親世代の話やインターネット・SNSの情報に惑わされないで!

かつて出産を経験した方々、特に実母や義母をはじめとする年配の女性は、自分の昔の記憶を引っ張り出して、あなたにいろいろとアドバイスしてくるかもしれません。

 「私の時はこうだったのよ」という思い出話で終わるなら何も問題はないのですが、「だから、あなたもこうしなきゃ!」と行動を強いるような言葉は、無視していただいて結構です。

 医学の進歩は目覚ましく、30年前に比べて妊娠・出産の常識は大きく変化しています。私は両親学級で常々「お母さんの言うことを聞いてはいけない」と話しています。その頃の情報が正しいと思っている年配の方々は大勢います。真面目な妊婦さんほど他人からのこうしたアドバイスに悩んでしまいがちですが、ぜひ話半分に受け流してください。

また、インターネット・SNSにある情報にも要注意です。熱心な患者さんほど、自分であれこれ調べて情報収集する傾向にあるようです。確かに、中には信頼できる情報もあるのですが、眉をひそめたくなるほど怪しい情報も渦巻いています。特に、投稿者が自分の質問や疑問を書きこみ、誰かがそれに回答するQ&Aのマタニティーのコミュニティーサイトや(名前を偽る)匿名掲示板は、事実ではない情報が多々あります。

以前、ある妊婦さんが、腹痛を訴えて来院されたことがありました。聞くと、前日の昼からずっと腹痛があったといいます。どうしてすぐ来院しなかったのかと尋ねると、「インターネットで調べたら、『横になっていればおさまります』と書いてあったので様子を見ていた。」とおっしゃっていました。この方は、大病院に救急車で搬送したのですが、早産されました。もう少し早く来てくださっていたら妊娠継続できていた可能性があると思うと、残念でなりません。インターネットに書いてある断片的な情報から「自分の症状はこれに当てはまるだろう」と勝手に思い込んで、自己判断してしまうのはきわめて危険です。

 また、「寝ていれば大丈夫」といった楽観的な誤情報も困りものですが、「妊婦さんだから安静にしているべき」「薬は一切飲んじゃダメ!」などといった、妊婦さんの不安をいたずらにあおる誤情報にあふれている点も、インターネットの良くないところです。

妊婦さんの状態を誰よりもよく知っているのは、かかりつけの主治医です。AIよりもです。遠慮せずに、何でも主治医へ尋ねるようにしてください。

執筆 顧問 

「初産婦の出産は予定日より遅れることが多い」は誤り

以前、私顧問が執筆した

はじめてママになる人の「妊娠・出産」読本(西島重光著 2016年幻冬舎)から

どうしても知っておいて欲しいことを今後とりあげていきます。

多くの妊婦さんが周りの人たちから言われる言葉に、「初めての出産は、予定日より遅れるものだよ」というものがあります。しかし、これは本当ではありません。

日本産科婦人科学会による「全国の周産期統計」(2015年)のデータを見ると、初産婦・経産婦ともに、予定日より少し前の妊娠39週での出産が最も多く、次いで38週の出産、その次に40週の出産であることが分かります。(図1)当院の統計でも、全国統計と同様に39週での出産が最も多く、過半数の妊婦さんは予定日前に産んでいます。初産婦の方が経産婦よりも予定日以降に産む比率が高い(=予定日より遅れる人の割合が多い)(図2)傾向にあり、これが少々誤解されて広まったのではないかと考えられます。

以前、あるマタニティ雑誌に掲載されていた「出産の想定外ランキング」の第1位は「予定日よりも出産が早く始まった」でした。なんと6割もの方が第1位に選んでおり、多くの妊婦さんが分娩予定日より前に出産する事実を知らなかったことを表しています。

 出産は分娩予定日の前後に多いのですが、出産の多くは「出産予定日」より前の妊娠39週頃になりますし、予定日ピッタリに産む人は100人中4人ぐらい(5%以下)でほとんどの人は予定日以外に出産します。私は両親学級で、分娩予定日を気にし過ぎる妊婦さんたちに「40という切りのよい数字があったから予定日とされているだけ」と伝えています。

出産予定日は「産む日」ではないのです。出産は予定日より早くなるものだと考えて、早めに出産準備をしておきましょう。

執筆 顧問

妊娠中の休業についてよくある誤解

こんにちは、副院長の石田です。

さて、産婦人科医をやっていると「妊娠してから出勤や勤務が大変なので仕事を休みたいです。人事に相談したら、医者から診断書を出してもらったら休めると言われました。書いてもらえますか?」と相談されることがしばしばあります。話を深掘りしていくと、ご本人や勤務先は傷病手当金を取得しての休業を考えていらっしゃることが多いのですが、結論から言うとご協力できないことが少なくありません。ここには妊婦さんご本人だけでなく、意外とお勤め先の人事責任者も含めて制度への誤解があるのではないかと感じたので、本日はこの件について少し解説させていただこうと思います。

診断書や傷病手当金とはどういうものか

傷病手当金とは、病気やケガを原因に会社を休むために十分な給与が受けられないときに、加入している健康保険から生活を保障するために支給されるお金のことで、健康保険法第九十九条に定められています 1)。原資は加入者から集められた保険金であり、法に則った厳正な審査のもとに支給が決定します。そのため診断書の内容に疑義が生じた場合は、保険の運営側から申請書を記載した医師にかなり細かい問い合わせが来ます。
以上のことから妊娠悪阻や切迫早産などの明確な労働不能と判断されるような医学的理由が無く、「妊娠している」「仕事がつらい」だけではこれらの書類を出すことはできません。それでも無理に医師が診断書や傷病手当金申請書を記載・発行した場合は医師・患者双方とも刑事/民事責任および行政処分の対象となる可能性もあるため、皆さんが妊娠した体で出勤し働くのが大変なのは理解しつつも、制度上の要件として客観的な評価が必要ということになります。

でも、つらいもんはつらい

医学的に働けるかどうかと、ご本人がしんどい思いをしているかどうかはしばしば折り合わないことがあります。我々としても目の前の苦しんでいる患者さんに対して本当に歯がゆい気持ちになるのですが、そういう場合は「フルで働くか休むか」という二択ではなく、出勤時刻をずらす、休憩を増やす、勤務内容を軽くする、勤務時間を減らすなどの、間をとるような対策であれば比較的ご協力しやすいことが多いです。また、比較的目にするのは「職場のマタハラによって心身の不調をきたしている」というパターンです。そう聞くと「そんな仕事、むしろさっさと辞めた方がいいでしょ」って思われる方も少なくありませんが、実際には辞めてしまうと家計や上のお子さんの保育園などの面で苦しくなってしまうご家庭もあるため、問題はそれほど簡単ではありません。確かにそういうケースでは早く休めるようにしてあげた方がよいことも多いですが、それでも切迫早産など虚偽の診断で書類を作成することは適切ではなく、飽くまで病態を正しく評価することが肝心です。例えばマタハラにより抑うつや強い不安、不眠や動悸などの症状が出ている場合は精神症状として評価が可能かもしませんので、心療内科や精神科に受診していただくのがよいです。その際には必要に応じて、かかりつけの産科から紹介状などを出してもらいましょう。

まとめ

本日は医師が発行する妊娠中の診断書について解説させていただきました。基本的に産科医は制度の厳正さを理解しつつも、可能な範囲内で妊婦さんやそのご家族にできるだけ寄り添おうとしています。ただ、それでも「書類発行は難しい」と判断する場合にはそれだけの理由があるのだとご理解いただけると幸いです。とはいえ上記のように、状況次第では別の方法で力になれることもありますので、お困りの際には遠慮なくご相談いただければと思います。

参考文献
1) https://laws.e-gov.go.jp/law/211AC0000000070

乳幼児突然死症候群(SIDS)について

こんにちは、副院長の石田です。

睡眠中の赤ちゃんがなんの前触れもなく亡くなってしまう乳幼児突然死症候群という病気があります。感染症や窒息などが原因で赤ちゃんが急に亡くなってしまうことはあるのですが、それらとは異なり全く原因不明の突然死として区別されています。令和6年には1歳未満のお子さんが50人以上もSIDSで亡くなっており、乳児死亡の原因として上位にランクインしています 1)2)。あまり悲しい話題を取り上げて皆さんを怖がらせたくはないのですが、外来で話していると結構誤解もありそうだなと感じることが多いので、本日はSIDSについて少し解説してみたいと思います。

SIDSの基礎知識

乳幼児突然死症候群(SIDS)は日本では6000〜7000人に1人が発症するとされています。上記の通り、乳幼児突然死症候群(SIDS)は原因がはっきり分かっていませんが、なぜか12月以降の寒い時期に多いことが知られており、そのためこども家庭庁では11月を対策強化月間として普及活動と啓発に力を入れています。リスク因子としてうつ伏せ寝や親の喫煙が知られているほか、男の子の方がややなりやすいことを示す研究も存在しています 3)。特徴的なのはSIDSの80%以上が生後半年までに起こり、その中でも生後2〜4ヶ月が最も多いということです 4)。

SIDSにならないためにできること

上記の通り、うつ伏せ寝や喫煙が大きなリスク因子となっているため仰向けで寝かせることや家族は禁煙することが望まれます。特に仰向け寝の効果は絶大で、実際にそれが推奨されるようになった1990年代にはSIDSの件数が世界各国で劇的に減少しました 5)。タバコに関しては生まれてからの受動喫煙もそうですが、妊娠中の喫煙が最も悪いことが知られているため、可能な限り早くにやめていただくことが肝心です 6)。そのほか、柔らかすぎるベッドや親と一緒のベッドでは寝ないことや、枕(頭の形を矯正するためのドーナツ枕を含む)を使わないことも提唱されています 7)。一方で先日のブログでもお伝えしたように入眠時におしゃぶりを咥えさせることはSIDSから赤ちゃんを守る効果があるかもと考えられています。母乳育児はSIDSの発症率を低下させることが知られているので、感染症や持病などの事情が無い場合は是非授乳を頑張ってみてください。

まとめ

本日は乳幼児突然死症候群(SIDS)について解説しました。せっかく産まれてきた赤ちゃんが早々に亡くなってしまうのはとてもつらいことです。完全に防ぐことは難しいですが、一方でご家庭でできる予防法がありますので可能な範囲で取り組んでいただけると良いと思います。そのほかいくつか細かい注意点もありますので、気になる方はかかりつけの産婦人科や小児科で相談してみてください。

参考文献
1) こども家庭庁. 赤ちゃんが安全に眠れるように ~1歳未満の赤ちゃんを育てるみなさまへ~
2) 政府広報オンライン. 赤ちゃんの原因不明の突然死 「SIDS」の発症リスクを低くする3つのポイント
3) RG Carpenter Lancet. 2004 Jan 17;363(9404):185-91
4) Shapiro-Mendoza CK, et al. SIDS Sudden Infant and Early Childhood Death: The Past, the Present and the Future. Adelaide (AU): University of Adelaide Press; 2018 May. Chapter 13
5) Rachel Y Moon, et al. Pediatrics. 2022 Jul 1;150(1):e2022057990.
6) Tatiana M Anderson, et al. Pediatrics. 2019 Apr;143(4):e20183325.
7) Carri Cottengim, et al. Matern Child Health J. 2020 Feb;24(2):222–228.

CSEAについて

無痛分娩は従来どおり硬膜外麻酔を用いるものが主流ですが、最近はCSEAを行なっている施設もあります。

CSEAとは

CSEA(Combined Spinal-Epidural Anesthesia)とは、

硬膜外麻酔+脊髄くも膜下麻酔と理解していただければよいです。

脊髄くも膜下麻酔は帝王切開に用いられる麻酔で、帝王切開をお受けになった方々はご想像いただけれと思いますが、足まで動かなくなる麻酔です。硬膜外麻酔と比べ穿刺位置も含め「深い」麻酔となります。

CSEAの利点としては、『鎮痛効果が早い』という事です。計画出産での無痛分娩ではなく、自然に陣痛が発来し分娩の進行が早い場合に効果的です。

Open AIを用いて作成

当院の無痛分娩体制と考え方

当院として現在提供する無痛分娩体制を考えると、CSEAのメリットは現在感じていません。当院は現在計画出産で無痛分娩体制をお願いしています。理由としては、無痛分娩希望の方々を全て陣痛発来待ちにしてしまうと、もし、とある時間帯に無痛分娩を希望する産婦さんの入院が重複してしまうと処置を行う適切なタイミングを逃してしまう可能性があるからです。

またCSEAを行なった場合、移動はリスクを伴いますので処置後の移動は困難です。『移動が困難』という事は転倒のほか、長時間の臥床による血栓塞栓症にも注意しなければなりません。

CSEAに対する胎児の影響については、深い麻酔の影響から硬膜外麻酔単独(EA)より胎児ジストレスがCTGに現れる可能性があります(胎児一過性徐脈)。

そしてコストです。CSEAを行う場合は専用の針キットらが必要になり、これは無痛分娩料にも反映されてしまいます。

以上から、にしじまクリニックでは現在の硬膜外麻酔(EA)での無痛分娩をより質を上げていく所存です。

(予定の帝王切開ではCSEAをお受けしています)

執筆 院長