妊娠中の便秘

こんにちは、副院長の石田です。

便秘は多くの妊婦さんが抱えるお悩みの一つです。妊娠前は快便だったような方でも通りが悪くなるようなことがありますが、ただでさえお腹も大きくなる中で余計に苦しくなってしまいますね。そこで本日は妊娠中の便秘についてお話ししたいと思います。

妊娠中に便秘になりやすい理由

妊娠中はプロゲステロンという妊娠維持に大事な役割を果たすホルモンが多く分泌されますが、それによって腸の動きが悪くなるため便やガスが溜まりやすくなることが指摘されています 1)2)。そのほかにも大きくなった子宮により腸が圧迫されていることや運動量の減少、貧血に対する鉄剤処方の副作用などとにかく妊娠中は便秘になる理由が盛りだくさんです。実際20~40%の妊産婦さんが便秘になるという報告もありますが、この辺はデータを集める国や地域の人種や食文化の違いで多少変わるかもしれませんね 3)4)。

対処法

一応教科書的には食物繊維や水分の摂取量を増やすのが初めにやるべきこととなっていますが、実際には食生活や習慣の見直しだけで良くなるとも限らないため最初から下剤を処方することが多いです。日本では酸化マグネシウム(マグミット®︎)やポリエチレングリコール(モビコール®︎)などの便を柔らかくする薬や、腸の動きをよくするピコスルファート(ラキソベロン®︎)などがよく使われます。また、浣腸は添付文書に流早産のリスクになり得ると書かれているため敬遠する医療者も少なくありませんが、状況により使われることもあります。

ちなみに痔にもなりやすい

便秘だけでも煩わしいんですが、妊娠中は特に妊娠末期からお産直後で痔にもなりやすいです 5)。これには循環血流量の増加、大きくなった子宮による腹腔内圧の上昇、会陰での血液鬱滞などの妊娠特有の体の変化や便秘の影響が考えられています 6)。出血や痛みなど症状が結構キツイですが妊娠中の治療は食生活の改善や便秘の解消、坐薬や塗り薬などの局所療法に限られており、嵌頓(戻れなくなった痔が血流障害から壊死を起こした状態)でも起こさない限りは手術療法の適応になることはほぼありません 7)。つまり基本的には出産後しばらくして自然に良くなるのを待つしかないということですね。

まとめ

本日は妊娠中の便秘についてのお話でした。まとめると「妊娠中は便秘になりやすいから薬を出すよ!」というもらいの少ない内容でお恥ずかしいですが、外来で気まずそうに便秘や痔の悩みを打ち明けられる方が多いので「みんな同じだから安心して相談してください」というメッセージが伝われば幸いです。

1) Wald A, et al. Dig Dis Sci. 1982;27(11):1015
2) Lawson M, et al. Gastroenterology. 1985;89(5):996
3) Catherine S Bradley, et al. Obstet Gynecol. 2007 Dec;110(6):1351-7
4) M Kuronen, et al. BJOG. 2021 May;128(6):1057-1064
5) Abramowitz L, et al. Gynecologist Obstet Fertil. 2003;31(6):546
6) Tomas Poskus, et al. BMC Pregnancy Childbirth. 2022 Apr 30;22(1):374.
7) Lohsiriwat V. World J Gastroenterol. 2015;21(31):9245