妊娠初期の流産に向き合う治療方法の選択肢

こんにちは、副院長の石田です。

当院では多くのご家族が毎日のように新しい命を迎え入れている一方で、残念ながら流産を経験される方も一定数いらっしゃいます。流産とは、妊娠21週6日までに何らかの理由で妊娠が終わってしまうことを指します。妊娠22週が一つの区切りになっているのは、それ以前では新生児の生存そのものが極めて難しいからですが、かつて妊娠28週だったこの境界は医学の進歩によって徐々に引き下げられ、1993年から現在の週数に至っています。このうち妊娠12週までに起こるものを「初期流産」と呼びますが、本日はそうなってしまった時の治療方法について解説したいと思います。

初期流産について

統計によりバラツキがありますが、診断された妊娠のうち15%前後は流産になるとされています 1)。しかし、実は妊娠と診断される前に流産が起きる場合もあることが知られており、そういったケースでは月経が少し遅れただけと勘違いされたまま人知れずに流産となっています。こうした妊娠初期のごく早い段階のも含めると、全妊娠の約40%近くが流産に至るという報告もあります 2)。初期流産の多くは胎児の染色体異常や絨毛形成の異常など偶発的で防ぐことができない要因によるものであり、お母さんの生活習慣や行動が直接の原因になることは多くありません 3)。

初期流産の治療方法

初期流産と診断された場合の治療には、大きく分けて「自然排出を待つ方法(待機的管理)」と「手術による方法(外科的治療)」があります。
待機的管理は子宮の中の内容物が時間の経過とともに自然に排出されるのを待つ方法です。自然排出が成功すれば手術による子宮損傷や麻酔の合併症などを避けられます。また、手術費用がかからないため経済的負担も少なく済みます。ただし自然排出が必ず起こるとは限らず、長く待っても排出が始まらないこともあります。その場合、出血や感染のリスクを考慮して手術に切り替えることがあります。
外科的治療は手術で子宮内容物を取り出す治療です。取り出した胎児や胎盤の組織を確実に病理検査に出せるため、まれに見られる胞状奇胎などの異常妊娠を早期に発見できるという利点があります。また、流産を診断後のスケジュールを立てやすく、心身の切り替えもしやすいという特徴もあります。ちなみに当院ではWHOの推奨に基づき真空吸引法という患者さんの体にやさしい手術法を採用しています。
ガイドライン上はどちらの選択肢も理にかなっているとされており、どちらか片方に絶対的な優位性があるということはありません。

まとめ

本日は初期流産の治療に関してお話ししました。これら以外に外国では薬物治療も選択肢に入ります。院長も私も海外医療での使用経験があるためその有用性を知っていますが、残念ながら日本では使えません。
待機と手術、どちらの方法にもメリットと注意点がありますが、流産手術は保険適応であり民間の医療保険も適用される可能性があるため経済的に重い負担になりにくいこと、また待機療法において先々の目処が立たないことが患者さん本人の心に思った以上に負担となりやすいことから、特にご希望がない方には当院では手術を勧めることが多いです。ただ、これに関しては医師や病院によって考え方が分かれる部分ではありますので、残念ながら流産となってしまった方におかれましては主治医とよく相談して方針を決めていただければと思います。

参考文献
1) 日本産科婦人科学会. 産婦人科診療ガイドライン産科編 2023 CQ202
2) Toni Jackson, et al. JAAPA. 2021 Mar 1;34(3):22-27.
3) Clark Alves, et al. Treasure Island (FL): StatPearls Publishing; 2025 Jan-

ビショップスコア

「37週に入ったらすぐ計画出産(経腟分娩)にしてください」

ご事情をふまえ、お気持ちは察するのですが、にしじまクリニックの方針としては『診察・内診に応じて入院日をご相談』する形をとらせてもらっています。

37週以降の妊婦健診でBishop(ビショップ)スコアの表がリーフレットに添付しています。ビショップスコアの点数が上がれば、お産が近い事を示唆しています。

医師または助産師が診察(内診)においてビショップスコアの偏り(差)がないよう当院は心がけています。

ビショップスコア. 産婦人科ファーストタッチから

子宮口開大は子宮口

子宮の出口部である子宮口は、腟側が「外子宮口」、

胎児側が「子宮口」です。ビショップスコアにおける子宮口開大については「子宮口」で評価します。

※ただし、未陣痛時の外来においては下記に説明する『展退度』はまださほど進んでいませんから、外子宮口も子宮口も差があまりない事が多いです(入院・陣痛発来後はしっかり評価しなければなりません)。

ESSENTIAL OBSTETRIC AND NEWBORN CAREから.`internal OS’は内子宮口

展退度は子宮頸管長が目安

お産が近づくと、子宮口の開大より先に子宮頸管の展退が進みます。「展退」とは「子宮頸管の熟化」を表します。子宮頸管が柔らかくなれば児頭は降りやすくなり、かつ子宮口が広がりやすくなるのです。

診察者による展退度のバラツキ(偏り)がないようにするには、子宮頸管長と照らし合わせると整合性が高くなります。例えば「展退度40〜50%」は「子宮頸管長2〜4cm」に相当します。

分娩進行時、児頭下降の評価Progression angleを測定するとなお良い

内診で児頭がどの位降りているか、『児頭が陥入している状態はStation 0』という定義等から診察者は評価をしています。

さらには超音波を用いてProgression angleを確認する事で、内診による児頭下降評価との再現性が高まります。例えば「児頭の位置(Station)が−1〜0」は「Progression angle 130度」に相当します。

以上から、計画出産日のご相談は早産の既往や前回37週で分娩となった方以外の方では、少なくとも37週のビッショップスコアと、

38週のビショップスコアの変化を確認してからが望ましいです。

執筆 院長

妊娠と耳がつまる感覚について

こんにちは、副院長の石田です。

妊娠中の女性からよく聞かれる訴えのひとつに「耳がつまったように感じる」というものがあります。飛行機に乗ったときのような音がこもる感覚や聞こえにくさを伴うことも多く、不安に感じる方が少なくありません。妊娠するとこのような状態になりやすくなることが知られていますが、下腹部で起こる妊娠と頭についている耳にどんな関係があるのでしょうか?そこで本日はこの件について解説してみようと思います。

耳管の構造と機能

先に言ってしまうと、これは耳管開放症という状態です。耳管とは耳と鼻をつなぐ細いトンネルのような管で、長さはおよそ3〜4センチです。片方は中耳(鼓膜の奥)につながり、もう片方は鼻の奥(上咽頭)に開いています。耳管は喉から耳の奥にばい菌などが入らないように普段はぴったり閉じていますが、気圧の変化があっても鼓膜が適切に動くように耳の中の空気を入れ替えたり(高層ビルのエレベーターに乗っている最中に耳がこもるけど、あくびすると治るアレ)、耳の中で出た分泌物や水分を鼻のほうへ排出するときには開く仕組みになっています。

耳管開放症とは

耳管開放症とは、この耳管が開きっぱなしになってしまう状態のことです。妊娠するとエストロゲンやプロゲステロンといった女性ホルモンが増加しますが、それにより血管透過性の向上や平滑筋の弛緩、組織の浮腫などが引き起こされ、それらの結果として耳管の開閉機能に異常をきたすと考えられています 1)2)。報告によってまちまちですが、妊婦さんの30%前後にこの症状が出るらしいです。通常は耳に届いた音が鼓膜を振るわせて内耳、神経と伝わっていくのですが、耳管が開いていると内耳での音響が変化したり、喉の奥からの音が直接内耳に届いたりするため、音の感じ方が変わって非常に不愉快です。

まとめ

妊娠中の耳管開放症はある意味生理現象であり、正直あまり有効な治療はありませんが、妊娠が原因のため出産後には自然に治ることがほとんどです。一方でずっと症状が続いたり、聞こえづらさ以外の症状が併発するような時は突発性難聴や中耳炎などほかの疾患との鑑別が必要になることもあるため最寄の耳鼻科にご相談いただくのがよいかもしれません。人によっては漢方が効くこともありますので、ご希望の方はかかりつけの産婦人科でご相談ください。

参考文献
1) Santosh Kumar Swain, et al. J Otol. 2019 Nov 22;15(3):103-106
2) Alicja Grajczyk, et al. J Clin Med. 2024 May 2;13(9):2671

JCSとGCS

患者さんの急変を感知した時は、医療従事者は意識レベルを評価し、脳神経学的異常を判断する必要があります。その評価・スケールとして、一般的には「JCS」と「GCS」を採用されていることが多いです。

JCS(Japan Coma Scale)

日本で汎用されてきたスケールで、救急隊員らも日常的に使用しています。

1桁(1, 2, 3)は刺激しなくても覚醒している状態

2桁(10, 20, 30)は刺激(呼びかけ、痛み刺激)で開眼

3桁(100, 200, 300)は刺激でも覚醒しない

状態を表します。意識レベルとして「問題なし」と言える状態は、JCS 1より意識清明である事が必要です。

急変対応のプライマリーサーベイにおいて、呼びかけに反応がなければ痛み刺激を与えます。刺激に対して発語があれば、気道は開通している(A: AirwayはOK)ということにもなります。

例えば急変時、

・本人に呼びかけるも開眼しない→JCS 20以上

・爪にペンを押し当てる(胸骨を拳で刺激)しても開眼しない→JCS 100以上の可能性があります。

日本神経治療学会HPから

GCS(Glasgow Coma Scale)

開眼(E: Eye opening)

発語(V: Verbal response)

運動機能(M: Motor response)

の3つの要素で意識レベルを評価します。GCSは15点満点が意識レベルとして問題なし、とします。

日本神経治療学会HPから.

例えば

・感染を疑う妊産婦において、GCS 15点未満で「意識変容」があれば、続いて呼吸回数やその他バイタルサインも確認します。

また

・短時間で2点以上減点となれば脳ヘルニアの出現等を疑います。

執筆 院長

「方位点=先進部」ではありません!

産科医療従事者の方、分娩第2期において、以下の児頭の向きを説明できますか?

最新産科学(文光堂)から

方位点とは

児頭の回旋において、英米は児頭の向きを方位点(determining point)を用いてPositionを表現します。

「方位点」というと身構えてしまいますが、これは出口部を時計の様に見立てて児の向きを表現してるだけです。

頭位のうち後頭位、頭頂位、前頭位は、後頭(Occiput)が方位点となります。これらは内診で後頭が触れるからです。

Positionの『OA』という表現は「O」は上記どおり「Occiput:後頭」の事で、「A」は「Anterior:母体腹側」のことを指します。

一方、後頭が触れない顔位は頤(オトガイ)Mentus「M」を方位点として用います。

よって上の胎児のPositionは『RMP』となります。余談ですが、『MP』は経腟分娩は可能でしょうか?

まずは、若い(経験が浅い)産科医療従事者に申し上げたいのは

頭位であっても後頭が触れないなら安易に「OA」または「OP」と言ってはいけません。

骨盤位は、もちろん後頭を内診で触れないので、児の仙骨 Sacrum「S」を方位点として用います。

OA』は『前方後頭位』だけではない

OAを確認しても、その先進部は小泉門か大泉門の可能性があるのです。

・OAの状態で先進部が後頭なら『前方後頭位』

となりますし、

・OAの状態で先進部が前頭位なら『後方前頭位』となります。分娩経過において後頭が母体恥骨に奥まって、大泉門が容易に触れる事はありませんか?

経験上、後方前頭位は児(特に頭)が大きい場合や不正軸進入の場合に起こり得ます。

不正軸進入は『頭頂位』ではありません

吸引分娩は方位点の判断も必要だし、小泉門の触知も必要

小泉門は”posterior fontanel“が英訳となります。間違ってもらいたくないのがこの”posterior”は母体背側の事ではなく、児頭の頭側の頭蓋骨どうしの隙間ということです。

吸引分娩を行う時は「Determine Position」、いわば『OA』か『OP』かを確認しかつ

屈位を保って児頭を娩出させるため「Flexion point」の確認が必要です。Flexion pointは「矢状縫合線上で小泉門から3cm前方」と定義されるので、Positionだけでなく小泉門の触知も行わないといけません。ALSOのプロバイダーマニュアルでも

“the center of the cup should be applied 3 cm anterior to the posterior fontanel, centering the sagittal suture under the vacuum.”

と書かれており、単に方位点のみわかれば良いというわけではないのです。

またもう少し深い読みをすれば、吸引カップの真ん中にFlexion pointと一致(装着)できれば、不正軸進入でも吸引分娩を行う事が可能とも言えます。

最後に、上の胎児のPositionで吸引分娩は可能ですか?小泉門ましてや後頭は触知できる状態ですか?

執筆 院長