当院の4Dエコー

こんにちは、副院長の石田です。

みなさん、4Dエコーは好きですか?私は好きです。
海外の妊婦健診だと全妊娠を通して3回くらいしか超音波検査をしないことが多いですが、日本だと毎回赤ちゃんの状態をエコーで確認する病院が多いと思います。当院もその一つですが、それに加えてにしじまクリニックでは妊娠中期以降に毎回追加料金無しのサービスで4Dエコーを行っています。そこで本日はそれについて少しお話ししたいと思います。

4Dエコーとは

体内の構造物を立体的に映すことができる装置です。Dは“Dimension(次元)”のDですが、3Dが縦/横/高さの静止画像なのに対してそれがリアルタイムで動くので時間軸を掛け合わせて4Dです。赤ちゃんの顔を含む体のパーツが キレイに見えるため、見てて楽しく思い出にも残る上にいくつかの先天性疾患においては白黒のエコー以上に正確な診断がしやすいというメリットもあります。

最近撮影した赤ちゃんたち

どのくらいはっきりと撮影できるかは赤ちゃんの向きや角度、顔の前に四肢や臍帯などの障害物があるか、子宮壁との間に羊水の空間が取れているかなどいくつかの要因に左右されるため、短い妊婦健診の時間で常によい画像が撮れるとは限りませんが、イメージとしてはこんな感じの写真が撮れます。(私がつい最近撮影した写真です。患者さん本人に写真使用の許可をいただいた上で匿名化処理をして掲載しています。)

これは妊娠13週くらい。顔を腕でバツして隠している。
これも13週台。この時期は全身が写るのがかわいい。
20週になるとだいぶ顔の形が分かるようになってくる。
35週台。臨月近くなるともうムチムチ。

ちょっと小話

私が以前、仲間とカンボジアで病院を立ち上げた時、その地域の妊婦健診受診率が非常に低いことが課題の一つでした。そのため地域のコミュニティで啓蒙活動を行ったり有力者とコネを作ったりと様々な努力をしたのですが、受診率は一向に上がりません。院長も以前アフリカで国境なき医師団として活動していましたが、同じような悩みを抱えていたことがあったそうです。
そんな時にふと、「妊婦健診の大切さを訴えるのではなく、健診自体が楽しみになれば自然に来てくれるのではないか」と思い立ち、日系企業のサポートを得て4Dエコーを導入して写真をプレゼントし始めたところ、カンボジアのド田舎で急激に妊婦健診受診率が向上するという経験をしました。
もちろん日本と新興国では状況が違いますが、にしじまクリニックは皆さんに妊婦健診を楽しみにして通っていただきたいと思っています。そうすることで母児の健康状態を的確に把握しながら皆さんと我々の間でさらに強い信頼関係を構築することも期待でき、その結果としてより安全で安心な医療を提供できるようになると信じているんですね。当院で4Dエコーを行っているのはただの「客寄せ」ではなく、実はそういった想いが背景にあります。

まとめ

さて、そんなこんなで以前より院長と私の妊婦健診で毎回4Dエコーを撮影して皆さんに見ていただくようにしていましたが、少し前から助産師外来にも機器を導入し、初期を除く全ての妊婦健診で4Dが撮影できるようになりました。当院で妊婦健診を受けていただいている方におかれましては今まで以上に楽しんでいただけると幸いです。

帝王切開分娩による愛着形成への影響

こんにちは、副院長の石田です。

先日、とある妊婦さんから「今回帝王切開の予定なのですが、お腹を痛めずに産んでちゃんとママになれるか心配です。」という悩みをご相談いただくことがありました。よく話を聞いてみると、陣痛を経験しないで産むとちゃんと愛情が出ないのではないかとご心配されていたんですね。同じようなことを気にされる方はいつの時代も少なくありませんが、実際に帝王切開でのお産は母子の絆を阻害することがあるのでしょうか?そこで本日はこの件について少し掘り下げてみましょう。

なんでそういう考え方が出てくるのか?

そもそも私としては、なんで悠久の進化の過程で痛みを感じずに出産できるようにならなかったのかがよく分かりませんが、創世記第3章によるとアダムとイブが神様がダメって言ったのに知恵の実を食べたのがまずかったみたいです。怒った神様がアダムには労働を、イブには陣痛の苦しみを罰として与えたため、いまだにお産はしんどいままということのようでした。ちなみに労働も陣痛も英語にすると”labor”ですが、その語源はここから来ているとかなんとか。
それはさておき心理学的な話をすれば、努力正当化(effort justification)と言って人間は苦労して得たものに強い愛着を感じる傾向があるため、「出産の痛みを経験することで強く子供を愛せる」→「陣痛を耐え抜かないと愛情が足りなくなる」という考えが生まれがちなのかもしれませんね。

実際の影響はどうなっているのか?

これに関しては複数の臨床研究が出ていますが、日本人を対象とした有名なエコチル調査によると経腟分娩と帝王切開で「愛情の欠如」について統計学的な差は見られませんでした 1)。それどころか別の研究では予定、緊急を問わず帝王切開分娩では経腟分娩と比べて産後8週間と14ヶ月の時点における愛着形成が強かったという結果すら示されています 2)。ちなみに帝王切開術が全身麻酔(意識がなくなる麻酔)で行われた場合、脊椎くも膜下麻酔などの局所麻酔の時と比べて退院時の愛着形成に問題が生じる可能性を示唆する報告もありましたが、それですら産後1ヶ月の時点では差が無くなっていたということです 3)。まぁ、手術によってかえって愛情が強くなるとまで言うのはやや違和感がありますが、少なくとも帝王切開分娩のせいで赤ちゃんに対する愛情が阻害されるという心配は不要だと言ってよいでしょう。

まとめ

逆子や胎児機能不全など、帝王切開術の多くは母親というよりは赤ちゃんを助けるために行われます。言い換えると「赤ちゃんが死んでもよい」なら帝王切開をする必要はないことが多々あるんですね。それにも関わらず子供のために自分のお腹を切らせる母親の決断は、私に言わせれば純度100%の愛情であり愛着形成の阻害になり得ません。手術前は母子関係ができるか不安があるとしても生まれてきた赤ちゃんが必ず皆さんを親にしてくれますので、帝王切開が決まった方におかれましても安心して分娩に臨んでいただければと思います。

参考文献
1) Taketoshi Yoshida, et al. J Affect Disorder. 2020 Feb 15;263:516-520.
2) Svenja Doblin, et al. BMC Pregnancy and Childbirth. 2023 Apr 25;23(1):285.
3) Kenta Nitahara, et al. J Perinat Med. 2020 Jun 25;48(5):463-470.

日本の妊婦と新型コロナウイルス感染症のこれまで

こんにちは、副院長の石田です。

なんか最近また新型コロナウイルス感染症の患者さんが少し増えてきているのかなという雰囲気がありますが、皆さんは元気にお過ごしでしょうか?2020年から社会全体がパンデミックにより振り回されてきたこともあり、もう名前も聞きたくないという方も多いかもしれませんが、最近の学会誌でこれまでの妊婦さんとコロナの状況についてデータをまとめた論文が出ていたので内容を簡単にご紹介してみようと思います 1)。

妊婦におけるCOVID-19の発生状況

実は国内の妊婦さんにおけるCOVID-19の罹患数についての統計は報告されていません。「あんなに毎日書類書いてどこかに送ってたのに…。」とか思うんですが、全期間を通したレジストリ登録妊婦の重症度別割合を解析すると軽症(咳のみ)が85%、中等症I(呼吸困難あり)が8.2%、中等症II(酸素投与)が6.2%、重症(人工呼吸器やECMOを使用)が0.65%ということでした。ただ、中等症II+重症の割合はデルタ株(第5波)で20%だったものの、オミクロン株(第6波)以降では1%未満と急激に低下したそうです。

妊婦のCOVID-19 重症化リスク

上記の通り、第6波以降で感染した方は明らかに重症度が低いです。ワクチンに関しては接種歴不明を除いて解析すると、中等症II・重症は1回以上接種者で0.39%に対して非接種者10%と有意に差があったようです。そのほか、重症化リスクとしては妊娠前半(21週未満でリスクが6.5倍)、体格(BMI≧30でリスクが2.8倍)、年齢(31歳以上で2.8倍)、妊娠前からの基礎疾患の有無(基礎疾患有りで2.5倍)などが挙げられたそうです。一方で妊娠に伴う産科合併症(妊娠糖尿病、妊娠高血圧症候群、切迫流早産など)に関してはCOVID-19の重症化とは関係なさそうということでした。

まとめ

本日は今さらだけど妊娠とコロナについての振り返りをご紹介してみました。どれも皆さんの肌感覚に概ね合うデータなんじゃないかなと思いますがいかがだったでしょうか?コロナだけでなくインフルエンザやマイコプラズマ、最近ではりんご病など様々な感染症が流行っていますが、妊婦さん本人はもちろんご家族も含めて十分注意しながら快適なマタニティライフをお過ごしください。

参考文献
1) Masashi D. Acta Obst Gynaec JPN 2024;76(12):1711-1716.

受動喫煙について

こんにちは、副院長の石田です。

妊娠女性においてはご本人の喫煙のみならず、周囲の人間による受動喫煙を避けることも同様にとても大切です。しかし受動喫煙について正しい知識を持っている人は意外と少ないような印象です。そこで本日はこれに関して少しお話ししてみようと思います。

受動喫煙とは

受動喫煙とは喫煙者ではない人がタバコの成分を意図せず体内に取り込んでしまうことを言います。タバコの燃えている部分から出る煙や、喫煙者が吐き出す煙を吸い込むことで成立するのが一般的な印象かと思いますが、これらの副流煙による”secondhand smoking”以外にも住宅の壁や家具の表面に付着したり埃に混ざって滞留するタバコの成分やその副産物が、皮膚や粘膜を通して体に吸収されることで健康被害を起こす”thirdhand smoking”の危険が知られています1)2)。これらの化学物質は環境中に数ヶ月から時として数年以上留まる可能性が示唆されており、取り除くのが非常に難しいことも問題とされています。

受動喫煙による健康被害

受動喫煙による非喫煙者の健康被害に関してはこれまでにたくさんの研究があります。妊娠に関係なく、一般的には肺がんの発生率が上昇するほか、乳がん、膀胱がん、うつ症状なんかの原因にもなるとされています 3)4)5)。受動喫煙をするのが妊婦さんの場合は、本人の喫煙同様に早産や低出生体重時、死産、先天奇形の頻度を上昇させたという報告もあります 6)7)8)。また、無事出産されたとしても、赤ちゃんに乳幼児突然死症候群、中耳炎、気管支喘息、発達の遅れなどの影響が出現するというデータもあり、やはり親の喫煙は良くないよねということが改めて確認されます 3)9)10)11)。

まとめ

よく「本人から離れて吸っているから大丈夫」という妊婦さんのご家族がいらっしゃるのですが、上述の通り環境に付着したタバコの成分でも受動喫煙が成立するため、少なくとも妊婦さんや子供がタバコの臭いを感じた段階で健康被害の懸念が生じます。そのため完璧な分煙というのは極めて難しく、家族の健康を考えるとみんなで禁煙する以外に方法は無いということになるんですね。タバコには受動喫煙以外にも子供による誤嚥などの危険もあるので、せっかくの妊娠を機会に是非ご家族みんなで禁煙していただくことをお勧めいたします。

参考文献
1) Winickoff JP, et al. Pediatrics. 2009;123(1):e74.
2) Sleiman M, et al. Proc Natl Acad Sci U S A.2010;107(15):6576. Epub 2010 Feb 8.
3) Yu Tong Wang, et al. Biomed Environ Sci. 2023 jan 20;36(1):24-37.
4) Irene Possenti, et al. Eur Respir Rev. 2024 Nov 13;33(174):240077.
5) Taiji Noguchi, et al. J Epidemiol. 2020 Dec 5;30(12):566-573.
6) Leonardo-Bee J, et al. Pediatrics. 2011;127(4):734
7) Crane JM, et al. BJOG. 2011;118(7):865.
8) Leonardo-Bee J, et al. Arch Dis Child Fetal Neonatal Ed. 2008;93(5):F351. Epub 2008 Jan 24.
9) Wisborg K, et al. Arch Dis Child. 2000;83(3):203
10) Polanska K, ET al. Int J Occup Med Environ Health. 2015;28(3):419-43.
11) Jones LL, et al. Arch Pediatr Adolesc Med. 2012;166(1):18

新生児の問題ない皮疹

あけましておめでとうございます、副院長の石田です。

お産が終わった後も1ヶ月健診までは産婦人科に通うのが一般的ですが、産後健診で永遠に聞かれる質問シリーズの一つが赤ちゃんの皮疹です。以前もこのブログの何かの記事で言及しましたが、私は「永遠に聞かれ続ける質問には永遠に答え続ける」と決めているので毎度外来でもお話しさせていただいています。しかし外来の限られた時間では言葉が足りないこともあるかと思うので、本日は新生児に見られるあっても問題ない皮疹についていくつかご紹介したいと思います。

新生児中毒疹

もう言葉が怖いですよね、中毒疹。英語でもerythema ”toxicum” neonatorumという「中毒」的な名前がついているのでこれを日本語訳してそう呼ばれているってことなんだろうか。
周りに赤くて丸い班を伴うニキビのような盛り上がりのある皮疹で、生後72時間以内に20%~70%程度の赤ちゃんにできると言われています 1)2)。出生体重が大きかったり出生時の妊娠週数が進んでいるほどよく見られるとされている一方、低出生体重児や早産児では少ないことが分かっています 2)3)。原因は不明ですが、一説によると無垢な皮膚に常在細菌叢を形成し始める時の免疫反応とも言われており、通常は2週間以内に勝手に消失します 4)。

脂腺増殖症

産まれたばかりの赤ちゃんの鼻の頭をよく見ると1mm程度の白い平坦なポツポツが無数に見られることがあります。これは脂腺増殖症と言って、中高年にも見られる皮膚変化ですが、一方で新生児の半数程度にも出現することが知られています 5)。こちらも多くの場合で生後数週間で消失することが知られており、治療は不要です。

稗粒腫(ひりゅうしゅ / はいりゅうしゅ)

小さなニキビの白いとこみたいなやつが主にほっぺや鼻にできることがよくあります。これは稗粒腫といって、雑に説明すると毛穴にケラチンとか皮脂が詰まるのが原因です。こちらは生後数ヶ月程度で勝手に消えるので心配要りません。

まとめ

本日は赤ちゃんのによく見られる心配ない皮疹について解説しました。本当は写真とか載せられれば良かったんですが、著作権とか大丈夫そうなのが見つからなかったので、それっぽい皮疹を我が子に見つけたらかかりつけの施設で「これ何?」って聞いてみてください。

参考文献
1) Roques E, et al. Treasure Island (FL):StatPearls Publishing;2024 Jan-.
2) Reginatto FP, et al. Pediatr Dermatol. 2017;34(4):422. Epub 2017 May 25.
3) Harshita B Reddy, et al. Curr Pediatr Rev. 2017;13(2):136-143.
4) Marchini G, et al. Pediatr Res. 2005;58(3):613.
5) Fabiola Farci, et al. Treasure Island (FL):Stat Pearls Publishing;2024 Jan 2023 Sep 4.