緊急避妊薬について

こんにちは、副院長の石田です。

全ての女性にとって妊娠するかしないかの選択は社会的にも身体的にもとても大きな決断の一つですが、デリケートな話題であるほか文化的な要素も影響して日本では女性が主導権を取ってコントロールするのが難しい場面もあるかもしれません。本来は男性がしっかりと自覚しなければいけない部分ではありますが、いざという時には女性のためのレスキュープランが存在します。ということで本日はアフターピル、モーニングピルの名前でもお馴染みの緊急避妊薬についてお話ししたいと思います。

どんな人が緊急避妊をするべきか

基本的には妊娠を希望しないにも関わらず、適切な避妊方法が取られない性交があった全ての生殖可能な女性が対象となります。具体的には単純に避妊しなかった、ピルを飲み忘れた、コンドームが破損した、腟外射精のみしたなどが挙げられますが、その他にはもちろん性暴力被害者の方も含まれます。

緊急避妊の方法

以前はYuzpe(ヤッペ)法という2回の内服が必要な方法が採られていましたが、2011年からはレボノルゲストレルというお薬を1回飲めばよい方法(LNG単回投与法)が認可されて主流になりました。いずれも性交があってから72時間以内の内服で有効とされており、妊娠阻止率は85%前後と言われています。「意外と低いじゃないか」と思われる方もいらっしゃるでしょうが、これに加えて元々1回の性交で妊娠する確率が10%前後しかないことを計算に入れると結局緊急避妊薬を使った後の避妊成功率は97%以上に昇ります 1) 。内服後は95%の女性に予定月経日の7日以内で月経が来ますのでそれが確認できたら避妊成功ということになります。逆に月経が来ない場合には避妊失敗の可能性がありますので妊娠反応を確認する必要があります。

LNG単回投与法は副作用もほとんど無く、アレルギーがあったりしなければまず安全に使用できる避妊方法ですが、授乳中の方に限っては内服後24時間授乳を中止していただく必要があります。ちなみに海外では2010年頃からUlipristalというレボノルゲストレルと同じくらい安全なのに性交後120時間まで有効なお薬 2) が出て主流になっています。日本でもどこかの製薬会社が販売しようとしているという噂を聞きましたが、まだよく分かりません。

処方の受け方

海外では町の薬局で手軽に買える国も多いですが、日本ではまだ産婦人科を受診しないと薬を手に入れることはできません。また、大きい病院では救急対応などを優先させるために原則として緊急避妊薬は処方していないことも多く、主にクリニックで取り扱われている傾向があります。24時間いつでも処方を謳っている施設もありますが、上記の通り72時間以内に内服すれば良いので落ち着いて最寄りの産婦人科へ診療日に受診されるということで大丈夫です。(事前に薬の取り扱いがあるかどうか、電話やホームページなどで確認しましょう。)そうは言っても大型連休中はうっかり72時間以内に診療日が無い場合もあります。そういう時にはお近くの「お産を取り扱っているクリニック」に問い合わせてみると良いでしょう。「お産を取り扱っている=24時間必ず医師が常駐している」ということになりますので休日でも処方を受けられる可能性が高くなります。

ちなみに処方を希望される女性が未成年の場合、どうしたら良いのかパニックになってしまうかもしれませんが、原則的には保護者の同意などは必要ありませんので安心してお問い合わせいただければと思います(※)。ご両親としてはお子様が薬を必要としている状況はとても気になるかと思いますが、成人しているかどうかに関わらず避妊に関しては全ての女性に平等に自己決定権があるというのが基本原則です。病気ではないので自費診療となりますが、逆に保険を使用することもないためプライバシーは守られます。当院では避妊指導料込みで¥15,000(税別)で処方をお受けしていますので必要な場合はお気軽にご相談ください。

また、不幸にも性犯罪に巻き込まれてしまった被害者の方に関しては、警察に被害を届け出ていただくと診察、検査、緊急避妊薬の処方、中絶などにかかる費用を公費で負担してもらえる制度があります 3) 。被害を訴え出るのはとても勇気の要ることですが、そういった選択肢があるということも皆様には知っておいていただきたいです。

(※)病院によってポリシーが異なる場合がありますので必ずご自身の責任で各受診先へお問い合わせください。

1) Novikova N, et al. Contraception 2007 Feb; 75(2): 112-8

2) Glasier AF, et al. Lancet 2010; 375: 555-562

3) https://www.npa.go.jp/hanzaihigai/whitepaper/w-2019/pdf/zenbun/pdf/hd1s.pdf