NIPTを早く受けることについて

こんにちは、副院長の石田です。

以前からこのブログでご紹介しているように、当院では認証施設としてご希望の患者さんに妊娠11〜12週前後でNIPTを提供しています。妊婦さんの採血だけで染色体異常について知ることができるこの検査を希望される方は多いですが、検査前の相談でよく聞かれるのが「結果を早く知りたいので検査ももう少し早くできますか?」という質問です。心情的になんとなく焦ってしまうのは理解できますが、果たして早く受けることはできるのか、そしてそれは本当に良いことなのか、今回は一緒に深掘ってみましょう。

そもそもなぜその週数で行うのか?

NIPTは胎盤(厳密にいうとこの週数では絨毛と呼ばれる組織ですが)の古くなって剥がれた細胞から妊婦さんの血流中に漏れ出てきたDNAの断片(cfDNA)を数えて病気の有無を調べる検査です。この胎児・胎盤由来のcfDNAが母体血中に占める割合を”fetal fraction”と呼びますが、正確な検査を行うためにはこれが十分に高いこと、具体的には少なくとも4%以上あることが大切です 1)2)。通常胎児・胎盤由来のcfDNAは早いと妊娠5週から、遅くても妊娠9週までには母体血中にみられるようになります 3)。そして妊娠10週以降になると概ね10〜20%のfetal fractionが得られるようになるためNIPTはその頃から行われるようになるんですね 2)4)5)。

早く受けることにメリットはあるのか?

色々と考え方はあると思うのですが、私個人としてはNIPTを早く受けるメリットはあまりないと考えています。検査精度のこともそうですが、NIPTは非確定検査と言ってそれ自体の陽性・陰性では診断が確定しません。例えばダウン症候群が陽性となっても、本当に21番染色体が3本あるかは絨毛検査や羊水検査を受けないと分からないんですね。そして多くの施設で提供されている羊水検査は妊娠16週頃にならないと受けられないので、結局そこまで待つことになります。たまに「早期NIPT」として妊娠6週頃よりNIPTを提供している施設がありますが、何かそれが可能になる新技術でもあるのかと文献を調べたり関係各所にヒアリングしてみたものの、今のところそういった事実は確認できませんでした。実際そうした施設のウェブサイトを確認すると「判定保留の場合は無料で再検査いたします」と書いてあり、もしかしたら従来のNIPTを早くにやっているだけなのかもしれません。「早くに分かれば内服薬による中絶を選択できる」とする意見も散見されますが、一般的にNIPTの結果だけで中絶を受けてくれる産婦人科はほとんど無いと思われます。

まとめ

本日はNIPTを受ける時期について解説いたしました。赤ちゃんのことを早く知りたい気持ちもあるとは思いますが、闇雲に焦るとかえってモヤモヤする時間が長くなったりとストレスが増えてしまう恐れもあります。日本の妊婦健診や出生前診断は必要な検査を適切な時期に受けられるよう配慮されていますので、慌てず一つひとつ進めていくようにしましょう。

参考文献
1) Lisa Hui, et al. Prenat Diagn. 2019 Dec 10;40(2):155-163.
2) Sanaz Mousavi, et al. BMC Pregnancy and Childbirth. 2022 Dec 8;22(1):918
3) Guibert J, et al. Hum Reprod. 2003;18(8):1733.
4) G Ashoor, et al. Ultrasound Obstet Gynecol. 2013 Jan;41(1):26-32.
5) Glenn E Palomaki, et al. Genet Med. 2011 Nov;13(11):913-20.

産後ミレーナ®︎挿入の適切な時期(当院の対応)

ミレーナ®︎の産後に挿入する時期について、添付文章の記載を確認しながら考察します。

「産後は子宮の回復を待ってから挿入 、産後6を目処は要点を全てクリアしている方に

海外では産後6週を目安に、希望者にミレーナ®︎を挿入する事があります。産後早期に希望される、すなわち避妊目的ですから、この場合は自費請求となります。ただし、

「授乳中は子宮穿孔のリスクがあり」

と添付文章も記載されています。よって当院の対応に関わらず、授乳中はミレーナ®︎の挿入は控えた方がよいでしょう。ミレーナ®︎は黄体ホルモンを放出するので母乳中への移行も報告されています。

穿孔のリスク、という事に関しては帝王切開術後症例は術部(子宮創)の回復を待ってから挿入します。また、

「海外での大規模市販後調査において、授乳をしていない女性のうち、分娩後36週目までにIUDを装着した女性は、分娩後36週目を超えてIUDを装着した女性に比べ子宮穿孔のリスクが高かった」との報告があります。

以上から、産後10ヶ月以降にミレーナ®︎の挿入を考慮するのが無難かと考えます。そして産後10ヶ月以降に月経(生理)が開始していれば

「妊娠初期の装着を防止するために、月経開始後7日目に装着」と添付文章どおりに処置が可能ですが、産後、月経(生理)が再開していない方はこのリスク(新たな妊娠の可能性)もあることを知っておくべきです。

以上から「産後6週のミレーナ®︎挿入」は

・経腟分娩後で悪露の排出が終了し、子宮復古と判断できる

・授乳をしていない

・子宮穿孔のリスクを理解されている

要点を全てクリアした方が適応となります。

ミレーナ®︎希望の方は避妊目的以外に、月経困難症の方(保険適応)もいらっしゃいます。個々に応じて対応をいたしますので、まずは私院長または石田副院長へお声かけください。

執筆 院長

NIPTの検査機関と検査精度について

こんにちは、副院長の石田です。

当院は現在、日本医学会の出生前検査認証制度等運営委員会の認証を受けてNIPTを提供していますが、妊婦健診や検査前の遺伝カウンセリングでよく聞かれる質問の一つに「NIPTの検査精度って病院によって違いますか?」というものがあります。実はこれ、とても大事なことなので今回は本件について少し説明させていただこうと思います。

NIPTってどこで検査しているの?

一般的にNIPTは各医療施設でカウンセリングと採血を行ったのち、検査会社に血液サンプルを渡して行います。結果が出たらそれが病院に返送され、外来等で担当医から患者さんに報告するという仕組みになっており、院内で検査をしているわけではないんですね。つまり厳密に言うと検査精度は「どの病院を受診するか」というよりは「どの検査会社が行うか」によることになります。

病院はどんな検査会社と契約しているの?

あまり知られていませんが、NIPTの認証制度は病院や診療所などの医療施設だけでなく、検査会社の方にもあります。同じく出生前認証制度等運営委員会により認証された検査会社を「認証検査分析機関」と呼びますが、認証施設はほぼ間違いなく認証検査分析機関と契約しているため検査の質が保証されているんですね。逆に認証検査分析機関は非認証施設に検査を提供すると「委員会認証検査分析機関剥奪」につながる恐れがあります。そのため非認証施設は同様に認証を受けていない検査会社と契約していることがほとんどですので、そこで行われている検査の質が高いか低いかは分からないということになります。

まとめ

もちろん「非認証施設の検査は質が低い」と言ってしまうのは暴論ですが、少なくとも認証施設の検査は安心して受けていただけますよというお話でした。NIPTをお考えの妊婦さんとそのご家族におかれましては、そのほかにも気になることがあればスルーしてしまうのではなく、遠慮なくかかりつけの主治医に相談しましょう。

当院の4Dエコー

こんにちは、副院長の石田です。

みなさん、4Dエコーは好きですか?私は好きです。
海外の妊婦健診だと全妊娠を通して3回くらいしか超音波検査をしないことが多いですが、日本だと毎回赤ちゃんの状態をエコーで確認する病院が多いと思います。当院もその一つですが、それに加えてにしじまクリニックでは妊娠中期以降に毎回追加料金無しのサービスで4Dエコーを行っています。そこで本日はそれについて少しお話ししたいと思います。

4Dエコーとは

体内の構造物を立体的に映すことができる装置です。Dは“Dimension(次元)”のDですが、3Dが縦/横/高さの静止画像なのに対してそれがリアルタイムで動くので時間軸を掛け合わせて4Dです。赤ちゃんの顔を含む体のパーツが キレイに見えるため、見てて楽しく思い出にも残る上にいくつかの先天性疾患においては白黒のエコー以上に正確な診断がしやすいというメリットもあります。

最近撮影した赤ちゃんたち

どのくらいはっきりと撮影できるかは赤ちゃんの向きや角度、顔の前に四肢や臍帯などの障害物があるか、子宮壁との間に羊水の空間が取れているかなどいくつかの要因に左右されるため、短い妊婦健診の時間で常によい画像が撮れるとは限りませんが、イメージとしてはこんな感じの写真が撮れます。(私がつい最近撮影した写真です。患者さん本人に写真使用の許可をいただいた上で匿名化処理をして掲載しています。)

これは妊娠13週くらい。顔を腕でバツして隠している。
これも13週台。この時期は全身が写るのがかわいい。
20週になるとだいぶ顔の形が分かるようになってくる。
35週台。臨月近くなるともうムチムチ。

ちょっと小話

私が以前、仲間とカンボジアで病院を立ち上げた時、その地域の妊婦健診受診率が非常に低いことが課題の一つでした。そのため地域のコミュニティで啓蒙活動を行ったり有力者とコネを作ったりと様々な努力をしたのですが、受診率は一向に上がりません。院長も以前アフリカで国境なき医師団として活動していましたが、同じような悩みを抱えていたことがあったそうです。
そんな時にふと、「妊婦健診の大切さを訴えるのではなく、健診自体が楽しみになれば自然に来てくれるのではないか」と思い立ち、日系企業のサポートを得て4Dエコーを導入して写真をプレゼントし始めたところ、カンボジアのド田舎で急激に妊婦健診受診率が向上するという経験をしました。
もちろん日本と新興国では状況が違いますが、にしじまクリニックは皆さんに妊婦健診を楽しみにして通っていただきたいと思っています。そうすることで母児の健康状態を的確に把握しながら皆さんと我々の間でさらに強い信頼関係を構築することも期待でき、その結果としてより安全で安心な医療を提供できるようになると信じているんですね。当院で4Dエコーを行っているのはただの「客寄せ」ではなく、実はそういった想いが背景にあります。

まとめ

さて、そんなこんなで以前より院長と私の妊婦健診で毎回4Dエコーを撮影して皆さんに見ていただくようにしていましたが、少し前から助産師外来にも機器を導入し、初期を除く全ての妊婦健診で4Dが撮影できるようになりました。当院で妊婦健診を受けていただいている方におかれましては今まで以上に楽しんでいただけると幸いです。

帝王切開分娩による愛着形成への影響

こんにちは、副院長の石田です。

先日、とある妊婦さんから「今回帝王切開の予定なのですが、お腹を痛めずに産んでちゃんとママになれるか心配です。」という悩みをご相談いただくことがありました。よく話を聞いてみると、陣痛を経験しないで産むとちゃんと愛情が出ないのではないかとご心配されていたんですね。同じようなことを気にされる方はいつの時代も少なくありませんが、実際に帝王切開でのお産は母子の絆を阻害することがあるのでしょうか?そこで本日はこの件について少し掘り下げてみましょう。

なんでそういう考え方が出てくるのか?

そもそも私としては、なんで悠久の進化の過程で痛みを感じずに出産できるようにならなかったのかがよく分かりませんが、創世記第3章によるとアダムとイブが神様がダメって言ったのに知恵の実を食べたのがまずかったみたいです。怒った神様がアダムには労働を、イブには陣痛の苦しみを罰として与えたため、いまだにお産はしんどいままということのようでした。ちなみに労働も陣痛も英語にすると”labor”ですが、その語源はここから来ているとかなんとか。
それはさておき心理学的な話をすれば、努力正当化(effort justification)と言って人間は苦労して得たものに強い愛着を感じる傾向があるため、「出産の痛みを経験することで強く子供を愛せる」→「陣痛を耐え抜かないと愛情が足りなくなる」という考えが生まれがちなのかもしれませんね。

実際の影響はどうなっているのか?

これに関しては複数の臨床研究が出ていますが、日本人を対象とした有名なエコチル調査によると経腟分娩と帝王切開で「愛情の欠如」について統計学的な差は見られませんでした 1)。それどころか別の研究では予定、緊急を問わず帝王切開分娩では経腟分娩と比べて産後8週間と14ヶ月の時点における愛着形成が強かったという結果すら示されています 2)。ちなみに帝王切開術が全身麻酔(意識がなくなる麻酔)で行われた場合、脊椎くも膜下麻酔などの局所麻酔の時と比べて退院時の愛着形成に問題が生じる可能性を示唆する報告もありましたが、それですら産後1ヶ月の時点では差が無くなっていたということです 3)。まぁ、手術によってかえって愛情が強くなるとまで言うのはやや違和感がありますが、少なくとも帝王切開分娩のせいで赤ちゃんに対する愛情が阻害されるという心配は不要だと言ってよいでしょう。

まとめ

逆子や胎児機能不全など、帝王切開術の多くは母親というよりは赤ちゃんを助けるために行われます。言い換えると「赤ちゃんが死んでもよい」なら帝王切開をする必要はないことが多々あるんですね。それにも関わらず子供のために自分のお腹を切らせる母親の決断は、私に言わせれば純度100%の愛情であり愛着形成の阻害になり得ません。手術前は母子関係ができるか不安があるとしても生まれてきた赤ちゃんが必ず皆さんを親にしてくれますので、帝王切開が決まった方におかれましても安心して分娩に臨んでいただければと思います。

参考文献
1) Taketoshi Yoshida, et al. J Affect Disorder. 2020 Feb 15;263:516-520.
2) Svenja Doblin, et al. BMC Pregnancy and Childbirth. 2023 Apr 25;23(1):285.
3) Kenta Nitahara, et al. J Perinat Med. 2020 Jun 25;48(5):463-470.