PIBとは

今回は、無痛分娩における「PIB」と言う痛み止めの投与システムを説明します。

PIBとは

PIB(Programed Intermittent Bolus)は、産婦さんがPCAボタン(スイッチ)を押さ(プッシュし)なくても一定の時間が経過したら痛み止め(無痛カクテル)がボーラス投与されるシステムです。

ボーラス(Bolus)投与とは、点滴の様にゆっくりと投与するのではなく、薬を短時間で一気に投与する方法です。

PIBとPCAの両方のシステムを利用すると、産婦さんがPCAボタンをプッシュしなくても、設定時間間隔(45〜60分の設定が多い)に無痛カクテルが自動的に硬膜外カテーテルにボーラス投与されます。この仕組みにより鎮痛の維持において麻酔範囲を保つことが可能で、また突発痛の発生を防ぐ事も期待されます。

PIBとは異なり、痛み止めを持続投与しかつPCAを利用するシステム(持続投与+PCA)もあります。持続投与の場合はPIBより麻酔の広がりが少ないとされています。よって持続投与+PCAの場合は痛み止めの流量をPIBより多くする必要があります。

執筆 院長

妊娠中の休業についてよくある誤解

こんにちは、副院長の石田です。

さて、産婦人科医をやっていると「妊娠してから出勤や勤務が大変なので仕事を休みたいです。人事に相談したら、医者から診断書を出してもらったら休めると言われました。書いてもらえますか?」と相談されることがしばしばあります。話を深掘りしていくと、ご本人や勤務先は傷病手当金を取得しての休業を考えていらっしゃることが多いのですが、結論から言うとご協力できないことが少なくありません。ここには妊婦さんご本人だけでなく、意外とお勤め先の人事責任者も含めて制度への誤解があるのではないかと感じたので、本日はこの件について少し解説させていただこうと思います。

診断書や傷病手当金とはどういうものか

傷病手当金とは、病気やケガを原因に会社を休むために十分な給与が受けられないときに、加入している健康保険から生活を保障するために支給されるお金のことで、健康保険法第九十九条に定められています 1)。原資は加入者から集められた保険金であり、法に則った厳正な審査のもとに支給が決定します。そのため診断書の内容に疑義が生じた場合は、保険の運営側から申請書を記載した医師にかなり細かい問い合わせが来ます。
以上のことから妊娠悪阻や切迫早産などの明確な労働不能と判断されるような医学的理由が無く、「妊娠している」「仕事がつらい」だけではこれらの書類を出すことはできません。それでも無理に医師が診断書や傷病手当金申請書を記載・発行した場合は医師・患者双方とも刑事/民事責任および行政処分の対象となる可能性もあるため、皆さんが妊娠した体で出勤し働くのが大変なのは理解しつつも、制度上の要件として客観的な評価が必要ということになります。

でも、つらいもんはつらい

医学的に働けるかどうかと、ご本人がしんどい思いをしているかどうかはしばしば折り合わないことがあります。我々としても目の前の苦しんでいる患者さんに対して本当に歯がゆい気持ちになるのですが、そういう場合は「フルで働くか休むか」という二択ではなく、出勤時刻をずらす、休憩を増やす、勤務内容を軽くする、勤務時間を減らすなどの、間をとるような対策であれば比較的ご協力しやすいことが多いです。また、比較的目にするのは「職場のマタハラによって心身の不調をきたしている」というパターンです。そう聞くと「そんな仕事、むしろさっさと辞めた方がいいでしょ」って思われる方も少なくありませんが、実際には辞めてしまうと家計や上のお子さんの保育園などの面で苦しくなってしまうご家庭もあるため、問題はそれほど簡単ではありません。確かにそういうケースでは早く休めるようにしてあげた方がよいことも多いですが、それでも切迫早産など虚偽の診断で書類を作成することは適切ではなく、飽くまで病態を正しく評価することが肝心です。例えばマタハラにより抑うつや強い不安、不眠や動悸などの症状が出ている場合は精神症状として評価が可能かもしませんので、心療内科や精神科に受診していただくのがよいです。その際には必要に応じて、かかりつけの産科から紹介状などを出してもらいましょう。

まとめ

本日は医師が発行する妊娠中の診断書について解説させていただきました。基本的に産科医は制度の厳正さを理解しつつも、可能な範囲内で妊婦さんやそのご家族にできるだけ寄り添おうとしています。ただ、それでも「書類発行は難しい」と判断する場合にはそれだけの理由があるのだとご理解いただけると幸いです。とはいえ上記のように、状況次第では別の方法で力になれることもありますので、お困りの際には遠慮なくご相談いただければと思います。

参考文献
1) https://laws.e-gov.go.jp/law/211AC0000000070

当院の無痛分娩薬剤量

無痛分娩の痛みどめ薬は、当院としては量を定めています。

当院で使う無痛分娩の薬剤量は100mL

にしじまクリニックで用いる痛みどめの薬は、以前ご紹介した局所麻酔薬を希釈し医療用麻薬を添加した『無痛カクテル』となります。この無痛カクテルの組成はスタンダードなもので、当院他多くの施設でも採用されています。

無痛カクテル(0.1%アナペイン®︎+フェンタニル200μg)の使用量としては1時間あたり10〜20mLです。陣痛が始まり、痛みが強くなってきてから無痛カクテルを使用するにあたり、単純計算で5〜10時間使用できる事になります。

分娩の所要時間は大まかに

・初産婦さんは12〜16時間

・経産婦さんは6〜8時間

といわれています。となると初産婦さんにとっては無痛カクテル100mLのうち、使用するタイミングが重要となります。当院の無痛分娩体制で原則計画出産をお願いしているのは、分娩の進行を手助けしつつ、当院規定の局所麻酔量(100mL)におさめる目的もあるのです。局所麻酔中毒は使用量と時間に依存するので、規定量を設けずに漫然と局所麻酔薬を投与し続ける事は『安心安全なお産』に逸脱してしまうと私院長は考えています。

でもご安心ください。初産婦さんであっても無痛カクテル100mLを使い切る症例はさほど多くありません。

今後は産婦さん主体の鎮痛へ

当院は以前から局所麻酔・無痛カクテルの間隔投与(薬を30分毎に投与)を担当助産師または医師が行なっていました。

今後は初期投与で鎮痛を確認した後、産婦さんに疼痛時に薬を自らプッシュしてもらう鎮痛様式にシフトしていきます。これを『PCA』(Patient Controlled Analgisia)と言います。PCAを採用する事で産婦さんの鎮痛の満足度のみならず過度な局所麻酔薬の投与を防ぎ、ひいては局所麻酔薬の総使用量の適正化につながっていくものと考えています。

PIB: Programed Intermittent Bolus. 産婦がPCAをプッシュしなくても一定の時間が経過したら痛み止め(局所麻酔/無痛カクテル)が自動投与されるシステム

次回私のブログでPIBについて説明します。

執筆 院長

乳幼児突然死症候群(SIDS)について

こんにちは、副院長の石田です。

睡眠中の赤ちゃんがなんの前触れもなく亡くなってしまう乳幼児突然死症候群という病気があります。感染症や窒息などが原因で赤ちゃんが急に亡くなってしまうことはあるのですが、それらとは異なり全く原因不明の突然死として区別されています。令和6年には1歳未満のお子さんが50人以上もSIDSで亡くなっており、乳児死亡の原因として上位にランクインしています 1)2)。あまり悲しい話題を取り上げて皆さんを怖がらせたくはないのですが、外来で話していると結構誤解もありそうだなと感じることが多いので、本日はSIDSについて少し解説してみたいと思います。

SIDSの基礎知識

乳幼児突然死症候群(SIDS)は日本では6000〜7000人に1人が発症するとされています。上記の通り、乳幼児突然死症候群(SIDS)は原因がはっきり分かっていませんが、なぜか12月以降の寒い時期に多いことが知られており、そのためこども家庭庁では11月を対策強化月間として普及活動と啓発に力を入れています。リスク因子としてうつ伏せ寝や親の喫煙が知られているほか、男の子の方がややなりやすいことを示す研究も存在しています 3)。特徴的なのはSIDSの80%以上が生後半年までに起こり、その中でも生後2〜4ヶ月が最も多いということです 4)。

SIDSにならないためにできること

上記の通り、うつ伏せ寝や喫煙が大きなリスク因子となっているため仰向けで寝かせることや家族は禁煙することが望まれます。特に仰向け寝の効果は絶大で、実際にそれが推奨されるようになった1990年代にはSIDSの件数が世界各国で劇的に減少しました 5)。タバコに関しては生まれてからの受動喫煙もそうですが、妊娠中の喫煙が最も悪いことが知られているため、可能な限り早くにやめていただくことが肝心です 6)。そのほか、柔らかすぎるベッドや親と一緒のベッドでは寝ないことや、枕(頭の形を矯正するためのドーナツ枕を含む)を使わないことも提唱されています 7)。一方で先日のブログでもお伝えしたように入眠時におしゃぶりを咥えさせることはSIDSから赤ちゃんを守る効果があるかもと考えられています。母乳育児はSIDSの発症率を低下させることが知られているので、感染症や持病などの事情が無い場合は是非授乳を頑張ってみてください。

まとめ

本日は乳幼児突然死症候群(SIDS)について解説しました。せっかく産まれてきた赤ちゃんが早々に亡くなってしまうのはとてもつらいことです。完全に防ぐことは難しいですが、一方でご家庭でできる予防法がありますので可能な範囲で取り組んでいただけると良いと思います。そのほかいくつか細かい注意点もありますので、気になる方はかかりつけの産婦人科や小児科で相談してみてください。

参考文献
1) こども家庭庁. 赤ちゃんが安全に眠れるように ~1歳未満の赤ちゃんを育てるみなさまへ~
2) 政府広報オンライン. 赤ちゃんの原因不明の突然死 「SIDS」の発症リスクを低くする3つのポイント
3) RG Carpenter Lancet. 2004 Jan 17;363(9404):185-91
4) Shapiro-Mendoza CK, et al. SIDS Sudden Infant and Early Childhood Death: The Past, the Present and the Future. Adelaide (AU): University of Adelaide Press; 2018 May. Chapter 13
5) Rachel Y Moon, et al. Pediatrics. 2022 Jul 1;150(1):e2022057990.
6) Tatiana M Anderson, et al. Pediatrics. 2019 Apr;143(4):e20183325.
7) Carri Cottengim, et al. Matern Child Health J. 2020 Feb;24(2):222–228.

CSEAについて

無痛分娩は従来どおり硬膜外麻酔を用いるものが主流ですが、最近はCSEAを行なっている施設もあります。

CSEAとは

CSEACombined Spinal-Epidural Anesthesia)とは、

硬膜外麻酔+脊髄くも膜下麻酔と理解していただければよいです。

脊髄くも膜下麻酔は帝王切開に用いられる麻酔で、帝王切開をお受けになった方々はご想像いただけれと思いますが、足まで動かなくなる麻酔です。硬膜外麻酔と比べ穿刺位置も含め「深い」麻酔となります。

CSEAの利点としては、『鎮痛効果が早い』という事です。計画出産での無痛分娩ではなく、自然に陣痛が発来し分娩の進行が早い場合に効果的です。

Open AIを用いて作成

当院の無痛分娩体制と考え方

当院として現在提供する無痛分娩体制を考えると、CSEAのメリットは現在感じていません。当院は現在計画出産で無痛分娩体制をお願いしています。理由としては、無痛分娩希望の方々を全て陣痛発来待ちにしてしまうと、もし、とある時間帯に無痛分娩を希望する産婦さんの入院が重複してしまうと処置を行う適切なタイミングを逃してしまう可能性があるからです。

またCSEAを行なった場合、移動はリスクを伴いますので処置後の移動は困難です。『移動が困難』という事は転倒のほか、長時間の臥床による血栓塞栓症にも注意しなければなりません。

CSEAに対する胎児の影響については、深い麻酔の影響から硬膜外麻酔単独(EA)より胎児ジストレスがCTGに現れる可能性があります(胎児一過性徐脈)。

そしてコストです。CSEAを行う場合は専用の針キットらが必要になり、これは無痛分娩料にも反映されてしまいます。

以上から、にしじまクリニックでは現在の硬膜外麻酔(EA)での無痛分娩をより質を上げていく所存です。

(予定の帝王切開ではCSEAをお受けしています)

執筆 院長