新型コロナウイルス感染症に関する抗体検査

以前に比べ、新型コロナウイルス感染症の発生動向が落ち着いたのは事実です。今週末から都県をまたいだ移動も可能となり、今後はいかに必要な情報を収集し、必要なセルフコントロールを実践できるかどうかが重要と私院長は考えています。

その一つとして、先日当院ではアロマスタッフや当直医を含む全48人に、新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)定量抗体を実施しました。

結果は、全員『陰性』でした。

抗体検査とは血液の中の特異抗体を検出する方法です。一般的にウイルスの特異抗体の産生には感染後 2〜3 週間かかると言われています。

よって抗体測定・検査は『診断』に用いると言うより感染が既に起こっており、その後抗体を保有しているかどうかを把握する、疫学調査・サーベイランスにおいて有用です。

大まかに抗体検査は2種類あります。

・イムノクロマトグラフィー法:ラボラトリーにあるような特別な機器を必要とせず、(簡易)キットを用いて定性試験として 陽性か陰性かを判定することができます。ただし、精度にあまり期待できないとされています。

・定量検査:血液検査機を使用し、化学発光を用いて定量的に抗体価を測定する精密検査で、イムノクロマトグラフィー法より信頼性がある言えます。当院ではRoche社の”Elecsys Anti-SARS-CoV-2″ ECLIA法を使用しました。

当院スタッフの全員『陰性』という結果は、スタッフも当院へ来院される患者様もセルフコントロールをしっかり行っていた結果と私院長は捉えています。改めてこれまでのご協力に、私院長から心より感謝を申し上げます。

「自分は大丈夫なのか」、なかなか状態や判断をつかみにくい感染動向であります。当院を一つのコミュニティーとして、サーベイランス目的とし今回の定量抗体検査を実施しました。結果をふまえ、今後も必要な感染対策を考え続けて外来と病棟の運営を行ってまいります。

参考)

日本感染症学会 新型コロナウイルス感染症に対する検査の考え方

妊娠中のお父さんの喫煙

こんにちは、副院長の石田です。

喫煙がありとあらゆる面で健康に有害なことはもはや一般常識です。産婦人科的に言えば妊婦の喫煙は流早産や胎児発育不全、常位胎盤早期剥離などご本人や赤ちゃんにとって致命的な合併症を引き起こすため止めていただいていますが、実はお母さんが吸っていなくてもお父さんが喫煙していると赤ちゃんに害があることはあまり知られていません。というわけで本日はお父さんの禁煙の重要性について書きたいと思います。

そもそもなんで喫煙は体に悪いのか

タバコは数千種類とも言われるほどの化学物質を含んでいますが、その多くが炎症を引き起こしたり酸化作用があったりするため、体の中にある大切な分子構造を直接的、間接的に破壊することが知られています。その結果心臓病や呼吸器病、がんなどの病気が引き起こされるんですね 1)。特に活性酸素や窒素化合物なんかは悪名高いですが、これらは受動喫煙でも十分体に悪いことが知られています。

具体的にどんなことが起こるのか

結局起こり得ることはお母さんの喫煙と似てきますが、まず言えるのはお父さんだけが喫煙者だった場合でも赤ちゃんが育ちにくくなります。お父さんが1日1パック吸っている場合、出生体重は平均して120g程度低くなるという海外の研究がありましたが、日本人を対象にした調査でも低身長や頭が小さくなるといった傾向が示されたそうです 2)3)。また、赤ちゃんの心臓奇形が発生する率も上昇するほか、生まれた後の子供の喘息の発症率や肥満発生度、喫煙家庭に出生した男児が成長した時の精子の量や濃度など、お父さんだけの喫煙でも赤ちゃんへの様々な悪影響が考えられるようです 4)5)6)。もちろん受動喫煙がお母さんに影響して、それが赤ちゃんにまで到達して悪いイベントが起こるわけですが、日々お腹が大きくなってきて体動を感じるお母さんと違い、いまいち実感に乏しい父親は禁煙へのインセンティブが低くなりがちなのかもしれません。中には「ちゃんと外で吸ってるから大丈夫」という方も多くいらっしゃるかと思いますが、実は衣服や毛髪などに付着したタバコの粒子を介した受動喫煙というのも存在しているため一緒に生活している以上はお父さんも禁煙しない限り赤ちゃんへの健康被害を防ぐのは事実上不可能です。

というわけでお父さんもお母さんも禁煙しましょう

お母さんの喫煙が赤ちゃんにとって悪いのはもちろんですが、上記のようにお父さんの喫煙も十分に有害です。最近主流(?)の加熱式タバコは体にやさしい的な風潮がありますが、実際にフィルターからは有害化学物質が検出されており全く安全ではありません 7)。赤ちゃんが生まれて育っていく過程でも親の喫煙は子供の乳幼児突然死症候群、中耳炎、誤嚥事故など様々な健康被害との因果関係が証明されています。耳の痛い話かとは思いますが、お子さんの成長を阻害し、病気にするという点で虐待と同列に捉える考え方もあるくらい深刻な問題として考えられています。大変だけど、かわいい我が子のために是非禁煙を頑張ってみてください。

1) Graziano Colombo, et al. Mass Spec Rev 2014; 33: 183-218

2) Fernando D. Martinez, et al. Am J Public Health 1994; 84: 1489-1491

3) Inoue S, et al. J Public Health (Oxf). 2017 Sep 1; 39(3): 1-10

4) Lijuan Zhao, et al. Eur J Prev Cardiol. 2019 Mar 23

5) G. Banderali, et al. J Transl Med. 2015; 13: 327

6) Axelsson J, et al. PLoS One. 2018 Nov 21; 13(11): e0207221

7) Davis B, et al. Tod Contol. 2018 Mar 13. Psi: tod accocontrol-2017-054104.

当院でのドゥーラ(Doula)

皆さん、『ドゥーラ』という言葉を聞いたことがありますか?

ドゥーラ(Doula)は陣痛開始から分娩中を通して身体的、心理的なお産のサポートができる専門家のことを呼びます。

欧米での分娩ではかなりメジャーな存在で、訓練を受けた方々がドゥーラとして分娩の支援を行い活躍されています。

陣痛開始から分娩中に医療従事者以外でサポートしてくれる方々は、ファシリテーターとして大きなインパクトを持つと私院長は考えています。

『難産』のテーマでも一部触れましたが、当院では、分娩の際のドゥーラを『アロマセラピスト』と『旦那さん、パートナー』を位置づけています。

https://nishijima-clinic.or.jp/blog/2020/02/25/難産とは①/

分娩に立ち会うことに関する研究のメタアナリシスでは、難産、補助経腟分娩、および帝王切開の発生率が、特に初産婦の場合に低下することが示されています。硬膜外麻酔による分娩中の鎮痛がルーチンで使用されない環境で、分娩早期に支援が開始される場合、医療従事者ではなく訓練を受けた方々が妊婦を支援することにより、分娩に対し最大の効果が生じるのです。*)

旦那さんに、出産ケアの一部として短時間の特別な分娩支援訓練を受けてもらい、分娩に立ち会う方法はとても良い選択肢と考えるのです。当院では『俺のお産講座』がそれに相当します。

欧米ではこのコロナ禍でも分娩の際にドゥーラの存在は失われていません。

https://www.vogue.com/article/covid-19-coronavirus-pregnancy-childbirth-support-doulas

当院では新型コロナウイルス流行の第二波の可能性に対する感染予防対策に加え、分娩立ち合いの重要性とのバランスを慎重に検討し、分娩の立ち合い制限を一部緩和できるよう準備を進めています。

(もちろん、無理はしないことをご承知ください。)

皆さん、『お産』と『新型コロナウイルス(COVID-19)』を向き合う覚悟はできていますか?

*参考文献;

Hodnett ED, Gates S, Hofmeyr GJ, Sakala C. Continuous support for women during childbirth.
Cochrane Database Syst Rev. 2015;7(7):CD003766.

妊娠中のコレステロール

こんにちは、副院長の石田です。

妊娠中に会社などで健康診断を受けられる方がいらっしゃいます。大抵受ける相談としては「どれかやらなくてもいい、やらない方がいい項目ってありますか?」というものですが、健康診断の後で聞かれるのは「コレステロールが引っかかっちゃいました」という質問です。大抵ご説明すると安心してもらえるのですが、気にしている妊婦さんも世の中には多いかもと思ったので今日は妊娠とコレステロールに関するお話です。

コレステロールとは?

コレステロールと聞くと「脂肪」とか「心臓発作」「脳卒中」などあまりいい印象を持たない方も多いと思います。実際コレステロールが高くなるとこれらの病気のリスクが上がりますし、世の中にはコレステロールをやっつける系の健康食品やテレビ番組が溢れています。ただ、本来コレステロールは生命維持に不可欠な物質です。細胞の壁や、性機能やミネラルのバランスを整えるための様々なステロイドホルモンを作ったりするのにコレステロールが原料になるからです。コレステロールは油なのでそのままだと水分とは混ざれないため血液中を移動するのにリポ蛋白と呼ばれる乗り物に乗る必要がありますが、このリポ蛋白がLDL(いわゆる悪玉)なのかHDL(いわゆる善玉)なのかによって体への影響が変わってくるため善悪が言われるわけですね。ちなみに体内のコレステロールの量は食事で摂る分と、体内でアセチルCoAからメバロン酸、スクアレンを経由して合成する分の合計で決まります。最もよく使われる〜スタチン(例:ロスバスタチン、シンバスタチンなど)という名前の抗コレステロール薬は体内での合成経路を阻害することでコレステロールを抑えます。

妊娠中のコレステロール量は必要だから増える

妊娠中はエストロゲンやプロゲステロンなどの性ホルモンの需要が急激に増加したりと何かとコレステロールがいつもより多く必要になるため数値が高くなります。通常コレステロールは25〜50%、中性脂肪は2倍から4倍に上昇しますが、妊婦さんにおけるコレステロールの正常値ははっきりとは決まっていないそうです。また、分娩後には72時間程度で一気に数値が低下することも確認されています 1)。

お母さんや赤ちゃんへの影響

上述の通り妊娠中のコレステロールの上昇は生理的なもので、これらの変化は通常血管障害を起こすような悪い上昇ではないと考えられています 2)。ただ、その一方で妊娠中の妊娠初期の母体コレステロールが高いと早産のリスクが上がることや 3)4)、歳をとった時に心血管疾患になりやすいなどの関連は示唆されています 5)。ただ、いずれにしてもその因果関係が科学的に解明されているというわけではないようでした。

妊娠中のコレステロールの治療

というわけで妊婦さんの場合は必要があって体内のコレステロールが増えていること、正常値がはっきりしていないことなどから上記のようなリスクがほのめかされていても治療まではしないことがほとんどです。一般的に最も使用されている抗コレステロール薬のスタチン製剤はどんどん細胞やステロイドホルモンを作っている赤ちゃんにとって明らかに有害であり、奇形などの問題もあることから使われません。そんな中で魚に多く含まれるω(オメガ)3脂肪酸は母体中のコレステロールレベルを安定化させるのに有用だと言われています。事実、妊娠中の魚の消費量とコレステロールの関係を調べた研究によると、魚を食べる量が多いほど反比例してコレステロールが下がったということでした 6)。水銀などの問題はありますが、それらをしっかりと確認しつつ魚をたくさん食べた方がいいのかもしれません。(魚各種の水銀の量は厚生労働省のホームページから確認できます 7)。)

まとめ

妊娠中のコレステロールに関して今のところ問題になるのは妊娠前から治療されている方だと思われます。そういう場合は産婦人科と内科で連携して治療、管理していくことになりますが、可能であれば妊娠する前からその辺のプランを内科医や必要に応じて産婦人科医ともよく相談しておくとスムーズかもしれませんね。

1) Anne Bartels, et al. Obstet Med. 2011 DEC; 4(4): 147-151.

2) Dukic A, et al. Med Pregl. 2009; 62 Suppl 2: 80-4

3) Vrijkotte TG, et al. J Clin Endocrinol Metab 2012; 97(11): 3917-25

4) Dempsey JC, et al. Am J Obstet Gynecol 2004; 190: 1359-68

5) American College of Cardiology. https://www.acc.org/latest-in-cardiology/articles/2014/07/18/16/08/dyslipidemia-in-pregnancy

6) Williams M, et al. Clin Biochem 2006; 39: 1063-70

7) https://www.mhlw.go.jp/topics/bukyoku/iyaku/syoku-anzen/suigin/dl/100601-1.pdf

幅広い視野でみる

先日ショッキングなニュースがまいこんで来ました。

https://www.msf.or.jp/news/detail/pressrelease/afg20200514nt.html?yclid=YJAD.1589497917.mjsZ5Fydcq2mIH0e8O4TBhGacQ8HbAYXT_ANPAdTO6zbwi9Wsdf9GIzheAlzxYCuQ_fJXfKIiu9axiY-

アフガニスタンの、国境なき医師団が運営に関わる病院が襲撃をうけたのです。

この病院、産婦人科なんです。赤ちゃんや母親にも被害があったようで、本当にいたたまれない気持ちになりました。

私院長は国境なき医師団に参加した経験があります。この経験は間違いなく刺激と現在の糧となり、どんな状況でも『考え抜く・考え続ける』大切さを学びました。

私はアフリカで主に産科救急に関わる医療提供を行いました。「アフリカ」と聞くと、一見何も物資もなく、医療レベルが低そうとお考えでしょう。

実際は違います。衛生環境は日本と比べものになりませんが、皆自信とエネルギッシュでモチベーションがあり登録されたメンバーで構成された国境なき医師団です。アフリカであろうが運営に関わる病院では欧米でのスタンダードな医療を垣間みることができます。例えば美容面でも帝王切開での皮膚縫合時はステープラー(医療ホッチキス)を用いずに吸収糸での埋没縫合を行っていました。帰国後、当院でも早速採用しました。

ただ、国境なき医師団で世界をみることが「幅広い視野」とは限りません。私は昨年から院長の職を引継ぎました。医業という面からもいろいろ学ばせていただき、それは皆様やスタッフとおかれた立場や状況をより理解しようと思うようになりました。

私は常に5年先の未来を見据えながら行動しています。また副院長石田もアメリカの医師資格のアップデートなどを今後行う予定など、お互いモチベーションと「幅広い視野でみれる」のが当院での医療提供の強みにつながってくると思います。

妊婦さんや患者様にとっては、アドバイスによっては少し厳しく感じる事もあるかもしれません。ただし、根底にあるのは病態などの症状を悪化させないためで、ただ単にエクスペリエンスのアドバイスではなく、世界をみたスタンダードな知見を交えている事もご理解いただければと思います。もちろん、改善してほしい点ございましたらお申し出ください。

逆に、医療介入が少なかったと感じられた場合、それは異常がみられなかったり皆様が当院での診療に理解され、しっかり指導などを守られて経過を辿ってらっしゃる証拠かもしれません。

にしじまクリニックでこれからも安心安全な医療とサービスを提供します。それを支えるのは常々言わせていただいている「エビデンス」とアップデートされた医療、そして私たちスタッフの情熱です。にしじまクリニックが、当該地域での、皆様の「価値」となるよう努力し続けます。

アフリカで診療を行っていた時、現地スタッフから「ここは患者にとってパラダイスなんだよ」と言われました。紛争地域の中、安心安全な医療が提供されるからです。『Paradise』を英英事典で改めて調べると『place of perfect happiness』とかかれてありました。地域の違いはあれど、目指している根幹に変わりはありません。