マタニティーブルーについて

こんにちは、副院長の石田です。

無事に出産が終わることが幸せなのは間違いありませんが、それにも関わらず多くの女性がその直後から悲しい気分に悩まされます。これはマタニティーブルー(ズ)としてよく知られる現象で、お産後の女性の実に40%程度に見られるというデータがあります 1)2)3)。でも、せっかくのお祝いムードの中でなぜこんなことが起こるのでしょうか?というわけで本日はマタニティーブルーについて見ていきましょう。

マタニティーブルーとは

マタニティーブルーとは、出産後から気持ちが落ち込んでしまう状態のことを言います。ちなみに英語では産後ブルー (postpartum blues)、ベビーブルー (baby blues)という言い方も一般的です。通常はお産後2〜3日以内に発症し、数日でピークを迎えた後に1〜2週間程度で自然と治ります 4)。マタニティーブルーの原因は、分娩後の2〜3日で女性ホルモンの量が急減することによって、モノアミンオキシダーゼAという鬱症状などにも関係があるとされる物質の濃度が脳内で上昇するためではないかという説があるそうです 5)。そのほかにも授乳ホルモンの不安定な分泌やプロゲステロンの急減など様々な説がありますが、真のメカニズムはまだ分かっていません 3)。具体的な症状としては悲嘆、不安、倦怠感、泣き、集中力低下、睡眠障害などがあります。

マタニティーブルーを疑う女性を見たら注意すべきこと

上記の通りでマタニティーブルーは自然に治るため、特に治療は必要ありません。ご本人が症状でつらい間は配偶者を中心とした家族が育児や家事を率先して行い、ご本人を休ませてあげるのが良いでしょう。一方で注意すべきは産後うつです。マタニティーブルーは症状が産後うつと極めて似ているため、「どうせ自然に治るから」と油断していて実は産後うつだった場合、育児放棄や自殺など極めて深刻な事態に発展してしまう恐れがあります。マタニティーブルーと産後うつの区別は簡単ではありませんが、症状のせいで自分のことや育児ができなくなっている、症状が2週間以上続いているといった場合は積極的にかかりつけの産科や精神科に相談するのがよいでしょう。

まとめ

本日はマタニティーブルーについて解説しました。「せっかく可愛い赤ちゃんが産まれてきてくれたのに、こんなに悲しい気持ちになって私は母親失格だ」とさらに落ち込んでしまう女性もたくさん見てきましたが、それはお産後によくあるやつで、あなたは何も悪くありません。きっとすぐに良くなるから安心して過ごしていただければと思います。周りのご家族も落ち込んでいるママを責めたりせずに、できるだけゆっくり過ごせるように工夫してみてください。「そうは言ってもどう対応したらよいか分からない!」と困ってしまう時には出産した産科のスタッフに遠慮なく相談してみましょう。必ずよい解決策が見つかるはずです。

参考文献
1) Ntaouti E, et al. J Matern Fetal Neonatal Med. 2020;33(13):2253. Epub 2018 Nov 28.
2) Rezaie-Keikhaie K, et al. J Obstet Gynecol Neonatal Nurs. 2020;49(2):127. Epub 2020 Feb 7.
3) Valentina Tosto, et al. J Pers Med. 2023 Jan 13;13(1):154.
4) O’Hara MW, et al. Best Pract Res Clin Obstet Gynaecol. 2014 Jan;28(1):3-12. Epub 2013 Oct 7.
5) Sacher J, et al. Arch Gen Psychiatry. 2010;67(5):468.

男性不妊と顕微授精

不妊症とは、妊娠を希望して性交渉を行なっているのにもかかわらず妊娠成立しない事で、その期間は1年と日本産科婦人科学会が定めています。

全不妊症の3050%は男性に起因

不妊症は女性だけが起因、という偏見は少なくなっていると思います。全不妊症の30〜50%は男性因子というデータを知っていただければと思います。

顕微授精(ICSI)は男性不妊を適応とする生殖補助医療

顕微授精は無精子症や乏精子症、受精障害(標準的な体外受精を行なっても受精しない)が適応となります。

顕微授精による妊娠率は、女性の高年齢の影響も考慮されますが受精率は50〜70%、生児獲得率はおおよそ30%程度とされています。

*受精卵(胚)を子宮腔内に戻すことを「胚移植」と言います。
胚移植には採卵した周期の「新鮮胚」(分割期胚または胚盤胞)を使用する場合と、「凍結融解胚」(分割期胚または胚盤胞)を使用する場合があります。

*着床前診断は、いわゆる胚の生検を行います。一般的には受精5〜7日目の胚盤胞の状態で行われます。

男性側のY染色体上の微小欠失があると、児(男児であれば)へ受け継がれる可能性があります。着床前診断や羊水検査により、胎児の性別が男児であればY染色体微小欠失についての出生前診断は技術的に可能ではありますが、日本では出生前診断の適応とはなりません。

参考文献:周産期遺伝カウンセリングマニュアル改訂3版, 中外医学社

執筆:院長