多嚢胞性卵巣症候群の診断基準

「多嚢胞なんとか、と言われたことがあります」

このような訴えで婦人科受診をされる方が多くいらっしゃいます。そのような方の主訴として『生理不順』、いわば『月経周期異常』を気にして婦人科へおかかりになるのかと思います。前医での経腟超音波で『多嚢胞卵巣』を指摘されて上記の訴えになるかと思いますが、当院では「月経周期異常と多嚢胞卵巣では『多嚢胞性卵巣症候群』の診断基準に満たさない」と説明しています。

多嚢胞性卵巣症候群の診断基準は、

1. 月経周期異常

2. 多嚢胞卵巣またはAMH高値

3. アンドロゲン過剰症またはLH高値

以下1〜3の全てを満たす場合とされています。

多嚢胞性卵巣症候群は、生殖年齢女性の約10%に存在する頻度の高い症候群です。月経周期異常(ひいては不妊の可能性)、肥満・多毛・ニキビ、そして子宮体癌のリスクなど、様々な健康障害を呈することから的確な診断を行うことが重要です。

多嚢胞性卵巣症候群の病態は『視床下部・下垂体〜卵巣のホルモンバランスの乱れ』と表現するのが適切かと思います。

・若年女性によるホルモンバランスの未成熟

・生活習慣の乱れからホルモンバランスの乱れ

らから多嚢胞性卵巣症候群をきたす可能性があります。

あくまでも多嚢胞性卵巣症候群は視床下部や卵巣の機能不全ではない、ことをご理解いただければと思います。

3.の『アンドロゲン過剰症またはLH高値』は採血で調べることが可能です。

アンドロゲンはいわば男性ホルモンで、『テストステロン』が高値かを確認します。

LHに関しては採血時期も重要で、生理(消退出血)から10日目以降の採血が望ましいです。

執筆 院長

子宮頸がんワクチンのキャッチアップ接種が終了します。

こんにちは、副院長の石田です。

子宮頸がんワクチンは文字通り子宮頸がんを予防するワクチンです。正確には子宮頸がんの原因となるパピローマウイルスへの感染を防ぐことにより間接的に子宮頸がんが発生しないようにしています。2007年に人への接種を開始して以来、今では100カ国以上で定期接種となり、積極的に打ち続けた国では子宮頸がんの発生率が90%も低下しているようです。また、このワクチンは子宮頸がんだけでなく肛門がん、外陰がん(腟、陰茎など)、中咽頭がんや尖圭コンジローマという性病も予防してくれるため、男性にとっても有益なワクチンとなっています。我が家も先日中学生になった長男に接種を開始しました。

日本では社会的に副反応への懸念が高まった影響から永らく接種控えが起こっていましたが、2022年から積極勧奨が再開しました。それに伴い対象者であったにも関わらず接種機会を逃してしまった可能性がある平成9〜19年度生まれの女性にキャッチアップ接種として無料でのワクチン提供が行われていますが、この制度が2025年3月で終了します。ワクチンは3回打ち終わるのに半年かかるので、対象者は9月までに打ち始めないと接種に最大で7万5千円〜10万円程度の自己負担が発生してしまいます。もちろんキャッチアップ接種の期間が終わっても自費で打つことは可能ですが、ご希望の方はこの期間内に打ち終えられるよう早めのご予約をお勧めします。

最近では15〜39歳を指してAYA (Adolescent & Young Adult) 世代と呼びますが、この世代の女性がかかる悪性腫瘍で最も多いものの一つが子宮頸がんとされています。若くして大きな病気にかかるのはとても大変なことですが、一方で子宮頸がんは「予防」と「定期検診による早期発見」の両方が可能な珍しい疾患です。まだお済みでない方は、是非この機会に接種をご検討ください。

多嚢胞性卵巣症候群(PCOS)と診断されたときに読む話

こんにちは、副院長の石田です。

生理不順や妊娠相談などで産婦人科を受診して多嚢胞性卵巣症候群(PCOS)という診断を受けたことのある患者さんは少なくありません。しかしPCOSは少し複雑な病気であり、患者さんたちも体に何が起きているのか、どう対処するべきなのかについての理解が曖昧なことも多いです。そこで本日は病院でPCOSと診断された時のことについて少し解説したいと思います。

PCOSとは

PCOSの原因は完全に解明されているわけではありませんが、ホルモンバランスの変化により卵巣に小さな水たまりである嚢胞をたくさん作ったり(以下画像参照)排卵が障害されることで生理不順・無月経や不妊になる病気です。また、男性ホルモンが増加することで毛深くなったりニキビができやすくなることもあります。

黒くて丸い嚢胞が卵巣内にたくさん見えています。 1)

「多嚢胞卵巣」と言われるとあたかもこの嚢胞が何か悪さをしているように感じてしまいますが、実はこの病気の本質は月経異常と不妊であり、治療に関してもこれらの症状の解決を目指すことになります。

PCOSの診断

PCOSは患者さんの病歴に加え、超音波検査や採血検査を用いて診断します。すごく大雑把に説明すると、生理不順で受診された方で上の写真のような卵巣が超音波で見られて、かつ採血でホルモン値の異常も確認された場合に「あなたはPCOSです」となるわけです。ただ、実際には厳密に診断基準を満たしていない状況でも診断を伝えられている現場がありそうな印象です。

PCOSの治療

治療の目的は適切な排卵周期を回復して妊娠ができる状態にすること、また無月経が続くことによる子宮体がんリスクの上昇を防ぐことにあります。医学的に肥満との関係が示唆されておりBMI(体重kg÷身長m÷身長m)が25以上の方に関しては適切な減量によって治ることがあります。また、状況によってピルなどの薬でホルモンバランスと生理周期を整えてみたり、積極的に妊娠を考えている場合は排卵誘発を行います。PCOSにかかると血糖値が上がりやすくなりますが、その際には糖尿病治療薬であるメトホルミンを併用することも検討されます。

まとめ

本日はPCOSについての一般的なお話でした。名前が漢字だらけでいかつい上にインターネットなどでみると不妊症とか子宮がんとか書いてあって怖くなってしまう人もいると思いますが、実はとても一般的な病気で治療も確立しているため心配しすぎる必要もありません。自分がPCOSかなと思ったら、まずは落ち着いて最寄りの産婦人科を受診してみましょう。

1) Saika Amren. EMJ Radiol. 2022

女性の尿もれについて

こんにちは、副院長の石田です。

普段外来をやっていても思うのですが、ご年齢や妊娠の有無に関係なく尿もれに悩む女性は多いです。人種や社会環境によってばらつきは大きいものの、実際に20〜40%程度の女性が尿もれを経験しているというデータもあり、どの女性にとっても他人事ではないのかもしれません 1)2)。そこで本日は女性の尿もれについて少しお話ししてみようと思います。

尿もれの種類

尿もれは医学的にいくつかの型に分類されますが、女性によくみられるのは腹圧性尿失禁と切迫性尿失禁です。腹圧性尿失禁とは咳、くしゃみ、笑う、重いものを持ち上げるなどでお腹に力が入った時に尿が漏れてしまう状態で、原因としては膀胱の出口の開け閉めを行なっている括約筋の機能低下だったり、尿道を支える力が弱まってしまう尿道過可動などがあります。一方で切迫性尿失禁は突然強い尿意が出現し我慢できずに出てしまうというもので、膀胱炎や脊髄損傷などの原因により排尿筋が過剰に収縮する過活動膀胱が有名です。他には腹圧性と切迫性が混ざった混合性尿失禁というのもあり、女性においてはこれらの3種類が主な病態となります。

尿もれの治療

上記の通り尿もれの型によって原因が違いますが、いずれにしてもまずは生活習慣を見直すことである程度の症状改善が期待できます。肥満、喫煙はリスクとして知られているため適度な運動と減量、そして禁煙は尿失禁の症状改善に効果があると考えられています 3)4)5)。特にKegel体操という骨盤底筋群の強化に使われる運動はお勧めされますが、効果が出るまで2ヶ月前後かかるともされているため根気よく取り組む必要があります。また、アルコールやカフェインは症状を悪化させる可能性が指摘されているため心当たりがある方は試しに控えてみるのもいいかもしれません 3)。これらに加えて膀胱訓練などの行動療法や各患者さんの病態に合うと思われる薬剤を選んで併用することでできるだけ患者さんが快適に暮らせるように治療を進めていきます。

まとめ

本日は女性の尿失禁について解説してみました。尿失禁は加齢による肉体変化に伴って起こることも多く根治が難しいことも少なくありませんが、その一方で治療による改善は十分に見込めます。羞恥心を持ちやすい症状のためずっと一人で悩んでしまう方も多いですが、気軽に最寄りの専門医にご相談いただけると良いと思います。

1) Dragana Živković et al. Acta Clin Croat. 2022 Mar;61(1):115-123
2) I Milsom, et al. Climacteric. 2019 Jun;22(3):217-222
3) Mari Imamura, et al. Cochrane Database Syst Rev. 2015 Dec 2;2015(12):CD003505
4) Leslee L Sudak, et al. N Engl J Med. 2009 Jan 29;360(5):481-90
5) Riikka M Tähtinen, et al. Obstetric Gynecol. 2011 Sep;118(3):643-648

CIN2の管理

子宮頸がん検診は「細胞診」と呼ばれる検査を行います。その後、精密検査が必要と判断された場合は拡大鏡にて子宮頸部をみる「コルポスコピー」と、「組織診」を行います。

がん検診の子宮頸部細胞診は、子宮頸部を擦過して検体を採取するので痛みはありません。

一方、精密検査の子宮頸部組織診は「punch biopsy」とも呼ばれ、コルポスコピーにて疑う病変部位の肉片を専用の器具を使って採取します。よって痛みを伴ったり、止血に時間がかかることをご承知ください。

組織診では子宮頸部上皮腫瘍(CIN)として(大まかに)3とおりの結果が出ます。CIN 1, CIN 2, CIN 3といわれます。

CIN 3[高度異形成もしくは上皮内癌]に関しては子宮頸部円錐切除などの診断・治療を行います。

CIN 1[軽度異形成]またはCIN 2[中等度異形成]と判断された場合、

・CIN 1→6ヶ月ごとの経過観察(フォローアップ)

・CIN 2→3〜6ヶ月ごとの経過観察(フォローアップ)

となります。ただし子宮頸がん発症のリスクであるヒトパピローマウイルス(HPV)のハイリスク型、以下

HPV 16, 18, 31, 33, 35, 45, 52, 58が事前に見つかっている場合は、病変の進展リスクが高いので注意が必要です。それらHPV型でCIN 2の場合は経過観察とせずレーザー蒸散や円錐切除も考慮されます。

また上記型でなくともCIN 2において患者が心配な場合や1〜2年の経過観察でも病変が消失しない場合は、診断・治療を推奨される状態と言えるでしょう。

この方針に関しては現2023年のガイドラインにおいて、2020年のガイドラインと変化はありません。

ちなみに上記のHPVハイリスク型HPV 16, 18, 31, 33, 35, 45, 52, 58に対し、HPVワクチンのシルガード9は(性交未経験のうちに接種すれば)上記型の感染を予防でき、ひいては子宮頸がんの90%を防げるのです。いかにHPVワクチンの接種が重要か、おわかりいただけると幸いです。

執筆 院長

参考資料

産婦人科診療ガイドライン 婦人科外来編2023, CQ204