NIPTの検査機関と検査精度について

こんにちは、副院長の石田です。

当院は現在、日本医学会の出生前検査認証制度等運営委員会の認証を受けてNIPTを提供していますが、妊婦健診や検査前の遺伝カウンセリングでよく聞かれる質問の一つに「NIPTの検査精度って病院によって違いますか?」というものがあります。実はこれ、とても大事なことなので今回は本件について少し説明させていただこうと思います。

NIPTってどこで検査しているの?

一般的にNIPTは各医療施設でカウンセリングと採血を行ったのち、検査会社に血液サンプルを渡して行います。結果が出たらそれが病院に返送され、外来等で担当医から患者さんに報告するという仕組みになっており、院内で検査をしているわけではないんですね。つまり厳密に言うと検査精度は「どの病院を受診するか」というよりは「どの検査会社が行うか」によることになります。

病院はどんな検査会社と契約しているの?

あまり知られていませんが、NIPTの認証制度は病院や診療所などの医療施設だけでなく、検査会社の方にもあります。同じく出生前認証制度等運営委員会により認証された検査会社を「認証検査分析機関」と呼びますが、認証施設はほぼ間違いなく認証検査分析機関と契約しているため検査の質が保証されているんですね。逆に認証検査分析機関は非認証施設に検査を提供すると「委員会認証検査分析機関剥奪」につながる恐れがあります。そのため非認証施設は同様に認証を受けていない検査会社と契約していることがほとんどですので、そこで行われている検査の質が高いか低いかは分からないということになります。

まとめ

もちろん「非認証施設の検査は質が低い」と言ってしまうのは暴論ですが、少なくとも認証施設の検査は安心して受けていただけますよというお話でした。NIPTをお考えの妊婦さんとそのご家族におかれましては、そのほかにも気になることがあればスルーしてしまうのではなく、遠慮なくかかりつけの主治医に相談しましょう。

ピルを使えるのは何歳から?

こんにちは、副院長の石田です。

生理痛はいつの時代も女性にとって理不尽な苦痛です。生理痛で当院を受診される患者さんの中には小学生の女の子なんかもいて、学校の成績や中学受験の合否、スポーツのパフォーマンスにも影響してしまうことがあるため当人やご家族にとって深刻な問題にもなっています。若年女性における生理痛は「機能性月経困難症」と言って子宮筋腫や子宮内膜症などの原因疾患が無いことが多く、まずはロキソニンやイブプロフェンなどの痛み止めを使って様子を見るのが一般的ですが、それでもコントロールが難しい場合はピルの使用が検討されます。そこで本日は思春期、特に10代前半の女の子のピル服用についてお話ししようと思います。

何歳からピルを使えるようになるのか?

日本の添付文書上では「骨成長が終了していない可能性がある患者」に対しては禁忌とされていますが、世界保健機構(WHO)やアメリカ疾病予防管理センター(CDC)などの基準によると生理が始まればいつからでも使用できることになっています 1)2)3)。これはどういうことかと言うと、骨の両端にある骨端線という軟骨組織で骨化が起きることで子供の身長は伸びますが、女性の場合は二次性徴が始まり女性ホルモンが分泌され始めることで骨端線が閉鎖し始めるため、女性ホルモン製剤であるピルを使用すると骨端線の閉鎖が早まって身長が伸びなくなってしまうのではないかと考えられているからです。(実際は骨端線が閉じた後も数年間は身長が伸び続けると考えられています。)そのほか、思春期のピル服用は骨密度の増加を抑制してしまうという臨床研究もあります。しかしその一方で、そのせいで骨折のリスクが増えるかというとそんなことも無さそうというエビデンスも揃っており、若年女性でのピルの使用は日本のガイドライン上では「ダメではないけど一応慎重にね!」という扱いになっています 4)5)6)。

まとめ

本日はピルは何歳から飲めるのか問題について解説しました。以上の点から当院では、小中学生の女の子で痛み止めや漢方でコントロール不良な生理痛にお困りの場合、ご本人の現在の身長と伸びの状況、そして現在の生理痛がどの程度日常生活に支障を来たしているかなどを包括的に伺った上で、リスクとメリットをご説明のうえよく話し合った上でピルを使用するか決めていただいております。若年女性では婦人科受診というと身構えてしまうかもしれませんが、内診などのデリケートな診察を無理に行うようなことはありませんので気軽にご相談ください。

参考文献
1) World Health Organization. Medical eligibility criteria for contraceptive use fifth edition, 2015.
2) CDC. U.S. Medical Eligibility Criteria for Contraceptive Use, 2024.
3) あすか製薬株式会社. ドロエチ配合錠「あすか」添付文書
4) Azita Goshtasebi, et al. Clin Endocrinol (Oxf). 2019 Apr;90(4):517-524.
5) Vestergaard P, et al. Contraception 2008;78:358-64.
6) 日本産科婦人科学会/日本女性医学学会. OC・LEPガイドライン2020年度版. CQ118

当院の4Dエコー

こんにちは、副院長の石田です。

みなさん、4Dエコーは好きですか?私は好きです。
海外の妊婦健診だと全妊娠を通して3回くらいしか超音波検査をしないことが多いですが、日本だと毎回赤ちゃんの状態をエコーで確認する病院が多いと思います。当院もその一つですが、それに加えてにしじまクリニックでは妊娠中期以降に毎回追加料金無しのサービスで4Dエコーを行っています。そこで本日はそれについて少しお話ししたいと思います。

4Dエコーとは

体内の構造物を立体的に映すことができる装置です。Dは“Dimension(次元)”のDですが、3Dが縦/横/高さの静止画像なのに対してそれがリアルタイムで動くので時間軸を掛け合わせて4Dです。赤ちゃんの顔を含む体のパーツが キレイに見えるため、見てて楽しく思い出にも残る上にいくつかの先天性疾患においては白黒のエコー以上に正確な診断がしやすいというメリットもあります。

最近撮影した赤ちゃんたち

どのくらいはっきりと撮影できるかは赤ちゃんの向きや角度、顔の前に四肢や臍帯などの障害物があるか、子宮壁との間に羊水の空間が取れているかなどいくつかの要因に左右されるため、短い妊婦健診の時間で常によい画像が撮れるとは限りませんが、イメージとしてはこんな感じの写真が撮れます。(私がつい最近撮影した写真です。患者さん本人に写真使用の許可をいただいた上で匿名化処理をして掲載しています。)

これは妊娠13週くらい。顔を腕でバツして隠している。
これも13週台。この時期は全身が写るのがかわいい。
20週になるとだいぶ顔の形が分かるようになってくる。
35週台。臨月近くなるともうムチムチ。

ちょっと小話

私が以前、仲間とカンボジアで病院を立ち上げた時、その地域の妊婦健診受診率が非常に低いことが課題の一つでした。そのため地域のコミュニティで啓蒙活動を行ったり有力者とコネを作ったりと様々な努力をしたのですが、受診率は一向に上がりません。院長も以前アフリカで国境なき医師団として活動していましたが、同じような悩みを抱えていたことがあったそうです。
そんな時にふと、「妊婦健診の大切さを訴えるのではなく、健診自体が楽しみになれば自然に来てくれるのではないか」と思い立ち、日系企業のサポートを得て4Dエコーを導入して写真をプレゼントし始めたところ、カンボジアのド田舎で急激に妊婦健診受診率が向上するという経験をしました。
もちろん日本と新興国では状況が違いますが、にしじまクリニックは皆さんに妊婦健診を楽しみにして通っていただきたいと思っています。そうすることで母児の健康状態を的確に把握しながら皆さんと我々の間でさらに強い信頼関係を構築することも期待でき、その結果としてより安全で安心な医療を提供できるようになると信じているんですね。当院で4Dエコーを行っているのはただの「客寄せ」ではなく、実はそういった想いが背景にあります。

まとめ

さて、そんなこんなで以前より院長と私の妊婦健診で毎回4Dエコーを撮影して皆さんに見ていただくようにしていましたが、少し前から助産師外来にも機器を導入し、初期を除く全ての妊婦健診で4Dが撮影できるようになりました。当院で妊婦健診を受けていただいている方におかれましては今まで以上に楽しんでいただけると幸いです。

帝王切開分娩による愛着形成への影響

こんにちは、副院長の石田です。

先日、とある妊婦さんから「今回帝王切開の予定なのですが、お腹を痛めずに産んでちゃんとママになれるか心配です。」という悩みをご相談いただくことがありました。よく話を聞いてみると、陣痛を経験しないで産むとちゃんと愛情が出ないのではないかとご心配されていたんですね。同じようなことを気にされる方はいつの時代も少なくありませんが、実際に帝王切開でのお産は母子の絆を阻害することがあるのでしょうか?そこで本日はこの件について少し掘り下げてみましょう。

なんでそういう考え方が出てくるのか?

そもそも私としては、なんで悠久の進化の過程で痛みを感じずに出産できるようにならなかったのかがよく分かりませんが、創世記第3章によるとアダムとイブが神様がダメって言ったのに知恵の実を食べたのがまずかったみたいです。怒った神様がアダムには労働を、イブには陣痛の苦しみを罰として与えたため、いまだにお産はしんどいままということのようでした。ちなみに労働も陣痛も英語にすると”labor”ですが、その語源はここから来ているとかなんとか。
それはさておき心理学的な話をすれば、努力正当化(effort justification)と言って人間は苦労して得たものに強い愛着を感じる傾向があるため、「出産の痛みを経験することで強く子供を愛せる」→「陣痛を耐え抜かないと愛情が足りなくなる」という考えが生まれがちなのかもしれませんね。

実際の影響はどうなっているのか?

これに関しては複数の臨床研究が出ていますが、日本人を対象とした有名なエコチル調査によると経腟分娩と帝王切開で「愛情の欠如」について統計学的な差は見られませんでした 1)。それどころか別の研究では予定、緊急を問わず帝王切開分娩では経腟分娩と比べて産後8週間と14ヶ月の時点における愛着形成が強かったという結果すら示されています 2)。ちなみに帝王切開術が全身麻酔(意識がなくなる麻酔)で行われた場合、脊椎くも膜下麻酔などの局所麻酔の時と比べて退院時の愛着形成に問題が生じる可能性を示唆する報告もありましたが、それですら産後1ヶ月の時点では差が無くなっていたということです 3)。まぁ、手術によってかえって愛情が強くなるとまで言うのはやや違和感がありますが、少なくとも帝王切開分娩のせいで赤ちゃんに対する愛情が阻害されるという心配は不要だと言ってよいでしょう。

まとめ

逆子や胎児機能不全など、帝王切開術の多くは母親というよりは赤ちゃんを助けるために行われます。言い換えると「赤ちゃんが死んでもよい」なら帝王切開をする必要はないことが多々あるんですね。それにも関わらず子供のために自分のお腹を切らせる母親の決断は、私に言わせれば純度100%の愛情であり愛着形成の阻害になり得ません。手術前は母子関係ができるか不安があるとしても生まれてきた赤ちゃんが必ず皆さんを親にしてくれますので、帝王切開が決まった方におかれましても安心して分娩に臨んでいただければと思います。

参考文献
1) Taketoshi Yoshida, et al. J Affect Disorder. 2020 Feb 15;263:516-520.
2) Svenja Doblin, et al. BMC Pregnancy and Childbirth. 2023 Apr 25;23(1):285.
3) Kenta Nitahara, et al. J Perinat Med. 2020 Jun 25;48(5):463-470.

日本の妊婦と新型コロナウイルス感染症のこれまで

こんにちは、副院長の石田です。

なんか最近また新型コロナウイルス感染症の患者さんが少し増えてきているのかなという雰囲気がありますが、皆さんは元気にお過ごしでしょうか?2020年から社会全体がパンデミックにより振り回されてきたこともあり、もう名前も聞きたくないという方も多いかもしれませんが、最近の学会誌でこれまでの妊婦さんとコロナの状況についてデータをまとめた論文が出ていたので内容を簡単にご紹介してみようと思います 1)。

妊婦におけるCOVID-19の発生状況

実は国内の妊婦さんにおけるCOVID-19の罹患数についての統計は報告されていません。「あんなに毎日書類書いてどこかに送ってたのに…。」とか思うんですが、全期間を通したレジストリ登録妊婦の重症度別割合を解析すると軽症(咳のみ)が85%、中等症I(呼吸困難あり)が8.2%、中等症II(酸素投与)が6.2%、重症(人工呼吸器やECMOを使用)が0.65%ということでした。ただ、中等症II+重症の割合はデルタ株(第5波)で20%だったものの、オミクロン株(第6波)以降では1%未満と急激に低下したそうです。

妊婦のCOVID-19 重症化リスク

上記の通り、第6波以降で感染した方は明らかに重症度が低いです。ワクチンに関しては接種歴不明を除いて解析すると、中等症II・重症は1回以上接種者で0.39%に対して非接種者10%と有意に差があったようです。そのほか、重症化リスクとしては妊娠前半(21週未満でリスクが6.5倍)、体格(BMI≧30でリスクが2.8倍)、年齢(31歳以上で2.8倍)、妊娠前からの基礎疾患の有無(基礎疾患有りで2.5倍)などが挙げられたそうです。一方で妊娠に伴う産科合併症(妊娠糖尿病、妊娠高血圧症候群、切迫流早産など)に関してはCOVID-19の重症化とは関係なさそうということでした。

まとめ

本日は今さらだけど妊娠とコロナについての振り返りをご紹介してみました。どれも皆さんの肌感覚に概ね合うデータなんじゃないかなと思いますがいかがだったでしょうか?コロナだけでなくインフルエンザやマイコプラズマ、最近ではりんご病など様々な感染症が流行っていますが、妊婦さん本人はもちろんご家族も含めて十分注意しながら快適なマタニティライフをお過ごしください。

参考文献
1) Masashi D. Acta Obst Gynaec JPN 2024;76(12):1711-1716.