流産手術関連の略語

医療用語に関し、特に私の世代ではドイツ語より英語が主流で教わってきましたが、中には混在して医療従事者間で話されている時があります。今回は流産手術関連の用語の略語について解説していきます。

「アウス」

人工妊娠中絶することを俗語では「堕ろす」と呼んでいますが、

医療現場では「アウス」と呼ぶことが多いです。「アウス」は、ドイツ語で

「掻爬(そうは)」を意味する「Auskratzung(アウスクラッツング), Ausräumung(アウスロイムン(グ))」が由来の和製通俗略語です(*)。kratzenは「引っ掻く」、räumenは「取り除く」という意味の動詞で、Ausは「外へ」を表すので、前者は(子宮内を掻き出すことから)子宮内掻把術、後者は(子宮内容を取り除くことから)子宮内容除去術と訳します。

*Auskratzung、Ausräumungというドイツ語の分離動詞の前綴り部分に相当するところだけで全体の意味が代表されてしまうという、不思議な和製通俗略語です。 ちなみに英語で流産はabotionで人工妊娠中絶は、直訳すればartificial abortionになりますが、英語圏ではTermination of Pregnancy(ToP)などと呼んでいます。

D&C,VA

子宮内容除去術を行う際には頸管拡張(cervical Dilatation)を行うことが多いので、「拡張と掻爬」を英語で「Dilatation and Curettage」と呼び、頭文字をとって「D&C」との略称で呼んでいました。近年は掻爬ではなく、吸引が主流なので「VA(Vacuum Aspiration)」という言葉をよく用います。

KA

人工的に流産させる人工妊娠中絶はKünstlicher Abort(クンストリッシャー・アボルト)なので、略して「KA」と呼んでいます。

実はドイツ語のKは「カー」と発音し、Aは「アー」と発音するので、 KAの正しいドイツ語読みは「カーアー」なのですが、昔から(英語読みで)「ケーエー」と呼ぶ医療従事者もいます。

一方、自然流産のことをドイツ語でSA(Spontanes Abort(シュポンターナス・アボルト)といいますが、「ケーエー」同様に英語の略語読みで「SA(エスエー)」と呼んでいます。ちなみに英語で自然流産はspontaneous abotionで、略語は同じく「SA」となります。

文責 院長

サイトメガロウイルスについて

サイトメガロウイルス(以下 CMV)はヘルペスウイルス科に属し、胎児への先天感染により難聴、視力障害、精神発達遅滞、肝臓・脾臓の腫大などを引き起こす可能性のあるウイルスです。CMV は尿、唾液、血液、涙、精液、腟分泌物、乳汁などの体液から感染します。

成人の初感染は主として性交感染で、一部に経口感染(上のお子さんとの食べ物の共有など)があると知られています。潜伏期は5〜7週です。

母体が感染しても微熱や咽頭痛など、一般的な感冒症状しか認められないことが多いうえに、90%程度は無症状とも言われているため妊娠中の感染を診断するのは非常に難しいとされています。

また、妊娠中に胎児が感染しても正常に発達する場合もあり、逆に無症状で出生してもその後健康問題を起こすこともあります。
日本における妊婦のCMV抗体保有率は 70%程度と考えられていますが、初感染だけでなく再感染や再活性化による胎児への影響も確認されており、妊娠中のCMVに対する感染対策がとても大切です。以下対策として

・上のお子さん達と食べ物や食器の共有をしない

・歯ブラシを共有しない

・玩具などを清潔に保つ

・上のお子さんのおむつ交換後の手洗い

などです。

にしじまクリニックでは出生後にCMVによる先天感染が疑われる所見を認めた(胎児超音波検査異常、低出生体重児、聴覚スクリーニングで正常を確認できないなど)場合は、新生児の尿検査で先天感染の有無を確認いたします。
一般に妊娠初期での初感染ほど児の重症リスクが高まります。妊婦健診中にサイトメガロウイルス感染症が心配な時は、担当医師にお申し出ください。

文責 院長

赤ちゃんのアトピー予防

こんにちは、副院長の石田です。

アトピー性皮膚炎は最も多いアレルギー疾患の一つです。アトピーを発症してしまうとその後に喘息や鼻炎などほかのアレルギー疾患が連鎖的に続くアレルギーマーチを経験することもあり、子供のアトピーをなんとか予防できないかとあれこれ調べるご両親がとても多いです。実際にインターネットで見てみると様々な情報や製品がヒットしますが、医学的に有効とされているのはどのような予防法なのでしょうか?というわけで本日はこの件についてお話ししたいと思います。

アトピー性皮膚炎とは

アトピー性皮膚炎は良くなったり悪くなったりを繰り返すかゆみと湿疹が主症状のアレルギー疾患です。皮膚のバリア機能が弱いことが原因の一つとされていますが、実際には様々な要因が複雑に絡み合って発症に結びつくと考えられています。調査によると本邦では現在乳児で6〜32%、幼児で5〜27%、学童で5〜15%がアトピー性皮膚炎を罹患しているようです 1)。

アトピーの予防法

アトピーは病気そのものについてまだ分かっていないことも多く、そのため予防法についても世界中の医学者が手探りで試しているような状態です。これまでに母乳栄養と粉ミルクの比較、オメガ脂肪酸の摂取、妊娠中や授乳中の母親の栄養指導など様々なアプローチが試みられましたが、現在に至るまで決定的に有効とされる予防法は見つかっていません 2)。一時期、積極的な保湿の継続がアトピー予防に有効っぽいという報告もあったのですが、その後の検証でこちらも否定的とされています 3)4)。また、妊婦さんとその後生まれた赤ちゃんにプロバイオティクス(乳酸菌とか)を摂取してもらうことで予防できる可能性があるという報告はあるのですが、具体的にどういう人にどの菌株をどうやって投与したらよいかなど具体的なことがよく分かっていないため実用レベルでの推奨には至っていません 5)6)。

まとめ

というわけで本日は「子供のアトピー予防については実用レベルで有効なものは見つかっていません」というお話しでした。「じゃあなんでブログに書こうと思ったんだよ!」ってお叱りをくらいそうですが、今回お伝えしたかったのはむしろアトピーの予防効果を謳うような製品や施術に関しては少し気をつけて見るようにしてくださいねということです。かく言う私自身も生まれてすぐにアトピーを発症し、その後現在に至るまでステロイドを使い続けていますが、自分の経験からも子供のアトピーをどうにかしたいという親の切実さは我が身にしみて知っています。しかし、それと同時に世の中にはそんな親心につけこんで一儲けしようとする人も少なくありません。皆さんにおかれましてはお子さんがアトピーになってしまっても決して自分を責めることなく、まずは積極的に小児科や皮膚科にご相談ください。

1) 日本皮膚科学会 佐伯秀久, et al. 日皮会誌 2021:131(13);2691-2777
2) Howell C Williams, et al. Acta Derm Venereol. 2020 Jun 9;100(12):adv00166
3) Skjerven HO, et al. Lancet 2020; online Feb 19
4) Chalmers JR, et al. Lancet 2020; online Feb 19
5) M Panduru, et al. J Eur Acad Dermatol Venereol. 2015 Feb;29(2):232-242
6) Wen Jiang, et al. Paediatr Drugs. 2020 Oct;22(5):535-549

子供に読みながら親の英語の勉強にもなる絵本

こんにちは、副院長の石田です。

小さい子供の教育に必要なのはなんといっても絵本です。以前このブログでも読み聞かせの効果をご紹介したことがありますが、「食べ物は体の栄養、絵本は心の栄養」ということで是非お父さんお母さんにはお子さんと絵本を読む時間をとっていただきたいと思っています。

さて、そうは言ってもただ絵本読んであげるだけではもったいないということで、本日は私の完全な主観をもちましてお子さんも読んでもらって楽しい、しかも親の英語にスキルアップにもなる素敵な絵本をご紹介したいと思います。(以下、本のタイトルをAmazonのリンクにしてあります。)

Guess How Much I Love You

大小2匹のウサギの掛け合いで進んでいくお話で、「どんなにきみがすきだかあててごらん」という邦題で日本語版が出ています。とても有名な絵本なのでご存知の方も多いと思いますが、ウサギたちがお互いに相手のことをどのくらい大好きか表現し合う心温まる作品です。チビウサギが先に「好き」の大きさを示すのですが、体が大きい上に後攻のデカウサギが確実に上回る形で被せてくるのでチビウサギは「好き」をどんどんインフレさせていきます。その素直で必死な感じと、デカウサギの少しからかいながらも優しい雰囲気は多くの読者にとって親子の会話のようにうつることでしょう。読み終わった後にウサギたちと同じように親子で「好き」を見せ合うのも幸せな時間ですし、読後感も心地よい絵本だと思います。英語でいうと、タイトルにもなっている”Guess how much + SVO”という表現や作中に出てくる”I love you this much.”(こんなにきみのことが好きだよ)という文は丸暗記しても日常会話で応用しやすいかもしれませんね。日本語版を読んだことがある人が多いため、英語で読んでも大人も子供も内容が入ってきやすいおすすめの絵本です。

Don’t Let the Pigeon Drive the Bus!

Mo Willemsという作家のThe pigeonという絵本シリーズの一冊です。はじめにバスの運転手が読者に対して「ぼくはちょっと離れるけど、その間バスを見ていてくれないか?特にハトさんにだけは絶対に運転させないでくれよな」と言い残して去っていきます。するとそこにハトさんがやってきて読者に「ぼくにバスを運転させてくれない?」とお願いします。絶対に気をつけるから、お金をあげるから、きっときみのママならいいって言うと思うよ、などあの手この手で交渉してくるハトさんから、お子さんは運転手が戻ってくるまでNO!と言い続けられるでしょうか?
この絵本の面白いところは、普段は自分の欲求を通すべく親に交渉する(ハトさん側の立場である)子供たちが親の立場になってダメ(NO!)と言い続ける体験ができることです。絵本なのに登場キャラであるハトさんと読者が対話できるようになっているのも画期的ですよね。作中の英語表現で言うと、日常会話でもよく使用する教科書的な構文から、”five bucks”(5ドル。版によっては”fiver”になっているかも。)、”at the wheel”(運転中)といった学校ではあまり習わないけど慣習的によく使われる口語表現なども出てくるので大人も楽しく学べる一冊だと思います。このシリーズはどれもすごく面白いので、もし気に入った方は是非ほかの絵本も読んでみてください。

まとめ

というわけで本日は子供も読んでもらって楽しい、親も勉強になる英語の絵本のご紹介でした。私の子供二人が小さい頃は、これらの絵本を日本語に訳して読み聞かせていました。簡単な英語ではありますが、その場で日本語に訳しながら読むのは結構頭を使うため脳トレ的に楽しんでいたのを思い出します。子供に絵本を読んであげる作業は意外に重労働ではありますが、皆さんも是非色々な形でその時間を楽しんでみてください。

臨月に入ってからの過ごし方

こんにちは、副院長の石田です。

妊婦さんは初期のつわりに始まり様々なイベントを乗り越えて週数を重ねていきますが、36週に入るとついに「臨月」と言われる期間に入ってきます。医学的に正期産と言われるのは37週からで36週の間に生まれてしまうと早産児になってしまうのには注意が必要ですが、ともあれやっと最終段階に入ってきたかと感無量の人も多いのではないでしょうか?ここからはいつ陣痛や破水が始まるかとドキドキしながら過ごす時期なわけですが、よく外来で聞かれるのは「どうやって過ごしたらよいですか?」というご質問です。そこで本日はこのことについてお話ししてみたいと思います。

陣痛が早く始まるためにはどうしたらよいですか?​

これ、本当によく聞かれます。インターネットで調べると一番出てくるのは「どんどん体を動かしましょう」みたいなご提案だと思いますが、実際にかかりつけの産婦人科でこのように言われることも多いですよね。でも実際は運動と陣痛発来の関係性はあるともないともどっちの意見もあってよく分かっていません 1)2)。また、鍼やマッサージに行く方も少なくありませんが、こちらの効果は否定的とされています 3)。運動は分娩や産後のコンディションによい影響が知られていますし、鍼やマッサージもご本人がリラックスや気分転換ができるのであればむしろ素晴らしいことですが、陣痛が早くくるようにという目的であればあまり期待しすぎない方がよいかもしれません。

ではどう過ごしたらよいのか

私はこのご質問に対して決まって「ご本人が楽しく過ごせてればよいと思いますよ」とお伝えしています。予定日が近づいてくると周りからも「いつなの?」とかプレッシャーがかかるかもしれませんが、陣痛がいつくるかは誰にも分からないし、焦ってもどうにもなりません。であればお産の時にかけたい曲のプレイリストを作ったり、赤ちゃんが生まれたら一緒に行きたい公園を調べたりしてのんびり過ごすのがご家族にとってリラックスできてよいと思うわけです。出産後はしばらく行けなくなるからその前に外食を楽しんだり、上のお子さんがいれば今のうちに「赤ちゃんが生まれたら時間が取れなくなるかもしれないけど、それでもあなたのことが大好きだよ」って伝え続けてあげるのももしかしたらよい過ごし方かもしれません。なんで私がこんなエモいご提案をするかというと、出産に対する恐怖が強いと陣痛をより強く感じるというデータがあるからです 4)5)。なのでこの時期にお産に対してより前向きになれるような環境を整えることは、陣痛に神経を尖らせるよりもずっと大事だと思うんですね。

まとめ

というわけで本日は臨月の過ごし方に対するご提案でした。別に正解がある話ではないので皆さんの思うように過ごしていただくのが最良ではあるのですが、もしこのブログ記事が気を張り過ぎてしまっているお母さんの緊張を少しでも取れたなら幸いです。もちろん予定日を過ぎすぎてしまうと誘発分娩となることもありますが、ルートはどうあれ陣痛は必ず迎えることになります。いずれにしてもお産は長時間の高負荷運動ですので、是非しっかり体と心を整えて来たるべき日に備えていただければと思います。

1) N Fox, et al. The Internet Journal of Gynecology and Obstetrics. 2006;8(1)
2) Isabel Barros Pereira, et al. J Matern Fetal Med. 2022 Feb;35(4):775-779
3) Caroline A Smith, et al. Cochrane Database Syst Rev. 2017 Oct 17;10(10):CD002962
4) Carolin Junge, et al. Birth. 2018 Dec;45(4):469-477
5) Y Deng, et al. Int J Nurs Sci. 2021 Oct 10;8(4):380-387