出生後の赤ちゃんとビタミンD

こんにちは、副院長の石田です。

出産したことがあるお母さんたちはご存知だと思いますが、生まれたばかりの赤ちゃんはしばらくの間ビタミンKのシロップを週一で投与します。これは赤ちゃんの脳出血を予防するための処置ですが、最近はこれに加えてビタミンDも投与しようという流れがあります。実はこれ、海外だと結構前からやられてたりするんですが、一体どういうことなのでしょうか?ということで本日は生まれたばかりの赤ちゃんとビタミンDについて解説したいと思います。

ビタミンDとは

骨の健康を支える栄養素として重要なのがビタミンDです。ビタミンDは腸でのカルシウム吸収を促進し、血中カルシウム濃度を一定に保つ働きを通じて骨の形成や維持に重要な役割を果たしています。カルシウムそのものを十分に摂取していても、ビタミンDが不足していると骨の健康は保たれにくくなるんですね。ビタミンDの大きな特徴は、他の多くのビタミンとは異なり、紫外線を浴びることで皮膚で合成される点にあります。つまり、ビタミンDは「食べ物から摂る栄養素」であると同時に「日光によって体内で作られる栄養素」でもあるのです。食事からもビタミンDを補うことは可能ですが、実は効率的に摂取できる食材は一部の魚やきのこ類などごく限られているため、日常的な食事だけで十分量を確保することは簡単ではありません。このような背景から、ビタミンDの主要な供給源は日光であると言えます。適度に日光を浴びる生活習慣は、骨の健康を守るうえで栄養バランスと同じくらい大切な要素なのです。

最近の日本人はビタミンDが不足がち問題

近年、乳児におけるビタミンD欠乏が新たな健康課題として注目されています。その背景として、外で遊ぶ機会の減少や、日焼けを過度に避ける不適切なUV対策などの生活習慣の変化により、日光を浴びる時間が著しく減っていることが考えられています。乳児に必要なビタミンD摂取量の目安は、適度な日照を受けていることを前提に1日あたり5μgとされています。一方で、母乳栄養は乳児にとって最良の栄養方法とされるものの、母乳に含まれるビタミンD量は決して多くありません。母乳中のビタミンD含有量は、およそ0.3μg/100mLと少ないことが知られています。さらに重要なのは、母乳中のビタミンD量が母親の体内のビタミンD量に影響される点です。近年、成人女性においても日照不足や生活習慣の変化により、ビタミンDが不足しがちな人が増えています。このような状況では、母乳に含まれるビタミンD量が想定されている目安よりもさらに少なくなる可能性が示唆されています。

ビタミンDのシロップについて

そんな現代っ子たちの問題を解消すべく、国際的なガイドラインでは1歳までの乳児に対して1日10μgのビタミンDサプリメント摂取が推奨されています。それを踏まえて昨年には、日本小児科学会からも「日本の子供達にもビタミンD投与した方がいいんじゃない?」という提言が出されました 1)。日本でも子供達のビタミンD不足や、それに伴うくる病という骨が柔らかくなったり曲がったりする病気が増えているとされており、これらのことから今後ビタミンDサプリの使用が海外のように普及していくことが予想されます。

まとめ

本日は子供達のビタミンD欠乏についてお話ししました。そのほか世界保健機関(WHO)によると、北緯(南緯)37度以上に居住している場合も秋から春にかけての日照時間の関係でビタミンDが不足するリスクがあるそうです 2)。日本で言うと北関東以北が該当しますね。
さて、今後ビタミンDシロップの使用が広まったとしても、やはり大切なのは適度に日光を浴びることです。真夏の昼間の直射日光に我が子を曝す必要はないかもですが、一方で極端に日焼けを恐れるのはかえって体に良くないです。是非かかりつけの小児科の先生とも相談しながら、お日様との良いお付き合いを心がけてみてください。

参考文献
1) 日本小児科学会. 日本小児学会雑誌. 129巻3号:494〜496(2025)
2) World Health Organization. Vitamin D Supplementation for Infants.

遺伝学的検査に関する用語集

今までのブログで遺伝学的検査・出生前検査に関わる専門用語について、改めてまとめて解説します。

・染色体:DNAが糸として巻かれまとまった物。「遺伝子が集合した物」とも言える。常染色体と性染色体がある。

・常染色体:ヒトは1つの細胞の中に46本の染色体があり、性染色体1(2本)と44本(22)の常染色体を有する。

・ヒトゲノム:染色体+ミトコンドリア内にあるDNA。DNAの持つ遺伝情報の全て

・染色体数的異常:異数性(トリソミーなど)と

倍数性(3倍体:母親由来の染色体2セット+父親由来1セット、または父親由来の染色体2セット+母親由来1セット。父親由来の染色体が多い場合は部分胞状奇胎を合併すること)がある。

異数性も倍数性も(当然ながら)遺伝子(ゲノムとも捉えられる)の変化がある。

正常は2倍体(ヒトは23本の半数体の2倍で存在)。高校生物で染色体数として”2n”と表される。

・染色体構造異常:ゲノムが変わらない均衡型異常(均衡型相互転座)と

ゲノム変わる不均衡型異常がある。

片親から均衡型転座を引き継いで(2:2の交互分離)も表現型は正常となる。一方(隣接分離または3:1分離による)染色体の不均衡(型転座)が起こる事で習慣流産や、先天性疾患(先天異常)をもつ子の出生の可能性がある。

・交互分離:染色体の量がバランス良く分配された状態。

減数第一分裂における

均衡型転座の四価染色体を形成し、2:2の分離

ロバートソン転座の三価染色体を形成し、2:1の分離

で染色体の量がバランス良く分配されれば表現型は正常となる。

・隣接分離:染色体の不均衡が生じる(いわば交互分離の対義語)。

・アレル(*):染色体上にある特徴をもつ一つの遺伝子。メンデル遺伝における「配偶子」としてもとらえることができる。

(減数分裂によって配偶子がつくられる)

・表現型:細胞や、個体に見られる特徴。一般的に「表現型の異常」は「何かしらの病気・疾患があり健康に影響が出る」という捉え方

・単一遺伝子疾患:疾患発症において、遺伝要因が極めて高い疾患(いわゆるメンデル遺伝病)

・常染色体優(顕)性遺伝;

・ヘテロ接合:常染色体優性遺伝の様に野生型アレルと変異型アレルが組み合わさるもの。変異型アレルが子どもに伝達する可能性があるため羊水検査の実施要件となる

・常染色体劣(潜)性遺伝;

同じ型のアレル同士の組み合わせなので「ホモ接合」と言われる

・片親性ダイソミー(UPD: UniParental Disomy):通常は父親と母親から1本ずつの染色体を受け継いで新たに対をなすものが、父親のみまたは母親のみから由来した染色体を受け継ぐ事。アレルが「ホモ接合」のまま。検査としてはマイクロアレイ(**)検査レベルとなる。

*アレル(allele):対立遺伝子

**アレイ(array):配列

・X連鎖性遺伝;

男性が主に罹患する。父親が罹患者なら女児は全て保因者となる

・感度:真陽性÷(真陽性+偽陰性)

・特異度:真陰性÷(偽陽性+真陰性)

感度も特異度も「検査」に対する精度について示す値

・尤度(ゆうど)比:英語表記は”Likelihood ratio”、感度÷偽陽性率または感度÷(1-特異度)

・陽性的中率:事前確率×尤度比

・事前確率:検査を行う前に既に疾患(病気)の可能性が存在する確率

35歳女性のダウン症候群が生まれる事前確率は約1/300

・胎盤モザイク:胎児と胎盤で染色体数などに違いが生じるもの

・出生前遺伝学的検査:現在、医学会では「出生前診断」という言葉を使わないようにしています。これは遺伝情報の特徴の一つ、「あいまい性」によるものも一つの理由と考えます。

当院としてはこのブログを含めNIPTやクアトロテスト(クアトロ検査)をお受けになる予定の産婦さん(クライエント)に向けてわかりやすく発信していく意義もあり、「出生前遺伝学的検査」≒「出生前検査」とさせてもらいます。

執筆 院長

卵子凍結について

こんにちは、副院長の石田です。

最近「卵子凍結」という言葉がちらほら見られるようになりました。結構前から子供を含めたがん患者に対する医療としての卵子凍結は一般的に行われていましたが、最近は病気でない女性の卵子凍結が注目されているように思います。実際、私も知人から「卵子凍結に興味があるんだけど」と相談されることが何回かありました。そこで本日は卵子凍結についてお話ししてみようと思います。

卵子凍結とは

排卵誘発などを行い採取した卵子を未来の妊娠のために凍結保存する医療技術です。リアルタイムで新しく作り続けられる精子と違い、卵子は女性が生まれつき卵巣内に持っている分が全てで新たに作られることはありません。そのため卵子は持ち主の女性と一緒に加齢していきます。また、胎児期の卵巣内に約500万個ある卵子は、生まれた時には約100万個にまで減少しています。そして思春期には10万個程度まで減っており、1000個程度になると閉経すると考えられています。つまり卵子は時間経過とともに質と量の低下を受けるため、女性は歳をとるほど妊娠しにくくなったり、子供の染色体異常が発生しやすくなったりするのです。しかし卵子凍結は採卵時点での卵子の状態を維持できるため、質の低下を止められるわけです。そのため「今は予定が無いけど、将来の妊娠のためにより状態の良い卵子を残しておきたい」と考える女性にとって選択肢の一つとなっているのです。

卵子凍結の注意点

晩婚・晩産化が進む日本社会において、卵子凍結はより良いライフプランニングのための有力な選択肢に思えるかもしれませんが、実際には注意が必要です。まず、卵子凍結は必ずしも未来の妊娠を約束してくれるわけではありません。凍結した卵子を使用する際は解凍した上で体外受精を行い、一定程度細胞分裂させた“胚“を子宮内に移植する必要があります。これらの過程を経て最終的に出産まで辿り着くのは凍結卵子1個あたり10%前後というデータがあり、希望すればすぐに妊娠できるわけではないことが分かります 1)。また、卵子凍結で止められるのは「卵子の時計」だけで、女性の身体そのものの時間は止まりません。そのため母体年齢が高くなるほど医療技術を用いても妊娠が成立する可能性が低下します 2)3)。さらには加齢に伴い妊娠前から何かしらの病気を持っている可能性が高まったり、妊娠糖尿病や妊娠高血圧症候群、早産、産後の大出血など妊娠・出産に伴う健康リスクも増加します。卵子凍結を検討している女性は、あらかじめこれらを十分に理解することが大切です。

まとめ

卵子凍結は様々な社会課題を内包しつつも、治療によって卵巣機能を失う可能性があるがんなどの病気を抱えた女性、性的マイノリティーの方、妊娠を希望しているがまだ良い出会いが無い女性などに、血の繋がった子供を持つチャンスがより多くもたらされるという点で良い医療技術です 4)。事実、ある調査によると卵子凍結を実施したうちの89%の女性が凍結した卵子を使用する・しないに関わらず、より多彩な選択肢を持てたことに満足しているという結果が示されました 5)。その一方でしばしば気になるのが、「卵子凍結をすればいつでも凍結時のコンディションで安全に妊娠できる」という楽観的な誤解を持つ方や、採卵から妊娠・出産に至るまでのリスクに対する理解が足りていないと感じる方が少なくないことです。また、卵子凍結をお考えであっても、状況によってはそもそも自然妊娠や従来の不妊治療で進めるべきと思われる方もいらっしゃいます。選択肢の多い時代だからこそ、皆さんのライフプランにどれが最適な方法かを最寄りの専門施設で相談してみると良いかもしれませんね。

こちらは日本産科婦人科学会による卵子凍結についての解説動画です。非常に分かりやすいと思いますので是非ご覧ください。
https://www.jsog.or.jp/medical/865/

参考文献
1) Practice Committees of the American Society for Reproductive Medicine and the Society for Assisted Reproductive Technology. Fertile Steril. 2013 Jan;99(1):37-43.
2) Sarah Druckenmiller Cascante, et al. J Assist Reprod Genet. 2024 Nov;41(11):2979-2985.
3) Angela Q Leung, et al. Reprod Biomed Online. 2021 Oct;43(4):671-679.
4) Sarah Druckenmiller Cascante. Reprod Biomed Online. 2023 Dec;47(6):103367.
5) Eleni A Greenwood, et al. Fertil Steril. 2018 Jun;109(6):1097-1104.e1.

出生前検査におけるピアサポート

出生前検査について知りたいことは、初期対応としてNIPT認証施設である当院で相談することができますし、またピアサポーターによる相談も受けることができます。

ピア(peer)は英語で「仲間」を意味します。

・公益財団法人 日本ダウン症協会

・NPO法人 親子の未来を支える会

などがピアサポートを提供している団体になります。出生前検査認証制度のホームページを一度ご覧になってみてはいかがでしょうか。

ピアサポートをどのような時に利用するかというと、例えば

「超音波検査で異常が見つかり、その後行った羊水検査結果待ちで今後の決断をするための不安と葛藤がある時」などです。ピアサポートの団体から悩まれている同じ疾患を持つ子の家族の紹介を行なってもらい、現状の把握や悩みを打ち明ける場が提供されます。

私たち一次施設、ピアサポーター、自治体らは妊婦さんとパートナーの熟慮のうえでの選択を尊重します。先天性疾患があった場合でも切れ目のない支援があります。周産期においてもグリーフを考慮しなければならない状況があります。流産等で妊娠の中断となっても(選択されても)必要に応じて産前も産後ものサポート事業の利用が可能なことを知っていただけれと思います。

とある病院のピアサポート

執筆 院長

丙午(ひのえうま)についての雑感

あけましておめでとうございます、副院長の石田です。

私の妻が小児科医なんですが、先日「2026年って丙午なんだよね?」と言われました。なんでも小児科界隈ではベテランの先生方を中心に、これがきっかけで少子化がさらに加速してしまったらどうしようと心配する雰囲気があるらしいです。確かにネットニュースやYouTubeでも丙午について議論するようなものをチラチラ見かけます。そこで本日はこの件について少しお話ししてみたいと思います。

そもそも干支とは

一般的に干支(えと)と言うと子(ネズミ)から亥(イノシシ)までの生まれ年ごとに割り振られた12種類の動物がイメージされると思います。これを十二支と言いますが、正式にはこれらの動物に加えて甲(きのえ)から癸(みずのと)で構成される十干(じっかん)という暦法を組み合わせた60種類で干支は表されることになっています。例えば1982年生まれの私の場合、十二支は戌(いぬ)で、干支は壬戌(みずのえいぬ)と表されるわけです。余談ですが、60歳を還暦と呼ぶのは干支が1周して元の自分の“暦“に“還“るからです。

では丙午とは

すごく簡単に言うと、八百屋お七という情熱的な女性がある男の人のことを好きすぎて放火事件を起こした末に死刑になったという、井原西鶴の作ったハードボイルドなフィクションが流行った結果、転じて「丙午生まれの女性は気性が荒く、男を不幸にする」という迷信が広がって、丙午の年の出生数がダダ下がったという話です。実際前回の丙午である1966年の出生数は25%程度減少しており、江戸前期に作られたストーリーが約300年の時を越えて赤ちゃんの数に影響したことを考えるとなんだか壮大な感じがしますよね。いずれにしても今年は60年ぶりの丙午ということで、ちょっとした話題になっているのです。

雑感

日本全体で妊婦さんがどうお考えかは分からないのですが、私のイメージでは丙午を気にしている妊婦さんはほとんどいません。妊娠、出産の性質上、今年が予定日になる患者さんは昨年の5月ごろから妊婦健診を開始していますが、普段の妊婦健診でその心配を口にされる方はほぼ皆無でしたし、エコーを見ながら「女の子ですよ」と伝えても、みなさんとても喜んでくれます。客観的な数字の話で言うと、妊婦健診で来られる患者さんの数も全く減っていませんし、少なくとも当院の周辺地域のご家族はあまり気にしていなさそうです。

まとめ

本日は話題の丙午についてお話ししてみました。干支占い的に言われる性格の傾向では、丙午生まれは「明るく行動が大胆で、無理だと言われることでも実現させられる強さがある」人だそうです。今年生まれた子どもたちは、将来世界をより良い場所に変えてくれるような世代になるかもしれませんね。

本年もどうぞ、よろしくお願いいたします。