性がある。

UpToDate(文献を集約した信頼性の高いガイドラインに近いサイト)のサマリーでは、

『…occurring sporadically or in outbreaks of variable size, and probably also play a role in severe respiratory infections in both children and adults, particularly adults with underlying pulmonary disease and older adults. 』と書かれており、要するに

『子供も大人も重症化肺炎となる可能性があり、とりわけ肺疾患合併の方や妊婦同様免疫力が低めの高齢者がさらにリスクが高い。』

また胎児への影響について、以前流行した別型のコロナウイルス(SARS)から、母親(妊婦)の呼吸器感染症が直接胎児へ影響することは考えにくい。

*しかしながら、他の発熱をきたす感染症同様赤ちゃんの心拍が通常より高く、頻脈が見られるなどの所見は十分に考えられます。

他ウイルス感染症と比べ、感染数はどの程度なのか

新型コロナウイルスは現在流行中で数が増えていくため、WHOが随時レポートを発表している。これによると感染者数は日本のニュースの情報と変わりない。

一方、アメリカでは現在インフルエンザが猛威を奮っており、以下CNN日本サイトである。

https://www.cnn.co.jp/fringe/35148772.html

*あおるつもりはありませんが、インフルエンザもまだ流行期であり、皆さまは引き続きインフルエンザも注意する必要があるのではと考えます。

新型コロナウイルス感染後の症状や増悪度

UpToDateによると、『The illness is characterized primarily by fever, cough, dyspnea, and bilateral infiltrates on chest imaging. Although many of the reported infections are not severe, approximately 20 percent of confirmed patients have had critical illness…』と書かれており、要するに

『感染後発熱、咳、呼吸苦、胸部写真で肺炎様浸潤影が見られる。20%の患者が重症化し、致死率は3%未満とされている。なおそのような患者は既に合併症を持っている方々がほとんどである。』

皆さまが行える予防法

一般的な衛生対策をお願いします。要するに手洗いうがいや咳エチケットです。インフルエンザ流行期に皆さんが意識するものと同じでよいと思います。感染拡大を防ぐために、皆さま一人ひとりの意識付けが何より大事です。

にしじまクリニックが行う対策

・診察室など、消毒の機会を増やす。ほぼ全てのウイルスは次亜塩素酸ナトリウム(ミルトンなど)での消毒や拭き取りで対応が可能

・医師会や学会や海外組織(WHO)などの情報を適宜把握し対処する

*今回の新型コロナウイルスについて、インフルエンザウイルスと違うのは抗ウイルス薬が現時点ですぐ扱えない(HIVやエボラウイルスに対する薬剤を応用する話が出ています)ことです。他の感染症との鑑別や早期発見のため、知識の共有や院内の導線対策などを適宜進めてまいります。

参考)

日本産科婦人科学会ホームページ

UpToDate

厚生労働省ホームページhttps://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/dengue_fever_qa_00001.html

20202月7日初稿(今後順次加筆する可能性があります) 院長