子宮頸がんワクチンのキャッチアップ接種が始まりました。

こんにちは、副院長の石田です。

さて、このブログでも何度も取り上げてきた子宮頸がんワクチン(ヒトパピローマウイルスワクチン)についてです。恐らくはコロナ禍の影響から市中におけるリテラシーが急速に高まったこともあって子宮頸がんワクチンに対する評価が大きく変わってきました。それに伴ってこれまで差し控えられてきた積極勧奨が再開されることになったのですが、今日までの経緯から接種が進まなかった年代に対してもキャッチアップ接種という形で無料接種期間が提供されることになりました。というわけで本日はその件について解説します。

キャッチアップ接種の詳細

今回キャッチアップ接種の対象となるのは1997年(平成9年)4月2日から2006年(平成18年)4月1日生まれで、過去に子宮頸がんワクチンを3回受けていない女性です。接種を受けられる時期は2022年(令和4年)4月から2025年(令和7年)3月末までです。現在子宮頸がんワクチンには2価(サーバリックス®︎)、4価(ガーダシル®︎)、9価(シルガード9®︎)の3種類がありますが、受けられるのは今のところ定期接種同様2価か4価になります。
厚生労働省ホームページ参照

キャッチアップ接種の意義

感染の原因となる性交渉を経験し始める前に接種すると効果が最大化するため、日本では12〜16歳が定期接種対象になっています。実際に患者さんが若いほどワクチンによるパピローマウイルスへの感染予防効果は高いのですが、その一方で17〜26歳の女性でも30〜60%程度の予防効果が期待できることが分かっています 1)2)。もともとパピローマウイルスにはたくさんの型があるのですが、比較的若い方や性交渉歴の少ない方であれば子宮頸がんの主な原因となる16型と18型のうち、まだ感染していない型に対して免疫ができるからだと考えられています。

9価ワクチンが対象になるのを待った方が良いか

9価ワクチンはそれ以外と比べてカバーしているウイルスの型が多いためより効果が高いと考えられていますが、一方で先行して2価や4価を使用してきた諸外国でも子宮頸がんの予防効果が実証され始めています 1)3)4)。もちろん9価ワクチンが打てれば最高なんですが、2価・4価のワクチンも十分有効なものであり、年齢が進んでいる分だけ感染の機会がより多いキャッチアップ接種対象者に関してはできるだけ早く打つことのメリットも大きいです。ここに関しては意見が分かれることもあるかもしれませんが、9価ワクチンが定期接種になってお得に打てるようになるのを待つより今提供されるワクチンを接種した方が良いと思われます。

まとめ

というわけで本日は子宮頸がんワクチンの接種対象が一時的に広がりますよというお話でした。4価ワクチンは自費で打とうとすると規定の3回接種で5万円もかかりますがこれが無料になるのはありがたいですよね。当院は富士見市、ふじみ野市、三芳町にお住まいの女性が対象ですが、予約を取っていただければそれ以外のご用意は特にありませんので是非このお得な機会を逃すことなく活かしていただければと思います。ちなみに「自費で打っちゃったよ!」という方にはその料金を返してくれるという制度も始まるようです。こちらはこれから詳細が発表されるようですので是非こまめにチェックしてみてください。
※キャッチアップ接種の実施状況は自治体によりますので、お住まいの地域の情報をチェックしてみてください。

1) Lei J, et al. N Engl J Med. 2020;383:1340-1348
2) Michael J Silverberg, et al. Lancet Child Adolesc Health. 2018 Oct;2(10):707-714
3) Luostarinen T, et al.Int J Cancer 2018;142:2186-2187
4) Kjaer SK, et al. J Natl Cancer Inst. 2021;113:1329-1335

5〜11歳の新型コロナワクチン接種

本日から長女のクラスが学級閉鎖になるようです。最近は新型コロナウイルスの家族内感染も問題となるなか、もしお子さんに感染したら、病状の悪化をできるだけ抑えたいと思うのは、どのご両親も思われることだと思います。

先週から日本でも5〜11歳のお子さんに新型コロナワクチン接種が可能となりました。以下ポイントをまとめておきます。

・経緯:2021年10月、アメリカのFDAはファイザー製の5〜11歳用の新型コロナワクチンを認可しました。これは2000人以上のランダマイズドトライアルのデータにおいて、91%以上が新型コロナウイルスに対して有効で、かつ成人データの結果と同様との判断とされました。よってCDCはこのワクチン接種を『推奨(recommendation)』となり、日本も続いてこの小児用ワクチン接種が可能となりました(COVID-19 vaccination in children 5 years and older, UpToDate, November 2021)。

・製剤は小児(5〜11歳)専用:コミナティ筋注5〜11歳用:キャップがオレンジのものです。-60度以下なら9ヶ月間保存可能です。

・接種量は12歳以上で接種する量の1/3:希釈し1回接種量が0.2mL(10μg)で

接種間隔は12歳以上と同様で3週間あけ、計2回接種します。

・結論;

https://www.cov19-vaccine.mhlw.go.jp/qa/child/

ニューイングランドジャーナルの文献では、このワクチンは5〜11歳に安全かつ有効に新型コロナワクチンに対しての免疫応答、いわば抗体が得られると結論づけています。

以下厚生労働省と埼玉県のサイトも是非ご覧になってください。(院長執筆)

https://www.cov19-vaccine.mhlw.go.jp/qa/child/

https://www.pref.saitama.lg.jp/a0710/covid-19/parent.html

新型コロナワクチン非接種妊婦の予後

現在、オミクロン株による新型コロナウイルスが猛威を奮っている状況で、にしじまクリニックにおかかりの妊婦さんやそのご家族も例外ではありません。当院も埼玉県産婦人科医会のリエゾンシステムに基づき、感染者や濃厚接触者に毎日健康状態を確認させてもらっています。

以前から基礎疾患もつ方や妊娠中の方は、新型コロナウイルスに感染すると予後不良とされていましたが、とりわけワクチン非接種だとより危険であることがスコットランドのおよそ8万8000人妊婦の追跡調査で示されました。

https://www.science.org/content/article/covid-19-starkly-increases-pregnancy-complications-including-stillbirths-among?utm_campaign=Gadi&utm_source=AAAS&utm_medium=Facebook

ワクチン接種が始まった2020年12月以降にスコットランドで妊娠した8万7694人が対象(2021年10月までの追跡調査)です。

新型コロナウイルスに感染し、1ヶ月以内に出産した620件のうち、14件が子宮内胎児死亡もしくは新生児死亡が起こったと報告しています。その14件全てがワクチン非接種妊婦であったとのことです。

この(周産期)死亡率は1000件出産のうち22.5という比率になり、スコットランドの本来の1000件出産のうち5.6の比率を大きく上回ります。

また新型コロナウイルスに感染した妊婦は、早産率が2%ポイント上昇したとも報告しています。

新型コロナウイルスに感染し集中治療が必要になった妊婦の98%がワクチン非接種とのことでした。

(院長執筆)

HPVワクチンの積極的勧奨が再開されます

11月下旬、厚生労働省は「ヒトパピローマウイルス(HPV)感染症に係る定期接種の今後の対応について」の通知を全国の自治体に向けて発出しました。今回の通知は2013年6月の勧告を変更するもので、令和4年4月よりHPVワクチン接種対象者に予防接種法第8条に基づき勧奨を行うこととなります。

最新の知見を踏まえ、改めて同ワクチンの安全性について特段の懸念が認められないこと、接種による有効性が副反応のリスクを明らかに上回ることが認められたことから、『積極的勧奨』の再開となります。

先日、10歳の娘が2回目のHPVワクチン接種を済ませました。にしじまクリニックスタッフの多くの娘さん方も、続々とHPVワクチンの接種を済ませております。

最近はご質問にいらっしゃる親子さんも大変多いです。対象者の方、ご家族は、まずは外来へいらっしゃっることを検討してみてはいかがでしょうか。

(院長執筆)

参考文献;

日本産婦人科医会報第73巻11号

レズビアンの女性と健康管理について

こんにちは、副院長の石田です。

10/31に総選挙がありましたが、今まで以上に夫婦別姓や性的マイノリティーなど多様性に関する公約が大きな争点の一つとなったことが印象的でした。そこで本日は、意外と誤解の多いレズビアンの方々の健康管理についてご紹介させていただこうと思います。

同性愛女性の健康リスク

同性愛者の女性は異性愛者と比べていくつかの点で健康リスクが高いことが知られています。具体的には肥満率や喫煙率の増加、精神疾患の罹患率やDVリスクの上昇が指摘されています 1)。これらは欧米のデータであり、日本人でどうなるかは今後の調査が待たれますが、こういった傾向は同性愛者に特徴的な医学的要因があるというよりは、性的マイノリティーに対する社会の偏見が当事者に対して慢性的なストレスとして作用することが一因と考えられており、ある意味で当事者の方々が本来負う必要のない健康リスクを背負ってしまっているという側面は注目されるべきだと思われます。

子宮頸がんのリスクも上昇する可能性

以前からこのブログでもお伝えしていますが、子宮頸がんはその大部分が性交渉によるヒトパピローマウイルス(HPV)への感染を起点として罹患します。そう聞くとあたかも陰茎の挿入が無ければリスクが低いと思われがちですが、実は粘膜の接触のみで十分感染するので女性の同性愛者であっても関係なくリスクは存在するんですね。それにも関わらず上記のような誤解が広まっているためレズビアンの女性では子宮頸がんワクチンの接種率が低いことが指摘されており、そのせいで子宮頸がんの罹患リスクが異性愛者と比べて高まることが懸念されています 2)3)4)。

ほかに気をつける感染症

HPV以外にも性病で言えばクラミジアやコンジローマなんかは普通に接触感染でうつります。というか、異性愛者のようにコンドームを使えないせいか感染率は上がってしまう可能性が示唆されています 1)。一方でHIV感染は極めて稀であるものの確認されていることには注意が必要です。要は陰茎の挿入や射精という特定の行為が無くてもセックスにまつわる様々なリスクはレズビアンの方々であっても意外に下がらないということなんですね。

まとめ

というわけで本日はレズビアンの女性と健康管理について少しご案内いたしました。私的に一番伝えたいのは、同性愛者の女性でも子宮頸がんワクチンや頸がん検診の恩恵は十分に期待できるのでお勧めですということです。
社会の在り方や意識が少しずつ変容してはいるものの、性的少数者に対する正確なヘルスケア情報を得るのが難しいという問題があります 5)。そうした状況が少しでも改善してみんなが元気でいられるように微力ながらこれからも発信していきたいと思います。

1) Daniel AK, et al. Am Fam Physician. 2017;95(5):314-321

2) Marina A, et al. Ann Intern Med. 2015 Jul 21;163(2):99-106

3) McRee AL, et al. Vaccine. 2014;32(37):4736-4742

4) Robinson K, et al. BJOG 2017;124:381-392

5) Daniel AK, et al. Am Fam Physician. 2017;95(5):314-321