インスリン抵抗性とは

インスリンは膵臓から分泌され、血液中のブドウ糖(血糖)を肝臓や筋肉などの細胞へ取り込み、血糖値を一定以上上昇させないようにするホルモンです。

妊婦はhPL(Human Placental Lactogen:ヒト胎盤性ラクトジェン)という胎盤から産生されるホルモンが増加します。妊娠中は血中のhPL増加によりインスリン抵抗性が増加します。

「インスリン抵抗性」とは、インスリンの働きが悪くなることで血糖が細胞へ取り込まれにくい状態のことを言います。

hPLによるインスリン抵抗性の増加から血糖が細胞へ取り込まれにくい状態が起こり、結果血液中にブドウ糖が増加(血糖値が増加)するのです。これは胎児へブドウ糖(血糖)を供給するために起こる現象ですから妊娠において必要なものではありますが、一方で糖尿病の状態を引き起こしやすくなるのです。

よって妊婦さんであれば誰もが起こりうる病態となりますが、よりリスクの高い方々として

・肥満

・2型糖尿病の家族歴

・高齢出産

・多嚢胞性卵巣症候群

らがあり、また妊娠糖尿病の既往がある方も次回妊娠時に注意が必要です。

執筆 院長

新生児の臍肉芽腫について

こんにちは、副院長の石田です。

産後健診でよく相談されることの一つに赤ちゃんの臍肉芽腫があります。湿っぽい赤ちゃんのおへそをのぞいてみると小さいイボみたいなのがあって驚かれるお父さんお母さんが多いですが、実際出血することもあったりで慌ててしまう気持ちもよく分かります。そこで本日は臍肉芽腫について簡単に解説したいと思います。

臍肉芽腫とは

「さいにくげしゅ」と読みます。生まれたての赤ちゃんのおへそには臍の緒がついていますが、これが通常10日前後で自然にはずれた後、さらに2週間ほど経つと皮膚細胞に覆われて普通のおへそになります。その過程で臍の緒の組織が一部赤ちゃんのおへそに残存して炎症を起こすと臍肉芽種になると考えられています。データは限られていますが頻度としては3~6%程度の赤ちゃんに見られるとされており、決して少なくないと言えるでしょう 1)2)。放っておくと感染症の原因になると考えられているため積極的に治療されることが多いです。

臍肉芽腫の治療

硝酸銀で化学的に焼いたり根本を細い外科用の糸で縛ったりする治療は日本に限らず世界でも長く行われてきました 2)3)。しかし硝酸銀はその採算性の悪さから国内では製造販売が中止されているため現在では院内で調剤可能な小児科でしかできないこと、また肉芽腫周囲の正常皮膚も一緒に焼いてしまうことがあり、根治性が高い一方で必ずしも「理想的な治療」とは言い切れない側面もありました。一方でステロイド軟膏の高い有効性も世界的にはよく知られているため、最近ではまずそちらの処方で様子を見るという施設も増えているように感じます 2)4)。(実際当院でもリンデロン®︎などを処方することが多いです。)また、日本ではあまり一般的でないかもしれませんが海外では家庭にある食塩を臍肉芽腫に塗るだけの治療を勧められることもよくあるようです。「え、そんなんで治るの?」って思うかもですが、実は最初に提唱されたのが1972年と歴史も古く、それに伴って有効性を示すデータもたくさんあるようで、イギリスのNHS(国民保健サービス)という政府機関の資料でも推奨されているため今後は日本でも普及するかもしれませんね 5)6)7)。

まとめ

本日はよくあるお悩みの一つということで新生児の臍肉芽腫について解説いたしました。治療法についても色々と書いてはみたものの、実際にどれが選ばれるかは赤ちゃんの状態や医療施設、医療者の考え方によっても異なってくると思います。皆さんにおかれましては、まずはかかりつけの産婦人科や小児科の医師とよく相談してみてくださいね。

1) Öztaş Tülin et al. Afr Health Sci. 2022 Jun;22(2):560-564.
2) Shigeo Iijima. J Clin Med. 2023 Sep 21;12(18):6104.
3) Shau-Ru Ho, et al. Pediatr Neonatol. 2023 Aug 25:S1875-9572(23)00137-7
4) Chikako Ogawa, et al. PLoS One. 2018 Feb 13;13(2): e0192688.
5) Hansa Haftu, et al. Patient Prefer Adherence. 2020 Oct 30:14:2085-2092.
6) Arka Banerjee, et al. J Pediatr Surg. 2023 Sep;58(9):1843-1848.
7) NHS. Derbyshire Community Health Services. Care of the belly button (umbilicus)

軟産道強靱とは

軟産道は骨産道の内側に存在する産道組織で

子宮骨盤底筋や靭帯結合織会陰等で構成されます。

これらは分娩時期になると硬度が低下し伸展をきたす組織です。分娩が順調に進行しない(分娩遷延)・特に児娩出直前にも関わらずこれらの組織によって児の娩出が困難な場合は器械分娩(吸引分娩または鉗子分娩)を行うことがあります。その際の診断を

「軟産道強靭」

と呼ぶのです。

軟産道強靭の要因をいくつかあげると

・高齢妊婦

・産道を妨げる子宮筋腫

・子宮頸管熟化不全

・高度肥満

などです。妊娠中の体重増加が著しい場合、産道の軟部組織の厚みが大きく産道が狭い場合、軟産道強靭に含めます。

器械分娩の適応として胎児機能不全、回旋異常、微弱陣痛(分娩第2期の母体疲労を含む)、そして軟産道強靭があります。器械分娩は自然分娩に比べ軟産道の裂傷が増えることが予想されますが、器械分娩の適応があるにもかかわらず処置を拒み続けると、児の予後に悪影響を及ぼしてしまいます。軟産道強靭の要因のなかで妊婦さんができることは体重管理となります。妊婦健診期間中は適切な食事摂取を心がけましょう。

執筆 院長

帝王切開の子宮創部縫合

帝王切開において、開腹後子宮下部を横切開し、児を娩出します。その後胎盤を娩出後、切開した子宮創部を縫合していくのですが、その方法については分娩施設によって多少異なるのが実情です。

簡単に申し上げると、子宮創部を1層縫合とするか、または2層縫合とするか、ということです。

1層縫合は2層縫合より手術時間を短くすることができますが、TOLACで子宮破裂の発症頻度が増加すると言われています[Bujold et al. 2002]。

当院としては、特に初産で骨盤位による選択帝王切開の場合、次回妊娠時のTOLACを希望される場合に備え、子宮創部は2層縫合を行います。

また縫合の方法については間隔をおいて一箇所ずつ結紮する単結紮縫合を行うか、連続縫合を行うかも分娩施設によって異なります。

当院は1層目の縫合を単結紮し、2層目の縫合は連続縫合を行います。

単結紮縫合か2層目の連続縫合かは、実のところ助手の手術介助力により決める場合もあります。2層目の連続縫合において、執刀医による縫合の際に助手が吸収糸の適切なテンションをかけれない場合、縫合創部が容易に裂けてしまうのです。私と副院長が執刀医、または助手のペアの時は問題ありませんが、

緊急帝王切開時に助手が看護師の場合(ちなみに海外では「手術看護師」という専門職があり、帝王切開時は当たり前に看護師が助手をつとめます)、私院長は吸収糸を創部にかけた直後にインターロックを行い、その後自身で再び糸を把持し適切なテンションを意識しながら連続縫合(2013年にACOGに掲載されたシステマティックレビューで推奨B)を行います。

今後の妊娠を望まなければ帝王切開の子宮創部は1層縫合で良いと考えます(前述のシステマティックレビューで推奨A)。ただし1層であれ2層であれ子宮内膜面もすくった子宮筋層の縫合を意識しなければ、子宮創部の菲薄化により産後生理が再開した後、帝王切開瘢痕症候群(月経困難症や続発性不妊症)を起こす可能性があるのです。

院長執筆

繰り返す流産について

こんにちは、副院長の石田です。

在胎22週未満で胎児心拍が停止してしまう、あるいは胎児が娩出されてしまうなどの理由で妊娠が終わってしまうことを流産と言います。診察で確認された正常妊娠のうち概ね15%程度が流産になると言われていますが、2.6〜5.0%の確率で2回連続する反復流産や、0.7〜1.0%の確率で3回以上連続する習慣流産となることがあります。ただでさえつらい流産を複数回経験するのは本当に悲しいことですが、本日はこのことについてガイドラインに沿って解説したいと思います 1)。

流産を繰り返してしまう原因

国際的に明確な定義はありませんが、日本では流産または死産を2回以上経験した状態を不育症と呼びます。最も重要な流産リスクは加齢とされていますが、それ以外の原因としては子宮奇形や子宮筋腫・腺筋症などの子宮因子、抗リン脂質抗体に代表される自己免疫疾患、甲状腺機能異常症などの内分泌疾患、そして夫婦の隠れた染色体異常などがよく挙げられます。その一方で半分近くの患者さんで原因不明というデータもあり対応は決して簡単ではありません 2)。いずれにしても複数回の流産を主訴に受診された患者さんにはこれらの異常を念頭に検査を行っていくことになります。「夫婦の隠れた染色体異常」というのが分かりづらいかもしれませんが、染色体異常には「均衡型」と言って保有していても症状が出ないものがあります。具体的には相互転座やロバートソン転座などですが、これが男性か女性のどちらか(あるいは両方)にあると受精卵の染色体異常はより深刻なものとなり、流産のリスクが上昇すると考えられています。しかし夫婦の染色体検査は値段が高い割に必ずしも頻繁に異常が見つかるわけでもなく決してコスパの良い検査ではないこと、仮に異常が見つかっても治療法が存在しないため当人に責任を感じさせるだけになってしまう可能性があることなどから、検査前には患者さんと医療者が検査の意義について十分に話し合っておくことが重要です。

不育症の治療

原因と思われる疾患が見つかった場合には可能な範囲でそれに沿った治療を行っていくことになりますが、原因不明の際に有効とされる治療ははっきりしていません。しかしその一方で流産を5回経験している患者さんでも50%以上の人が最終的に無治療で赤ちゃんを授かれるというデータもあり、必ずしも悲観的になり過ぎる必要はないようです。

まとめ

というわけで本日は流産を繰り返してしまう患者さんの対処法についてご説明しました。一般的には2〜3回流産を経験した場合には不育症専門の施設へご紹介することが多いと思いますが、必ずしも統一した基準はないためその都度医療者と患者さんでよく話し合って対応していく形になります。もし「自分たちは流産を繰り返しているけどどうかな?」と思う方は一度最寄りの産婦人科に相談してみるといいかもしれません。

1) 日本産科婦人科学会/日本産婦人科医会 産婦人科診療ガイドライン 産科編2023 CQ204
2) Abramson J, et al. Thyroid. 2001;11(1):57