妊娠中の体重は適切に増やしましょう

こんにちは、副院長の石田です。

当たり前ではありますが、妊娠すると赤ちゃん、胎盤、羊水や、大きくなる子宮とそれを維持するために増加した母体血液量など様々な重さが加わってくるため自然と体重は増加します。しかし頭ではそれが分かっているものの、数値として客観的に評価できてしまう“体重“を見せられてしまうとついつい太ったような気になり痩せようとしてしまう妊婦さんが少なくありません。もちろん体重が増え過ぎてしまうのが良いわけではありませんが、最近では増えなさすぎることの弊害が注目されています。そこで本日はこの問題について解説したいと思います。

日本の妊婦さん、せ過ぎ問題

突然ですがみなさんは、日本では小さく生まれる赤ちゃんがとても多いことをご存知でしょうか?2017年のOECD(経済協力開発機構)のデータによると、主要先進国の中で日本における2500g未満で生まれる低出生体重児の割合は9.4%と最も高い国の一つになっていますが、その原因として現在有力視されているのが日本人の成人女性における“やせ“です 1)。厚労省がまとめた2016年のデータでは、BMI <18.5 kg/m2の痩せている女性の割合が日本では9.3%とOECDにおいては2位の韓国(5.2%)を大きく引き離して1位になっています 2)。この数字は成人女性全般での話なので妊婦さんに限定するとどう変わるかは分かりませんが、もともと妊娠中の体重増加が小さいと早産や赤ちゃんの体重が小さくなるリスクは指摘されているため上記の傾向から言ってもこれが原因なのではないかと考えられているわけです 3)。

増やした方が良い体重の目安

妊娠中の体重増加量の目安は以下の通りです。ひと昔前は妊娠中の体重増加と妊娠高血圧症候群の発症リスクに関係があるのではないかという見解のもと日本では「増やし過ぎないでね!」という意識で指導がされることが多かったのですが、その後の研究で肥満女性以外は体重制限をしても周産期予後が改善しなさそうだということが明らかになってきたため、生まれてくる赤ちゃんのためにも「このくらいは増やしましょうね」というトーンで、より体重増加に寛容な形で2021年3月に新たな基準へと改訂されました。最近では低出生体重児で生まれた子は成長の過程で高血圧、糖尿病、精神疾患など様々な面で健康への影響が出てくる可能性が少しずつ明らかになっているため 、胎児をしっかりと育ててあげる意味でもご自身が増やす必要のある体重をしっかり確認していただき、妊娠中の無理なダイエットは控えることが大切です 4)5)。

まとめ

というわけで本日は妊娠中の体重に関するお話でした。実は本邦におけるこの問題は、2018年にもScienceという科学雑誌で日本ご指名にて指摘され、世界中に晒されたという経緯もあり見直されるに至りました 6)。「スリム=きれい、かわいい」というイメージを持つ日本人女性が多いことが問題なわけですが、その根源は女性のみならず男性側の需要が強いこともまた一因であることは疑いようもなく、それが日本人の赤ちゃんたちにご迷惑をおかけしてしまっているのはとても心苦しいことです。このような美に対する意識を変革することは容易ではありませんが、妊婦さんにおかれましては是非とも我が子の健康がかかっているのだという視点から、愛情をもってご自身の体重と向き合っていただければと思います。

1) OECD Family Database: https://www.oecd.org/els/family/CO_1_3_Low_birth_weight.pdf
2) 厚生労働省. 活力ある持続可能な社会の実現を目指す観点から、優先して取り組むべき栄養課題について:https://www.mhlw.go.jp/content/10904750/000761522.pdf
3) Goldstein RF, et al. JAMA. 2017;317(21):2207
4) Davies AA, et al. Hypertension. 2006;48(3):431
5) Christian Loret de Mola, et al. Br J Psychiatry. 2014 Nov;205(5):340-7
6) Dennis Normile. Science. 2018 Aug 3;361(6401):440