新しいインフルエンザワクチンのフルミストって、私が妊娠してるけど子供に使っていいの?って迷った時の話

こんにちは、副院長の石田です。

インフルエンザの季節ですね。日本では従来の注射による不活化ワクチンに加えて2024年度よりフルミストという鼻スプレーによるインフルエンザワクチンが販売されています。とは言え昨年度はあまり数量が無かったようで大きな話題になりませんでしたが、今年からは本格的に普及しており、日本中の小児科で「痛くないワクチン」として広く使用されています。このワクチンの最大の特徴は痛くないことに加えて生ワクチンであるということです。だいぶ弱らせたけどギリ生きてるウイルスを使用しているため「生」と呼ばれるわけですが、それに関して様々なご不安が妊婦さんから寄せられております。そこで本日はフルミストに関してよく聞かれる質問について解説したいと思います。

フルミストはどんなワクチン?

フルミストはインフルエンザに対するスプレータイプの生ワクチンで、鼻粘膜に散布する形で使用します。日本では昨年からの発売でしたが、アメリカでは2003年に食品医薬品局(FDA)に承認されて以来、長らく使用されてきました 1)。日本での適応は2〜18歳ですが、海外では2〜49歳まで使用できます。この違いの理由はよく知らないのですが、真偽不明の一説によるとまだ生産量が少ないのでとりあえず子供が接種できるように限定しているとかなんとか…。また、投与が簡単なため海外ではネットで注文すると家に送られてきて、自分で接種するなんてことが可能です 2)。年齢で引っかかることがほとんどなので日本ではあまり関係ありませんが、従来の注射と違って生ワクチンなので妊婦さんは使用できません。また、鼻粘膜に弱毒化したウイルスを直接撒くので、接種した人が数日間は周囲にそのウイルスを排出する可能性があることも知られています。

フルミストに関して妊婦さんからよく聞かれる質問

以上のことからまず聞かれるのは「私が妊娠しているのに上の子にフルミストを使って大丈夫ですか?」という質問です。要はお子さんが接種したウイルスが妊婦さんにうつってしまうのではないかと心配されているわけですが、結論から言うと問題ありません 3)。本製品中のウイルスは極度に弱毒化されているため感染力は極めて低く、体外環境下では容易に不活化します。しかも排出するウイルス量は他人に感染する水準よりも低いと考えられているためまず大丈夫です 2)4)。それでも一応、世界的にも周囲に重度の免疫不全者がいる場合の使用は制限されていますが、妊婦さんはそれには含まれていません。また、日本の添付文書にはワクチン接種後1〜2週間は乳児との接触を控えるように書いてありますが、海外では授乳中の接種も問題ないとされており、小さな赤ちゃんがいるご家庭でも(赤ちゃんに特別な病気がない限りは)特別な配慮は必要なさそうです 5)6)7)。まぁ、まだ小さな上の子に接種した後に赤ちゃんから1〜2週間遠ざけておくとか、現実的に不可能ですよね。

まとめ

ということで本日は「妊娠してるのに上の子にフルミスト使っていいのか問題」について解説しました。その他では「フルミスト使ったらインフルエンザになるって本当ですか?」みたいなことも聞かれることがありますが、それも心配ありません。製剤内の弱毒化されたウイルスは鼻腔を超えて肺など体の奥深くに入ると、温度が高すぎて活動できないように設計されているためです 6)。そもそも接種のせいでインフルエンザになるのでは本末転倒ですもんね。
日本ではまだまだ新しいワクチンですが、欧米ではすでに20年以上の安全に使用されてきた歴史があり、信頼できる製品と言ってよいでしょう。上記以外にも接種におけるいくつかの注意点があるので、ご不安な点があればかかりつけの小児科医によく相談してみてください。

参考文献
1) U.S. Food and Drug Administration: https://www.fda.gov/news-events/press-announcements/fda-approves-nasal-spray-influenza-vaccine-self-or-caregiver-administration
2) FluMist: https://www.flumist.com
3) Giurea Perego, et al. Vaccines 2021, 9(9), 998
4) National Health Service. Misconceptions about the children’s flu vaccine nasal spray. 15 October 2020
5) The American College of Obstetrics and Gynecology. Influenza in Pregnancy: Prevention and Treatment. Committee Statement Number 7, February 2024. Last updated October 2025
6) Centers for Disease Control and Prevention. Live Attenuated Influenza Vaccine [LAIV] (The Nasal Spray Flu Vaccine)
7) フルミスト点鼻薬 添付文書