ご挨拶

こんにちは、副院長の石田です。

私事で恐縮ですが、当院の受付やウェブサイトで4月からお知らせしているとおり、個人的な事情により本年末をもってにしじまクリニックを退職させていただくこととなりました。それに伴い、このブログでの私の記事執筆も今月末で一旦おしまいとなります。2019年9月に院長と2人で執筆を始めてから、気がつけば7年間休まず続けてきました。外来で患者さんから「ブログ記事、楽しみにしています!」とお声がけいただいたり、ブログをきっかけに各種メディアから取材や執筆の依頼をいただいたりと、書き続けるのはなかなか大変でしたが多くの素晴らしいご縁に繋がった、とてもやりがいのある仕事の一つでした。

さて、実は私にとって、にしじまクリニックのような「街の診療所」で腰を据えて働くのは初めてのことでしたが、この8年余りは非常に充実した日々でした。私には中学生の息子が2人おりますが、皆さんの妊婦健診や分娩などに携わらせていただくと、妊娠が分かったときの興奮やつわりで苦しむ妻を前に何もできなかった無力感、胎動を感じた時の喜び、そして誕生の瞬間にあふれ出た幸福感など、皆さんと同じように当時自分が味わった感情が今でも鮮明に蘇ります。平日はもちろん、夜間や休日に出血や腹痛で受診される妊婦さんもいらっしゃいますが、中には「時間外に来てしまってすみません」と謝られる方もおられます。でも私からすると、皆さんの診療を通して同じように焦っていたあの頃の自分を、時間を巻き戻して自分で助け直しているような感覚があり、むしろ私自身が救われているような思いがしていました。同様に、婦人科疾患で来院された患者さんの診療を通じても、一人ひとりのお悩みを解決する中で自分がこの地域にとって少しずつ必要な存在になれているような気がして、喜びを感じられる日々でした。もちろんこれらが「大病院には無い」ということではありませんが、当院のような地域密着型の診療所だからこそ患者さんとの距離も近く、より一層強く実感できたのだと思います。

私がそのように充実した毎日を過ごしてきたのと同じように、にしじまクリニックは喜びややりがいを感じながら働いているスタッフが多い職場だと感じています。それぞれの強みやスキルを活かして患者さんの健康に貢献できることに誇りを持っているからこそ、職種を問わずスタッフ全員が常に業務の効率化や質の向上に取り組んでいます。また、院内での頻繁な勉強会をはじめ、多様な講習会への参加や資格・認定の取得・更新を通じて、絶えずスキルアップを図ってもいます。これまでいくつもの病院で勤務してきましたが、にしじまクリニックには大病院にも引けを取らない質の高いスタッフが揃い、心から患者さんのことを思って医療を提供する素晴らしいチームがあると確信しています。残念ながら私はあと少しでここを卒業いたしますが、地域の皆様におかれましてはこれからもぜひ安心してこのクリニックを頼っていただければ幸いです。

私自身、これまでご縁をいただいた多くの患者さんや院長はじめ当院のスタッフに支えられてきました。この場をお借りして、心より感謝申し上げます。本当にありがとうございました。

中には思っていたようにお力になれなかったこともあり、そうした患者様には申し訳ない気持ちが今も残っておりますが、一方でご満足いただける形で関われた方々のことを思うと胸をなでおろす心地です。またどこかでご縁がございましたら、皆様が元気に過ごせるようにお手伝いさせていただけますと幸いです。

石田 健太郎
にしじまクリニック 副院長

カテーテル先端を適切な位置に留置する

昨冬から導入した無痛カクテルにより、局所麻酔薬単独に比べ「麻酔の片効き」は圧倒的に減りました。その点では麻酔の質として産婦さんの満足度は上がっています。

麻酔の片効きの他要因として硬膜外カテーテル先端の留置位置があります。

硬膜外カテーテルは、黄靱帯と硬膜の間にある『硬膜外腔』に留置されます。カテーテルを入れる外針が、腰椎に対して正中に入ればカテーテルの先端の迷入のリスクは少なくなります。

もう少し詳細に述べると外針が皮膚、靱帯を正中かつ垂直に貫き硬膜外腔に達するのが理想です。しかしながら胸椎と腰椎はまっすぐな構造ではなく、また棘突起(椎体から出っ張る様に付いている骨)間は斜めなので、外針が真っ直ぐ入れる事が難しい場合もあるのです。

カテーテルを挿入し先端が腹側の硬膜外腔に位置してしまうと、正中の柱状構造や怒張した静脈叢により局所麻酔薬が反対側へ浸潤しにくくなり、麻酔の片効きとなります。解決策として、カテーテルを引き戻して正中の位置へ矯正されれば麻酔の片効きを解消できる可能性があります。

執筆 院長

女性の健康と気候変動の関係

こんにちは、副院長の石田です。

今年の夏も暑いですね。地球温暖化のせいか年々夏の暑さが過酷になる中で、私が通っていた小学校では6年生の伝統行事であった海の遠泳が、この暑さから子供を守りきれないという判断で終了してしまったそうです。
さて、そんな気候変動ではありますが、実は男性以上に女性の健康に大きな影響があるということをみなさんはご存知でしょうか?これは男女の生物学的な違いだけでなく、女性がもつ傾向のある社会的・文化的な役割も影響していると言われています。そこで本日は女性の健康と気候変動の関係について少し解説していきたいと思います。

気候変動による女性への影響

「気候変動」と聞くと「地球温暖化」という言葉が真っ先に思い浮かぶ方が多いのではないでしょうか?実際に化石燃料の使用により発生する温室効果化ガスの影響で、地球の平均気温は上昇し大気汚染も深刻化していると言われています。これらの現象はさらに、水害や食糧生産の不安定化と飢餓、疫病の蔓延など様々な問題へと繋がり得るわけですが、これらは妊婦さんを中心として女性の健康に対してより大きな影響があることが知られています 1)。例えば妊婦さんが猛暑にさらされると、早産や死産、低出生体重児のリスクが上昇することが分かっています。(結論は出ていませんが、体温調節のための血流再配分による子宮血流の低下や脱水による羊水量の減少などが原因として考えられています 2)3)。)
大気汚染は心肺機能への影響が兼されますが、PM2.5という汚染物質が増えると、男性以上に女性で心臓発作のリスクが上がることが知られています。また、大気汚染でも猛暑と同様早産や死産、低出生体重児のリスクが上昇します。実際にアメリカのカルフォルニア州のある地域では、火力発電所が閉鎖してからの10年間で早産が27%減少したというデータもありました 4)。
そのほか注目すべきは水害の影響です。アメリカでハリケーン被害にあった妊婦さんはそうでない方と比べて低出生体重児のリスクが2〜3倍になったことが分かっています。加えて妊婦さんに限らずハリケーンに被災した女性では性的なものを含めた暴力被害にあうリスクが3倍程度に上昇したことも判明しました 1)。

まとめ

本日は気候変動と女性の健康について少しお話しさせていただきました。環境問題が体に良くないことは皆さんご存知かと思いますが、より女性に負担がかかりやすいことまでは知らない人も多かったのでは無いでしょうか?加えてこれらの影響は貧困層や有色人種など、社会的に不利に扱われる機会の多いグループにも偏っていることが知られており、弱い立場の人ほどダメージが大きいことも問題視されています 5)。これから生まれてくる赤ちゃんたちも含めて地球に住むみんなが気持ちよく過ごせるように、一人ひとりが自然環境について考え、行動を起こすことが大切ですね。

参考文献
1) Emily Sbiroli, et al. J Clim Change Health 2022;8:100169.
2) Louisa Samuels, et al. Int J Biometeorol. 2022 Aug;66(8):1505-1513.
3) Siyi He, et al. Environ Int. 2018 Feb;111:295-300.
4) JA Casey, et al. Am J Epidemiol. 2018;187(8):1586-1594.
5) American College of Obstetricians & Gynecologists. Committee Statement Number 30. July 2026.

PIBとは

今回は、無痛分娩における「PIB」と言う痛み止めの投与システムを説明します。

PIBとは

PIB(Programed Intermittent Bolus)は、産婦さんがPCAボタン(スイッチ)を押さ(プッシュし)なくても一定の時間が経過したら痛み止め(無痛カクテル)がボーラス投与されるシステムです。

ボーラス(Bolus)投与とは、点滴の様にゆっくりと投与するのではなく、薬を短時間で一気に投与する方法です。

PIBとPCAの両方のシステムを利用すると、産婦さんがPCAボタンをプッシュしなくても、設定時間間隔(45〜60分の設定が多い)に無痛カクテルが自動的に硬膜外カテーテルにボーラス投与されます。この仕組みにより鎮痛の維持において麻酔範囲を保つことが可能で、また突発痛の発生を防ぐ事も期待されます。

PIBとは異なり、痛み止めを持続投与しかつPCAを利用するシステム(持続投与+PCA)もあります。持続投与の場合はPIBより麻酔の広がりが少ないとされています。よって持続投与+PCAの場合は痛み止めの流量をPIBより多くする必要があります。

執筆 院長

妊娠中の休業についてよくある誤解

こんにちは、副院長の石田です。

さて、産婦人科医をやっていると「妊娠してから出勤や勤務が大変なので仕事を休みたいです。人事に相談したら、医者から診断書を出してもらったら休めると言われました。書いてもらえますか?」と相談されることがしばしばあります。話を深掘りしていくと、ご本人や勤務先は傷病手当金を取得しての休業を考えていらっしゃることが多いのですが、結論から言うとご協力できないことが少なくありません。ここには妊婦さんご本人だけでなく、意外とお勤め先の人事責任者も含めて制度への誤解があるのではないかと感じたので、本日はこの件について少し解説させていただこうと思います。

診断書や傷病手当金とはどういうものか

傷病手当金とは、病気やケガを原因に会社を休むために十分な給与が受けられないときに、加入している健康保険から生活を保障するために支給されるお金のことで、健康保険法第九十九条に定められています 1)。原資は加入者から集められた保険金であり、法に則った厳正な審査のもとに支給が決定します。そのため診断書の内容に疑義が生じた場合は、保険の運営側から申請書を記載した医師にかなり細かい問い合わせが来ます。
以上のことから妊娠悪阻や切迫早産などの明確な労働不能と判断されるような医学的理由が無く、「妊娠している」「仕事がつらい」だけではこれらの書類を出すことはできません。それでも無理に医師が診断書や傷病手当金申請書を記載・発行した場合は医師・患者双方とも刑事/民事責任および行政処分の対象となる可能性もあるため、皆さんが妊娠した体で出勤し働くのが大変なのは理解しつつも、制度上の要件として客観的な評価が必要ということになります。

でも、つらいもんはつらい

医学的に働けるかどうかと、ご本人がしんどい思いをしているかどうかはしばしば折り合わないことがあります。我々としても目の前の苦しんでいる患者さんに対して本当に歯がゆい気持ちになるのですが、そういう場合は「フルで働くか休むか」という二択ではなく、出勤時刻をずらす、休憩を増やす、勤務内容を軽くする、勤務時間を減らすなどの、間をとるような対策であれば比較的ご協力しやすいことが多いです。また、比較的目にするのは「職場のマタハラによって心身の不調をきたしている」というパターンです。そう聞くと「そんな仕事、むしろさっさと辞めた方がいいでしょ」って思われる方も少なくありませんが、実際には辞めてしまうと家計や上のお子さんの保育園などの面で苦しくなってしまうご家庭もあるため、問題はそれほど簡単ではありません。確かにそういうケースでは早く休めるようにしてあげた方がよいことも多いですが、それでも切迫早産など虚偽の診断で書類を作成することは適切ではなく、飽くまで病態を正しく評価することが肝心です。例えばマタハラにより抑うつや強い不安、不眠や動悸などの症状が出ている場合は精神症状として評価が可能かもしませんので、心療内科や精神科に受診していただくのがよいです。その際には必要に応じて、かかりつけの産科から紹介状などを出してもらいましょう。

まとめ

本日は医師が発行する妊娠中の診断書について解説させていただきました。基本的に産科医は制度の厳正さを理解しつつも、可能な範囲内で妊婦さんやそのご家族にできるだけ寄り添おうとしています。ただ、それでも「書類発行は難しい」と判断する場合にはそれだけの理由があるのだとご理解いただけると幸いです。とはいえ上記のように、状況次第では別の方法で力になれることもありますので、お困りの際には遠慮なくご相談いただければと思います。

参考文献
1) https://laws.e-gov.go.jp/law/211AC0000000070