産休と育休について

こんにちは、副院長の石田です。

女性の社会進出が日本社会にとって重要課題となっている昨今、妊娠・出産・育児とキャリア形成は非常に大事なトピックです。男性の育児参加は解決策の一つとしては重要ですが、そうは言っても妊娠、出産、おっぱいからの授乳ができるのが女性だけという状況は、人間をやめでもしない限りは今後もしばらく変わらないでしょう。そこで今回は産休と育休に関してちょっと書いてみようと思います。

産休とは

「産休」は産前休業、産後休業のことで労働基準法65条に規定されています。期間は産前6週間、産後8週間ということで決まっていますが、産後休業が義務であるのに対して産前休業は本人の請求によって与えられます。ちなみにこの場合の「産」は妊娠4ヶ月以降の分娩に対して使われる言葉であり、たとえ流早産(中絶を含む)であっても適応されます。「産後はいいとして、産前6週間っていつ産まれるか分からないのにどうやって決めるんだ!」って思われるかもしれませんが、これは出産予定日から決定します。なので早く産まれれば産前休業は短くなるし、逆に予定日を過ぎれば結果的には6週間より長くなるということですね 1) 。

育休とは

一方産休後に取得されるのは育児休業、通称「育休」で育児休業法に基づいて取られます。原則子供の1歳の誕生日前日まで仕事から離れることができますが、産休が全ての労働者に適応されるのに対して育休取得には同一事業者のもとで1年以上継続して働いていることや、1年後も雇用継続が見込まれていることなど一定の条件があります 2) 。

休業中の賃金について

産休中は基本となる賃金の2/3が、育休中は2/3〜1/2が支払われる決まりなので、収入は減りますがいきなり0になるということはありません。こういうことを言うと「うちの勤め先は小さいから、働いてもいないのにその間の手当てを払わせるのは申し訳ないです。」という心優しい女性を拝見することがありますが、それは大きな誤解です。実は産休中の手当ては健康保険から出産手当金として、育休中も雇用保険から育児休業給付として支払われているため雇用主には賃金負担が発生しないようになっているのです。さらに言えば社会保険料も会社負担分を含めて全額免除になるため皆さんが気を遣う必要は一切ありません 3) 4) 。

要するに、一部本人の請求が必要とはなりますが産休も育休も法律で明確に定められた労働者の権利であり、加えて勤め先にも金銭的な負担が発生しないシステムなので「取らせてもらえないかも」と不安になる必要は全く無いし、当然の権利として遠慮なく取得すれば良いという話になります。

その他の取り決め

妊産婦は自分の求めだけで多くの優遇措置を事業主から得られるように法律で決まっています。例えば妊婦健診を受けるための時間の確保 5) 、妊婦の軽易業務転換 6) 、時間外労働、休日労働、深夜業の制限 7) などがこれにあたります。もし事業主がこれらの措置を講じなかった場合、法的に罰せられる可能性があります 8) 。とはいえ自分の意見として何となくお願いしづらい、あるいは細かいところでモメるのもめんどくさいということであれば、必要に応じて医師の意見を雇用主に伝えるべく診断書や母性健康管理指導事項連絡カードを発行することもできます。これらの書類はより正確に妊産婦さんの健康状態と必要な措置を組織に伝えることができるため、とても便利なツールとして使用されています。

それでもマタハラは起こっている

このコンプライアンスにうるさい時代にマタニティハラスメントが存在する職場があることがびっくりですが、でも実際にあります。そもそも妊娠・出産を契機とした解雇や雇い止めは明確に違法行為ですし、2017年1月からは男女雇用機会均等法および育児・介護休業法の改正により企業によるマタハラ防止措置が義務化されていますが、毎日たくさんの妊産婦さんたちと触れ合う中ですぐには解決しない根深さを感じています。男性から女性のベクトルが圧倒的なセクハラと違い、女性から女性、あるいは育児休業を取ろうとする男性に対しても向けられる性別の枠にはまらない嫌がらせという意味ではより誰にでも起こり得る問題なのかもしれません。これには巷で言われるような感情的な原因だけでなく、欧米と比べて解雇規制が強い終身雇用型の労働環境や都市部に一極集中する人口分布とそれに伴う保育環境確保困難と産後社会復帰の遅延など、社会的な要因も様々に関与している可能性があり決して理論武装だけで防げるわけではありませんが、まずはご自身や家族、あるいは妊娠した仲間を守るためにも是非皆さんは正しい知識を身につけてください。

末筆になりましたが、「休暇」じゃなくて「休業」ですからね!休暇とか言うと悠々自適な雰囲気が出ちゃいますけど、特に赤ちゃんが産まれてからの休業中は不休の闘いです。産休、育休中の人たちをみんなで気持ちよくサポートしていけるような社会づくりをしていきたいものです。

子育てにコミットする全てのお母さんとお父さんに愛とリスペクトを。

1) 労働基準法第65条第1項及び第2項

2) 育児休業、介護休業等育児又は家族介護を行う労働者の福祉に関する法律第2条

3) 健康保険法第102条

4) 雇用保険法第61条の4-5

5) 男女雇用機会均等法第12条

6) 労働基準法第65条第3項

7) 労働基準法第66条第2項及び第3項

8) 労働基準法第119条