NCPRインストラクター更新講習で感じたこと

先日、NCPR(Neonatal CardioPulmonary Resuscitaion:新生児蘇生法)インストラクターの更新のため、講習を受けてきました。

以前のブログで、にしじまクリニックでのNCPRに関する朝練の様子をお伝えしました。

朝練、NCPR編

蘇生手技が適切にできなければ、新生児仮死の赤ちゃんは救えません。逆を返すとNCPRのキーマニューバー(手技)である『人工呼吸』を確実にできれば、新生児仮死の90%は蘇生可能といわれています。

下に添付した写真の道具が赤ちゃんに人工呼吸を行うための器具・バッグで、このバッグから赤ちゃんの気道へ適切な空気および酸素を送ります(『陽圧換気』と呼ばれます)。

赤ちゃんの口にマスクをあてながらこのバッグを扱い、確実で有効な人工呼吸を行うことは手技の難度が高いのです。

お産に関わる医療従事者は、NCPRは必須の資格といえます。しかしながら適切に行えるかどうかは普段から設備や道具・器具に触れていることが重要で、『Low dose, High frequency training in hospital』が望まれています。よって当院での『朝練』の取り組みに間違いはないと確信した講習会でもありました。もちろん今後もNCPRに限らずこのような取り組みを続けていきます。

参考)

インストラクター対象フォローアップコース事前学習資料

NCPR e-ラーニング(https://www.ncpr.jp

つわりのあれこれ

あけましておめでとうございます、副院長の石田です。今年もよろしくお願いします。

年末年始で食べすぎてしまった方もいる反面、今回は『つわり』について投稿しようと思います。

妊娠初期の方の共通した悩みはつわりですね。食欲低下、嘔気、嘔吐はイメージにあると思いますが、その他頭痛や唾液量の増加、眠気など人によって様々な症状が出ます。何でせっかく妊娠したのにこんな苦行を強いられるのかと元気な旦那さんを横目に理不尽さを感じている世の女性も多いかと思います。

つわりとは何なのか

人によって程度の差はありますが、何らかのつわりの症状を呈する妊婦さんは全体の50〜80%くらいと見積もられています。特に3%くらいの妊婦さんでは健康に支障を来すような体重減少や脱水症状になる妊娠悪阻という状態まで発展することがあります。個人差も去ることながらマクロで見るとアジア人と中東人で特に多いと言われていて、中国の統計では10%の方が妊娠悪阻に罹るというデータもありますが、実際のところつわりと妊娠悪阻の境界線は曖昧で、国際的に統一された診断基準があるわけではないため実態は不明です。ただ、共通した認識として若年、初産婦、有色人種などがリスクファクターになると言われています 1)。その他うつ病の人は重症化しやすいとか、ホルモンが関係しているとか、ピロリ菌や遺伝子的な関連も示唆されていますが決定的なことはほとんど分かっていないようです 1)2)3)。

つわりの治療

嘔気に対して吐き気止めのお薬を出すこともありますが(欧米では対抗癌剤用の強いやつを使うこともあります)、妊娠が根本原因なので結局治療は対症療法のみです。中には分娩までずっと気持ち悪さが残る人もいますが普通は妊娠中期頃には良くなってくるのでじっとそれを待つことになります。最も気をつけなければいけないのは脱水で、生命維持に必要な水分やミネラル、ビタミンなんかが足りなくなってしまう時は点滴をして補います。また、ビタミンB6が症状を和らげるというデータもあるためご相談の上で処方することもあります。個人でできることとしてはショウガが吐き気を減らすのに効果があると言われているので試してみるといいかもしれません(食べられればだけど。)4)5)。

まとめ

というわけで分からないことだらけのつわりのお話でした。周りの人からは「つわりなんて皆乗り切ってるんだから頑張って!」とか言われるかもしれませんが、本人からしたら「そんなの分かってるけど他人とか関係なく私は今しんどいんだよ!」というのが本音でしょう。私たちから言わせるとつわりの症状の重さやそれぞれの妊婦さんの耐性は様々であり、人と比べてどうとかいう話ではありません。当院では患者さんの症状とご希望に応じて外来での処方、点滴から入院まで柔軟に対応できますので、特にかかりつけの方はお気軽にご相談いただければと思います。

最後に

私の奥さんは妊娠中に出産まで吐き気が抜けず辛そうにしていました。初期に唐揚げは食べられたのでずっとそればかり口にしていたのですが、生まれた子供が3歳くらいになった時に初めて唐揚げを食べさせたところ、「ぼく、この味知ってる!」と言い出してびっくりしたことがあります。知り合いのところもリンゴで同じ現象が起きたと言っていました。本当に関係があるのかは分かりませんが、今つわりで苦しんでいる皆さんにも近い将来にそういうこともあるかもしれませんので苦しい中でもそれを楽しみにして食べられるものを探してみてはいかがでしょうか?

1) London V, et al. Pharmacology. 2017; 100(3-4): 161-171

2) Grooten IJ, et al. Am J Obstet Gynecol 2017; 216: 512. e1-e9

3) Li L, et al. Gastroenterol Res Pract 2015; 2015: 278905

4) Viljoen E, et al. Nutrition J 2014; 13: 20, 2891-13-20.

5) ACOG Practice Bulletin. Number 189, January 2018

ミレーナについて

最近、テレビによる効果かミレーナ®についてのご質問が多く、ブログに載せることにしました。

ミレーナ®はレボノルゲストレル放出子宮内システム、いわば黄体ホルモンを放出する子宮内デバイス(器具)です。

ちなみに、『レボノゲストレル』は緊急避妊薬としても使われる黄体ホルモンです。なお先日ピルについてのブログ投稿でも書かせていただきましたので、是非とももう一度いただければと思います。

ピルについて

現在日本ではミニピル、いわゆる黄体ホルモン単独のピルが、緊急避妊薬以外には用いることができないため、血栓のリスクを理論上さげるためには、このミレーナが有効と考えます。

治療の適応は過多月経月経困難症となります。

自費診療として避妊目的にも使用可能です。

参照サイトhttps://whc.bayer.jp/mirena/mirena/index.html

にしじまクリニックではご来院後にまず問診、その後外来診療でエコーによる子宮の評価、性感染症がないかどうか等をチェックさせていただきます。可能なら子宮がん検診もお勧めします。それらの結果で異常ないことを確認した後、子宮内へミレーナ®を挿入します。

挿入装着時期は月経開始後1週間以内を目安にしてください。

ミレーナ®の使用を開始してから数ヵ月間3ヶ月が目安)は月経時期以外の出血がみられことがあります。 しかし、通常は時間の経過とともに減少します。

装着後は定期的な診察・受診をお願いしています。装着留置期間は5年間です。

装着希望の方の注意点として、『子宮は筋肉による蠕動運動がある』ことがキーポイントになります。せっかく良い位置に挿入しても後にミレーナ®︎の位置が下降てしまうことがあるのです。よって、分娩後6週未満の方は装着を控えていただきます。子宮復古のため、オキシトシンという体内ホルモンによる子宮収縮が起こり、装着後のずれや子宮穿孔のリスクがあるからです。

気になる点ございましたら、私院長もしくは副院長石田にご相談ください。

今後ますます、経験のみならず正しい知識とエビデンスを活用し、できるだけ皆様の気持ちに寄り添える診療をしていく所存です。一緒にお悩みを解決していきましょう。

参考文献;

バイエル薬品株式会社 Web conference(2019年11月21日)

Essential obstetric and newborn care, 2015 edition

小さい子供のおりもの異常について

こんにちは、副院長の石田です。

たまに私生活や外来のついでなどでお子さんのおりものに違和感を感じるというお母さんたちから相談を受けることがありますが、実は女児の婦人科的な訴えとしては最も多い症状と言われています 1) 。実際には小さい子供の異常なので受診するとしても小児科が多いと思うのですが、小さくても女性のお悩みということで本日は産婦人科医がお話ししてみようと思います。

小さな子におりものの異常が発生する要因

多くの場合は感染性腟炎といってばい菌が腟で繁殖した結果炎症が起こっているようです。そうなりやすい要因としては、大人の女性との性器の形態的な違いやトイレ後の清潔、また女性ホルモンの量などの影響が考えられています。具体的には子供は腟と肛門の距離が近く汚染されやすい、うんちした後にお尻を拭いた結果技術的に未熟なためうんちが腟に付着してしまう、あるいはトイレットペーパーの切れ端が腟内に入ってばい菌が繁殖する温床になってしまう、女性ホルモンが少ないため腟内を雑菌から守るための乳酸菌が未熟などです 2) 。その他の例外として性病がありますが、これはほとんどの場合性的虐待によるものです。外性器に傷があっておりものも変な時は性病を疑って検査したり、状況次第では医療施設から児童相談所などに通報することもあります。

実際の治療

まずは生活における指導などが中心となります。具体的にはお風呂の時にしっかりとシャワーで流すこと、入浴剤などは避けること、キツすぎる下着などは避けるなどがあります。抗生剤に関しては小児に使用することの不利益も多く報告されているため安易に使用することはありませんが、はっきりと病原菌として言い切れる原因菌が特定できた場合には使用がお勧めされているということでした 3) 。

まとめ

おりものの異常と言うと小さな女の子にはあんまり関係ないような印象もあるかもですが、上記のように意外にばい菌が入りやすかったりします。思春期以降の女性と違い腟内の細菌のバランスに関するデータが少ないため検査をしても結果の判断が難しかったりしますが、もし変かな?と思うことがあれば試しにお近くの小児科や産婦人科へご相談ください。男の子と違って清潔を保つのが難しい部位ではありますが、何にしても予防が一番ということで、普段からご両親が気を配ってあげるのがとても大切なようです。

1) A Jaquiery, et al. Arch Dis Child 1999; 81: 64-67

2) Neyazi SM. J Nat Sci Med 2019; 2(1): 14-22

3) Manohara Joishy, et al. BMJ 2005; 330: 186-188

ピルについて

月経(生理)のある動物はそう多くはありません。ご存知でしたか?

ヒト、女性は通常月1回生理が起き、痛みや症状が伴うストレスは男性と比べ計り知れません。昔と比べ、現代の女性は出産回数が少ないです。ということは月経の回数も多いことになります。

そこでピルのお話、となってきます。初めてピルが使われたのは1960年代となります。21日内服し7日間休薬するタイプで、これは内服コンプライアンスの関係から、要するにカレンダーで合わせた飲み方ということになります。月1回の出血があれば安心するという方々がいらっしゃるのも事実です。しかしながら、ある研究結果から、月1回の生理は医学的に健康と関係なく、No health benefitであるということがわかっています。

それであれば、できるだけ生理の回数が少ない方が良いとの考えで、最近は120日間連続内服するピルも使われてはじめています。実際、にしじまクリニックでも処方することが多いです。

ピルはLEPやOCと呼ばれます。

LEPとはLow dose Estrogen Progestin、いわゆる月経困難症や子宮内膜症などの疾病に対して使うピルを指します。よって保険適応となります。避妊目的には使用しませんが、結局のところ服用中は基本的に妊娠はしません。

避妊目的に用いるピルがOCでOral Contraceptiveと呼ばれます。

ちなみに妊孕性(妊娠)については、LEPおよびOCを中止すれば可能です。

日本ではLEPもOCも『エストロゲン+黄体ホルモン』のコンバイン製剤なので、あとはエストロゲンの濃度や黄体ホルモンの種類に製剤の違いがあります。

今回は保険適応となるLEP製剤を説明します。以下3種類を私院長と副院長は処方します。

・ルナベルULD:エチニルエストラジオール(以下EE)+ノルエチステロン(第1世代)

・ジェミーナ:EE+レボノルゲストレル(第2世代)

・ヤーズフレックス:EE+ドロスピレノン(第4世代)

現在はエストロゲン系、いわゆるエチニルエストラジオール(EE)の濃度を少なくし、血栓症や乳がんのリスクを減らそうとする製剤が選択されます。ちなみに、EEは卵巣から直接分泌されるエストラジオールとは異なり、採血で反映されない外因性のものです。EEはエストラジオールの4〜8倍活性があり、よって50歳以上の方はエストロゲンの活性ありすぎて血栓症のリスクが高く、原則使用禁止がうたわれています。

また、黄体ホルモン中に含まれるアンドロゲンを減らすことで脂質プロファイル悪化、体重増加、多毛、ニキビを減らすことができます。世代が上がる程アンドロゲンが少ないのです。また、ドロスピレノンは月経前症候群(PMS)の効果が期待できるとされています。

黄体ホルモンの中で『レボノルゲストレル』は緊急避妊薬や子宮内デバイスのミレーナ®に使用されることを知っておいてもよいかもしれません。

他国ではミニピルと呼ばれる、黄体ホルモン単独のOCがあり、ドロスピレノン単独のOCは血栓症のリスクをさらに減らすことができます。残念ながら日本では内服薬に関してはそれがないので、血栓症のリスクを減らすためには

・ピルを中断する回数を少なくする

・OC単独の血栓症リスクに比べ、喫煙者がOC内服によりは約2.5倍以上増加することを理解してもらう(だから喫煙者は処方控えさせていただきます)

・前兆を伴う片頭痛もちの方は禁止

などの条件を確認しつつ私たちは処方しています。

あと、都市伝説(?)的なものとして、太りやすい、浮腫みやすいのでは、とのご質問をいただきますが、LEPおよびOCは代謝を上げるため太りませんし、浮腫みません。これは信頼できるエビデンスを提供するコクランレビューにも明記されています。

OC服用者は将来の子宮体癌、卵巣癌、大腸癌リスクを減らします。

子宮頸癌の予防ははワクチンで、適応年齢が過ぎているならがん検診を欠かさずお願いします。

ピルは欧米ではLife design drugsとも呼ばれます。月経に伴う症状が辛くて学業に支障が出たら困りますよね?またピルは女性アスリートにも用いられる薬なのです。

月経でお困りの場合はご来院いただき、私院長もしくは副院長へご相談ください。

参考)

OC・LEPガイドライン

第8回埼玉県女性医療フォーラム

今日の治療薬

Essential obstetric and newborn care, MSF book 2015 edition