こんにちは、副院長の石田です。
さて、腰痛は妊娠女性のお悩みとして最もよく聞かれるものの一つです。程度は人によって様々ですが、重いと極端に生活の質(QOL)を損なうことがあるためありふれた訴えだからと言って無視できません。というわけで本日は妊娠中の腰痛についてお話ししようと思います。
腰痛で困っている妊婦さんたち
こちらは報告によってばらつきがあり、かつ人種によっても違いがありそうなので一概には言えませんが、妊婦さんの実に60〜80%近くが妊娠中に腰痛を感じているとされています 1)2)。リスクとしては、妊娠前から腰痛に悩まされている、前の妊娠でも腰痛があった、多胎妊娠(双子とか)、肥満などが挙げられますが、外来で日々診察していると必ずしもこれらのリスクが無くても腰痛を訴えられる人はよくいらっしゃる印象です 3)。ちなみに妊娠が終了すると腰痛は改善する傾向があるみたいです 2)。
妊娠中に腰痛が起こりやすくなる原因
腰痛自体は様々な要因が重なり合って引き起こされますが、妊娠に限って考えると以下のような体の変化が影響しています 4)5)。
①大きくなった子宮とそれによる重心の変化に対応するために背骨の弯曲が強くなる。
②お腹が大きくなり、腹筋が引き伸ばされて弱くなることで背中を支える筋肉に過度な負担がかかるようになる 。
③妊娠によるホルモンの影響で背骨の関節が緩み、それを支えるために周りの筋肉に過度な負担がかかるようになる。
これ以外にも無意識にお腹を庇うような歩き方になって腰に負担がかかっているとか、妊娠して運動量が落ちるため筋肉量も低下して腰痛が悪くなるとか色々と理由は考えられると思いますが、いずれにしても妊娠は体に様々な形で負担を強いているということが分かりますね。
妊娠中の腰痛対策 6)
では、妊娠中に腰痛を患ってしまうのはしょうがないとして、実際にそうなってしまった時にはどうした良いのでしょうか?
まず、ヒールの高い靴は避けるようにしましょう。ヒールが高いと体が前に傾くため、姿勢を保つのに背中の筋肉に大きな負担がかかるようになります。座るときはしっかりと背中を支えてくれる背もたれがある椅子を選ぶのが良いとされますが、しっくり来ない時は小さな枕を腰のところに挟んでみると良いかもしれません。何かを持ち上げる時はしっかりと膝を曲げて屈み、背中を真っ直ぐにしたまま下半身で上げるようにしましょう。寝る際にはベッドのマットレスが柔らかすぎると腰痛を悪化させる傾向があります。また、膝を曲げて寝ると腰の負担が軽減するので抱き枕などを脚で挟んで寝るのが効果的です。運動は妊娠で歪みがちな姿勢を矯正し、各所の関節を支える筋肉を強く保つため腰痛を軽減する効果があるので推奨されています。その他「トコちゃんベルト」のような骨盤を支持するグッズも販売されており、人によってはかなり効くようなので試してみるのも良いと思います。ただ、実は巻き方が結構難しかったりするのでもし効果が実感できない場合には妊婦健診の際にかかりつけの施設で助産師さんに相談してみてください。
まとめ
というわけでいかがだったでしょうか?妊娠中の腰痛にお悩みの皆さんにとって少しでも参考になれば幸いです。ちなみに腰痛が夜間に悪化する、足の痺れや動かしにくさがある、発熱や体重減少など他の症状がある、排尿・排便などがスッキリしなくなってきたなどが見られる場合には、何か妊娠とは別の深刻な腰痛の原因が見つかることもありますので速やかに主治医に相談してみてください。
1) Wang SM, et al. Obstet Gynecol. 2004;104(1):65
2) Thorell E, et al. BMC Pregnancy Childbirth. 2012;12:30. Epub 2012 Apr 17
3) Biddal M, et al. Arthritis Rheumatol. 2016;68(5):1156
4) Katonis P, et al. Hippocratia 2011;15(3):205-210
5) Marnach ML, et al. Obstet Gynecol. 2003;101(2):331