染色体検査と解像度

ゲノムとは、細胞の中に含まれているDNAの持つ遺伝情報の1セットをさします。

ゲノムで生じる塩基の変化は、顕微鏡レベルの染色体検査から1塩基レベルまで様々です。

遺伝学的検査ではどのレベルの遺伝子の変化なのか、大きさ・解像度の狙いを定めて検査方法を決める必要があります。

・染色体検査(5〜15Mbレベルのゲノム量)

5〜15Mbレベルのゲノム量の変化と構造の変化が確認できます。

新聞で例えるなら、「紙面全体を見ている」という状態です。

このレベルから拡大率を約1000倍にしたものがFISH法です。

・FISH法(50kb〜1Mbレベルのゲノム量)

FISH法では、50kb〜1Mbレベルの解像度でゲノム量の変化を解析することができます。

新聞で例えるなら、「紙面のタイトルが読めるようになる」状態です。

FISH法は培養を行わず、細胞を蛍光顕微鏡下で確認する(蛍光in situハイブリダイゼーション)方法です。当院でもご提供している羊水検査のうち迅速法として用いられ、特定の領域のコピー数を見る検査です。羊水検査の迅速法(Rapid FISH)では21トリソミー(Down症候群)、18トリソミー、13トリソミーの有無を1週間程度で判明することができます。

院長執筆

血液型がRh(-)と診断された妊婦さんの対応

こんにちは、副院長の石田です。

先日Rh(-)という血液型について少し解説いたしました。

お母さんの血液型がRh(-)でお腹の赤ちゃんがRh(+)だと困ったことになる可能性がありますというお話でしたが、一方で適切に対応すれば安全に妊娠、出産を終えることも可能です。そこで本日はRh(-)の妊婦さんがどのようにマネジメントされるかについて解説したいと思います。

妊娠中の管理

配偶者の血液型もRh(-)の場合は赤ちゃんの血液型もRh(-)なので問題は起こりませんが、それ以外の場合は専門的な対応が必要になります。少し難しい話にはなりますが、Rh(-)の母体内にできる抗RhD抗体という免疫がRh(+)である胎児の血液を破壊してしまうため、この抗体を体に作らせないようにするのが大事です。具体的な方法としては妊娠初期、中期、分娩直後で血液検査を行い、母体内に抗RhD抗体が作られていないかを確認します。検査結果が陰性であれば、妊娠28週前後と分娩後に免疫グロブリンを母体に投与することで抗体の発生を防ぐことができます。

もし抗RhD抗体が陽性になってしまったら

上記のような治療をしても稀に抗RhD抗体が作られてしまう妊婦さんもいらっしゃいます。抗体が体内に出現すると間接クームス試験という検査で陽性となって判明しますが、そういう場合には必要に応じて周産期センターと言われる特別な機能を持つ大きな病院で慎重に管理しながら妊娠を継続していくことになります。具体的には4週間ごとに血液検査で抗体価を検査しつつ超音波検査でも胎児の脳血流や心臓の大きさ、浮腫の有無といった胎児の貧血徴候を参考に管理方針を決めていきます。

まとめ

本日は妊娠初期検査で血液型がRh(-)と診断された方の妊娠管理について解説いたしました。多くのRh(-)妊婦さんは問題なく妊娠・出産を終えられますが、それには適切な妊婦健診、検査とグロブリン投与が不可欠です。該当される女性におかれましては元気な赤ちゃんを授かるためにも主治医とよく話し合ってみてください。

NCPRを行うべき背景

NCPR(Neonatal Cardio Pulmonary Resuscitation:新生児蘇生法)のアルゴリズムは、出生後呼吸をしない(無呼吸)児が子宮内でどの程度の低酸素にさらされていたのかを診断していくプロセスでもあります。

一次性無呼吸とは

子宮内で低酸素にさらされた胎児は、呼吸を行うために胸郭運動を行おうとするも、低酸素により脳幹の呼吸中枢が機能せず呼吸運動が停止してしまうこと

二次性無呼吸とは

時間とともに低酸素とアシドーシスが進行すると、やっとの呼吸(あえぎ呼吸)自体も停止してしまうこと

・一次性無呼吸の時点で生まれてきた児に行うべき処置→極度の子宮内環境の悪化はなく、循環は保たれていた状態なので、気道を開通し皮膚の刺激だけで自発呼吸を開始することができます。

これらはNCPRのアルゴリズムとして『蘇生の初期処置』に相当します。

・早期の二次性無呼吸で生まれてきた児に行うべき処置→人工呼吸が必要です。

これはNCPRのアルゴリズムとして『救命の流れ』に相当します。

このように、NCPRのアルゴリズムは蘇生処置を行うことで児の反応に対し、児がどのくらい低酸素状態にさらされていたのか診断することも兼ねています。産科医療従事者はCTG所見らも含め、周産期において児がどの位ストレスにさらされているかを常にアセスメントする必要があります。

執筆 院長

Rh(-)の血液型と妊娠について

こんにちは、副院長の石田です。

母子手帳を使う初めての妊婦健診では診察以外にも様々な検査を行いますが、そのうちの一つが血液型の検査です。若い妊婦さんだとご自身の血液型をそこで初めて知る方も少なくありませんが、占いで使うABOの血液型と違ってRh型の方はなんとなく言葉は知っていても具体的に何なのかはよく分からないことが多いと思います。そこで本日はRhの血液型と妊娠について解説したいと思います。

Rh式の血液型とは?

一般的に血液型といえば占いでもお馴染みのABO式ですが、医学的にはABO式を含めて43種類の血液型分類が確認されています。そのうちの一つがRh式の分類ですが、ABO式がA、B、O、ABの4種類なのに対してRh式では45種類以上の抗原が存在します。その中で普段注目されているのはD型の抗原であり、検査結果の報告用紙に書いてあるRh(+)/(-)というのはRh式血液型の中のD抗原についてあるかないかを示しています。

妊娠とRh血液型について

Rh(-)の方がどのくらいいらっしゃるかについては民族間で割合がだいぶ違っており、日本人では0.5%程度しかいないのに対して欧米の白人だと15%くらいとされています 1)。いずれにしてもRh(+)が多数派ですが、Rh(-)の女性とRh(+)の男性の間に子供ができた場合、(+)の遺伝子の方が強いため赤ちゃんも高確率でRh(+)となります。するとRh(-)の妊婦さんの免疫システムは赤ちゃんのRh(+)の血液を攻撃、破壊してしまうため赤ちゃんの健康に深刻な問題が生じることがあるのです。(逆にRh(+)が(-)を攻撃するということは起こらないのでRh(+)の妊婦さんが知らずにRh(-)の赤ちゃんを妊娠していても問題にはなりません。)

ABO式の血液型が違うのは大丈夫なのか?

ところでRh式よりよっぽど母子の違いが発生するABO式の血液型の違いが問題になりにくいのはなぜでしょうか?それはRh(+)に対する抗体がIgGという小さいサイズのもので胎盤を通過してしまうのに対してABO式の違いで発生する抗体はIgMという胎盤を通過できない大きなサイズの抗体であるため赤ちゃんに影響を及ぼしにくいという特徴があるからです。

まとめ

本日は意外と知らない血液型のお話でした。妊婦健診の検査結果にサラッと書いてあるあのマークにはそんな背景があったんですね。Rh(-)の女性が妊娠した場合には赤ちゃんのリスクを軽減するために必要な処置を行いますが、それに関しては回を改めて解説いたします。いずれにしても該当する女性は主治医とよく話し合って慎重に妊娠を進めていきましょう。

1) Arch Dis Fetal Neonatal Ed. 2011 Mar;96(2):F84-5

流産染色体分析

流産絨毛組織染色体分析の適応例

・不育症の原因検索や除外診断等を希望される場合

・ご夫婦が流産の原因検索を希望される場合

流産は全妊娠の10〜15%に発生しその半数は染色体異常が原因とされています。なかでも突発的に発生する数的異常(染色体数の増減)が多く、例えばダウン症候群などのトリソミーが約60%を占めます。

流産組織の絨毛を採取し、染色体分析の結果、染色体異常が検出された場合は、その流産の原因であった可能性が高いと考えます。そして

数的染色体異常が判明した場合:突発的に発生したものと考え、次の妊娠でも繰り返す可能性は低いと考えます。ただし女性の加齢による影響はあるので、高年妊娠に関しては次の妊娠でも年齢に応じた数的染色体異常には留意しなくてはなりません。

②染色体構造異常が判明した場合:染色体を形成するDNAの糸が切れて元とは違う形で再構成された状態を「構造異常」と言います。構造異常には転座、欠失、逆位などがあります。胎児の染色体構造異常が判明した場合、ご夫婦のどちらかが関連した構造異常を有している場合は今後の妊娠もそれが流産の原因となり得るため、ご夫婦自身の染色体分析も行い、今回の胎児の染色体構造異常と関連するかを確かめることをお勧めします。

ご夫婦の染色体異常が認めない場合は、今回の胎児の染色体構造異常は突然変異により生じたものと考え、次回の妊娠の影響は低いと考えます。

構造異常はゲノム量が変わらない変化を「均衡型異常」とゲノム量が変わる変化を「不均衡型異常」に分けられます。

ご夫婦の染色体分析において、

均衡型異常ではご夫婦いずれかに胎児と同じ均衡型異常が判明した場合、それは今回の流産の原因ではないと言えます。ただし、卵子や精子の形成過程における減数分裂の時に不均衡型異常を構成することがあるため、その場合は次回以降の妊娠での流産や不妊症、不育症の原因となることがあります。

不均衡型異常の場合は妊娠が成立してもその後の流産の主原因となり、出産に至ってもゲノム量の変化度合いにより児に様々な影響(先天異常)を及ぼすことが考えられます。

③染色体が正常だった場合:流産の原因が染色体異常によるものではないと一般的に判断されます。例えば子宮形態異常、膠原病関連疾患、内分泌代謝異常、感染症などが流産の原因ではないかと疑われます。

通常、流産手術においての病理検査では絨毛性疾患の有無を確認するもので、

今回改めてご紹介する流産絨毛組織(POC: Products Of Conception)染色体分析と検査は異なります。残念ながら稽留流産が判明し、流産手術前に流産染色体検査を希望される場合は担当医師にご相談ください。結果によっては高次施設での遺伝カウンセリング外来へご紹介する場合もございますことをご理解願います。

院長執筆