丙午(ひのえうま)についての雑感

あけましておめでとうございます、副院長の石田です。

私の妻が小児科医なんですが、先日「2026年って丙午なんだよね?」と言われました。なんでも小児科界隈ではベテランの先生方を中心に、これがきっかけで少子化がさらに加速してしまったらどうしようと心配する雰囲気があるらしいです。確かにネットニュースやYouTubeでも丙午について議論するようなものをチラチラ見かけます。そこで本日はこの件について少しお話ししてみたいと思います。

そもそも干支とは

一般的に干支(えと)と言うと子(ネズミ)から亥(イノシシ)までの生まれ年ごとに割り振られた12種類の動物がイメージされると思います。これを十二支と言いますが、正式にはこれらの動物に加えて甲(きのえ)から癸(みずのと)で構成される十干(じっかん)という暦法を組み合わせた60種類で干支は表されることになっています。例えば1982年生まれの私の場合、十二支は戌(いぬ)で、干支は壬戌(みずのえいぬ)と表されるわけです。余談ですが、60歳を還暦と呼ぶのは干支が1周して元の自分の“暦“に“還“るからです。

では丙午とは

すごく簡単に言うと、八百屋お七という情熱的な女性がある男の人のことを好きすぎて放火事件を起こした末に死刑になったという、井原西鶴の作ったハードボイルドなフィクションが流行った結果、転じて「丙午生まれの女性は気性が荒く、男を不幸にする」という迷信が広がって、丙午の年の出生数がダダ下がったという話です。実際前回の丙午である1966年の出生数は25%程度減少しており、江戸前期に作られたストーリーが約300年の時を越えて赤ちゃんの数に影響したことを考えるとなんだか壮大な感じがしますよね。いずれにしても今年は60年ぶりの丙午ということで、ちょっとした話題になっているのです。

雑感

日本全体で妊婦さんがどうお考えかは分からないのですが、私のイメージでは丙午を気にしている妊婦さんはほとんどいません。妊娠、出産の性質上、今年が予定日になる患者さんは昨年の5月ごろから妊婦健診を開始していますが、普段の妊婦健診でその心配を口にされる方はほぼ皆無でしたし、エコーを見ながら「女の子ですよ」と伝えても、みなさんとても喜んでくれます。客観的な数字の話で言うと、妊婦健診で来られる患者さんの数も全く減っていませんし、少なくとも当院の周辺地域のご家族はあまり気にしていなさそうです。

まとめ

本日は話題の丙午についてお話ししてみました。干支占い的に言われる性格の傾向では、丙午生まれは「明るく行動が大胆で、無理だと言われることでも実現させられる強さがある」人だそうです。今年生まれた子どもたちは、将来世界をより良い場所に変えてくれるような世代になるかもしれませんね。

本年もどうぞ、よろしくお願いいたします。

「お産の時に会陰切開してほしくないな」と思っているみなさんへ

こんにちは、副院長の石田です。

お産が近づいてくると気になることの一つに会陰切開があります。会陰切開が分娩時に行われることがある、ということ自体は初産婦の方でも多くが知っているものの、実際に「切る」と想像すると不安や恐怖を感じてしまう人もいるでしょう。そこで本日は、会陰切開をどう考え、どのように向き合っていけばよいのかについて一緒に考えていきたいと思います。

会陰切開とはなんなのか

会陰切開とは、赤ちゃんが産道を通りやすくするために会陰部(腟と肛門の間)をハサミで切開する医療手技のことを指します。経腟分娩を経験する女性のうち、会陰切開の有無にかかわらず実際にはおよそ90%前後の方に何らかの会陰裂傷が生じるといわれていますが、切れ方によっては複雑に広がり治りにくくなるケースもあるため、自然に裂けてしまうよりも重症化しにくい方向へ誘導したり、後で縫合しやすいきれいな傷を作る目的であらかじめ会陰切開を行うことがあります 1)。また、母体や赤ちゃんの状態が悪化し分娩を急ぐ必要がある場合、あるいは吸引分娩・鉗子分娩など補助的な器具を使用する場面でも、安全性を高めるために会陰切開が必要となることがあります。切開を入れるタイミングは、赤ちゃんの頭が降りてきて出そうになる直前で行われるのが一般的です。

会陰切開の実際

いや、会陰切開が医療的に大切な処置なのは知っているんだと。それは分かるんだけどハサミでお股を切るなんて想像するだけで怖いから、できればそんなことしないで欲しいんだよってみなさん思っていることでしょう。そんなお母さんたちにここからは私の超主観的なアンサーになるんですけど、自分はお産前から会陰切開のことなんてあまり気にしなくてよいと考えています。というのも、前提として赤ちゃんが生まれる直前は陣痛もさることながら、腟と会陰も赤ちゃんの頭にゴリゴリ押し広げられてとても痛いんですよ。そんな中で「会陰切開すれば赤ちゃんがすぐ出てくる」「これでお産にしましょう」って伝えて「やらないで!」って断られたことは1回も無いです。というか、なんなら喰い気味に「いいから早く切って!!」って怒られたことは数えきれないほどあります。そのぐらいお産の瞬間って大変なんですよね。もちろん無痛分娩なら切開やその後の縫合も痛くないので気にする必要はないでしょう。会陰切開のリアルな現場はそんな感じなので、お産前からそれを気にし過ぎるよりはもっと分娩中の過ごし方とか楽しいことを考えた方が建設的なのかなというのが私の意見でした。

まとめ

ということで本日は会陰切開について少しお話ししました。たまに会陰切開を入れなければ縫わなくて済むと誤解されている妊婦さんもいらっしゃるのですが、お股を3kg近い赤ちゃんが通過するわけですから、上記の通り会陰切開の有無に関わらずほとんどのお産で大なり小なり切れます。そしてそもそも我々産婦人科医としても、切らなくて済むなら切りたくないんですよ。切らずに裂傷なしでお産になればそれで仕事が終わる上に、患者さんからは(何もやってないのに)名医的な雰囲気ですごく感謝されることが多いからです。それでも時にはお母さんの会陰を深刻なダメージから、そして赤ちゃんの健康を重大なリスクから守るためには躊躇なく行わなければなりません。もちろんその時の声掛けなどを打ち合わせるために当院のバースプランにも会陰切開の項目がありますが、とは言え妊婦さんたちはあまりそこに固執することなく、楽しく分娩に臨んでいただければと思います。

参考文献
1) Nicola Adanna Okeahialam, et al. Am J Obstet Gynecol. 2024 Mar;230(3S):S991-S1004.

ヒト受精胚と胎児の位置づけ

みなさんは

出産する前の胎児

受精卵が着床した受精胚

に対して位置づけや権利を考えたことがあるでしょうか。

ヒトの受精胚の位置づけと扱い

現行の日本の法律では、ヒト受精胚は「人」として扱っていません。ただし受精胚が「人」そのものではなくとも尊重されるべき存在であり、単に「物」扱いとして研究材料として扱ってはなりません(自然な考え方だと思います)。

*参照:厚生労働省 総合科学技術会議「ヒト胚の取扱いに関する基本的考え方

胎児の定義(産科婦人科用語集・用語解説集から)

ヒトの場合は妊娠10週から娩出するまでの児を指します。

その前に見える体は「胎芽(たいが)」と呼ばれます。

生存可能な胎児は相続、損害賠償請求権、遺贈の権利認められる

民法では、原則出生してから人権を持つので、出生前の胎児は権利能力は認められませんが、

相続、不法行為に基づく損害賠償請求権、遺贈

の3つについては、例外的に認められます。ただし、死産した場合はこれらの権利は認めれません

また胎児に対する刑事責任は問う事ができません。刑法上は胎児はまだ「人」として扱われないからです。

*胎児の権利に関しては法律事務所や司法書士事務所のホームページから多く記載されています。気になる方は一度検索し閲覧してみてはいかがでしょうか。

執筆 院長

臍の緒の構造

臍帯動脈は2本、臍帯静脈は1

臍の緒(臍帯)は臍帯動脈と臍帯静脈がワルトン膠質という物質に包まれています。

・臍帯動脈:胎児(内腸骨動脈由来)から母体(胎盤へ向かう血液を運びます。通常2本あります。これは児左右の内腸骨動脈からつながっている(左右の内腸骨動脈→それぞれの臍動脈)から2本あるのです。

臍帯静脈:胎盤で受け取った酸素と栄養分を胎児へ送ります。1本の構造となります。

・ワルトン膠質:弾力性のある物質で、3つの血管を外部の損傷から保護し、クッションの役割を果たします。

上記3つの血管は、胎児スクリーニングにおいても確認します。臍帯動脈が1本しかない場合、胎児奇形がないか、その後の発育に異常がないかを確認していきます。

胎児循環血液の酸素飽和度

胎盤からの血流は臍帯静脈→胎児の肝臓に向かうアランチウス管(静脈管)→胎児の下大静脈→胎児右心房の経路で胎児心臓に還ります。酸素飽和度(SO2)で示すと

臍帯静脈血は80%です。下大静脈では胎児下半身から心臓に向かう静脈血が混じるため、酸素飽和度は70%位になります。この血流の大部分は胎児心房の穴(卵円孔)から左心房へ移動できるので、その後の胎児の各器官へ速やかに酸素が運ばれる仕組みが胎児には通常備わっています。

臍帯圧迫により胎児心拍数は急速に低下する(変動一過性徐脈)

CTG/NSTにおいて変動一過性徐脈は臍帯圧迫を意味します。

臍帯圧迫→臍帯動脈血流の減少→心臓後方の血圧が急激に上昇→圧受容器が感知→迷走神経反射により胎児心拍数を低下させ、変動一過性徐脈として現れます。

新生児蘇生時、アドレナリンの投与経路として臍帯静脈を用いる

新生児蘇生/NCPRの救命の流れにおいて、適切な人工呼吸かつ胸骨圧迫を行ったうえでも新生児の心拍が60回/未満の場合、アドレナリンの投与を検討します。その際の投与ルートとして第一選択は臍帯静脈となります。成人で点滴のルート確保は末梢静脈となりますが、新生児は静脈の確保を素早く行えるが臍帯静脈だからです。

執筆 院長

麻酔薬のマーカインは高比重と等比重がある

当院の帝王切開において、脊髄くも膜下麻酔はマーカイン®︎という局所麻酔薬を採用しています。

マーカイン®︎(ブピバカイン)

特徴:長時間作用型。血管内誤注入時の心毒性に注意

マーカイン®︎は濃度によって使用目的が異なります。

▪️0.125%, 0.25%:硬膜外麻酔(無痛分娩)

▪️0.5%(20mg[0.02g]/4mL):脊髄くも膜下麻酔(帝王切開での麻酔)

1%アナペイン®︎100mg(0.1g)/10mLを0.25%へ希釈するなら生理食塩水を30mL加える

0.5%マーカイン®︎は「等比重製剤」と「高比重製剤」に分けられます。

・等比重製剤:麻酔範囲の広がりが緩徐で、高比重製剤に比べて作用発現時間が遅く、作用持続時間が長い

・高比重製剤:麻酔範囲の広がりが比重に依存しているため手術台の傾斜によりある程度の麻酔範囲の調節が可能である。

等比重製剤に比べて作用発現時間が早く、作用持続時間が短い。

上記の特性から、当院の帝王切開での脊髄くも膜下麻酔は0.5%マーカイン®︎「高比重製剤」を採用しています。当院で帝王切開をご経験された方でベッドの傾きの一時調整をされた方もいらっしゃると思います。これは麻酔レベルの調整のためなのです。

執筆 院長