NCPRを行うべき背景

NCPR(Neonatal Cardio Pulmonary Resuscitation:新生児蘇生法)のアルゴリズムは、出生後呼吸をしない(無呼吸)児が子宮内でどの程度の低酸素にさらされていたのかを診断していくプロセスでもあります。

一次性無呼吸とは

子宮内で低酸素にさらされた胎児は、呼吸を行うために胸郭運動を行おうとするも、低酸素により脳幹の呼吸中枢が機能せず呼吸運動が停止してしまうこと

二次性無呼吸とは

時間とともに低酸素とアシドーシスが進行すると、やっとの呼吸(あえぎ呼吸)自体も停止してしまうこと

・一次性無呼吸の時点で生まれてきた児に行うべき処置→極度の子宮内環境の悪化はなく、循環は保たれていた状態なので、気道を開通し皮膚の刺激だけで自発呼吸を開始することができます。

これらはNCPRのアルゴリズムとして『蘇生の初期処置』に相当します。

・早期の二次性無呼吸で生まれてきた児に行うべき処置→人工呼吸が必要です。

これはNCPRのアルゴリズムとして『救命の流れ』に相当します。

このように、NCPRのアルゴリズムは蘇生処置を行うことで児の反応に対し、児がどのくらい低酸素状態にさらされていたのか診断することも兼ねています。産科医療従事者はCTG所見らも含め、周産期において児がどの位ストレスにさらされているかを常にアセスメントする必要があります。

執筆 院長

Rh(-)の血液型と妊娠について

こんにちは、副院長の石田です。

母子手帳を使う初めての妊婦健診では診察以外にも様々な検査を行いますが、そのうちの一つが血液型の検査です。若い妊婦さんだとご自身の血液型をそこで初めて知る方も少なくありませんが、占いで使うABOの血液型と違ってRh型の方はなんとなく言葉は知っていても具体的に何なのかはよく分からないことが多いと思います。そこで本日はRhの血液型と妊娠について解説したいと思います。

Rh式の血液型とは?

一般的に血液型といえば占いでもお馴染みのABO式ですが、医学的にはABO式を含めて43種類の血液型分類が確認されています。そのうちの一つがRh式の分類ですが、ABO式がA、B、O、ABの4種類なのに対してRh式では45種類以上の抗原が存在します。その中で普段注目されているのはD型の抗原であり、検査結果の報告用紙に書いてあるRh(+)/(-)というのはRh式血液型の中のD抗原についてあるかないかを示しています。

妊娠とRh血液型について

Rh(-)の方がどのくらいいらっしゃるかについては民族間で割合がだいぶ違っており、日本人では0.5%程度しかいないのに対して欧米の白人だと15%くらいとされています 1)。いずれにしてもRh(+)が多数派ですが、Rh(-)の女性とRh(+)の男性の間に子供ができた場合、(+)の遺伝子の方が強いため赤ちゃんも高確率でRh(+)となります。するとRh(-)の妊婦さんの免疫システムは赤ちゃんのRh(+)の血液を攻撃、破壊してしまうため赤ちゃんの健康に深刻な問題が生じることがあるのです。(逆にRh(+)が(-)を攻撃するということは起こらないのでRh(+)の妊婦さんが知らずにRh(-)の赤ちゃんを妊娠していても問題にはなりません。)

ABO式の血液型が違うのは大丈夫なのか?

ところでRh式よりよっぽど母子の違いが発生するABO式の血液型の違いが問題になりにくいのはなぜでしょうか?それはRh(+)に対する抗体がIgGという小さいサイズのもので胎盤を通過してしまうのに対してABO式の違いで発生する抗体はIgMという胎盤を通過できない大きなサイズの抗体であるため赤ちゃんに影響を及ぼしにくいという特徴があるからです。

まとめ

本日は意外と知らない血液型のお話でした。妊婦健診の検査結果にサラッと書いてあるあのマークにはそんな背景があったんですね。Rh(-)の女性が妊娠した場合には赤ちゃんのリスクを軽減するために必要な処置を行いますが、それに関しては回を改めて解説いたします。いずれにしても該当する女性は主治医とよく話し合って慎重に妊娠を進めていきましょう。

1) Arch Dis Fetal Neonatal Ed. 2011 Mar;96(2):F84-5

流産染色体分析

流産絨毛組織染色体分析の適応例

・不育症の原因検索や除外診断等を希望される場合

・ご夫婦が流産の原因検索を希望される場合

流産は全妊娠の10〜15%に発生しその半数は染色体異常が原因とされています。なかでも突発的に発生する数的異常(染色体数の増減)が多く、例えばダウン症候群などのトリソミーが約60%を占めます。

流産組織の絨毛を採取し、染色体分析の結果、染色体異常が検出された場合は、その流産の原因であった可能性が高いと考えます。そして

数的染色体異常が判明した場合:突発的に発生したものと考え、次の妊娠でも繰り返す可能性は低いと考えます。ただし女性の加齢による影響はあるので、高年妊娠に関しては次の妊娠でも年齢に応じた数的染色体異常には留意しなくてはなりません。

②染色体構造異常が判明した場合:染色体を形成するDNAの糸が切れて元とは違う形で再構成された状態を「構造異常」と言います。構造異常には転座、欠失、逆位などがあります。胎児の染色体構造異常が判明した場合、ご夫婦のどちらかが関連した構造異常を有している場合は今後の妊娠もそれが流産の原因となり得るため、ご夫婦自身の染色体分析も行い、今回の胎児の染色体構造異常と関連するかを確かめることをお勧めします。

ご夫婦の染色体異常が認めない場合は、今回の胎児の染色体構造異常は突然変異により生じたものと考え、次回の妊娠の影響は低いと考えます。

構造異常はゲノム量が変わらない変化を「均衡型異常」とゲノム量が変わる変化を「不均衡型異常」に分けられます。

ご夫婦の染色体分析において、

均衡型異常ではご夫婦いずれかに胎児と同じ均衡型異常が判明した場合、それは今回の流産の原因ではないと言えます。ただし、卵子や精子の形成過程における減数分裂の時に不均衡型異常を構成することがあるため、その場合は次回以降の妊娠での流産や不妊症、不育症の原因となることがあります。

不均衡型異常の場合は妊娠が成立してもその後の流産の主原因となり、出産に至ってもゲノム量の変化度合いにより児に様々な影響(先天異常)を及ぼすことが考えられます。

③染色体が正常だった場合:流産の原因が染色体異常によるものではないと一般的に判断されます。例えば子宮形態異常、膠原病関連疾患、内分泌代謝異常、感染症などが流産の原因ではないかと疑われます。

通常、流産手術においての病理検査では絨毛性疾患の有無を確認するもので、

今回改めてご紹介する流産絨毛組織(POC: Products Of Conception)染色体分析と検査は異なります。残念ながら稽留流産が判明し、流産手術前に流産染色体検査を希望される場合は担当医師にご相談ください。結果によっては高次施設での遺伝カウンセリング外来へご紹介する場合もございますことをご理解願います。

院長執筆

妊娠中に血小板が少ないと言われた時の話

こんにちは、副院長の石田です。

妊娠中は体にさまざまな変化が起こりますが、その中でもたまにあるのが「血小板が低いです」という異常です。人気マンガの『はたらく細胞』なんかでも可愛らしいキャラとして描かれている血小板は、分娩時に伴う出血をコントロールするための重要な細胞なので足りないと言われると心配になりますが、そうなった時はどうしたらよいのでしょうか?
ということで本日は妊娠中の血小板減少について解説したいと思います。

妊娠性血小板減少症

実は妊婦さんの体は分娩時の出血に備えて血小板を増産しています 1)。しかし、同時に血液量も妊娠前と比べると妊娠末期に1.5倍ほどに増えているため結果的に血小板は薄まって濃度を表す数値が低下してしまうんですね。加えて妊娠すると血小板の消費が増加するとも言われており、それらが複合的に作用しているのが実態のようです 2)3)。このような状態を妊娠性血小板減少症と言い、全妊婦の7〜12%が発症すると言われています 1)4)。15万〜45万/μLが正常値とされる血小板数が10万くらいまでの範囲で下がるのが一般的ですが、逆にこの程度であれば実際に出血が増えるなどの実害に発展しないとされており、分娩終了後は自然と元の血小板数に回復するので治療も必要としません。統計的には妊娠後期に多いとされていますが、妊娠初期から血小板が低下することもあります。

どんな時に心配か

上記のように無害な血小板減少の場合は10万以上で減少が止まりますが、時にそれを下回って低下していくことがあります。この場合は妊娠高血圧症候群に関連した疾患や自己免疫による血小板の破壊など危険な病気を考える必要があるため、状況に応じて周産期センターなどの高次施設への転院や、臨月であれば分娩による妊娠の終結を検討する必要があります。そのため通常の妊婦健診で血小板の低下を確認した場合はしばらく頻回の血液検査を提案されるかもしれません。

まとめ

本日は妊娠中に血小板が少なくなってしまった時のお話でした。妊娠中の血小板減少の75%は心配の要らない妊娠性血小板減少症と言われていますが、その一方で注意が必要な疾患のこともあります。もし妊娠中に血小板が少ないと言われたら、主治医の先生とよく相談をしながらしっかり見守っていきましょう。

1) 森川 守. 日医雑誌 第152巻・第12号/2024年3月
2) Simone Filipa Carrasqueira Subtil, et al. Rev Bras Ginecol Obstet. 2020 Dec;42(12): 834-840.
3) Douglas B Cines, et al. Blood. 2017 Nov 23;130(21): 2271-2277
4) Anca Marina Ciobanu, et al. Maedica (Bucur). 2016 Mar;11(1):55-60.

妊娠蛋白尿に関する考え方

妊娠蛋白尿の定義

・尿蛋白/クレアチニン比が0.3以上

または

・24時間蓄尿で300mg/日以上の蛋白尿が検出された

場合を「妊娠蛋白尿」と定義します。これらは定量検査で

妊婦健診で行う蛋白の出ている尿(蛋白尿)の検査は定性検査

といいます。定性検査は主に陽性か陰性かを判断するもので、蛋白尿が陽性であれば定量検査で妊娠蛋白尿に当てはまるか確認をする必要があります。

蛋白尿の測定法

入院をしており時間的余裕があるなら24時間蓄尿を行いますが、

外来等では尿蛋白/クレアチニン比を検査することで早く結果を得ることができます。尿蛋白/クレアチニン比は、24時間蓄尿による蛋白排泄量とよく相関することが知られています。

尿蛋白/クレアチニン比が0.3~0.5の場合、尿蛋白排泄量は0.3~0.5g/日程度と推定できます。

蛋白尿量で(妊娠高血圧症候群の)重症度の区別は無

蛋白尿の量で妊娠高血圧症候群の重症度をはかるわけではありませんが、

『妊娠中の高血圧+蛋白尿』は妊娠高血圧腎症=子癇前症であること、

まだ高血圧を認めていなくても、蛋白尿を認めれば妊娠高血圧腎症への進展を予測しsFlt-1/PlGF比を測るきっかけとなること

から、妊娠蛋白尿には要注意と言わざる得ないのです。

執筆:院長