流産や中絶時の手術方法

こんにちは、副院長の石田です。

皆さんもご存知の通り、妊娠はいつでもうまくいくわけではありません。病院での診察で妊娠が確認されてもその15%は自然流産になるため、世の中の実に38%の女性が一度は流産を経験しています 1)。また、妊娠自体は順調だとしても様々な理由で諦めなければいけないこともあります。日本の中絶件数は平成29年では164,621件でしたが、これは生殖可能年齢(15〜49歳)の女性のうち約1000人に6人という実施率になります 2)。いずれにしてもご希望に応じて妊娠を終了させる手術を行うことになりますが、インターネットで調べてみても病院によってやり方は様々で、専門家でないとなかなか分かりにくいかもしれません。そこで本日は流産・中絶手術について解説したいと思います。

手術方法

日本で行われている術式はほとんどの場合2種類で、一つは掻爬(そうは)法(Dilation & Curettage: D&C)で、もう一つは吸引法(Manual Vacuum Aspiration: MVA)です。D&Cでは金属の器械を腟から子宮内に挿入し、胎児成分を掴んで引っ張り出した後に、同じく金属のスプーンみたいな器械を使って残った膜なんかを掻き出します。一方MVAではプラスチック製の大きな注射器に専用のチューブを接続し、子宮内にそれを入れて吸い出す感じになります。どちらを選択されるかは施設によって様々なのですが、最近はMVAが主流になっており、当院でもこちらを採用しています。これは何故かというと、MVAの方がD&Cと比べて手術時間がより短く、出血も少なく、入院期間が短縮される傾向があるというデータが揃っているためです。研究によっては痛みもMVAの方が少ないとしているものもありますが、実際に私自身も両方の手術を行ってきた経験から言うとMVAの方が患者さんは楽そうだなという印象があります 3)4)5)。ちなみに術式による手術後の合併症やその後の妊娠しやすさについては意見が分かれるところでしたが、現在では概ね差はないだろうというところで落ち着いているみたいです。

術前処置

手術前に頸管拡張と言って、スポンジの棒などを子宮の出口に詰めて道具が通りやすいように拡げる処置をすることがあります。事前に処置をしておくことで手術器具が子宮内にスムーズに入るようにしているんですね。こちらは施設によって行うかどうかの差がありますが、最近では「やってダメなわけじゃないけどやらなくても大丈夫そう」という受けとめになっているようです 6)。

まとめ

というわけで、選べるのであればMVAを選択している施設の方がお勧めです。日本ではまだD&Cを採用している病院が多いためかガイドラインでも術式の推奨までは踏み込んでいませんが、欧米を含む先進諸国ではD&Cが行われていることはむしろ珍しいです。事実WHO(世界保健機関), FIGO(国際産婦人科連合)、ACOG(米国産科婦人科学会)は流産・中絶手術はMVAで行われるべきとしており、今後は日本でもそちらへシフトしていくのかなと思います 7)8)9)。ただ、その一方で術式で大きく安全性が違うわけではなさそうなので、まずは家からの近さや相談しやすさなどご本人が安心して手術を受けられる病院で決めていただくのが良いのかもしれません。もし当院でのご希望があれば、お気軽に受診予約をお取りください。

1) 産婦人科診療ガイドライン 産科編2020 CQ202

2) 厚生労働省 平成29年度衛生行政報告例の概況:https://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/eisei_houkoku/17/dl/gaikyo.pdf

3) Nkwabong E, et al. Int J Reprod Contracept Obstet Gynecol. 2015 Jun;4(3):716-720

4) Jayashree V, et al. International Journal of Clinical Obstetrics and Gynaecology 2018;2(5):14-18

5) Tuncalp O, et al. Cochrane Database Syst Rev 2010; CD001993

6) Allen RH, et al. Contraception. 2016 Apr;93(4):277-291

7) World Health Organization. Department of Reproductive Health and Reserchn, Safe abortion: technical and policy guidance for health systems Second edition. 2012

8) FIGO. Consensus Statement on Uterine Evacuation. 2011

9) ACOG. Obstet Gynecol 2015;125:1258-1267

子宮筋腫と妊娠について

こんにちは、副院長の石田です。

よく外来で、妊婦健診やがん検診などの時に偶然見つかることが多い子宮筋腫ですが、いきなり筋腫があると言われるとびっくりしてしまう人も少なくありません。本日はそんな子宮筋腫と妊娠についてお話ししようと思います。

その前に子宮筋腫とは

子宮筋腫とは文字通り子宮にできる筋肉の塊です。子宮はもともと“平滑筋”という筋肉で大部分ができていますが、その細胞が部分的に異常増殖してできる腫瘍が子宮筋腫と言われます。婦人科腫瘍の中では最も頻度が高いと言われており、日本人での正確な統計は無いものの、報告によっては50代までの白人女性の70%、黒人女性においては80%に発生するとの報告があります 1)。 30〜40代の女性に多く、女性ホルモンで成長するため雑に言うと生理がある限り少しずつ大きくなってきますが、逆に閉経すると少しずつ小さくなっていきます。

子宮筋腫があると妊娠にどんな影響があるの?

胎盤との位置関係やサイズなどによって妊娠への影響に違いがありますが、一般的には切迫流早産、骨盤位(逆子)、前置胎盤、常位胎盤早期剥離など様々なリスクを上げることが分かっています。また、筋腫自体も妊娠中に大きくなることがあり、それに伴って変性痛という強烈な痛みを1〜2週間起こすこともあります。しかも妊娠中は出血などのリスクのために原則的に筋腫の治療ができないため特定の患者さんたちにとっては非常に厄介な疾患なのです。

とか言うと、「じゃあ筋腫があったら妊娠しない方がいいってこと!?」と言いたくなりますが、上記の通り婦人科で最も多い腫瘍の一つであり、知らないで抱えている人も結構多いです。実際の子宮筋腫合併妊娠の頻度は12.5%くらいあるという報告もありますが、多くの妊婦さんが筋腫がありながら無事にご出産されていますので、注意して診ていく必要はあるものの、過度に心配しなくてもよいということになります。

子宮筋腫があるのが分かっていて妊娠を希望する場合はどうしたらいいの?

これは一概にお答えするのは難しいですが、一般的にはサイズが5〜6cmを超えるもの、過多月経や月経困難症など症状を起こすもの、また不妊の原因になっていると思われるものなどは手術を含めて積極的に治療を検討することが多いです。「え?不妊の原因になるの?」と思われた方、そうなんです。筋腫がある人と無い人では、ある人の方が妊娠率が低く、流産率は高いんですね。もちろん位置やサイズなんかにも影響されるんですが、特に子宮の中に飛び出してくるタイプはその差が顕著だと言われています 2)。

ただ、子宮筋腫を手術で摘出すると子宮に傷がつき、修復する過程で壁が薄くなることからその後の妊娠で子宮破裂のリスクが高まると言われています。そのため原則的には帝王切開での分娩が必要です。また、術後は子宮の傷を治すために半年程度の避妊期間を置くことが多いため、高年齢の患者さんの場合には特別な配慮が必要です。そういった関係で実際に治療をするかどうか、どのような方法で治療するかは個々の患者さんの状況に応じてご本人と医療者がよく相談をしながら決めることが多いですね。

筋腫にはどんな治療があるの?

一番シンプルなのは手術です。筋腫だけを取り除く“核出術”と子宮全てを取ってしまう子宮全摘出術があり、それぞれお腹を大きく開ける開腹術と小型カメラと専用の棒みたいな器具でお腹に小さな穴を開けるだけでやる腹腔鏡手術があります。

また、完治できるわけでは無いけどGnRH アゴニストというホルモンに働きかける注射で小さくすることもできます。注射は月1回、最大半年間の治療になりますが、最近は似たような作用を持つ飲み薬も発売されました。ただ、飲み薬は新薬ということもあり2週間に1回病院に通って作用、副作用をチェックしながら処方を受ける必要があります。ちなみにどちらも良い薬ではあるんですが、ちょっと値段が高いです。

まとめ

子宮筋腫は婦人科的には“ありふれた”病気ですが、出てくる症状は多彩で気づきもしない人が多い反面、重い症状に悩んでいる方もたくさんいらっしゃいます。自分にもあるのかな?と気になった方、また生理が重かったり妊娠しづらいなと思う方は子宮筋腫の可能性も考えて最寄りの婦人科を受診してみてはいかがでしょうか?

1) Day Baird D, et al. Am J Obstet Gynecol 2003; 188: 100-107

2) Klatsky et al. Am J Obstet Gynecol 2008; 198: 357-66

子宮頸がんワクチンは接種した方がよいのか?

こんにちは、副院長の石田です。

とくに何かきっかけがあったわけではないんですが、今日は子宮頸がんワクチンについて書きたいと思います。

子宮頸がんとは

ご存知の方も多いと思いますが、子宮頸がんはヒトパピローマウイルス(HPV)の感染が原因として知られています。身近なところではイボの原因としても知られるウイルスですが、30タイプあるHPVの中でも15タイプが子宮ガンと関係していると言われており、その中でも1番多いとされているのが16型、2番目が18型です。

主な感染経路は性交渉であり、がん?性病?と身構えてしまいますが性交渉の経験がある女性であれば50~80%が生涯で一度は感染すると言われているくらいありふれたウイルスです。通常は感染しても勝手にいなくなってしまうことが多いのですが、一部の女性は持続的な感染状態となり、数年かけて段階的にがんへと進行していくことがあります。

子宮頸がんワクチンとは

子宮頸がん検診ががんになりかけからなってしまった病変を早期に発見することを目的としているのに対して、ワクチンはそもそもこのウイルスの感染自体を予防してがんにならなくするためのもので、現在国内で使用できるものには16型と18型に有効な2価ワクチンであるサーバリクス®︎と、尖圭コンジローマという性病にも併せて有効なガーダシル®︎という4価ワクチンがあります。いずれにしてもこれらのワクチンを接種することで60~70%の子宮頸がんを予防できると考えられています1)2)3)。

実際どのくらい自分に関係があるのか

「がん」というと中高年の病気なイメージが一般的ですが、子宮頸がんは20〜40代に急激に増えている病気で、中には妊娠、出産を経験しないまま子宮を摘出しなければいけなくなる方もおられます。年間で約1万人が診断され2900人が死亡しており4)、全体から見るとそれほど大きい割合では無いように思われるかもしれませんが、部位別、年代別でみると子宮頸がんが占める割合は若年者ほど大きくなることが明らかになっています。万が一診断されてしまった時のライフプランに対するインパクトが大きいことを考えると軽視できる病気ではないでしょう。

結局接種した方がよいのか

子宮頸がんワクチンの接種は性行為を経験する前の10代前半がメインターゲットとなります。そんな若い女の子にとっては「がん」など遠い話なので、実際に接種を判断するのはご両親になることも多いと思いますが、そんな皆さんにとって一番の懸念は副反応でしょう。発生機序は不明であるものの、ワクチン接種後に体の激しい痛みやしびれ、脱力などを起こす患者さんがいらっしゃったことから全国的に話題となりました。その後 の研究でワクチンと副反応の因果関係が否定されたこと、ワクチンが実際に子宮頸がんの発生率を下げていることなどを踏まえてWHOからも接種を推奨する声明が出されていますが、未だに患者さん達の不安は根強いように感じます。

いくら科学的に立証されないとは言え、実際に症状が出て苦しんでいる方がいらっしゃるのは事実ですし、WHOや日本産科婦人科学会が「副反応は存在しない」と断定できていない中でお子様の将来を思って悩まれるのは当然です。そのため最終的な判断はそれぞれのご家庭に委ねられることとなりますが、一般的な産婦人科医の多くは接種するべきだと考えています。それは我々が、妊娠を一度も経験することなく子宮を失った患者さん、妊娠初期から中期にかけて子宮頸がんが見つかり赤ちゃんごと子宮を摘出しなければならない患者さん、そして治療を延期して無事ご出産を終えた後にがんが進行して命を失った患者さんなど、その他にも多くの悲しみと直面してきた経験が強く残っているからだと思います。

予防接種に関するご相談は厚生労働省が相談窓口を開設しており5)、電話でのご相談が可能ですが、当院の外来でもご希望であれば直接対面でご相談いただくことが可能です。(※)もしご希望があればお気軽にお問い合わせください。

1) Miura S, et al. Int J Cancer 2006; 119: 2713-2715

2) Konno R, et al. Vaccine 2008; 26: M30-M42

3) Matsumoto K, et al. J Obstet Gynaecol Res 2013; 39: 7-17

4) http://www.jsog.or.jp/modules/jsogpolicy/index.php?content_id=4

5) https://www.mhlw.go.jp/bunya/kenkou/kekkaku-kansenshou01/inful_consult.html

(※)診察料が発生いたします。

ミレーナについて

最近、テレビによる効果かミレーナ®についてのご質問が多く、ブログに載せることにしました。

ミレーナ®はレボノルゲストレル放出子宮内システム、いわば黄体ホルモンを放出する子宮内デバイス(器具)です。

ちなみに、『レボノゲストレル』は緊急避妊薬としても使われる黄体ホルモンです。なお先日ピルについてのブログ投稿でも書かせていただきましたので、是非とももう一度いただければと思います。

ピルについて

現在日本ではミニピル、いわゆる黄体ホルモン単独のピルが、緊急避妊薬以外には用いることができないため、血栓のリスクを理論上さげるためには、このミレーナが有効と考えます。

治療の適応は過多月経月経困難症となります。

自費診療として避妊目的にも使用可能です。

参照サイトhttps://whc.bayer.jp/mirena/mirena/index.html

にしじまクリニックではご来院後にまず問診、その後外来診療でエコーによる子宮の評価、性感染症がないかどうか等をチェックさせていただきます。可能なら子宮がん検診もお勧めします。それらの結果で異常ないことを確認した後、子宮内へミレーナ®を挿入します。

挿入装着時期は月経開始後1週間以内を目安にしてください。

ミレーナ®の使用を開始してから数ヵ月間3ヶ月が目安)は月経時期以外の出血がみられことがあります。 しかし、通常は時間の経過とともに減少します。

装着後は定期的な診察・受診をお願いしています。装着留置期間は5年間です。

装着希望の方の注意点として、『子宮は筋肉による蠕動運動がある』ことがキーポイントになります。せっかく良い位置に挿入しても後にミレーナ®︎の位置が下降てしまうことがあるのです。よって、分娩後6週未満の方は装着を控えていただきます。子宮復古のため、オキシトシンという体内ホルモンによる子宮収縮が起こり、装着後のずれや子宮穿孔のリスクがあるからです。

気になる点ございましたら、私院長もしくは副院長石田にご相談ください。

今後ますます、経験のみならず正しい知識とエビデンスを活用し、できるだけ皆様の気持ちに寄り添える診療をしていく所存です。一緒にお悩みを解決していきましょう。

参考文献;

バイエル薬品株式会社 Web conference(2019年11月21日)

Essential obstetric and newborn care, 2015 edition

小さい子供のおりもの異常について

こんにちは、副院長の石田です。

たまに私生活や外来のついでなどでお子さんのおりものに違和感を感じるというお母さんたちから相談を受けることがありますが、実は女児の婦人科的な訴えとしては最も多い症状と言われています 1) 。実際には小さい子供の異常なので受診するとしても小児科が多いと思うのですが、小さくても女性のお悩みということで本日は産婦人科医がお話ししてみようと思います。

小さな子におりものの異常が発生する要因

多くの場合は感染性腟炎といってばい菌が腟で繁殖した結果炎症が起こっているようです。そうなりやすい要因としては、大人の女性との性器の形態的な違いやトイレ後の清潔、また女性ホルモンの量などの影響が考えられています。具体的には子供は腟と肛門の距離が近く汚染されやすい、うんちした後にお尻を拭いた結果技術的に未熟なためうんちが腟に付着してしまう、あるいはトイレットペーパーの切れ端が腟内に入ってばい菌が繁殖する温床になってしまう、女性ホルモンが少ないため腟内を雑菌から守るための乳酸菌が未熟などです 2) 。その他の例外として性病がありますが、これはほとんどの場合性的虐待によるものです。外性器に傷があっておりものも変な時は性病を疑って検査したり、状況次第では医療施設から児童相談所などに通報することもあります。

実際の治療

まずは生活における指導などが中心となります。具体的にはお風呂の時にしっかりとシャワーで流すこと、入浴剤などは避けること、キツすぎる下着などは避けるなどがあります。抗生剤に関しては小児に使用することの不利益も多く報告されているため安易に使用することはありませんが、はっきりと病原菌として言い切れる原因菌が特定できた場合には使用がお勧めされているということでした 3) 。

まとめ

おりものの異常と言うと小さな女の子にはあんまり関係ないような印象もあるかもですが、上記のように意外にばい菌が入りやすかったりします。思春期以降の女性と違い腟内の細菌のバランスに関するデータが少ないため検査をしても結果の判断が難しかったりしますが、もし変かな?と思うことがあれば試しにお近くの小児科や産婦人科へご相談ください。男の子と違って清潔を保つのが難しい部位ではありますが、何にしても予防が一番ということで、普段からご両親が気を配ってあげるのがとても大切なようです。

1) A Jaquiery, et al. Arch Dis Child 1999; 81: 64-67

2) Neyazi SM. J Nat Sci Med 2019; 2(1): 14-22

3) Manohara Joishy, et al. BMJ 2005; 330: 186-188