レルミナ®︎錠

今回は子宮筋腫や子宮内膜症に対する内服治療薬のレルミナ®︎錠(以下レルミナ)についてお話しさせていただきます。

レルミナの適応・効能効果

・子宮筋腫に基づく過多月経、下腹痛、腰痛、貧血

・子宮内膜症に基づく疼痛(月経痛、下腹痛、腰痛、排便痛、性交痛)の改善

病態生理から考えるレルミナのメカニズム

レルミナはGnRHアンタゴニスト製剤です。

①GnRHアンタゴニストは内因性GnRHの代わりに下垂体前葉にあるGnRH受容体に結合してGnRHの作用を遮断します。

②GnRH作用・刺激を受けない下垂体前葉からは、ゴナドトロピン(FSHとLH)の分泌が抑えられます。

③ゴナドトロピンの刺激を受けない卵巣は、性ステロイドホルモン(エストロゲンとプロゲステロン)の分泌が抑えられます。

レルミナは子宮筋腫や子宮内膜症に関わる性ステロイドホルモンの分泌を抑えることができるので、それらの病態の悪化を防ぐことができるのです。

従来はGnRHアゴニスト製剤として注射剤を用いることが多かったのですが、レルミナは内服製剤なので、処方をさせていただき、ご自身で内服管理が可能な点が一つのポイントとなります。

レルミナ内服の注意点

・食前(食事の30分前までに)内服:レルミナは吸収面において、食事の影響を受けてしまうので、内服は食前、可能であれば朝食前をおすすめします。

・内服投与期間は6ヶ月間:性ステロイドホルモンを抑え続けることによる骨密度の低下を招く恐れがあるため、半年間の内服と治療には一定の制限が設けられています。

・その他、考えられる副作用としては

更年期様症状(ほてり、頭痛、発汗、うつ症状など)

があります。先程の骨密度と同じく、性ステロイドホルモンの分泌が抑制され続けるためです。ただし、レルミナの内服期間は6ヶ月間のため、レルミナ内服終了後は速やかに更年期様症状の改善が見込まれます。

レルミナの6ヶ月内服後、LEP製剤やジエノゲスト錠への切り替えを行い内服治療を続ける場合は、症状に応じて漢方等の処方や内服の工夫を行うことも手段の一つと言えそうです。

勿論、にしじまクリニックの外来でもレルミナの処方は可能です。子宮筋腫や子宮内膜症による症状でお困りの方はご来院いただき、担当医師と一緒に治療の相談をしていきましょう。

(院長執筆)

妊娠中にうなぎ食べてもいいですか?

こんにちは、副院長の石田です。

夏ですね。この時期になると決まって妊婦さんたちから「妊娠中にうなぎ食べてもいいですか?」と聞かれます。この質問に限らず「温泉入っていいですか?」とか、「髪染めていいですか?」など定番の質問はいくつもあるのですが、私個人としては「無限に聞かれる質問には、無限に答える」と決めているため日々これらのお尋ねと向き合っています。ただ、外来の限られた時間ではなかなか詳しいことをお話しするのは難しいので、本日は妊娠中のうなぎについて解説していきたいと思います。

なぜ妊娠中にうなぎを食べることが気にされるのか

うなぎは栄養価が高いというイメージが強い食材ですが、ビタミンAが豊富なことでも有名です。しかしビタミンAは妊婦さんやお腹の赤ちゃんにとって流産の原因になったり、最大25%程度の非常に強い催奇形性(胎児奇形の原因となる性質)があることが知られているため「うなぎは食べたいけど心配」というジレンマを生み出しているわけです 1)。

ビタミンAの摂取量について

妊娠中の摂取が心配な一方で、ビタミンAはうなぎ以外にも色々な食材に含まれているし、そもそも生命活動の維持に必要なのも事実です。実際、ビタミンAは暗いところでの視力や免疫機能、肌や粘膜の状態を保つのに重要な役割を果たしています。そのため妊娠中は体に入れないように気をつけるというものでもありませんし、むしろ量に注意しながら必要な分はちゃんと摂取することが求められます。ではどのくらいまでなら問題ないのかというと、具体的には10,000 IU/日を超えなければ良いと考えられています 2)。うなぎのビタミンA含有量はアメリカ合衆国農務省のデータベースで確認すると、1人前を100gとした場合およそ3,500IUであり摂取上限よりも低そうなことが分かります 3)。ちなみに海外のデータを参照してくるのは単純に日本の厚労省等が出すような信頼性が高くてかつ新しいデータがうまく見つけられなかったからなのですが、やっと辿り着いた内閣府食品安全委員会の少し古いファクトシートによると妊婦さんのビタミンA摂取上限量は2700mcg RAE(単位が違うことに注意)とされており、この単位で換算するとうなぎは100g辺り1500mcg RAEとなっているのでやはり3食の中で1回くらい食べても平気なんだろうなということが分かります 4)。

まとめ

というわけで本日は妊娠中のうなぎについてのお話でした。今年は7/23と8/4に土用丑の日がありますが、妊娠中の滋養強壮として暑い夏を乗り切るために食べたい、食べさせたいという妊婦さんやそのご家族も多いです。上記のようにビタミンAは摂取方法に注意が必要な栄養素ではありますが、うなぎを毎食とか毎日食べるわけでなければ多少多めに摂ったとて問題になることはまずありませんので気にせず楽しんでいただいて良いと思います。
ただ、それでもこの時期に妊娠初期で食べるのを悩んでいますという妊婦さんたちに私は問いたい。

「うなぎの旬をご存知ですか?」と。

そう、うなぎが一番美味しくなるのは冬眠に入る直前にしっかり脂を蓄える初秋から冬です。むしろ夏場はうなぎの売り上げが落ちるため、江戸時代に平賀源内のアドバイスによって土用丑の日=うなぎとマーケティングされたという説すらあるんですね。なので赤ちゃんへの影響を心配しながらうなぎを食べるくらいなら、秋冬になって器官形成期を抜けるのを待ってから、心置きなく美味しいうなぎを味わってみてはいかがでしょうか?

1) M Guillonneau, et al. Arch Pediatr. 1997 Sep;4(9):867-74
2) R K Miller, et al. Reprod Toxicol. Jan-Feb 1998;12(1):75-88
3) USDA National Nutrient Database for Standard ReferenceRelaese 28: https://ods.od.nih.gov/pubs/usdandb/VitaminA-Food.pdf
4) 内閣府 食品安全委員会 ファクトシート 平成24年9月26日更新:http://www.fsc.go.jp/sonota/factsheet-vitamin-a.pdf

後期流産

今回は「後期流産」についてお話します。まずは定義をお示しします。

流産:(日本では)妊娠22週未満に児を娩出すること

人工流産:人工操作によって妊娠22週未満の妊娠を中絶すること

人工妊娠中絶:人工流産と人工早産に分けられる。通常は母体保護法の観点から人工流産とほぼ同義

以上をふまえ、妊娠12週以降の22週未満の流産(死産を含む)は「後期流産」といいます。

人工妊娠中絶の処置として児の娩出を行う場合は、母体保護法第14条に基づき(原則)夫婦の同意書が必要となります。

後期流産・妊娠12週以降の人工妊娠中絶処置

■子宮頸管拡張:妊娠12週以降の後期流産を安全に行うために最も重要な処置です。頸管拡張は徐々に行うため、時間・日数を要します。

■子宮収縮薬(ゲメプロスト)投与:頸管拡張がしっかり行われた後、ゲメプロストを3時間ごとに後腟円蓋に投与します。1日最大5個までの投与となります。子宮頸管拡張がしっかり行われている場合は1日の最大用量内に児を娩出することがほとんどです。

ゲメプロスト投与の禁忌例:(全・部分)前置胎盤、骨盤内感染

■児と胎盤の娩出

□後期流産・人工妊娠中絶後に母体は乳汁漏出をきたすことがあり、カベルゴリンの内服をしてもらうことがあります。

流産処置に関する注意点

・Rh(D)陰性の母体は産後の抗D人免疫グロブリンの注射を勧めます。

・後期流産では胎盤遺残が生じやすく、その後の出血や感染に注意を要します。

・にしじまクリニックでは、流産処置の前後に抗菌薬を内服・点滴・腟内のいずれかの投与を行いますが、産後の骨盤内感染を全て防げるわけではありません。産後に感染症を起こす多くの場合は処置前から母体がクラミジアや嫌気性菌などを有するとされ、これらは比較的特殊な抗菌薬の選択が必要とされるためです。

(院長執筆)

双子の一卵性、二卵性について

こんにちは、副院長の石田です。

当院では妊娠検査が陽性となって来院される方が毎日いらっしゃいますが、エコーを見てみると双子だったということが年に数回あります。その際によく聞かれるのが「一卵性ですか、それとも二卵性ですか?」という質問ですが、実はどちらなのかは生まれてからでないと分かりません。これに関しては「え?でもうちの双子は妊娠中に二卵性って言われたよ!?」といった感じで誤解なさっている方がとても多い印象なので、本日は双子の赤ちゃんの「膜性」と「卵性」について少し解説してみようと思います。

「膜性」とは

双子の胎児を超音波で診断する時に最も産婦人科医が気をつかうのが膜性の診断です。具体的には赤ちゃんたちを包む絨毛膜と羊膜の2種類の「膜」の数を数えます。ちなみに絨毛膜というのはその後胎盤に変化していく膜で、羊膜というのは赤ちゃんと羊水を包んでいる半透明の膜です。破水というのはこの羊膜が破れて羊水が出てくる状態のことですね。
赤ちゃんが2人見えた場合はこれらの膜がいくつあるか確認するのですが、数え方としては胎嚢(赤ちゃんのお部屋)が2つあれば絨毛膜は2つある(二絨毛膜)と判定できます。そしてこの場合は羊膜も必ず2つに分かれています。
逆に胎嚢が1つしかないのに中に赤ちゃんが2人見えてきた場合は一絨毛膜ということになります。この場合はさらにその内部で赤ちゃんを隔てる薄い膜があるかを確認しますが、もし胎嚢内で赤ちゃんたちの間が仕切られていれば二羊膜、完全に同じ部屋の中にいる場合は一羊膜と診断されます。
なのでまとめると双子の「膜性」は二絨毛膜二羊膜、一絨毛膜二羊膜、一絨毛膜一羊膜の3種類があるということになります。

「卵性」とは

一方で卵性とは受精卵の数を表します。一度の排卵周期で2つの卵子に1つずつの精子がそれぞれ受精して両方とも着床した場合は二卵性、一つの受精卵が途中で2つに分割してそれぞれ1人の人間として育つのが一卵性です。二卵性は最初から別の人間なので性別や血液型なども違う可能性がありますが、一卵性はもとの受精卵が一緒なので遺伝情報も原則的には100%合致します。なので一卵性の双子では下手すると顔認証のセキュリティがお互いに突破しあえるくらい似ていたりします。

「膜性」と「卵性」の違い

上記の通り、二卵性の場合はそもそも受精卵が違うので必ず二絨毛膜二羊膜双胎となるのですが、実は一卵性の場合は3種類の膜性全てになる可能性があります。これは受精卵が分割する時期によるのですが、具体的には受精卵が1個できた後に1~3日目で2人に分かれた場合は二絨毛膜二羊膜に、4〜8日目に分かれた場合は一絨毛膜二羊膜に、9〜12日目に分かれた場合には一絨毛膜一羊膜になると考えられています。(ちなみにそれ以降に分かれた場合は結合双胎という体の一部がくっついた双子になります。)これらのことから一般的に妊婦健診で確認できるのは膜性のみであり、卵性は出生後に遺伝子を調べないと診断できません。妊娠中に担当医から二卵性ですと言われたという方は、胎嚢が2つあります(二絨毛膜)と伝えられたのを誤解されたか、あるいはその医師が双子に対して誤った理解をしているかだと考えられます。

まとめ

というわけで本日は意外とみんなが知らない双子についての豆知識でした。実は世界では「二卵性の一絨毛膜双胎」とか不思議な双子ちゃんたちがちらほら報告されている(そのため一絨毛膜であっても一卵性と言い切れない)のですが、基本的にそれらは例外オブ例外なので皆さんは上記だけをご理解いただければ問題ありません。医学的には双子のリスクや注意点は膜性によってかなりの部分が決まってきますので、妊婦さんやそのご家族は一卵性かな?二卵性かな?とか思いつつも担当医とよく話し合いながら妊娠、出産を楽しんでみてください。

にしじまクリニックのチームステップス

にしじまクリニックは、スタッフ内で勉強会を行っています。先日まで6週間は医療・患者安全のためにチームパフォーマンスを向上させる目的で、チームステップス(TeamSTEPPS)のディスカッションを行いました。

1週目と2週目は、医療状況を評価する『状況モニター』について議論しました。

状況モニター

患者さんのおかれている立場をできるだけピックアップし、かつ産婦人科特有の、産婦さんのみならず赤ちゃんや旦那さんの状況も把握しましょう、という意見が当院スタッフのやさしさが垣間見え、印象的でした。

業務量においては、やるべき事が多くて大変だからこそ、適材適所のスタッフの人材配置に加え、緊急時早めに対処するための位置の事前把握、声がけ・集まりのために一定のルールが必要である、と認識しました。

施設情報として、情報をできるだけ多くのスタッフが知り、それを共有できるか。そのために機材を含めた環境を整えていきましょう、という事になりました。

緊急時適切な対応を行うために、不安な事や大事な情報を伝える発信者の表現・姿勢や、相手(受信者)に内容が適切に伝わるかが重要で、今後どうしたらよいかを考えました。

3週目と4週目は、適切なチームアプローチを行うために状況モニターを含め『4つの能力』について議論しました。

4つの能力:リーダーシップ、コミュニケーション、状況モニター、相互支援

リーダーシップについて、リーダー・コマンダーは緊急時落ち着いて指示する事が求められるのは勿論、平常時から各々が持ち場でのリーダーシップが今後さらに発揮できるようにする事を目標としました。

コミュニケーションでは、普段から患者さんの情報の誤認を防ぐため、複数人で状況を確認する『タイムアウト』を導入し実践し始めました。

にしじまクリニックのスタッフは相互支援が得意だと私院長は思っています。一方これをもっと深く突き詰めて良くする事も必要だと気がつきました。「自分の仕事はここまで」と壁を作ってしまうと相互支援は成り立たなくなるのですが、「何でもいろいろやってくれ」という事でもありません。職種や経験年数の違いを乗り越える気持ちも大事ですが、オーバーワーク・オーバービヘービアになってしまってはいけません。

5週目と6週目は、にしじまクリニックは今後、チーム体制としてどうありたいか、どうあるべきかの確認を行いました。

4つのR

総括すると、

□CUS(Concerned, Uncomfortable, Stop because of Safety issue)の表現と受け取りが重要。発信者は職種および経験年数は関係ない。受信者は寛容さを持つ。発信者のCUSの表現の能力と、受信者の受け取った情報処理能力のバランスが整ったうえで効果的なCUSが成立する。

共通の認識として、“Safety issue”の場合はその場の行為を止めてでも緊急の場へ向かう。この時はオーバートリアージでも許容する。

情報の共有のために複数人数でハドル(huddle)とカンファレンス(conference)で質の高い情報を共有し、目標が正しいかどうかを確認・上方修正する。

huddle: to get or come together in a crowd

conference: meeting for the exchange of ideas

事前に情報を共有する事で緊急時の対応を円滑に行えるようにする。

新しく取り組みを行うのではなく、今行っている事を修飾して強化していく。

という事らにたどり着きました。

皆さまの働かれている企業はチームとしてよい環境でしょうか。

にしじまクリニックはチームパフォーマンスおいてまだ100点満点ではありません(既に満点と思うようであれば、その企業は成長しません)が、「より良いチームにしていきたい」と思う向上心は当院スタッフ全員が持っています。それは今後、さらに患者さんの安全の提供のみならずスタッフが働きやすい環境の構築にもつながる、と確信した勉強会でした。

(院長執筆)