次の妊娠までどのくらい空けたらよいですか?

こんにちは、副院長の石田です。

お産を終えた患者さんから外来でよくいただく質問のひとつに「次の妊娠まではどれくらい空けるべきですか?」というものがあります。これに関しては患者さんの年齢や体調、社会的な状況、前回の分娩の経過や方法(経腟分娩か帝王切開か)など個々の背景によって最適なアドバイスは変わり得るほか、医師や施設によっても考え方が違ったりするため一概に「〇年あけましょう」と言い切ることは難しいです。ただ、「人によって違いますから」として終わるのも味気ないので、本日はいくつかのデータを示しながらどのように考えるべきか一緒に見ていきましょう。

リスクが高いとされる期間

出産から次の妊娠までの期間(interpregnancy interval)でリスクが高いとされているのは以下の通りです。
6ヶ月未満:
出産から6か月以内に次の妊娠をすると、早産や低出生体重児などのリスクが増えることが報告されています 1)2)3)。また、先行する出産が帝王切開だった場合、特に次回を経腟分娩で考えている方は子宮破裂のリスクが高まることが示唆されています 4)。そのためこの期間での妊娠はできるだけ避けた方がよいと考えられています。
60ヶ月以上:
妊娠までの間隔が5年以上になると、妊娠高血圧症候群や難産などのリスクが上昇する可能性が指摘されています 2)5)6)。これは単純に年齢が進むせいもあるかもしれませんが、初回の妊娠には次回の妊娠に向けて体を出産に適した状態に整える効果があり、その効果が5年以上経つと消えてしまうためなのだと考える専門家もいるそうです。

リスクが低く、次の妊娠に最適な期間

データから見ると18〜24ヶ月が最も医学的にリスクが低いとされていますが、実際にはご年齢やキャリア・ライフプランからそれほど待てない場合もあります。そのため妊活のご相談の際には上記以外にご家族の事情も踏まえながらいつ頃にするかを一緒に決めて行くことになります。ちなみに流産後の妊娠については、少し古い資料ではあるものの世界保健機構(WHO)からは6ヶ月以上あけるように推奨が出ているようですが、その後の臨床研究では流産から次の妊娠までの期間については6ヶ月より早くても問題なさそうということが示されています 7)8)9)。

まとめ

本日は、出産から次の妊娠までの期間について解説しました。とはいえ赤ちゃんは「授かりもの」であり、妊娠の時期を思い通りにコントロールすることはできません。そのため間隔が短かったり長かったりしても、必要以上に心配する必要はありません。また、この記事で紹介したデータも研究デザインなどの影響を受けており、出産と妊娠の間隔がリスクに本当に直結するのかについてはまだ議論が続いています。私たち医療者はそれぞれの患者さんの状況に合わせて安全なお産をサポートしていきます。どうか過度に不安を抱かず、妊娠・出産という大切な時間を前向きに楽しんでいただければと思います。

参考文献
1) Agustin Conde-Agusdelo, et al. JAMA. 2006 Apr 19;295(15):1809-23.
2) E Fuentes-Afflick, et al. Obstet Gynecologist. 2000 Mar;95(3):383-90.
3) Katherine A Ahrens, et al. Paediatr Perinat Epidemiol. 2019 Jan;33(1):O25-O47.
4) David M Stamilio, et al. Obstet Gynecol. 2007 Nov;110(5):1075-82
5) Agustin Conde-Agudelo, et al. Am J Obstet Gynecol. 2007 Apr;196(4):297-308.
6) Bao-Ping Zhu et al. Am J Obstet Gynecol. 2006 Jul;195(1):121-8.
7) World Health Organization. Birth spacing_report from a WHO technical consultation
8) Chrishny Kangatharan, et al. Hum Reprod Update. 2017 Mar 1;23(2):221-231
9) Mohamed M Ali, et al. Lancet Glob Health. 2023 Oct;11(10):e1544-e1552.

胎児心拍のカテゴリー分類

当院では原則、37週以降の妊婦健診からNST(ノンストレステスト)として胎児心拍数陣痛図を確認しています。胎児心拍と外側法による子宮収縮波形を目にする機会があると思いますが、初見では赤ちゃんが元気なのか、元気でないのかわからないと思います。実臨床でも経験とトレーニングを積んでいないと判読が難しいものです。

米国立小児発達研究所、通称NICHD(National Institute of Child Health and human Development)は、胎児心拍波形の見方の標準化を目指し、1997年にガイドラインを策定しました。

日本でも長年この判読と対応の標準化に努めており、日本産婦人科医会が『胎児心拍数陣痛図の判読と解釈・対応』を発刊し、これは日本産科婦人科学会が発刊する『産婦人科診療ガイドライン 産科編』にも準拠しています。

今回は、NICHDによる胎児心拍波形の分類はⅠ、Ⅱ、Ⅲの3つに分類されており、それらの要点を記載します。

NICHDカテゴリー分類におけるポイント

・カテゴリーⅠは正常、早発一過性徐脈は認めてもよい

・カテゴリーⅢは胎児心拍バリアビリティーの消失に加えて

反復する遅発一過性徐脈

反復する変動一過性徐脈

徐脈

サイナソイダルパターン

いずれかを認める

・カテゴリーⅡはⅠとⅢでない所見

で、要するにカテゴリーⅠであれば「児の良い予後を予知できる状態」です。

また、NICHDカテゴリー分類でも日本の波形レベル分類でも、一過性頻脈の有無で判読が左右されません。

産婦さんやご家族には難しい内容ですが、今回言いたかった事の一つとして日本のガイドライン一辺倒ではなく、他国のガイドラインを照らし合わせる事で見えてくるものがある、という事です。自身の知識の向上だけではなく、ひいては安心なお産につながるものだと私は思っています。

執筆 院長

妊娠初期の流産に向き合う治療方法の選択肢

こんにちは、副院長の石田です。

当院では多くのご家族が毎日のように新しい命を迎え入れている一方で、残念ながら流産を経験される方も一定数いらっしゃいます。流産とは、妊娠21週6日までに何らかの理由で妊娠が終わってしまうことを指します。妊娠22週が一つの区切りになっているのは、それ以前では新生児の生存そのものが極めて難しいからですが、かつて妊娠28週だったこの境界は医学の進歩によって徐々に引き下げられ、1993年から現在の週数に至っています。このうち妊娠12週までに起こるものを「初期流産」と呼びますが、本日はそうなってしまった時の治療方法について解説したいと思います。

初期流産について

統計によりバラツキがありますが、診断された妊娠のうち15%前後は流産になるとされています 1)。しかし、実は妊娠と診断される前に流産が起きる場合もあることが知られており、そういったケースでは月経が少し遅れただけと勘違いされたまま人知れずに流産となっています。こうした妊娠初期のごく早い段階のも含めると、全妊娠の約40%近くが流産に至るという報告もあります 2)。初期流産の多くは胎児の染色体異常や絨毛形成の異常など偶発的で防ぐことができない要因によるものであり、お母さんの生活習慣や行動が直接の原因になることは多くありません 3)。

初期流産の治療方法

初期流産と診断された場合の治療には、大きく分けて「自然排出を待つ方法(待機的管理)」と「手術による方法(外科的治療)」があります。
待機的管理は子宮の中の内容物が時間の経過とともに自然に排出されるのを待つ方法です。自然排出が成功すれば手術による子宮損傷や麻酔の合併症などを避けられます。また、手術費用がかからないため経済的負担も少なく済みます。ただし自然排出が必ず起こるとは限らず、長く待っても排出が始まらないこともあります。その場合、出血や感染のリスクを考慮して手術に切り替えることがあります。
外科的治療は手術で子宮内容物を取り出す治療です。取り出した胎児や胎盤の組織を確実に病理検査に出せるため、まれに見られる胞状奇胎などの異常妊娠を早期に発見できるという利点があります。また、流産を診断後のスケジュールを立てやすく、心身の切り替えもしやすいという特徴もあります。ちなみに当院ではWHOの推奨に基づき真空吸引法という患者さんの体にやさしい手術法を採用しています。
ガイドライン上はどちらの選択肢も理にかなっているとされており、どちらか片方に絶対的な優位性があるということはありません。

まとめ

本日は初期流産の治療に関してお話ししました。これら以外に外国では薬物治療も選択肢に入ります。院長も私も海外医療での使用経験があるためその有用性を知っていますが、残念ながら日本では使えません。
待機と手術、どちらの方法にもメリットと注意点がありますが、流産手術は保険適応であり民間の医療保険も適用される可能性があるため経済的に重い負担になりにくいこと、また待機療法において先々の目処が立たないことが患者さん本人の心に思った以上に負担となりやすいことから、特にご希望がない方には当院では手術を勧めることが多いです。ただ、これに関しては医師や病院によって考え方が分かれる部分ではありますので、残念ながら流産となってしまった方におかれましては主治医とよく相談して方針を決めていただければと思います。

参考文献
1) 日本産科婦人科学会. 産婦人科診療ガイドライン産科編 2023 CQ202
2) Toni Jackson, et al. JAAPA. 2021 Mar 1;34(3):22-27.
3) Clark Alves, et al. Treasure Island (FL): StatPearls Publishing; 2025 Jan-

ビショップスコア

「37週に入ったらすぐ計画出産(経腟分娩)にしてください」

ご事情をふまえ、お気持ちは察するのですが、にしじまクリニックの方針としては『診察・内診に応じて入院日をご相談』する形をとらせてもらっています。

37週以降の妊婦健診でBishop(ビショップ)スコアの表がリーフレットに添付しています。ビショップスコアの点数が上がれば、お産が近い事を示唆しています。

医師または助産師が診察(内診)においてビショップスコアの偏り(差)がないよう当院は心がけています。

ビショップスコア. 産婦人科ファーストタッチから

子宮口開大は子宮口

子宮の出口部である子宮口は、腟側が「外子宮口」、

胎児側が「子宮口」です。ビショップスコアにおける子宮口開大については「子宮口」で評価します。

※ただし、未陣痛時の外来においては下記に説明する『展退度』はまださほど進んでいませんから、外子宮口も子宮口も差があまりない事が多いです(入院・陣痛発来後はしっかり評価しなければなりません)。

ESSENTIAL OBSTETRIC AND NEWBORN CAREから.`internal OS’は内子宮口

展退度は子宮頸管長が目安

お産が近づくと、子宮口の開大より先に子宮頸管の展退が進みます。「展退」とは「子宮頸管の熟化」を表します。子宮頸管が柔らかくなれば児頭は降りやすくなり、かつ子宮口が広がりやすくなるのです。

診察者による展退度のバラツキ(偏り)がないようにするには、子宮頸管長と照らし合わせると整合性が高くなります。例えば「展退度40〜50%」は「子宮頸管長2〜4cm」に相当します。

分娩進行時、児頭下降の評価Progression angleを測定するとなお良い

内診で児頭がどの位降りているか、『児頭が陥入している状態はStation 0』という定義等から診察者は評価をしています。

さらには超音波を用いてProgression angleを確認する事で、内診による児頭下降評価との再現性が高まります。例えば「児頭の位置(Station)が−1〜0」は「Progression angle 130度」に相当します。

以上から、計画出産日のご相談は早産の既往や前回37週で分娩となった方以外の方では、少なくとも37週のビッショップスコアと、

38週のビショップスコアの変化を確認してからが望ましいです。

執筆 院長

妊娠と耳がつまる感覚について

こんにちは、副院長の石田です。

妊娠中の女性からよく聞かれる訴えのひとつに「耳がつまったように感じる」というものがあります。飛行機に乗ったときのような音がこもる感覚や聞こえにくさを伴うことも多く、不安に感じる方が少なくありません。妊娠するとこのような状態になりやすくなることが知られていますが、下腹部で起こる妊娠と頭についている耳にどんな関係があるのでしょうか?そこで本日はこの件について解説してみようと思います。

耳管の構造と機能

先に言ってしまうと、これは耳管開放症という状態です。耳管とは耳と鼻をつなぐ細いトンネルのような管で、長さはおよそ3〜4センチです。片方は中耳(鼓膜の奥)につながり、もう片方は鼻の奥(上咽頭)に開いています。耳管は喉から耳の奥にばい菌などが入らないように普段はぴったり閉じていますが、気圧の変化があっても鼓膜が適切に動くように耳の中の空気を入れ替えたり(高層ビルのエレベーターに乗っている最中に耳がこもるけど、あくびすると治るアレ)、耳の中で出た分泌物や水分を鼻のほうへ排出するときには開く仕組みになっています。

耳管開放症とは

耳管開放症とは、この耳管が開きっぱなしになってしまう状態のことです。妊娠するとエストロゲンやプロゲステロンといった女性ホルモンが増加しますが、それにより血管透過性の向上や平滑筋の弛緩、組織の浮腫などが引き起こされ、それらの結果として耳管の開閉機能に異常をきたすと考えられています 1)2)。報告によってまちまちですが、妊婦さんの30%前後にこの症状が出るらしいです。通常は耳に届いた音が鼓膜を振るわせて内耳、神経と伝わっていくのですが、耳管が開いていると内耳での音響が変化したり、喉の奥からの音が直接内耳に届いたりするため、音の感じ方が変わって非常に不愉快です。

まとめ

妊娠中の耳管開放症はある意味生理現象であり、正直あまり有効な治療はありませんが、妊娠が原因のため出産後には自然に治ることがほとんどです。一方でずっと症状が続いたり、聞こえづらさ以外の症状が併発するような時は突発性難聴や中耳炎などほかの疾患との鑑別が必要になることもあるため最寄の耳鼻科にご相談いただくのがよいかもしれません。人によっては漢方が効くこともありますので、ご希望の方はかかりつけの産婦人科でご相談ください。

参考文献
1) Santosh Kumar Swain, et al. J Otol. 2019 Nov 22;15(3):103-106
2) Alicja Grajczyk, et al. J Clin Med. 2024 May 2;13(9):2671