血小板とは

本日は血小板についてのお話です。

血液は細胞成分である血球と、液体成分である血漿から構成されます。

血球は赤血球、白血球、血小板があり、いわゆる「採血」でそれらの数値をみることができます。

血小板は血液1μL(mm3)中に15〜40万個存在する小さな細胞で、寿命は8〜10日と赤血球に比べて寿命が短いのが特徴です。

「輸血」で思い浮かべると「赤」を思いうかびますよね。血小板輸血については「黄色」い製剤で、寿命や保存の扱いが難しいことから、血小板輸血製剤は献血などの採血をしてから4日しか保存期間が認められていない1)貴重なものと言えます。また血小板輸血をする際の点滴ラインも専用のものを用います。

血小板の機能は(一次)止血を担うことです。よって血小板の数が少ないと、出血を必ず伴う出産の時に血小板による止血機構が働かないと困りますよね。また無痛分娩や帝王切開では麻酔のために背中から針を刺すので、一般的に血小板数が10万未満の場合は慎重な判断を求められることがあります。

特に妊娠では血小板数は減少する傾向のある方々もいらっしゃるので、健診で定期的な採血を行うことは重要です。

もう少し血小板の機能について述べると、止血機構として2つの機能・働きがあります。それは

・粘着能:血小板以外の物質と結合すること

凝集能:血小板同士がお互いに結合すること

です。

血小板の凝集には凝集を誘発する物質もまた存在します。その物質を阻害する働きのある薬剤としてアスピリンがあります。アスピリンの服用により凝集抑制、いわゆる「サラサラ」の血液性状が起こるのです。不育症からやっとの思いと治療で妊娠された方々は妊娠中もアスピリンを服用していることがあります。妊娠後半期以降は産前の出血リスクを考えなければいけないので、胎児の発育等問題なければ一般的には内服を終了してもらいます。

この凝集を阻害するのはアスピリンなどの薬剤性だけではなく、血管内皮の障害をもたらす「妊娠高血圧症候群」も重要なトピックになりますが、これに関してはまた後日お話させていただきます。

(院長執筆)

参考文献

1) 日本赤十字社ホームページ(http://www.jrc.or.jp/mr/blood_product/about/platelet/)

妊娠中の消化器系の変化

妊娠に伴い、女性ホルモン量の変化により体調の様々な体調変化が生じます。本日は消化器系にフォーカスしたいと思います。

女性ホルモンの一つである黄体ホルモン(プロゲステロン)が増加することにより、

消化器平滑筋が弛緩し、消化管の運動が低下します。

腸の運動機能が低下します。食物の消化管通過時間は延長し、

胃もたれや便秘を引き起こします。

また食道括約筋が緩んで逆流性食道炎を起こしやすくなります。

子宮も平滑筋からできており、プロゲステロンの作用により子宮壁を大きくするため、妊娠子宮は胃を圧迫し、胃内容自体も縮小します。そして大腸をも圧迫し便秘を助長するのです。

これらの症状に加え、妊娠によるホルモン変化から、つわりが妊娠5週〜16週頃まで続きます。妊娠16週頃になるとプロゲステロンの上昇は前に比べて漸増・上昇が緩慢となるので、その頃につわりが落ち着いてくる一つの要因とされています。

上記症状の対策としては、(つわりがある程度落ち着けば)バランスのとれた食事を行います。生活リズムを整え、規則的な時間に食事を摂ることも重要です。

下剤として酸化マグネシウムは腸管内容を軟化し、腸管を刺激して内容を排泄させる効果のある機械的下剤の一種です。適応は便秘症はもちろんのこと、制酸作用があり胃炎に対しても効果があることをお知らせしておきます。

逆流性食道炎に対しては1回の摂取量を少量にして、食事回数を増やす(3食から4分割食にする)ことをお勧めします。

(院長執筆)

睡眠と妊娠しやすさについて

こんにちは、副院長の石田です。

子供2人の寝かしつけをしていると必ず自分が最初に寝てしまいますが、そのお陰でずいぶん健康になってきた気がします。皆さんは良い睡眠が取れていますでしょうか?さて、当院では不妊相談もお受けしていますが、今日は睡眠と妊娠しやすさについての話題です。

そもそも何故人は寝るのか?

実はよく分かっていないそうです。レオナルド・ダ・ヴィンチが「眠りは死に似たものである」と言ったそうですが、その本意はさておき1日の1/3も完全に無防備な状態になることが生物的にリスクなのは間違いありません。それでも寝なくて済む体に進化しなかったということは、それを上回る必要性が睡眠にあるということでしょう。不眠のギネス記録は11日間ということですが、ある程度の時間を過ぎると幻覚や言語障害が出現し、危険な状態になったということです。脳のメンテナンスやホルモンバランスの調整、免疫機能の維持・強化などが睡眠不足により損なわれる可能性が示唆されています。

睡眠と妊娠しやすさには関係があるのか

では、産婦人科のブログということで睡眠と妊孕性(妊娠しやすさ)について何か関係があるか調べてみました。

まず、女性でみると、いくつかの研究で睡眠不足と不妊の因果関係が示唆されていました。睡眠不足により日内リズムが変動するとそれを司る視床下部ー下垂体ー副腎系統に作用し、同じ系統内で制御されている性ホルモンのバランスにも悪影響が出るとか、睡眠不足のストレスにより炎症反応が起こることがメカニズムとして考えられているようです1)2)。

では、男性の方はどうでしょうか?実は男性の睡眠時間が減ることでも夫婦の妊娠率が下がるというデータが出ています。ブラジルのチームによるラットを使用した研究では睡眠不足と精子の質の低下に因果関係が確認されました3)。また、ボストン大学の研究チームの発表では、1176組の夫婦を対象に男性の睡眠時間別に調べてみたところ6時間以下の場合で妊娠率が下がったことが報告されました4)。チームは本研究が必ずしも結論的ではないこと、また妊娠率が下がる原因は不明のままだが、やはり精子の質の低下やホルモンバランスの乱れがこの結果の要因として疑われるとしています。

まずは生活習慣を改善してみましょう

もちろん不妊の原因は様々ですが、睡眠以外にも肥満や喫煙なども妊娠しやすさを妨げる要因として有名です。なかなか赤ちゃんができないなーとお悩みのご夫婦は、試しに生活習慣を見直してみてもよいかもしれません。もちろん最寄りの産婦人科にも気軽にご相談されることをお勧めいたします。

1) Kloss JD, et al. Sleep Med Rev. 2015 Aug; 22: 78-87

2) Nicole D. White, te al. Am J Lifestyle Med. 2016 Jul-Aug; 10(4): 239-241

3) Alvarenga TA, et al. Fertil Steril. 2015 May; 103(5): 1355-62

4) Wise LA, et al. Fertil Steril. 2018 Mar; 109(3): 453-459

妊娠中のこむらがえり

妊娠中によく経験される『こむらがえり』について本日はお話しします。

妊娠により子宮は横隔膜を押し上げます。その分代償性に胸郭の前後径が拡大するので肺活量の変化はありませんが、妊娠による基礎代謝量の増加により非妊娠時に比べ酸素消費量は増大します。

そうなると妊婦さんは換気量が増加する必要があり、就寝時、夜間は過換気になりやすく、呼吸性アルカローシスとよばれる状態になり血中のカルシウムが低下傾向をきたし、こむらがえりを起こしやすくなります。

また妊娠により下肢の筋肉および靭帯の過伸展が、ひいては筋肉の過剰収縮をも引き起こします。

こむらがえりの予防および対処法としては

・カルシウムの摂取する

・長時間の座位を避ける

・就寝前にも水分摂取を心がけ、芍薬甘草湯を内服する

ことを私の外来では妊婦さんへよくアドバイスしています。

妊娠中はほぼ全ての妊婦さんは血中のカルシウムが低くなる傾向にあるので、妊娠初期からサプリメントなどで積極的にカルシウムを摂っていただくことをお勧めします。

(エレビットは1日分としてカルシウム125mg)

前回妊娠時に妊娠高血圧症候群となった方は1日約1.5g相当のカルシウムを摂取されても構いません。カルシウムの摂取は妊娠高血圧症候群の予防の一つとされています。

漢方の『芍薬甘草湯(シャクヤクカンゾウトウ)』は筋肉組織細胞のイオンバランス(カルシウムイオンとカリウムイオン)を正常化に導くことで過剰な神経伝達を遮断し、筋肉の過剰収縮を抑えることができます。

カルシウム製剤も芍薬甘草湯も処方が可能ですので、こむらがえりが気になる方は外来でぜひご相談してください。

今年のブログはこれで最後となり、次回のブログは来年1月4日(月)に予定しております。

私がにしじまクリニックで仕事を専念するようになって約5年が経過しました。おかげさまで分娩件数、外来患者数ともに右肩上がりの状態となっています。今年はコロナ禍にもかかわらず多くのご支持をいただき、本当にありがとうございました。叱咤激励をいただきながら、患者様のために、スタッフのために私が何ができるを考え続け、少しずつではありますが『にしじまクリニック』を重ねてアップデートし続けてまいります。まだまだ伸びしろのある当院です。来年もよろしくお願い申し上げます。

院長 西島翔太

にきびについて

こんにちは、副院長の石田です。

若い女性の日常のお悩みで多いものの1つににきびがあります。医学用語で「尋常性痤瘡」といい、思春期の80%以上がかかる病気なので若者のイメージがあるかと思いますが、実は20代の半分くらい、30代の4人に1人、40代でも10人に1人が患っているというデータもあり、全世代で他人事ではないことが知られています 1)。日本では「時間が経つと勝手に良くなる」みたいな風潮があって軽視されがちですが、その一方で重症のにきびは子供たちの間でいじめの原因になったり、患者さん本人の見た目へのコンプレックスが労働生産性の低下に繋がるというデータもあることから必ずしも侮れない病気です 2)。本日はそんなにきびについてです。

にきびの種類

にきびは大きく分けて3段階あります。詰まった毛穴に皮脂が溜まった面(めんぽう)、赤く炎症を起こした丘疹(きゅうしん)、さらに大きく(>5mm)水っぽく腫れた膿疱(のうほう)ですが、とくに膿疱までいくと治った後も痕が残りやすくなってしまいます。治療にあたっては早期の介入により瘢痕化が防げることが知られており、侮らずに対処することが肝要だとされています。

にきびの治療

の段階ではレチノイドというビタミンA製剤の塗り薬が使われます。日本だとアダパレンという薬が主流のようです。これはビタミンA製剤がケラチン細胞の増殖を抑えて毛穴の詰まりを改善したり、新しい面の発生を抑えてくれるためだと言われています 3)。その他抗炎症作用もあるためとても重宝されているんですね。ビタミンAは実はにきびの全ステージで使用されますが、面からさらに進行して感染を起こした状態(赤く炎症した状態)の丘疹や膿疱には、ベンゾイルという殺菌薬と、さらにはその重症度に応じて抗生剤を塗り薬→飲み薬と使用していくことになります。

避妊ピルも治療の選択肢

産婦人科的にはピルも治療薬としておススメです。特に思春期に増加する男性ホルモン(アンドロゲン)の分泌が皮脂の産生を増やすことがにきびの原因の1つと言われていますが、避妊ピルはアンドロゲンを抑制するためにきびの改善効果が期待できるんですね。日本ではにきびに対する保険適応は通っていませんが、世界的には既に多くのデータがピルのにきびに対する効果を証明しており 4)、実際に海外では適応が認められている国も多くあるそうです。もちろんピルは望まれない妊娠もコンドーム以上に阻止してくれること、卵巣癌や大腸癌のリスクを抑えてくれるなど多岐にわたる効用が期待できるため、適切に使用されれば非常にメリットの大きい選択肢となることが分かっていただけると思います。

生活習慣

生活習慣を見直すことでにきびの改善が期待できることもあります。例えば洗顔ですが、1日2回、ぬるま湯を使って擦り過ぎないように洗うのが良いようです。にきび用の洗顔フォームは色々と販売されていますが中性石鹸を使うようにしましょう。スクラブがいいかどうかは結論が出ていないということですが中には無い方が良いというデータもあるみたいです。また、乾燥や日焼けは良くないみたいですので保湿剤と日焼け止めを使いましょう。水溶性の化粧品やクリームがより適しているという意見もあるようです。ちなみに、特に避けるべき食材とかは無いらしいのと、にきびを潰すと痕になりやすいっていうのは本当みたいです 5)6)。

まとめ

男性もそうですが特に女性にとってはにきびで見た目が変わってしまうのはとても辛いことです。にきびごときと高を括ったり、逆に1人で悩み続けるのではなく悪くなる前に医療機関を受診するのはとても大切なことです。まずはお近くの皮膚科に相談しましょう。でも、流石に皮膚科でピルは処方してくれないと思うからご希望の方は産婦人科まで気軽にお問い合わせください。

1) Perkins AC, et al. J Womens Health (Larchmt). 2012 Feb; 21(2): 223-30

2) Pena S, et al. J Am Acad Dermatol. 2016 Jun; 74(6): 1252-4

3) Czernielewski J, et al. J Eur Acad Dermatol Venereol. 2001: 15(Suppl 3): 5-12

4) Arowojolu A0, et al. Cochrane Database Systolic Rev. 2012; 7: CD004425

5) Goodman G. Am J Clin Dermatol. 2009: 10 Suppl 1: 1-6

6) 日本皮膚科学会ガイドライン 尋常性痤瘡治療ガイドライン 2016