肩甲難産の対処(アップデート版)

肩甲難産とは、児頭娩出後に胎児の肩甲が娩出されない状態を指します。典型的な徴候として「タートルサイン」、すなわち児の顔や頭が会陰に引っ込む現象が見られることがあります。診断・定義として

・児頭娩出から体幹娩出までに時間が60秒以上(5分以上経過すると児のアシドーシスのリスクが高まる)

・娩出のために何らかの補助的な産科手技を必要とする

状況です。

昨日当院で主催した周産期救急の教育コースの”ALSO”(Advanced Life Support in Obstetrics)プログラムでは、肩甲難産の対応手順を教育するために、長年「HELPERR」という対処方法の語呂合わせが用いられてきました。

ALSO先駆けのアメリカで、2020年には「HELPER4」が導入され、最後の「R4」は肩甲難産解除のための複数の手技を含んでいます。

手技自体に変わりはないのですが、中でも後在の腕の娩出(Removal of the posterior arm)が最も有効な内診手技であることを示唆するデータによって、従来の「HELPERR」よりこの手技の重要性を強調されています。ただし、すべての症例で安全に実施できるわけではありません。

そのため、「HELPER4」では医師(および助産師)が状況を評価しながら、複数の手技の中から適切な方法を選択できるようになっています。

H: call for Help early

E: Evaluate and Explain

L: Leges(McRoberts法)

P: Pressure

E: Enter± Episiotomy

R4;

R1: Removal of the posterior arm

R2: Rotatory internal maneuvers(腟内手技)

R3: Roll the patient

R4: Repeat

後方腕娩出法が最も有効というエビデンスはあるが、それだけに固執せず、状況に応じて複数の解除法を選択することがHELPER4の目的なのです。

執筆 院長

子宮頸がん検診が今年も始まりました

こんにちは、副院長の石田です。

無事に今年も6月を迎え、にしじまクリニックが担当する富士見市、ふじみ野市、三芳町では子宮頸がん検診の季節となりました。この時期になると毎回「子宮頸がん検診を受けましょう!」というブログを書くのですが、今年ももちろん書かせていただきます。

さて、「がんは早期発見が大事!」とか言われるとなんかそんな気がしますよね。がんがまだ小さい時期に見つけられて、手術とかできれいに取りきれれば治りやすいんじゃないかと誰でも思うはずです。ただ、コトはそれほど単純ではありません。というのも、定期検査をすることで早期発見と予後の改善が達成できるようになるためには、次の3つの条件を満たす必要があります。

1)がんの悪性度が高すぎない
当事者の方もいらっしゃるので具体的な病名は避けますが、世の中には「そのがんになった時点でかなり厳しい」というような、進行が速く治療が効きにくいがんというものが存在します。そのような病気の場合、そもそも早期発見したところで治すのが極めて難しいため、定期検査をする意味がほとんどないわけです。

2)がんの悪性度が低すぎない
逆に、組織学的には悪性腫瘍に分類されるけど、そもそも進行がとても遅い(下手するとがんの進行より先に寿命を迎えることもある)、あるいは治療がとてもよく効くというがんも存在します。その場合もやはり早期発見にあまり意味はなく、特徴的な症状が出た段階でちゃんと検査を受けて診断できればOKということになります。

3)早期発見のための正確で低侵襲な検査がある
究極的には、がんを発見するには肉眼で見たり手で触ってみるのが一番かもしれません。でも、がんを早期発見するために毎年全身麻酔をかけながら頭蓋骨や腹腔を切り開いて中を触りながら確認するのは、患者さんの体への負担が大きすぎて現実的ではないですよね。患者さんの身体的な苦痛がほとんど無く簡便で、しかもがんがあるときに正確に見つけられるような検査がないと意味がないわけです。

下手すると1000種類以上あるとされるがんの中で、これらの条件を満たすのは残念ながらほとんど存在しませんが、その数少ない例外の一つが子宮頸がんなのです。子宮頸がんは正常細胞が年単位の時間をかけてゆっくりがん細胞に変化していきます。本格的ながんになってしまうと治療がとても大変なのですが、一方でがんになりきる前に見つけられると、比較的簡単な治療で完治させることが可能です。加えて検査自体は子宮の出口をブラシで擦るだけという簡便さでありながらそれなりの精度を備えているため、定期的に受けていただくことでメリットが得られやすいのが特徴です。

ということでいかがでしたでしょうか?定期的な子宮頸がん検診、お勧めです。当院の地域では、今年は奇数月生まれの20歳以上の女性を対象に11月までお受けしています。生理痛や更年期障害など、別の症状で受診された方でも通常診療と一緒に検査することも可能ですので、もしご希望の場合には受付で是非お声掛けください。

オーバートリアージを許容できる診療体制

患者さんが急変したと思った時、第一印象で重症かどうかを判断するのは緊張下のなか大変な事です。

救急医療や災害医療では、アンダートリアージ(重症患者を「軽症」と誤判定すること)が患者の生命予後に与える影響が大きいため、ある程度のオーバートリアージは許容されます。これは妊婦の蘇生を含めた周産期救急にもあてはまります。

災害下の患者重症度を判定するトリアージでは、オーバートリアージ率はある程度高いのです。例えば米国の救急医療ではオーバートリアージ率30〜50%を許容し、一方アンダートリアージ率を5%未満に抑えることが目標とされています。

以上、オーバートリアージを許容できる周産期救急における診療体制は産婦さんにとっても大切となりますが、チーム医療としてこの体制を構築できるかが重要です。

オーバートリアージを許容できる条件

・チームスタッフが緊急の状態に対するアルゴリズムを理解している。学習し知識を得て、事前にシミュレーションを繰り返し行なっておくべきです。これらが浅はかだと、何でもオーバートリアージを行なってしまい本来の意義を見失ってしまいます。

・結果オーバートリアージであったとしても、判断したスタッフに過失を求めない。

・オーバートリアージを受け入れるマインドを持っていること。これは前術のアルゴリズムがスタッフに浸透すればする程深まると考えています。

オーバートリアージを許容できる診療体制とは、

重症患者の見逃しを防ぐため、多少の過大評価による資源と気持ちの余剰を受け入れられるだけの人員・設備・教育を備えた診療体制なのです。

執筆 院長

てんかんがある女性の家族計画について

こんにちは、副院長の石田です。

日本ではてんかんのある方は人口の0.5〜1%程度いるとされており、多くの方が日常生活を送りながら治療を続けています。現在は治療法も進歩しており、多くの患者さんは薬によって発作を良好にコントロールできていますが、一方で女性の場合は注意点があります。てんかんの治療薬の中には、避妊・妊娠の両面において影響を考慮しながら使用する必要があるものもあるため、ご自身の今後の家族計画を考える際には早めに主治医へ相談することが大切ですが、実は患者さんたちが十分な情報を得られていないという現実もあります 1)。そこで本日はてんかんをお持ちの女性の家族計画について解説したいと思います。

抗てんかん薬を服用中の避妊について

最も簡便な避妊はコンドームかもしれませんが、一方で不適切な装着や損傷などのリスクから、効果が不確実であるというデメリットもあります。そのためしっかりと避妊を考える場合はホルモン剤が検討されることになります。一番身近な避妊用のホルモン剤は低用量ピルですが、実は抗てんかん薬の一部にはピルの作用を減弱させるものがあるので注意が必要です。例えばカルバマゼピン(テグレトール®︎)、フェノバルビタール(フェノバール®︎)、フェニトイン(アレビアチン®︎)などはピルの作用に対して強力に影響を及ぼすため注意が必要です。また、これらと比べると比較的影響は小さいと言われますが、ラモトリギン(ラミクタール®︎)やトピラマート(トピナ®︎)なども注意が必要です。一方でバルプロ酸(デパケン®︎)、クロナゼパム(リボトリール®︎)、エトスクシミド(エピレオプチマル®︎)などはピルとの相互作用は無いとされています。以上のことからピルとの相性が悪い薬を使用中は、コンドーム以外だとミレーナ®︎という子宮内に挿入する避妊用ホルモン剤が推奨されます。

てんかん治療中の妊娠計画

さて、避妊から一転して妊活に入る場合の注意事項です。まず一般的に勧められるのは葉酸の内服です。抗てんかん薬の中にはバルプロ酸やカルバマゼピンをはじめとして胎児の神経管閉鎖障害という先天性の疾患の原因になることが知られているものがいくつもあります。一方で妊娠前から葉酸を内服しているとこの病気の発生率が下がることが分かっているため、特にてんかんをお持ちの女性は妊活に入る前に服薬指導が入ることが多いです。具体的には日本やアメリカのガイドラインでは0.4mg/日の用量が勧められていますが、実は国や地域によって0.4~5mgとかなり異なっており、どの程度が良いのかは本当のところよく分かっていません 2)3)4)5)6)。そしてもうちょっと言うと、実は葉酸内服は「抗てんかん薬の内服に伴う神経管閉鎖障害」に対する予防効果に関しては本当にあるかどうかが分かっていません 7)。ただ、いずれにしても服薬することのメリットは確実で、かつデメリットはほとんど無いため勧められています。あとはざっくりしてしまいますが、妊活に入る前に神経科の主治医とよく相談して、できるだけ抗けいれん薬の量を少なく、種類を減らして、より安全なものに調整してもらうことも大切です。

まとめ

本日はてんかんをお持ちの女性の家族計画についてお話ししてみました。てんかんに限らず、持病をお持ちの方はできればしっかりと準備してから妊娠に臨むことが、母子の安全を確保しながら妊娠・出産を楽しむのにとても大切です。これから妊活に入ろうと考えている方は、是非普段の主治医に加えて最寄りの産婦人科にも、どんな準備が必要なのか相談してみてください。

参考文献
1) Makiko Egawa, et al. Epilepsy Behav. 2020 Oct:111:107176.
2) 日本神経学会:てんかん診療ガイドライン 2018
3) Anne L Dunlop, et al. Am J Obstet Gynecol. 2010 Jan;202(1):e18.
4) Yi Li, et al. Epileptic Disord. 2025 Dec;27(6):1209-1216.
5) C L Harden, et al. Neurology. 2009 Jul 14;73(2):142-9.
6) Royal College of Obstetricians & Gynecologists. Epilepsy in Pregnancy. Green-top Guideline No. 68. June 2016.
7) Stephen M Kerr, et al. Birth Defects Res. 2020 Nov;112(18):1526-1540.

妊婦さんのCPRとAED使用

産婦の心停止を認識した場合、質の高いCPRを行う事で母体と胎児の生存の可能性が高まります。

*CPR(CardioPulmonary Resuscitation):心肺蘇生

心停止の認識

・意識反応の有無:傷病産婦の両肩を叩き、「大丈夫ですか」と大きな声で尋ね、意識を確認します。

また大声で助けを呼び、救助者の確保に努めます。

・正常呼吸の有無:胸郭の上がり下がりで呼吸の有無を10秒以内にチェックします。

・呼吸の確認とともに、10秒以内にはっきりとした脈拍を触知できるか:成人は頸動脈の触知にて脈拍をチェックします。

これらの所見がない場合は「心停止」と認識し、すばやくCPRに移行します。

質の高いCPRを行う

・心停止を認識してから10秒以内に胸骨圧迫を開始します。

・胸の上がりがある効果的な人工呼吸を行います。

AEDによるショックは胎児に害を及ぼさない

一般成人の心停止と同様にCPRを開始しAEDの到着後、AEDを使用します。

AED装着後のアルゴリズムは成人も産婦も変わりありません。

*AED(Automated External Defibrillator):自動体外式除細動器

AEDを使用した場合の胎児への影響ですが、電気ショックが胎児に影響する可能性がまったくないとはいえませんが、悪影響を及ぼした報告はありません(それ以上の危機に瀕しているとも言えます)。
除細動のための電極が貼ってある位置は母親の(右)胸部であり、母体腹部かつ羊水の中にいる胎児の心臓からは相当離れており、ショックエネルギーは胎児心臓に到達するまでにかなり減弱されていると考えられています。

もう一人救助者がいれば、質の高いBLSに加えて子宮左方移動

用手的子宮移動を、もう一人の救助者がいる場合は試みます。傷病産婦を蘇生し、左側臥位へ横向きにします。これにより母体心臓への血流が改善し、ひいては胎児への血流も回復するのです。

なお、呼吸と脈拍が正常であった場合も、傷病産婦を左側臥位にして救急応答者の到着を待ちます。

参考:AHA BLSプロバイダーマニュアル

執筆 院長