柴苓湯(サイレイトウ)はマルチパーパス漢方

前回私院長がブログにポストした、『当帰四逆加呉茱萸生姜湯』についての反応が良かったので、今回は引き続き漢方のお話で、”柴苓湯(サイレイトウ)”について解説します。

柴苓湯は小柴胡湯(ショウサイコトウ)と五苓散(ゴレイサン)を合わせた合剤漢方になります。

小柴胡湯の成分はステロイド類似作用を持ち、炎症や自己免疫が関与する疾患(*)に処方されます。

また、炎症の多くは臓器、組織の浮腫を伴います。五苓散の成分は利水作用を持ち、浮腫に対し有効に働きます。例えば妊娠後半期の循環血流量増加に伴う単純性浮腫であれば、五苓散を単独処方します。

(ちなみに五苓散は二日酔いや、めまいにも大変有効です)

従って、柴苓湯は手のしびれを主訴とする手根管症候群に適応となります。

手根管症候群とは、浮腫によって手首の手根管という腱が腫れ、そこを通る正中神経が圧迫され手のしびれや痛みが起こる病態です。先ほど申し上げた通り妊娠は赤ちゃんに血液を送るために循環血液量が増加するので手根管症候群が起こりやすいのです。

対処法としては末梢神経障害に適応のあるビタミンB12などの内服、そして漢方の内服です。また運動や仕事の軽減、シーネ固定などの局所の安静、ひどい時は腱鞘炎を治めるための手根管内腱鞘内注射が行われます。1)

ちなみにこの腱鞘内注射、トリアムシノロンアセニド(ケナコルト®)2)というステロイドを打つのですが、すごく痛いそうです。

であれば浮腫を抑えてステロイド成分のある柴苓湯は、手根管症候群の対処法として理にかなっていると言えます。

また、関節痛・神経痛に桂枝加苓朮附湯(けいしかりょうじゅつぶとう)という漢方があります。これも手根管症候群に有効とされ、小林製薬が市販薬として販売しています。

話を柴苓湯に戻します。新潟大学産婦人科などでは柴苓湯のステロイド類似作用を利用し、自己免疫(*)疾患の抗リン脂質抗体症候群などの不育症に対して、柴苓湯を積極的に用いています。3)

柴苓湯はその他の適応として術後のケロイド・肥厚性瘢痕に対しても有効とされています。Multipurposeな漢方である柴苓湯をぜひ皆さんも知っていただきたいです。

参考)

1) 日本整形外科学会 https://www.joa.or.jp/public/sick/condition/carpal_tunnel_syndrome.html

2) 今日の治療薬

3) 新潟大学医学部産婦人科教室 http://obs-niigata.jp/patient/reproductive/