赤ちゃんとの初外出はいつから?

こんにちは、副院長の石田です。

無事にご出産を終えてご退院、産後の健診が始まると決まって患者さんから聞かれるのは「いつになったらこの子と外出しても大丈夫ですか?」ということです。ご実家のサポートが十分に得られる初産婦さんとかだと比較的余裕があるのですが、サポートの受けられないシングルマザーであったり、既に上のお子さんがいらっしゃるご家庭だと赤ちゃんを連れて外に出られないというのは時として死活問題だったりします。そこで、医学的にいつ頃なら安心して連れて出られるのかを解説してみようと思います。

世間一般ではどのように指導されているか?

恐らくみなさんがよく耳にするのは「1ヶ月健診までは家でゆっくり過ごして、それ以降は外気浴から徐々に慣らしていきましょう」というコメントかもしれません。実際にこちらのサイトの小児科医に対するアンケートだと実に半数が1ヶ月以降としている他、次に多いのは生後3ヶ月以降で22%です 1)。その他にもいくつかのサイトを回覧しましたが、医師監修も含めて多くの場合は1ヶ月案を採用しているようでした。ひょっとしたらママ友の間でも1ヶ月が常識になっているかもしれません。

何故1ヶ月なのか?

しかしこれだけ実しやかに言われている1ヶ月ですが、実は全く根拠がありません。どこのサイトを見ても「赤ちゃんの感染症リスクが〜」とか「お母さんの体力が回復するのを待って〜」とかもっともらしいことを書いているのですが、赤ちゃんの免疫状況が1ヶ月で劇的に変わるわけでもなければ予防接種が始まるのも生後2ヶ月以降だったりして1ヶ月を超えて何かが好転するとは考えにくいです。お母さんの体力に関しても分娩様式(経膣分娩か帝王切開か)、出血量、年齢、会陰裂傷の程度、初産婦か経産婦かなど多くの要素によって個人差があるため1ヶ月経ったら全員OKというのは乱暴過ぎます。実際我々産婦人科医はお母さんの状況を見ながら必要に応じてフォロー期間を1ヶ月より長く取ることもあります。

世界的にはどうなの?

そこで海外のサイトを調べてみたところ、欧米のこの手のサイトでは多くの場合で1ヶ月説を”old wives’ tale and completely false(おばあちゃんたちの迷信で完全なウソ)”として全否定しています。「むしろ赤ちゃんが元気ならちょっと近所に外出して新鮮な空気でも吸っておいで!家にこもりっきりじゃお母さんも参っちゃうでしょ?」という論調がほとんどです2)3)4) 。私が以前に月1回出張してた東南アジアの病院でも、赤ちゃんが産まれたら風通しの良い日陰で赤ちゃんを並べてお母さんが談笑しているのをよく見ますが、どの子もとても気持ち良さそうにスヤスヤ寝ています。ちなみに本当にそういう習慣があるのかどうかよく分からないのですが、北欧では-10℃とかでも赤ちゃんをベビーカーで外に並べて体温調節に気を使いながらお昼寝させておくそうです。その方が長く寝てくれるんだとか…5)6)。

で、結局どうすればいいのか

これ、賛否両論あると思うんですが、私はお母さんや赤ちゃんに特別な事情がない場合は特に制限していません。冒頭にも書きましたけど、ご家庭によってはお母さんが外出しないと生活に支障が出るケースも多くありますし、それでお母さんが追い詰められていくのは本末転倒だと思うからです。そこによっぽど大きな理由があるなら別ですが、そもそも科学的根拠も曖昧ですし。ただし、赤ちゃんというだけでまだ未熟なのは確かなので、以下のことには気をつけていただくようにしています。

1)体温調節

赤ちゃんは自分の体温を調節する機能がまだしっかりしていません。なので外気温や服装などの影響で簡単に高体温や低体温になってしまいます。これは時として命に関わることになりますので、こまめに赤ちゃんのお熱を気にしながら行動してもらうようにお願いしています。

2)日焼け

赤ちゃんの肌はとてもデリケートです。とくに直射日光などにとても弱いので、シェードなどでしっかりと刺激から守ってあげるようにしてください。

3)感染症

外の世界にはインフルエンザをはじめ、様々な感染症がウヨウヨしています。お母さんからの移行抗体などで守られているとはいえ、まだまだ抵抗力には課題があるのでよほどの必要性がない限りは人混みに近づくようなことは避けていただいた方が無難です。

まとめ

育児はどうしても赤ちゃんを中心に生活が回っていきがちですが、そこにはご両親や兄弟姉妹などたくさんの人が関わっています。あまりに赤ちゃんにかかりっきりになるあまり、ご自身や周りの人が無理をしすぎて生活が破綻してしまっては結局育児自体が不可能になってしまいます。できるだけ家で過ごせれば確かに上記のような心配も少ないですが、そもそも上のお子さんが保育園や小学校に行っていれば病気を持って帰ってくることも多々ありますしね。

もちろん最低限気をつけなければいけないことはありますが、気軽に考えられるところは妥協しながらゆっくり育児を楽しみましょう!

1) https://ishicome.medpeer.jp/entry/1156

2) https://www.hopkinsallchildrens.org/Patients-Families/Health-Library/HealthDocNew/When-Can-I-Take-My-Newborn-Out-in-Public

3) https://www.webmd.com/parenting/baby/features/can-i-take-my-newborn-outside

4) https://www.verywellfamily.com/when-can-my-newborn-go-outside-289876

5) Tourula M, et al. Int J Circumpolar Health. 2008 Jun; 67(2-3): 269-78

6) https://www.bbc.com/news/magazine-21537988