妊娠中に飛行機に乗って大丈夫?

こんにちは、副院長の石田です。

さて、世の中が徐々にアフターコロナの雰囲気になる中で国内外とも飛行機を使って移動される方も増えているようです。もうすぐお盆ということもあり妊婦さんの中には旅行や帰省を検討中の方も多いかとは思いますが、良く聞かれるのが「飛行機乗って大丈夫ですか?」というご質問です。そこで本日は妊娠に対する飛行機移動の影響について解説したいと思います。

飛行機での移動は妊婦さんにとって安全なのか

結論から言うと、飛行機での移動は妊娠中でも特に問題ないと言われています。妊娠中に1回でも飛行機に乗った妊婦さんを調査したところ、乗らなかった人と比べて性器出血の発症率、早産率、妊娠高血圧症候群の発症率などで差はなかったというデータが出ていました 1)。また、60万人以上の妊婦さんを対象とした臨床研究において飛行機に搭乗した妊婦さんでは出生体重が平均9g、妊娠週数が平均0.36日ほど統計学的に優位に増加したという報告もありましたが、もしそれが正しいとしても赤ちゃんの健康に影響があるような重大な話ではないでしょう 2)。宇宙線と言われる放射線による赤ちゃんへの影響を懸念する人もいますが、こちらは地上と比べると被曝量は高まるものの、その違いは微々たるものであり気にする必要はなさそうです。ただし、パイロットやキャビンアテンダント、そして頻繁に飛行機を使用する人に関しては問題となるレベルに到達することがあるようで、そういった仕事や生活環境にある人は個別に対応する必要があるということでした 3)4)。

飛行機での旅行の際の注意事項

さて、妊婦さんが飛行機に乗ること自体は問題ないわけですが、その一方で注意すべきこともあります。まず、妊婦さんは深部静脈血栓症という危険な病気にかかるリスクが高いです。細かい解説は別の記事に改めますが、この病気は特に飛行機内のような長時間動けない状況でかかりやすいです。そのため妊婦さんは着圧ストッキングの着用、こまめな水分補給、座席でできる体操などを行なって予防に努めていただくのがおすすめです。また、飛行機で移動する先は当然遠方になりますが、例えばもし旅行先で早産になってしまった場合、場所と週数によっては赤ちゃんは助からないか、良くて新生児集中治療室での長期入院になります。その際には少なくとも父母のどちらかは赤ちゃんが退院するまでずっとその街での生活を余儀なくされるため精神、体力、そして経済的に大きな負担が強いられることになります。国内での帰省であればまだいいでしょうが、もし海外旅行の場合は旅行保険が妊娠関連の疾患や新生児の治療をカバーすることは極めて稀であり高額の治療費が請求されることもありえます。そのため私は外来で経過良好な妊婦さんに「飛行機で旅行してもいいですか?」と聞かれた時には「どうしても必要な移動であれば止めませんが」と前置いたうえで上記のリスクをお伝えして慎重に検討してもらうようにしています。

まとめ

というわけで本日は妊婦さんと飛行機での旅行についてのお話でした。妊娠は常に状態が急激に変わり得る不安定な状態なので、本音を言うと妊娠中はあまり遠方に出かけないほうがいいかなと思っています。ただ、どうしても移動しなければいけない事情がある妊婦さんにおかれましては上記のようなリスクを十分ヘッジできるような旅行計画をたてられることをお勧めします。

1) Mala Freeman, et al. Arch Gynecol Obstet. 2004 May;269(4): 274-7.
2) Hila Shalev Ram, et al. PLoS One. 2020 Feb 6;15(2):e0228639.
3) Robert J Barish. Obstet Gynecol. 2004 Jun;103(6):1326-30
4) ACOG Committee Opinion No. 746. Obstet Gynecol. 2018 Aug;132(2):e64-e66