てんかんがある女性の家族計画について

こんにちは、副院長の石田です。

日本ではてんかんのある方は人口の0.5〜1%程度いるとされており、多くの方が日常生活を送りながら治療を続けています。現在は治療法も進歩しており、多くの患者さんは薬によって発作を良好にコントロールできていますが、一方で女性の場合は注意点があります。てんかんの治療薬の中には、避妊・妊娠の両面において影響を考慮しながら使用する必要があるものもあるため、ご自身の今後の家族計画を考える際には早めに主治医へ相談することが大切ですが、実は患者さんたちが十分な情報を得られていないという現実もあります 1)。そこで本日はてんかんをお持ちの女性の家族計画について解説したいと思います。

抗てんかん薬を服用中の避妊について

最も簡便な避妊はコンドームかもしれませんが、一方で不適切な装着や損傷などのリスクから、効果が不確実であるというデメリットもあります。そのためしっかりと避妊を考える場合はホルモン剤が検討されることになります。一番身近な避妊用のホルモン剤は低用量ピルですが、実は抗てんかん薬の一部にはピルの作用を減弱させるものがあるので注意が必要です。例えばカルバマゼピン(テグレトール®︎)、フェノバルビタール(フェノバール®︎)、フェニトイン(アレビアチン®︎)などはピルの作用に対して強力に影響を及ぼすため注意が必要です。また、これらと比べると比較的影響は小さいと言われますが、ラモトリギン(ラミクタール®︎)やトピラマート(トピナ®︎)なども注意が必要です。一方でバルプロ酸(デパケン®︎)、クロナゼパム(リボトリール®︎)、エトスクシミド(エピレオプチマル®︎)などはピルとの相互作用は無いとされています。以上のことからピルとの相性が悪い薬を使用中は、コンドーム以外だとミレーナ®︎という子宮内に挿入する避妊用ホルモン剤が推奨されます。

てんかん治療中の妊娠計画

さて、避妊から一転して妊活に入る場合の注意事項です。まず一般的に勧められるのは葉酸の内服です。抗てんかん薬の中にはバルプロ酸やカルバマゼピンをはじめとして胎児の神経管閉鎖障害という先天性の疾患の原因になることが知られているものがいくつもあります。一方で妊娠前から葉酸を内服しているとこの病気の発生率が下がることが分かっているため、特にてんかんをお持ちの女性は妊活に入る前に服薬指導が入ることが多いです。具体的には日本やアメリカのガイドラインでは0.4mg/日の用量が勧められていますが、実は国や地域によって0.4~5mgとかなり異なっており、どの程度が良いのかは本当のところよく分かっていません 2)3)4)5)6)。そしてもうちょっと言うと、実は葉酸内服は「抗てんかん薬の内服に伴う神経管閉鎖障害」に対する予防効果に関しては本当にあるかどうかが分かっていません 7)。ただ、いずれにしても服薬することのメリットは確実で、かつデメリットはほとんど無いため勧められています。あとはざっくりしてしまいますが、妊活に入る前に神経科の主治医とよく相談して、できるだけ抗けいれん薬の量を少なく、種類を減らして、より安全なものに調整してもらうことも大切です。

まとめ

本日はてんかんをお持ちの女性の家族計画についてお話ししてみました。てんかんに限らず、持病をお持ちの方はできればしっかりと準備してから妊娠に臨むことが、母子の安全を確保しながら妊娠・出産を楽しむのにとても大切です。これから妊活に入ろうと考えている方は、是非普段の主治医に加えて最寄りの産婦人科にも、どんな準備が必要なのか相談してみてください。

参考文献
1) Makiko Egawa, et al. Epilepsy Behav. 2020 Oct:111:107176.
2) 日本神経学会:てんかん診療ガイドライン 2018
3) Anne L Dunlop, et al. Am J Obstet Gynecol. 2010 Jan;202(1):e18.
4) Yi Li, et al. Epileptic Disord. 2025 Dec;27(6):1209-1216.
5) C L Harden, et al. Neurology. 2009 Jul 14;73(2):142-9.
6) Royal College of Obstetricians & Gynecologists. Epilepsy in Pregnancy. Green-top Guideline No. 68. June 2016.
7) Stephen M Kerr, et al. Birth Defects Res. 2020 Nov;112(18):1526-1540.

妊婦さんのCPRとAED使用

産婦の心停止を認識した場合、質の高いCPRを行う事で母体と胎児の生存の可能性が高まります。

*CPR(CardioPulmonary Resuscitation):心肺蘇生

心停止の認識

・意識反応の有無:傷病産婦の両肩を叩き、「大丈夫ですか」と大きな声で尋ね、意識を確認します。

また大声で助けを呼び、救助者の確保に努めます。

・正常呼吸の有無:胸郭の上がり下がりで呼吸の有無を10秒以内にチェックします。

・呼吸の確認とともに、10秒以内にはっきりとした脈拍を触知できるか:成人は頸動脈の触知にて脈拍をチェックします。

これらの所見がない場合は「心停止」と認識し、すばやくCPRに移行します。

質の高いCPRを行う

・心停止を認識してから10秒以内に胸骨圧迫を開始します。

・胸の上がりがある効果的な人工呼吸を行います。

AEDによるショックは胎児に害を及ぼさない

一般成人の心停止と同様にCPRを開始しAEDの到着後、AEDを使用します。

AED装着後のアルゴリズムは成人も産婦も変わりありません。

*AED(Automated External Defibrillator):自動体外式除細動器

AEDを使用した場合の胎児への影響ですが、電気ショックが胎児に影響する可能性がまったくないとはいえませんが、悪影響を及ぼした報告はありません(それ以上の危機に瀕しているとも言えます)。
除細動のための電極が貼ってある位置は母親の(右)胸部であり、母体腹部かつ羊水の中にいる胎児の心臓からは相当離れており、ショックエネルギーは胎児心臓に到達するまでにかなり減弱されていると考えられています。

もう一人救助者がいれば、質の高いBLSに加えて子宮左方移動

用手的子宮移動を、もう一人の救助者がいる場合は試みます。傷病産婦を蘇生し、左側臥位へ横向きにします。これにより母体心臓への血流が改善し、ひいては胎児への血流も回復するのです。

なお、呼吸と脈拍が正常であった場合も、傷病産婦を左側臥位にして救急応答者の到着を待ちます。

参考:AHA BLSプロバイダーマニュアル

執筆 院長

妊娠中の献立をご提案

こんにちは、副院長の石田です。

実は私は15年くらい前に、妻の妊娠をきっかけに料理を始めました。最初は手探りでしたがやってみると意外に楽しく、今では趣味の一つになっています。さて、料理をするようになって思ったのは、最も大変なのは料理自体ではなく献立選びだということです。理想的な栄養バランスでありながら現実的に作れて、しかも最近食べたものと被らないメニューを考えるのは、決して簡単ではありません。ましてや妊婦さんが食べるものとなれば尚更です。そこで今回は産科医+夫としての視点から、妊婦さんに必要な栄養条件を満たしつつ、比較的簡単に作れる1日の献立を提案したいと思います。特にこれまで料理をやってこなかったという男性におかれましては、是非この機会に自炊に挑戦してみてください。

朝食:ハムエッグトーストフルーツグラノーラのヨーグルトがけ

フライパンでハムエッグを焼きつつ、トースターで食パンも焼きます。同時進行でできるので時短にもなりますし、ハムエッグをトーストの上にのせれば小さい平皿一枚で済むため洗い物も楽です。それとは別に小盛りのプレーンヨーグルトにフルグラをかければ、簡単にアメリカンブレックファストができます。このメニューのポイントはハム、卵、ヨーグルトでタンパク質を摂れることに加え、市販のフルグラにはビタミンや鉄分、葉酸などが添加されていることが多いので、朝から妊婦さんに必要な栄養を効率よく補えることです。

昼食:白米+焼き+豚汁+ひじき煮

もし全てを一から作るのがめんどくさければ、焼き魚とひじき煮はコンビニやスーパーで美味しいのが買えるので、みなさんは豚汁に集中すればOKです。豚汁は根菜が多いので食材を切るのが大変ですが、それ以外に難しい工程はありません。何を入れても美味しくなりますが、個人的にゴボウとこんにゃくは具として必須です。あと、みりんを入れるとコクとまろやかな甘さが出るのでおすすめです。焼き魚(鮭やサバを想定)はタンパク質と必須脂肪酸を、豚汁はタンパク質、鉄分、食物繊維、ビタミンを、そしてひじきで鉄分と食物繊維をバランスよく補います。

夕食:白米+チキンステーキ+ブロッコリー+ミネストローネ

特に我々料理初心者男性にとっては、お肉の中でもチキンが最もヘルシーかつ失敗しにくいのでおすすめです。皮目から弱中火で焼いていきますが、コツは皮がカリカリになるまで我慢して触らず、時間をかけて火を通すことです。付け合わせのブロッコリーは手間と栄養を考えて、茹でずにレンチンしましょう。ミネストローネは豚汁同様に栄養が豊富ですが、ミックスビーンズを加えるとさらに鉄分と食物繊維を強化することができます。

まとめ

ということで、本日は妊婦さんの体に良さそうな料理のご提案でした。もしかしたらスープは塩分が多いかもなので、具をメインにして汁を残すとか、おやつやデザートにカリウム豊富なバナナやキウイを食べることで塩分の排出を促すのもありです。とは言え料理の素人が考えた献立なので栄養士の方が見たらツッコミどころがあるかもしれませんが、その時はごめんなさいということで…。また、アレルギー体質や妊娠糖尿病などの特別な配慮が必要な方は、より体に合った形に献立を組み立ててみてください。

ハンタウイルス

ハンタウイルスとは

ハンタウイルス(Hantavirus)はネズミなどのげっ歯類の一部が持っているウイルスです。流行地域でウイルスを持っているげっ歯類にかまれたり、排泄物に触れたり、排泄物を含んだほこりを吸い込んだりすることによって感染します。腎症候性出血熱、ハンタウイルス肺症候群という2つの疾患を起こします。

“Hantavirus”の語源は、朝鮮半島の「漢灘江(ハンタンガン)」に由来します。英語では Hantan River と呼ばれる川です。

1950年代の朝鮮戦争の際、この地域で活動していた兵士たちの間で原因不明の高熱と腎障害を伴う病気が多発しました。後に1970年代、韓国の研究者がこの病原ウイルスを野ネズミから分離した事で、発見地にちなんで「Hantaan virus(ハンターンウイルス)」と命名しました。

その後同系統のウイルス群全体を指して

“Hantavirus”という名称が使われるようになりました。

どうやってうつるのか

ウイルスを持ったげっ歯類の糞や尿が粘膜や傷口に直接触れたり、排泄物の含まれたほこりを吸いこんだり、直接げっ歯類に咬まれたりすることで感染します。ヒトからヒトへの感染例は今まで報告されていなかったのですが、最近のニュースのとおり、クルーズ船内での集団感染が問題となっています。

今後日本でのリスクについて

ハンタウイルスは現在でも韓国では毎年400~500例のハンタウイルス感染症が報告されています。これとは対称的に、日本ではまだハンタウイルス感染症の報告事例はありません。

ヒトからヒトへの感染が容易に起こす新型コロナウイルスとは異なり、

ハンタウイルスは基本的には「ネズミなどげっ歯類からヒトへ」感染するウイルスで、ヒトからヒトへの感染は非常にまれです。

よって仮に感染した方が日本に入国した場合でも、適切な管理により伝播は抑制できると考えられ、国内でのハンタウイルスが感染拡大する可能性は低いとされています。

今後この様な情報を得るには, BBCのような、フェイクニュースを排除し正確な情報に努めているニュースサイトから適宜情報を得る事をお勧めします。

https://www.bbc.com/japanese/articles/cn5px21xkrno

参考;

厚生労働省プレスリリース https://www.mhlw.go.jp/content/10900000/001697960.pdf

執筆 院長

産後に自力でおしっこが出せなくなった時の話

こんにちは、副院長の石田です。

お産は新しい命を迎える大切な出来事である一方で、骨盤や周囲の組織にとっては非常に大きな負担がかかるイベントでもあります。その影響の一つとして、分娩後に自力でおしっこが出せなくなってしまう「尿閉」を起こす患者さんが一定数いらっしゃいます。尿閉になると、膀胱に尿がたまっているにもかかわらず自力で排尿できない状態となり、「導尿」と呼ばれる方法でカテーテルという細いチューブを用いて尿を出す必要が出てきます。突然このような状況になると、不安や戸惑いを感じる方も少なくありません。そこで今回は分娩後の尿閉について、その原因や経過、対応方法などを解説したいと思います。

分娩後尿閉とは

分娩後尿閉は、お産のあと6時間以内に排尿がみられない場合(帝王切開の場合は、手術時に挿入した尿道カテーテルを抜去してから6時間以内に排尿がない場合)に診断されます。一見シンプルな基準ですが、実際には「少しは出ているものの膀胱に尿が残っている」ケースもあり、こうした150mL以上の残尿がある潜在性尿閉まで含めたり、そのほか前提条件を変えたりするとその発生率は研究によって大きく異なります。具体的な数字で言うと0.18〜47%と幅広い報告がありますが、私としては0.45%としているこちらの研究結果が実際の肌感覚に合うような気がしています 1)2)。
原因については、現時点で一つに特定されているわけではありません。ただし、お産というプロセスの中で、膀胱が赤ちゃんの通過によって過剰に引き延ばされることや、会陰部の裂傷や浮腫、さらに骨盤内の神経への影響、そして分娩後のホルモンバランスの変化など、複数の要因が重なって起こると考えられています。分娩後尿閉のリスク因子としては、初産婦であること、会陰切開、器械分娩(吸引・鉗子分娩)、局所麻酔薬の使用、無痛分娩などが挙げられています。いずれも臨床の現場では比較的よく遭遇する状況であり、これらに当てはまる方では注意深く経過をみていく必要があります 2)3)。ただし重要なのは、「これらの医療行為を行ったから尿閉になった」と単純に因果関係で捉えるべきではないという点です。むしろ、これらの介入が必要となるようなお産、つまり分娩に時間がかかったり、組織や神経に対する負担が大きかった状況そのものが、尿閉のリスクを高めていると考える方が自然かもしれません。そのため、リスク因子に該当するかどうかだけで過度に不安になる必要はありませんが、「やや起こりやすい状況ではある」という理解のもとで、適切に観察と対応を行っていくことが大切です。
なお、尿閉と診断されると驚かれる方も多いのですが、経過は良好なことがほとんどです。多くの場合、72時間以内に膀胱の機能は回復し、自力で排尿できるようになるとされているため、適切に経過をみながらサポートしていくことが大切になります 4)。具体的には膀胱が尿でパンパンにならないように、4〜6時間おきにカテーテルを使って導尿しながら自然回復を待ちます。

まとめ

本日は分娩後尿閉について解説しました。自力でおしっこが出せないととても不安になりますが、ほとんどの場合は退院前に、長くても1ヶ月健診までには完全回復します。運悪く当事者になってしまっても、医師や助産師、看護師とコミュニケーションを取りながら、落ち着いて対処していただければと思います。

参考文献
1) Stefan Mohr, et al. Int Urogynecol J. 2022 Feb 7;33(6):1601-1608.
2) Michael E Carley, et al. Am J Obstet Gynecol. 2002 Aug;187(2):430-3.
3) F E M Mulder, et al. Int Urogynecol J. 2014 Dec;25(12):1605-12.
4) Groutz A, et al. Neurourol Urodyn. 2011 Jan;30(1):83-6.