つわり・妊娠悪阻に有効な食事法

こんにちは、副院長の石田です。

先日つわりと妊娠悪阻の診断に関するブログを書かせていただきましたが、今回はつわり対策について解説しようと思います。

そもそもつわりは治せるのか

以前の記事でも触れたようにつわりは大多数の妊婦さんが大なり小なり経験します。通常、症状はほとんどの場合で自然軽快し後遺症や合併症などにも関係しないため治療は必要ないとされていますが、一方で生活に支障が出てしまっているような人は積極的に治療が検討されます。特に摂食や飲水に著しく支障をきたしている場合は脱水や脳症の危険があるためビタミン剤を添加した点滴を必要とすることがあります。いずれにせよつわりで苦しいのは「しょうがない」という側面もあるため、治療目標は完治を目指すというよりは、症状の緩和と生命の危険や合併症リスクの低減を目指していく感じになります。

つわり・妊娠悪阻に効果的な食事法

つわりは空腹時と満腹時に症状が強くなる傾向が見られるため、空腹を感じ始める前に食べること、具体的には細かく1〜2時間ごとに軽食をとるという方法が提案されることがあります 1)2)。また、脂っぽかったり甘さや辛さが強い食べものはつわりを悪化させる可能性が示唆されているため、さっぱりとした刺激が少ない食べ物が勧められる傾向があります(欧米ではバナナ, ライス, アップルソース, トーストの頭文字をとってBRAT食と呼ばれる食事が用いられることが多いみたいです)。また、よく言われることですが、嘔気に対してショウガの有効性も示唆されています 3)4)。ショウガとつわりの関係はよく分かっていませんが、一説によるとショウガに含まれるジンゲロールとショウガオールがコリン作動性M3受容体とセロトニン作動性5-HT3受容体を阻害することにより効果を発揮するとされています。摂取方法に決まりは無いようで、料理に入れるほかジンジャーティーとして飲んだり粉末のショウガを飲んだりすることが多いようです。

まとめ

本日はつわりに効果がある食事について解説しました。色々と書きましたがつわりは個人差が大きい病態であり、人によってはむしろ脂っこいものが大丈夫だったりもします。いずれにしてもこの時期はあまり栄養バランスを気にせず食べられるものを食べていただくので十分ですので上記を参考にしながら自分に合う食事を探してみてください。

参考文献
1) V Newman, et al. J Obstet Gynecol Neonatal Nurs. 1993 Nov-Dec;22(6):483-90.
2) Stephan C Bischoff, et al. Auton Neurosci. 2006 Oct 30;129(1-2):22-7.
3) Youchun Hu, et al. J Matern Fetal Neonatal Med. 2022 Jan;35(1):187-196.
4) Estelle Viljoen, et al. Nutr J. 2014 Mar 19:13:20.

NIPTを早く受けることについて

こんにちは、副院長の石田です。

以前からこのブログでご紹介しているように、当院では認証施設としてご希望の患者さんに妊娠11〜12週前後でNIPTを提供しています。妊婦さんの採血だけで染色体異常について知ることができるこの検査を希望される方は多いですが、検査前の相談でよく聞かれるのが「結果を早く知りたいので検査ももう少し早くできますか?」という質問です。心情的になんとなく焦ってしまうのは理解できますが、果たして早く受けることはできるのか、そしてそれは本当に良いことなのか、今回は一緒に深掘ってみましょう。

そもそもなぜその週数で行うのか?

NIPTは胎盤(厳密にいうとこの週数では絨毛と呼ばれる組織ですが)の古くなって剥がれた細胞から妊婦さんの血流中に漏れ出てきたDNAの断片(cfDNA)を数えて病気の有無を調べる検査です。この胎児・胎盤由来のcfDNAが母体血中に占める割合を”fetal fraction”と呼びますが、正確な検査を行うためにはこれが十分に高いこと、具体的には少なくとも4%以上あることが大切です 1)2)。通常胎児・胎盤由来のcfDNAは早いと妊娠5週から、遅くても妊娠9週までには母体血中にみられるようになります 3)。そして妊娠10週以降になると概ね10〜20%のfetal fractionが得られるようになるためNIPTはその頃から行われるようになるんですね 2)4)5)。

早く受けることにメリットはあるのか?

色々と考え方はあると思うのですが、私個人としてはNIPTを早く受けるメリットはあまりないと考えています。検査精度のこともそうですが、NIPTは非確定検査と言ってそれ自体の陽性・陰性では診断が確定しません。例えばダウン症候群が陽性となっても、本当に21番染色体が3本あるかは絨毛検査や羊水検査を受けないと分からないんですね。そして多くの施設で提供されている羊水検査は妊娠16週頃にならないと受けられないので、結局そこまで待つことになります。たまに「早期NIPT」として妊娠6週頃よりNIPTを提供している施設がありますが、何かそれが可能になる新技術でもあるのかと文献を調べたり関係各所にヒアリングしてみたものの、今のところそういった事実は確認できませんでした。実際そうした施設のウェブサイトを確認すると「判定保留の場合は無料で再検査いたします」と書いてあり、もしかしたら従来のNIPTを早くにやっているだけなのかもしれません。「早くに分かれば内服薬による中絶を選択できる」とする意見も散見されますが、一般的にNIPTの結果だけで中絶を受けてくれる産婦人科はほとんど無いと思われます。

まとめ

本日はNIPTを受ける時期について解説いたしました。赤ちゃんのことを早く知りたい気持ちもあるとは思いますが、闇雲に焦るとかえってモヤモヤする時間が長くなったりとストレスが増えてしまう恐れもあります。日本の妊婦健診や出生前診断は必要な検査を適切な時期に受けられるよう配慮されていますので、慌てず一つひとつ進めていくようにしましょう。

参考文献
1) Lisa Hui, et al. Prenat Diagn. 2019 Dec 10;40(2):155-163.
2) Sanaz Mousavi, et al. BMC Pregnancy and Childbirth. 2022 Dec 8;22(1):918
3) Guibert J, et al. Hum Reprod. 2003;18(8):1733.
4) G Ashoor, et al. Ultrasound Obstet Gynecol. 2013 Jan;41(1):26-32.
5) Glenn E Palomaki, et al. Genet Med. 2011 Nov;13(11):913-20.

NIPTの検査機関と検査精度について

こんにちは、副院長の石田です。

当院は現在、日本医学会の出生前検査認証制度等運営委員会の認証を受けてNIPTを提供していますが、妊婦健診や検査前の遺伝カウンセリングでよく聞かれる質問の一つに「NIPTの検査精度って病院によって違いますか?」というものがあります。実はこれ、とても大事なことなので今回は本件について少し説明させていただこうと思います。

NIPTってどこで検査しているの?

一般的にNIPTは各医療施設でカウンセリングと採血を行ったのち、検査会社に血液サンプルを渡して行います。結果が出たらそれが病院に返送され、外来等で担当医から患者さんに報告するという仕組みになっており、院内で検査をしているわけではないんですね。つまり厳密に言うと検査精度は「どの病院を受診するか」というよりは「どの検査会社が行うか」によることになります。

病院はどんな検査会社と契約しているの?

あまり知られていませんが、NIPTの認証制度は病院や診療所などの医療施設だけでなく、検査会社の方にもあります。同じく出生前認証制度等運営委員会により認証された検査会社を「認証検査分析機関」と呼びますが、認証施設はほぼ間違いなく認証検査分析機関と契約しているため検査の質が保証されているんですね。逆に認証検査分析機関は非認証施設に検査を提供すると「委員会認証検査分析機関剥奪」につながる恐れがあります。そのため非認証施設は同様に認証を受けていない検査会社と契約していることがほとんどですので、そこで行われている検査の質が高いか低いかは分からないということになります。

まとめ

もちろん「非認証施設の検査は質が低い」と言ってしまうのは暴論ですが、少なくとも認証施設の検査は安心して受けていただけますよというお話でした。NIPTをお考えの妊婦さんとそのご家族におかれましては、そのほかにも気になることがあればスルーしてしまうのではなく、遠慮なくかかりつけの主治医に相談しましょう。

ピルを使えるのは何歳から?

こんにちは、副院長の石田です。

生理痛はいつの時代も女性にとって理不尽な苦痛です。生理痛で当院を受診される患者さんの中には小学生の女の子なんかもいて、学校の成績や中学受験の合否、スポーツのパフォーマンスにも影響してしまうことがあるため当人やご家族にとって深刻な問題にもなっています。若年女性における生理痛は「機能性月経困難症」と言って子宮筋腫や子宮内膜症などの原因疾患が無いことが多く、まずはロキソニンやイブプロフェンなどの痛み止めを使って様子を見るのが一般的ですが、それでもコントロールが難しい場合はピルの使用が検討されます。そこで本日は思春期、特に10代前半の女の子のピル服用についてお話ししようと思います。

何歳からピルを使えるようになるのか?

日本の添付文書上では「骨成長が終了していない可能性がある患者」に対しては禁忌とされていますが、世界保健機構(WHO)やアメリカ疾病予防管理センター(CDC)などの基準によると生理が始まればいつからでも使用できることになっています 1)2)3)。これはどういうことかと言うと、骨の両端にある骨端線という軟骨組織で骨化が起きることで子供の身長は伸びますが、女性の場合は二次性徴が始まり女性ホルモンが分泌され始めることで骨端線が閉鎖し始めるため、女性ホルモン製剤であるピルを使用すると骨端線の閉鎖が早まって身長が伸びなくなってしまうのではないかと考えられているからです。(実際は骨端線が閉じた後も数年間は身長が伸び続けると考えられています。)そのほか、思春期のピル服用は骨密度の増加を抑制してしまうという臨床研究もあります。しかしその一方で、そのせいで骨折のリスクが増えるかというとそんなことも無さそうというエビデンスも揃っており、若年女性でのピルの使用は日本のガイドライン上では「ダメではないけど一応慎重にね!」という扱いになっています 4)5)6)。

まとめ

本日はピルは何歳から飲めるのか問題について解説しました。以上の点から当院では、小中学生の女の子で痛み止めや漢方でコントロール不良な生理痛にお困りの場合、ご本人の現在の身長と伸びの状況、そして現在の生理痛がどの程度日常生活に支障を来たしているかなどを包括的に伺った上で、リスクとメリットをご説明のうえよく話し合った上でピルを使用するか決めていただいております。若年女性では婦人科受診というと身構えてしまうかもしれませんが、内診などのデリケートな診察を無理に行うようなことはありませんので気軽にご相談ください。

参考文献
1) World Health Organization. Medical eligibility criteria for contraceptive use fifth edition, 2015.
2) CDC. U.S. Medical Eligibility Criteria for Contraceptive Use, 2024.
3) あすか製薬株式会社. ドロエチ配合錠「あすか」添付文書
4) Azita Goshtasebi, et al. Clin Endocrinol (Oxf). 2019 Apr;90(4):517-524.
5) Vestergaard P, et al. Contraception 2008;78:358-64.
6) 日本産科婦人科学会/日本女性医学学会. OC・LEPガイドライン2020年度版. CQ118

当院の4Dエコー

こんにちは、副院長の石田です。

みなさん、4Dエコーは好きですか?私は好きです。
海外の妊婦健診だと全妊娠を通して3回くらいしか超音波検査をしないことが多いですが、日本だと毎回赤ちゃんの状態をエコーで確認する病院が多いと思います。当院もその一つですが、それに加えてにしじまクリニックでは妊娠中期以降に毎回追加料金無しのサービスで4Dエコーを行っています。そこで本日はそれについて少しお話ししたいと思います。

4Dエコーとは

体内の構造物を立体的に映すことができる装置です。Dは“Dimension(次元)”のDですが、3Dが縦/横/高さの静止画像なのに対してそれがリアルタイムで動くので時間軸を掛け合わせて4Dです。赤ちゃんの顔を含む体のパーツが キレイに見えるため、見てて楽しく思い出にも残る上にいくつかの先天性疾患においては白黒のエコー以上に正確な診断がしやすいというメリットもあります。

最近撮影した赤ちゃんたち

どのくらいはっきりと撮影できるかは赤ちゃんの向きや角度、顔の前に四肢や臍帯などの障害物があるか、子宮壁との間に羊水の空間が取れているかなどいくつかの要因に左右されるため、短い妊婦健診の時間で常によい画像が撮れるとは限りませんが、イメージとしてはこんな感じの写真が撮れます。(私がつい最近撮影した写真です。患者さん本人に写真使用の許可をいただいた上で匿名化処理をして掲載しています。)

これは妊娠13週くらい。顔を腕でバツして隠している。
これも13週台。この時期は全身が写るのがかわいい。
20週になるとだいぶ顔の形が分かるようになってくる。
35週台。臨月近くなるともうムチムチ。

ちょっと小話

私が以前、仲間とカンボジアで病院を立ち上げた時、その地域の妊婦健診受診率が非常に低いことが課題の一つでした。そのため地域のコミュニティで啓蒙活動を行ったり有力者とコネを作ったりと様々な努力をしたのですが、受診率は一向に上がりません。院長も以前アフリカで国境なき医師団として活動していましたが、同じような悩みを抱えていたことがあったそうです。
そんな時にふと、「妊婦健診の大切さを訴えるのではなく、健診自体が楽しみになれば自然に来てくれるのではないか」と思い立ち、日系企業のサポートを得て4Dエコーを導入して写真をプレゼントし始めたところ、カンボジアのド田舎で急激に妊婦健診受診率が向上するという経験をしました。
もちろん日本と新興国では状況が違いますが、にしじまクリニックは皆さんに妊婦健診を楽しみにして通っていただきたいと思っています。そうすることで母児の健康状態を的確に把握しながら皆さんと我々の間でさらに強い信頼関係を構築することも期待でき、その結果としてより安全で安心な医療を提供できるようになると信じているんですね。当院で4Dエコーを行っているのはただの「客寄せ」ではなく、実はそういった想いが背景にあります。

まとめ

さて、そんなこんなで以前より院長と私の妊婦健診で毎回4Dエコーを撮影して皆さんに見ていただくようにしていましたが、少し前から助産師外来にも機器を導入し、初期を除く全ての妊婦健診で4Dが撮影できるようになりました。当院で妊婦健診を受けていただいている方におかれましては今まで以上に楽しんでいただけると幸いです。