出生前遺伝学的検査(概論)

染色体疾患のある児の大部分は流産に終わり、出生できる子はほんのわずかです。

出生児の3〜5%*は先天性疾患をもって生まれます。そのうち25%が染色体疾患による(全出生の0.4%が染色体疾患による)ものです。

(*出生時に確認できるものが2〜3%で、生後に診断・確認されるものも全て含めた場合に3〜5%)

染色体疾患においては50%がDown症候群(21トリソミー)、20%が18トリソミーと13トリソミーを占めます。

先ほど述べましたとおり、全出生の1%にも達しない染色体疾患ですが、高年妊婦さんをはじめ、児についてただ漠然と不安を持つ妊婦さんがいらっしゃるのは当然のことと思います。

そこで児の状況を提供できる検査として出生前検査があります。

出生前検査は必ずしも全ての全ての妊婦さんが受ける検査ではありませんが、検査を受けることで妊婦さんやご家族の不安の一部を解消できる手立てとなり得ます。ただし、わかる病気・疾患は一部であることもご理解いただくことも必要です。

各出生前検査においては行う適切時期があります。当院でも引き続きテキスト、リーフレット、直接のご案内、第1回両親学級を通じて情報を提供してまいります。来年からは初期対応としての遺伝カウンセリング外来枠も設置いたします。妊娠初期の外来で出生前検査についてご質問がございましたら、まずは私院長までお申し付けください。

臨月を過ごす時間におすすめの本

こんにちは、副院長の石田です。

以前このブログで臨月の過ごし方について「好きなように過ごしてもらって大丈夫ですよ」という記事を書かせていただきました。

しかし、そうは言っても時間を持て余してしまうご夫婦も多いようで、毎日「どうやって過ごせばいいか悩んでます」という相談を受けます。そこで本日は(別に読むのが妊娠末期である必要は全く無いんですけど)臨月を過ごすのにおすすめの本を実用書と小説から1冊ずつご紹介したいと思います。
(以下、小見出しがAmazonのリンクになっています。)

RANGE 知識の「幅」が最強の武器になる

いよいよ親になるという時期に気になることの一つは子供の教育ではないでしょうか。巷にはスポーツや芸術、語学などできるだけ早くから分野を絞って子供に教育することを勧める言説が溢れていますが、本書は様々なデータや具体例を用いてステレオタイプな早期教育礼賛の危うさを訴えるとともに、浅くても広い「幅」のある知識や経験を子供に与えることこそが社会で成功するためにより強力な武器になるのだと主張しています。内容には賛否があるでしょうが、確かに本業の仕事をする中で昔のバイトの経験や趣味の分野での技術が思わぬ形で活きることってありますよね。VUCAという表現が流行るほど未来予測が難しい社会にあって、子供の将来像を決めてから帰納的に習い事を決めてみても思い通りにいかないことが多いでしょうし、とりあえず色々と経験させてみるという教育手法も十分合理的なのかもしれません。そういう意味では子供の教育に多角的な視点を持つ機会を得るのに参考になる本だと思います。要旨は少しズレるかもですが、様々なことに興味を持って触れておくことの大事さや、専門に特化しすぎることのリスクについては、スティーブ・ジョブズ氏のスタンフォード大学卒業式でのスピーチや、武井壮さんの「大人の学校」という企画でのお話が同様に示唆に富む内容かもしれません。これらはいずれもYouTubeで見ることができます。

ぼくはイエローでホワイトで、ちょっとブルー

筆者のブレイディみかこさんはイギリス人の旦那さんと長男との3人家族です。本書はイギリス社会で生活する中学生の息子さんが身の回りに起こる格差問題や人種差別を通して自分のアイデンティティを模索しながら成長していく姿を、母親目線で描いたノンフィクションの小説です。というと、なんだか重い話を読まされるのかと身構えてしまいそうですが、それらの根が深い問題に正面から突っ込んでいく割には無傷じゃないけど明るく逞しく前進していく彼の姿にスカッと感があるし、さらには親としてあるべき姿や子供を信じて見守ることの大切さ、自分は社会に対してどのように向き合うべきなのかなど、たくさんのことも考えさせてくれる1冊だと思います。かくいう私も小学生の息子が二人いますが、彼らの言動や行動からこれまで多くのことを学んできたことを思うと「この子達が自分を親にしてくれているんだな」と本書を読んだ後に改めて痛感した次第です。世間の評価も極めて高いですが、実際とても面白い本ですので是非手に取ってみてください。ちなみに私はまだ読んでいませんが、続編もあります。

まとめ

というわけで本日は私が読んだことのある本の中から2冊をご紹介させていただきました。どちらもとても有名な本なので、もう読んだよって方もたくさんいらっしゃるかもですね。もし当院かかりつけの患者さんで、他にもご自身のお勧め本があるという方は是非外来で私に教えてください。

バイオフィジカル・プロファイルスコア

赤ちゃん(胎児)の健常性を評価する項目として「バイオフィジカル・プロファイルスコア(BPS)」があります。これは

・筋緊張

・胎動

・呼吸様運動

・CTG(胎児心拍数陣痛図)

・羊水量

の5項目を評価します。

筋緊張は妊娠8週頃、胎動は妊娠12週頃、呼吸様運動は妊娠20週頃に、一過性頻脈は妊娠28週頃に出現します。よってこれら全てを評価する時期としては妊娠末期(妊娠28週)以降ということなります。

筋緊張と胎動は一見同じようにも思われますが実は異なり、

筋緊張は体に力が入っているかどうか、

胎動は体に力が入り、かつしっかり動かすことができるか

をみています。

胎児心拍数は自律神経の交感神経と副交感神経のバランスで制御されています。胎児が低酸素状態になると、CTGで一過性頻脈や基線細変動消失などの変化がみられます。基線細変動は胎児心拍数モニタリングの判読において重要な要素で胎児アシドーシスの有無と関連があります。

さらに低酸素状態が続けば呼吸様運動、胎動、筋緊張が行われなくなってくるのです。

上記4項目に対し、羊水量は急性の低酸素状態の環境では変化しません。主に胎盤機能不全から、長期にわたる低酸素状態に胎児が曝されることで羊水量の減少が起こります。

よってBPSは胎児の直接の観察を行う超音波検査のみならずCTG検査で胎児の自律神経を確認し、また羊水量の評価で胎児の時間的ストレスの把握を推移することができます。胎動に関しては妊娠末期で妊婦さんご自身でも確認が可能な項目ですので、これら5項目は胎児管理において多岐にわたる適切な評価法と言えるのではないでしょうか。

執筆 院長

赤ちゃんの目やに

こんにちは、副院長の石田です。

お産が終わって退院した後も産後健診としてしばらく産婦人科に通っていただきますが、その際によく気にされるのが赤ちゃんの目やにです。中には目が開かないくらいベチャベチャになってしまう子もいてご家族がとても心配されることが多いため、今回はこの件に関して解説したいと思います。

目やにの原因

人間の目は普段から少量の涙で濡れて乾かないようになっていますが、この涙は同じものがずっとそこにあるわけではなく「かけ流し」になっていて、絶えず新鮮な涙が分泌されては目の内側にある排水溝から鼻涙管という排水管を通って鼻の奥に排出されています。しかし生まれたばかりの赤ちゃんは鼻涙管が狭いため涙が通りにくく、結果的に一緒に排出されるはずの垢も溢れてしまうため目やにがガビガビになってしまうんですね。ある観察研究によると20%程度の赤ちゃんでこの症状が見られるということですが、肌感覚的にもそんなもんかなというのが私の印象です 1)。一方で1歳過ぎまでにほとんどの赤ちゃんで自然に治るとされており、必ずしも心配しすぎる必要もないようです 1)2)3)。

対処方法

まぶたや目の周りが赤く腫れたり、白目が充血するなどの感染兆候がなければ湿らせた清潔な布などで優しく拭ってキレイにしてあげられればOKです 4)。可能であれば目の内側、鼻の付け根あたりを1日に数回、清潔な指で優しくマッサージしてあげると鼻涙管の通りが良くなり症状も改善することがありますが、それでも良くならない場合は抗菌薬入りの目薬が処方されることもあります。一方で上記のような感染兆候がある場合には早めに専門医の診察が必要になりますので、積極的にかかりつけの病院を受診してください。

まとめ

本日は赤ちゃんの目やにについて解説しました。特に新生児にはありふれた症状であり、見た目の派手さとは裏腹に必ずしも心配しすぎる必要はありません。その一方で気をつけなければいけない感染兆候も存在しますので「おかしいな」と感じることがあれば遠慮せずに最寄りの医療機関に相談しましょう。

1) MacEwen CJ, et al. Eye(Lond). 1991;5(Pt 5):596.
2) Sathiamoorthi S, et al. JAMA Ophthalmol. 2018;136(11):1281.
3) Pediatric Eye Disease Investigator Group. Arch Ophthalmol. 2012;130(6):730.
4) NHS. Sticky eyes and conjunctivitis: http://childhealthwestkent.nhs.uk/sticky-eyes.html

インスリン抵抗性とは

インスリンは膵臓から分泌され、血液中のブドウ糖(血糖)を肝臓や筋肉などの細胞へ取り込み、血糖値を一定以上上昇させないようにするホルモンです。

妊婦はhPL(Human Placental Lactogen:ヒト胎盤性ラクトジェン)という胎盤から産生されるホルモンが増加します。妊娠中は血中のhPL増加によりインスリン抵抗性が増加します。

「インスリン抵抗性」とは、インスリンの働きが悪くなることで血糖が細胞へ取り込まれにくい状態のことを言います。

hPLによるインスリン抵抗性の増加から血糖が細胞へ取り込まれにくい状態が起こり、結果血液中にブドウ糖が増加(血糖値が増加)するのです。これは胎児へブドウ糖(血糖)を供給するために起こる現象ですから妊娠において必要なものではありますが、一方で糖尿病の状態を引き起こしやすくなるのです。

よって妊婦さんであれば誰もが起こりうる病態となりますが、よりリスクの高い方々として

・肥満

・2型糖尿病の家族歴

・高齢出産

・多嚢胞性卵巣症候群

らがあり、また妊娠糖尿病の既往がある方も次回妊娠時に注意が必要です。

執筆 院長