おしゃぶりの使い方

こんにちは、副院長の石田です。

お産後の外来でよく聞かれることの一つにおしゃぶりの使い方があります。赤ちゃんが咥えていると見た目にも可愛らしいですし、何よりも少しおとなしくなったりするので便利ですよね。ただ一方で、使用にはいくつかの注意点もあります。そこで本日はおしゃぶりについて少し解説したいと思います。

おしゃぶりのメリット

誤解されている方も少なくないのですが、一般的におしゃぶりの使用は悪いことではありません。おしゃぶりを吸うことで赤ちゃんは安心し、寝つきやすくなることがあります。予防接種や採血の際に気を紛らわすこともできますし、最近の研究では乳幼児突然死症候群(SIDS)に対する予防効果も示唆されています 1)。また、おしゃぶりを吸うようにしておくと、指と違ってやめさせたくなった時は捨ててしまえば済むので簡単です。ちなみにたまに巷でささやかれるような、母乳育児への悪影響や虫歯の原因になるというようなことは無いとされています 2)3)。

おしゃぶりの注意点

一方で、おしゃぶりを使用する際にはいくつか注意すべき点があります。まず、おしゃぶりは必ず市販の専用品を使用してください。哺乳瓶のキャップなどで代用すると、窒息などの事故につながる危険があります。(※病院の新生児室などではたまに見られることがありますが、家庭と違って医療者が適切に注意を払っている環境では問題ありません。)また、紐やストラップなどでおしゃぶりを赤ちゃんの顔や首の周囲に固定すると、思いがけない事故の原因となるため避けましょう。授乳がまだ確立していない時期におしゃぶりを使用すると、赤ちゃんがおっぱいを上手に吸えなくなる可能性があるため、授乳が軌道に乗るまでは使用を控えることが推奨されます。また、おしゃぶりは細菌やウイルスが付着しやすいため、使用前には15分以上の煮沸、またはそれと同等の方法で消毒を行うことが大切です。さらに、おしゃぶりの長期間の使用は、中耳炎や歯並びへの影響が指摘されています。そのため、生後6か月頃からは徐々に使用時間を減らすことを意識し、12か月以降はリスクがさらに高まることを踏まえて必要最小限の使用にとどめ、どんなに遅くとも36か月までには使用を終了することが望ましいでしょう。このように、おしゃぶりには「卒業の目安」を意識しながら使用することが重要です 4)。

まとめ

本日はおしゃぶりの使い方について解説しました。上手に使えば親も楽だし赤ちゃんも満足ということで便利な道具ですが、一方で適切な距離感で使用することはとても大切です。グズっているからと安易に使用せず、まずは抱っこなどであやす、卒業させたい時に本人がうまく手放せなくても決して責めずに根気よく付き合うなども意識してみてください。そのほかで何か分からないことがあれば、お産をした病院のスタッフに気軽に相談してみましょう。

参考文献
1) Rachel Y Moon, et al. Pediatrics. 2022 Jul 1;150(1):e2022057990.
2) Olli Tolppola, et al. Eur J Pedioatr. 2022 Sep;181(9):3421-3428
3) Sabrina Peressini. J Can Dent Assoc. 2003 Jan;69(1):16-9
4) American Academy of Pediatric Dentistry. Policy on pacifiers. The Reference Manual of Pediatric Dentistry. American Academy of Pediatric Dentistry; 2025:86-9.

肩甲難産の対処(アップデート版)

肩甲難産とは、児頭娩出後に胎児の肩甲が娩出されない状態を指します。典型的な徴候として「タートルサイン」、すなわち児の顔や頭が会陰に引っ込む現象が見られることがあります。診断・定義として

・児頭娩出から体幹娩出までに時間が60秒以上(5分以上経過すると児のアシドーシスのリスクが高まる)

・娩出のために何らかの補助的な産科手技を必要とする

状況です。

昨日当院で主催した周産期救急の教育コースの”ALSO”(Advanced Life Support in Obstetrics)プログラムでは、肩甲難産の対応手順を教育するために、長年「HELPERR」という対処方法の語呂合わせが用いられてきました。

ALSO先駆けのアメリカで、2020年には「HELPER4」が導入され、最後の「R4」は肩甲難産解除のための複数の手技を含んでいます。

手技自体に変わりはないのですが、中でも後在の腕の娩出(Removal of the posterior arm)が最も有効な内診手技であることを示唆するデータによって、従来の「HELPERR」よりこの手技の重要性を強調されています。ただし、すべての症例で安全に実施できるわけではありません。

そのため、「HELPER4」では医師(および助産師)が状況を評価しながら、複数の手技の中から適切な方法を選択できるようになっています。

H: call for Help early

E: Evaluate and Explain

L: Leges(McRoberts法)

P: Pressure

E: Enter± Episiotomy

R4;

R1: Removal of the posterior arm

R2: Rotatory internal maneuvers(腟内手技)

R3: Roll the patient

R4: Repeat

後方腕娩出法が最も有効というエビデンスはあるが、それだけに固執せず、状況に応じて複数の解除法を選択することがHELPER4の目的なのです。

執筆 院長

オーバートリアージを許容できる診療体制

患者さんが急変したと思った時、第一印象で重症かどうかを判断するのは緊張下のなか大変な事です。

救急医療や災害医療では、アンダートリアージ(重症患者を「軽症」と誤判定すること)が患者の生命予後に与える影響が大きいため、ある程度のオーバートリアージは許容されます。これは妊婦の蘇生を含めた周産期救急にもあてはまります。

災害下の患者重症度を判定するトリアージでは、オーバートリアージ率はある程度高いのです。例えば米国の救急医療ではオーバートリアージ率30〜50%を許容し、一方アンダートリアージ率を5%未満に抑えることが目標とされています。

以上、オーバートリアージを許容できる周産期救急における診療体制は産婦さんにとっても大切となりますが、チーム医療としてこの体制を構築できるかが重要です。

オーバートリアージを許容できる条件

・チームスタッフが緊急の状態に対するアルゴリズムを理解している。学習し知識を得て、事前にシミュレーションを繰り返し行なっておくべきです。これらが浅はかだと、何でもオーバートリアージを行なってしまい本来の意義を見失ってしまいます。

・結果オーバートリアージであったとしても、判断したスタッフに過失を求めない。

・オーバートリアージを受け入れるマインドを持っていること。これは前術のアルゴリズムがスタッフに浸透すればする程深まると考えています。

オーバートリアージを許容できる診療体制とは、

重症患者の見逃しを防ぐため、多少の過大評価による資源と気持ちの余剰を受け入れられるだけの人員・設備・教育を備えた診療体制なのです。

執筆 院長

てんかんがある女性の家族計画について

こんにちは、副院長の石田です。

日本ではてんかんのある方は人口の0.5〜1%程度いるとされており、多くの方が日常生活を送りながら治療を続けています。現在は治療法も進歩しており、多くの患者さんは薬によって発作を良好にコントロールできていますが、一方で女性の場合は注意点があります。てんかんの治療薬の中には、避妊・妊娠の両面において影響を考慮しながら使用する必要があるものもあるため、ご自身の今後の家族計画を考える際には早めに主治医へ相談することが大切ですが、実は患者さんたちが十分な情報を得られていないという現実もあります 1)。そこで本日はてんかんをお持ちの女性の家族計画について解説したいと思います。

抗てんかん薬を服用中の避妊について

最も簡便な避妊はコンドームかもしれませんが、一方で不適切な装着や損傷などのリスクから、効果が不確実であるというデメリットもあります。そのためしっかりと避妊を考える場合はホルモン剤が検討されることになります。一番身近な避妊用のホルモン剤は低用量ピルですが、実は抗てんかん薬の一部にはピルの作用を減弱させるものがあるので注意が必要です。例えばカルバマゼピン(テグレトール®︎)、フェノバルビタール(フェノバール®︎)、フェニトイン(アレビアチン®︎)などはピルの作用に対して強力に影響を及ぼすため注意が必要です。また、これらと比べると比較的影響は小さいと言われますが、ラモトリギン(ラミクタール®︎)やトピラマート(トピナ®︎)なども注意が必要です。一方でバルプロ酸(デパケン®︎)、クロナゼパム(リボトリール®︎)、エトスクシミド(エピレオプチマル®︎)などはピルとの相互作用は無いとされています。以上のことからピルとの相性が悪い薬を使用中は、コンドーム以外だとミレーナ®︎という子宮内に挿入する避妊用ホルモン剤が推奨されます。

てんかん治療中の妊娠計画

さて、避妊から一転して妊活に入る場合の注意事項です。まず一般的に勧められるのは葉酸の内服です。抗てんかん薬の中にはバルプロ酸やカルバマゼピンをはじめとして胎児の神経管閉鎖障害という先天性の疾患の原因になることが知られているものがいくつもあります。一方で妊娠前から葉酸を内服しているとこの病気の発生率が下がることが分かっているため、特にてんかんをお持ちの女性は妊活に入る前に服薬指導が入ることが多いです。具体的には日本やアメリカのガイドラインでは0.4mg/日の用量が勧められていますが、実は国や地域によって0.4~5mgとかなり異なっており、どの程度が良いのかは本当のところよく分かっていません 2)3)4)5)6)。そしてもうちょっと言うと、実は葉酸内服は「抗てんかん薬の内服に伴う神経管閉鎖障害」に対する予防効果に関しては本当にあるかどうかが分かっていません 7)。ただ、いずれにしても服薬することのメリットは確実で、かつデメリットはほとんど無いため勧められています。あとはざっくりしてしまいますが、妊活に入る前に神経科の主治医とよく相談して、できるだけ抗けいれん薬の量を少なく、種類を減らして、より安全なものに調整してもらうことも大切です。

まとめ

本日はてんかんをお持ちの女性の家族計画についてお話ししてみました。てんかんに限らず、持病をお持ちの方はできればしっかりと準備してから妊娠に臨むことが、母子の安全を確保しながら妊娠・出産を楽しむのにとても大切です。これから妊活に入ろうと考えている方は、是非普段の主治医に加えて最寄りの産婦人科にも、どんな準備が必要なのか相談してみてください。

参考文献
1) Makiko Egawa, et al. Epilepsy Behav. 2020 Oct:111:107176.
2) 日本神経学会:てんかん診療ガイドライン 2018
3) Anne L Dunlop, et al. Am J Obstet Gynecol. 2010 Jan;202(1):e18.
4) Yi Li, et al. Epileptic Disord. 2025 Dec;27(6):1209-1216.
5) C L Harden, et al. Neurology. 2009 Jul 14;73(2):142-9.
6) Royal College of Obstetricians & Gynecologists. Epilepsy in Pregnancy. Green-top Guideline No. 68. June 2016.
7) Stephen M Kerr, et al. Birth Defects Res. 2020 Nov;112(18):1526-1540.

妊婦さんのCPRとAED使用

産婦の心停止を認識した場合、質の高いCPRを行う事で母体と胎児の生存の可能性が高まります。

*CPR(CardioPulmonary Resuscitation):心肺蘇生

心停止の認識

・意識反応の有無:傷病産婦の両肩を叩き、「大丈夫ですか」と大きな声で尋ね、意識を確認します。

また大声で助けを呼び、救助者の確保に努めます。

・正常呼吸の有無:胸郭の上がり下がりで呼吸の有無を10秒以内にチェックします。

・呼吸の確認とともに、10秒以内にはっきりとした脈拍を触知できるか:成人は頸動脈の触知にて脈拍をチェックします。

これらの所見がない場合は「心停止」と認識し、すばやくCPRに移行します。

質の高いCPRを行う

・心停止を認識してから10秒以内に胸骨圧迫を開始します。

・胸の上がりがある効果的な人工呼吸を行います。

AEDによるショックは胎児に害を及ぼさない

一般成人の心停止と同様にCPRを開始しAEDの到着後、AEDを使用します。

AED装着後のアルゴリズムは成人も産婦も変わりありません。

*AED(Automated External Defibrillator):自動体外式除細動器

AEDを使用した場合の胎児への影響ですが、電気ショックが胎児に影響する可能性がまったくないとはいえませんが、悪影響を及ぼした報告はありません(それ以上の危機に瀕しているとも言えます)。
除細動のための電極が貼ってある位置は母親の(右)胸部であり、母体腹部かつ羊水の中にいる胎児の心臓からは相当離れており、ショックエネルギーは胎児心臓に到達するまでにかなり減弱されていると考えられています。

もう一人救助者がいれば、質の高いBLSに加えて子宮左方移動

用手的子宮移動を、もう一人の救助者がいる場合は試みます。傷病産婦を蘇生し、左側臥位へ横向きにします。これにより母体心臓への血流が改善し、ひいては胎児への血流も回復するのです。

なお、呼吸と脈拍が正常であった場合も、傷病産婦を左側臥位にして救急応答者の到着を待ちます。

参考:AHA BLSプロバイダーマニュアル

執筆 院長