麻酔開始のタイミング(アップデート)

にしじまクリニックの無痛分娩は、昨年までは麻酔薬を使うタイミングは「子宮口が5cm程開大してから」でした。

今は「陣痛が発来しNRS(*)が3以上」で初期鎮痛を開始しています。

*NRS(Numeric Rating Scale):疼痛スコアで『スマホの操作を妨げないような痛みは3未満』とされています。副作用に注意し、NRSを3未満に管理するような無痛分娩を目指しています(全ての症例を絶対にNRSを3未満にするという事ではありません。これを固執するあまり、限られた麻酔薬総量が分娩途中でなくなってしまう事や、致死的合併症を引き起こしかねないからです)。

初期鎮痛は無痛カクテル5mLを5分毎に3回投与し、初回投与30分後に麻酔効果判定を行います。これは硬膜外麻酔による効果発現は約30分かかるとされているためです。

初期鎮痛による効果判定で「鎮痛効果あり」と判断できれば、その後PIB +PCA(**)にて無痛分娩を引き続き管理していきます。

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PIB: Programed Intermittent Bolus

PCA: Patient Controlled Analgesia

当院で採用しているクーデック®︎エイミーPCAにより、手動でスタッフが麻酔を管理するよりも麻酔薬総量が効率的に使用でき、以前より早めの麻酔開始が可能となりました。

執筆 院長

自然なお産への過剰なこだわりは危険

近年、「自然なお産」という言葉がよく聞かれるようになりました。

これは「女性には本来自分で産む力が備わっている。だから医療が邪魔をしない出産こそが真の出産だ」という考え方のことで、その影響を受けて「自然なお産ができる施設で産みたい」などと希望する妊婦さんも中にはおられます。

 しかし、知っておいていただきたいのは、「自然なお産」至上主義の危うさです。

 かつて出産は、決死の覚悟で挑むものでした。そのため自力で産むことができず、妊産婦さんや赤ちゃん、または母児ともに亡くなってしまうケースも少なくなかったのです。しかし、ここ数十年の医療技術の発達により、出産による死亡は極端に低下しました。すると今度は、お産では死なないという「ゼロリスク幻想」が生まれました。その結果、医療不信から自然なお産に回帰する流れになり、自宅出産や水中出産などを選択する妊婦さんも出てきました。そして「病院に頼らず自然に任せたけど何も問題はなかった」という経験者が他の人にも勧め、さらに自然なお産に憧れる妊婦さんが増えていき現在に至っています。

 確かに、自然なお産を選択しても、多くの場合は無事に出産することができるでしょう。しかしリスクは数十倍にも跳ね上がり、危険な状態になった母子が確実に存在します。

 現在の日本のお産のうち、医療介入が必要なお産は決して少なくありません。いつ誰に起こるか分からないトラブルが実際に生じた時に、最新の医療に頼れないとなると、母子の生命すら危うい状況に追い込まれます。

 私を含め、ほとんどすべての産科医が、不必要な医療介入をしない出産を目指しています。しかし、出産に至るまでの過程で医療行為が必要だと判断した場合は、私たちはお母さんと赤ちゃんの安全を第一に考え、帝王切開などの適切な医療介入を行います。

 出産は、今も昔も妊婦さんにとって命がけの行為であることには変わりありません。あらゆる緊急時に対応できるように万全のバックアップ体制を整えてこそ、「自然なお産」が達成できるのです。

くり返しになりますが、全く医療の介在しないお産は、とても危険です。ぜひそのことを忘れずに、バースプラン(お産の企画書)を考えていただきたいと思っています。

執筆 顧問

声門上気道デバイス

新生児蘇生法(NCPR)は2025年度版として新たにアップデートされ、よりHigh Performance NCPRを意識したアルゴリズムとなっています。

なかでも『声門上気道デバイス』の検討が大きな特徴といえます。

新生児の人工呼吸において、質の高い換気を行うため(胸骨圧迫を伴うならなおさら)に、長い時間となってくれば気管挿管を検討する事になります。

謝辞 2025年度版NCPRの一部から

気管挿管を行うには気管チューブはもちろんのこと、他に喉頭鏡の準備が必要です。日々練習を重ねていても、救命の流れの緊迫した状況では気管挿管の適切な処置(食道挿管とならない、チューブ位置と固定)が難しい可能性もあります。

「換気ができない」という致命的な状況を回避するため、声門上気道デバイスの『i-gel®︎』 は従来の声門上気道器具(ラリンゲルマスク)よりシンプルで有効的といえるでしょう。

i-gelはソフトな材質と解剖学に基づいた形状で簡便で迅速な挿入を可能とします。これはラリゲルマスクより小さく、かつカフが膨らまない(膨らめる必要のない)構造も寄与しているでしょう。

カフは熱可塑性エラストマーと言われるゴムのような弾性を持ちながら、プラスチックのように熱を加えると柔らかくなり、冷やすと固まる 素材です。

新生児のi-gelサイズは1となります。サイズ1で体重の目安は2 〜5kgなので、低出生体重児にも使用可能です。

使用方法としては水溶性潤滑剤をカフ全体に塗布し、児をスニフィングポジション(sniffing position. 児頭と首が過度に伸展せず屈曲しない状態)にしてi-gelを挿入していきます。

(下図参照)i-gelを硬口蓋に押し当てる様に挿入し(8c)、抵抗があるまで進めます。カフ先端が食道開口部にはまり(8a)、かつカフ開口部は喉頭をシールする様な位置関係(8b)となります。

i-gal®︎添付文書から

i-gelは口の中の手技は必要ないのも特徴です。

サイズ1は胃管チャネルがないので、人工呼吸が長くなり仮に胃が膨張する様であれば一旦外して空気を抜く必要があります。ただし再度挿入も容易に行える事も特徴でしょう。

執筆 院長

赤ちゃんは1日でも長く子宮にいたほうが安全?

赤ちゃん(新生児)は、妊娠37~41週の間に生まれる「正期産児」として出生し、かつ出生時体重が2500g以上4000g以下の場合に最も予後がよいとされます。早産児(妊娠37週未満)や低出生体重児は、正期産児に比べて赤ちゃんの死亡率が高く、過期産児(妊娠42週以上)もまた死亡率が高いことが分かっています。

 「早産した未熟児の予後は、正期産児よりもよくなさそうだ」というのは、ほとんどの人が分かることだと思います。しかし「妊娠42週以上の過期妊娠で生まれた過期産児も予後がよくない」ということを知らない妊婦さんは大勢います。

「予定日超過妊娠」という言葉があります。出産予定日を過ぎると、胎盤の機能が衰えてくるために、胎内にいる赤ちゃんの状態が悪化してくることがあるのです。妊娠42週を過ぎると、胎盤機能が著しく低下します。したがって、予定日を過ぎてもなかなか産まれない場合には、分娩を誘発したほうがよい場合もあるのですが、「1日でもお腹の中にいたほうが赤ちゃんにとって好ましい」と誤解している人が多数います。自然に任せていると産まれそうもない場合には、担当の先生から「そろそろ産みましょう」と言われることがあります。その場合にはそのアドバイスにぜひ従ってください。

赤ちゃんは胎内に居たほうが安全か、それとも生まれた(胎外に出た)ほうが安全なのかを調べた報告があります。出生した児が1週未満(●)あるいは4週未満(▲)で死亡する確率と胎児が1週未満(○)あるいは4週未満(△)で死産する確率を妊娠週数ごとに出したものです。これによると、妊娠の早期には赤ちゃんは胎内にいたほうが、胎外に出てしまう(=早産する)よりも安全です。

妊娠が進むにつれてその差がどんどんなくなっていき、赤ちゃんの死亡率は妊娠39週で最低になります。その後は胎内・胎外どちらも同程度で危険率は上昇し、胎内・胎外の危険の逆転は妊娠42週で起こります。すなわち42週以降ではむしろ胎内のほうが危険になります。この結果から、妊娠39週頃に産むのが最も安全であることが分かります。

予定日を過ぎたら、「子宮の中に1日でも長くいたほうがいい」という考えは捨ててください。

執筆 顧問

クラミジアの検査を考えるタイミング

性感染症を心配して来院される方も当院はいらっしゃいます。まずは勇気をもってご来院された事が素晴らしいと感じ、診察をさせてもらっています。

日本産科婦人科学会および日本産婦人科医会による産婦人科診療ガイドラインから『クラミジア子宮頸管炎の診断と治療は?』を確認します。

・診断は核酸増幅法(PCR法など)を用いてクラミジアを検出する(A)*

・核酸増幅法で淋菌の同時検査を行う(B)*

となっています。

*推奨レベル

A:(実施することなどが)強く勧められる

B:(実施することなどが)勧められる

C:(実施することなどが)考慮される

と解釈されます。

「性交渉の経験をもつ女性が帯下異常、性行時出血、下腹部痛、右上腹部痛を訴えた場合はクラミジア疾患を疑う。診断は核酸増幅法により行う」と記載されています。

診断とスクリーニングの違い

診断はその病気が本当にあるかを確定する事です。

スクリーニングは病気の可能性がある人を拾い上げる事です。無症状なのに感染していないか調べたいと訴えがあった場合や不妊症のスクリーニング検査としては自費となる事はご理解いただけるかと思います。

しかしながら前述の症状と訴えがあった場合、診断目的に検査を行うわけです。

性感染症の蔓延を防ぐ事に加え被保険者に対し、診断のための検査は必要な保険給付の一つであるのは被保険者の大切な権利だと私院長は思っています。

参考書:産婦人科診療ガイドライン 婦人科外来編2026

執筆 院長