家系図の様式

家系図では両親・子ども・孫などを記載します。

表現型による性別から男性は「□」、女性は「○」、性別不明は「◇」で示し、年齢を性別記号の下に記載します。

原則男性は女性の左に記載し、世代ごとに同様の配置とします。同胞(兄弟姉妹)は出生順に左から右に記載します。

配偶者および同胞の関係は横線で結びます。世代や個人は縦線で示します。近親婚・血族婚(いとこ婚など)の場合は、配偶者間を二重線で結びます。

離婚は配偶者の関係線を途中で「//」で区切ります。

胎児は性別に相当する記号の中(性別不明は「◇」)に「P」と書き込み、在胎週数を性別記号の下に記載します。また染色体数が判明していれば在胎週数の下に記載します。

*罹患胎児の場合、性別記号(「□」, 「○」, 「◇」)を黒で塗りつぶします。

分娩にいたらなかった妊娠(自然流産、子宮外妊娠、中絶)は「△」で示し、妊娠中絶の場合は記号右上より左下に斜線を引きます。

出生後、死亡に至った場合は記号の右上より左下に斜線を引き、死亡年齢を「d.」として記号下に記載します(例: d. 1982, d. 43, d. 4 mo)。

例えば、罹患胎児の自然流産だった場合は「△」を黒で塗りつぶし在胎週数を下に記載します。POC染色体分析で染色体が判明していればさらに下に記載します。

相談者(クライエント)は性別記号左下に「↗︎」を記します。罹患者だった場合は性別記号を黒に塗りつぶします。

発端者(最初に当該家系における遺伝的問題に気づく契機となった人[罹患者])は性別記号下に「P↗︎」を記載します。発端者は罹患者であるので記号は常に黒く塗りつぶされています。

執筆 院長

ヒト受精胚と胎児の位置づけ

みなさんは

出産する前の胎児

受精卵が着床した受精胚

に対して位置づけや権利を考えたことがあるでしょうか。

ヒトの受精胚の位置づけと扱い

現行の日本の法律では、ヒト受精胚は「人」として扱っていません。ただし受精胚が「人」そのものではなくとも尊重されるべき存在であり、単に「物」扱いとして研究材料として扱ってはなりません(自然な考え方だと思います)。

*参照:厚生労働省 総合科学技術会議「ヒト胚の取扱いに関する基本的考え方

胎児の定義(産科婦人科用語集・用語解説集から)

ヒトの場合は妊娠10週から娩出するまでの児を指します。

その前に見える体は「胎芽(たいが)」と呼ばれます。

生存可能な胎児は相続、損害賠償請求権、遺贈の権利認められる

民法では、原則出生してから人権を持つので、出生前の胎児は権利能力は認められませんが、

相続、不法行為に基づく損害賠償請求権、遺贈

の3つについては、例外的に認められます。ただし、死産した場合はこれらの権利は認めれません

また胎児に対する刑事責任は問う事ができません。刑法上は胎児はまだ「人」として扱われないからです。

*胎児の権利に関しては法律事務所や司法書士事務所のホームページから多く記載されています。気になる方は一度検索し閲覧してみてはいかがでしょうか。

執筆 院長

男性不妊と顕微授精

不妊症とは、妊娠を希望して性交渉を行なっているのにもかかわらず妊娠成立しない事で、その期間は1年と日本産科婦人科学会が定めています。

全不妊症の3050%は男性に起因

不妊症は女性だけが起因、という偏見は少なくなっていると思います。全不妊症の30〜50%は男性因子というデータを知っていただければと思います。

顕微授精(ICSI)は男性不妊を適応とする生殖補助医療

顕微授精は無精子症や乏精子症、受精障害(標準的な体外受精を行なっても受精しない)が適応となります。

顕微授精による妊娠率は、女性の高年齢の影響も考慮されますが受精率は50〜70%、生児獲得率はおおよそ30%程度とされています。

*受精卵(胚)を子宮腔内に戻すことを「胚移植」と言います。
胚移植には採卵した周期の「新鮮胚」(分割期胚または胚盤胞)を使用する場合と、「凍結融解胚」(分割期胚または胚盤胞)を使用する場合があります。

*着床前診断は、いわゆる胚の生検を行います。一般的には受精5〜7日目の胚盤胞の状態で行われます。

男性側のY染色体上の微小欠失があると、児(男児であれば)へ受け継がれる可能性があります。着床前診断や羊水検査により、胎児の性別が男児であればY染色体微小欠失についての出生前診断は技術的に可能ではありますが、日本では出生前診断の適応とはなりません。

参考文献:周産期遺伝カウンセリングマニュアル改訂3版, 中外医学社

執筆:院長

出生前コンサルト小児科医について

こんにちは、副院長の石田です。

皆さんは出生前コンサルト小児科医をご存知でしょうか?NIPTを含む出生前診断の医学的な原理や、それらが内包する社会的・倫理的諸問題に精通し、ご家族の不安に寄り添うことができると日本小児科学会により認定された小児科医のことです。NIPTを提供する認証施設ではそのレベルによって出生前コンサルト小児科医が常駐、もしくは連携していることが必須とされており、当院でも外来処置室前に掲げられた認証証にその名前が掲載されています。そこで本日はこの件について少し解説していきたいと思います。

出生前コンサルト小児科医とは

晩婚・晩産化や未婚率の上昇などを背景とした合計特殊出生率の低下を受けてか、NIPTの需要は近年増加傾向にあります。それに伴いNIPTを提供する施設も増えており、以前と比べると希望する妊婦さんとご家族が検査を受けやすい環境になってきています。一方で検査が無秩序に拡大することは「染色体疾患を持つ胎児は中絶の対象である」との考えが固定化する危険をはらんでおり、ひいては染色体疾患を持つ当事者やその家族にとって生きづらい未来に繋がってしまう恐れがあります。しかしそういった風潮に対して意見を述べることは、当事者からすると心ない批判に晒されるリスクを伴うため、彼らの代弁者として染色体疾患をもつ子どもたちの生きる権利を主張するべく設けられたのが出生前コンサルト小児科医の制度なのです。

出生前コンサルト小児科医の役割

出生前コンサルト小児科医は基本的に遺伝カウンセリウングを行いませんし、NIPTを積極的に勧めることもありません。もちろん疾患が胎児に見つかった場合の中絶を真っ向から批判するわけでもありませんが、どちらかというと「中絶をしたくない、産んで育てたい」というご家族を全面的に支援することが彼らの役割です。出生前コンサルト小児科医は染色体疾患を持って生まれてくる子供とそのご家族は決して孤独ではないことをお伝えし、その上でどのように成長していくか、どのようなサポートが得られるかなどといった未来を、出生前検査を受ける・受けないに関わらず具体的にお示しすることができます。

まとめ

ややもすると営利目的で必要以上に出生前診断を患者さんに勧めるインセンティブが働きかねない検査施設において、そうならないように抑制する立場にあるのが出生前コンサルト小児科医であり、彼らと連携することは「常に生命倫理と誠心誠意向き合い続ける」という我々の意思表明でもあります。ご希望の患者さんにおかれましては小児科医との面談も可能ですので、スタッフまでお気軽にご相談ください。

参考文献
・山本俊至. 日医雑誌. 第154巻・第3号 / 2025年6月: 252
日本小児科学会. 出生前コンサルト小児科医

NIPTを早く受けることについて

こんにちは、副院長の石田です。

以前からこのブログでご紹介しているように、当院では認証施設としてご希望の患者さんに妊娠11〜12週前後でNIPTを提供しています。妊婦さんの採血だけで染色体異常について知ることができるこの検査を希望される方は多いですが、検査前の相談でよく聞かれるのが「結果を早く知りたいので検査ももう少し早くできますか?」という質問です。心情的になんとなく焦ってしまうのは理解できますが、果たして早く受けることはできるのか、そしてそれは本当に良いことなのか、今回は一緒に深掘ってみましょう。

そもそもなぜその週数で行うのか?

NIPTは胎盤(厳密にいうとこの週数では絨毛と呼ばれる組織ですが)の古くなって剥がれた細胞から妊婦さんの血流中に漏れ出てきたDNAの断片(cfDNA)を数えて病気の有無を調べる検査です。この胎児・胎盤由来のcfDNAが母体血中に占める割合を”fetal fraction”と呼びますが、正確な検査を行うためにはこれが十分に高いこと、具体的には少なくとも4%以上あることが大切です 1)2)。通常胎児・胎盤由来のcfDNAは早いと妊娠5週から、遅くても妊娠9週までには母体血中にみられるようになります 3)。そして妊娠10週以降になると概ね10〜20%のfetal fractionが得られるようになるためNIPTはその頃から行われるようになるんですね 2)4)5)。

早く受けることにメリットはあるのか?

色々と考え方はあると思うのですが、私個人としてはNIPTを早く受けるメリットはあまりないと考えています。検査精度のこともそうですが、NIPTは非確定検査と言ってそれ自体の陽性・陰性では診断が確定しません。例えばダウン症候群が陽性となっても、本当に21番染色体が3本あるかは絨毛検査や羊水検査を受けないと分からないんですね。そして多くの施設で提供されている羊水検査は妊娠16週頃にならないと受けられないので、結局そこまで待つことになります。たまに「早期NIPT」として妊娠6週頃よりNIPTを提供している施設がありますが、何かそれが可能になる新技術でもあるのかと文献を調べたり関係各所にヒアリングしてみたものの、今のところそういった事実は確認できませんでした。実際そうした施設のウェブサイトを確認すると「判定保留の場合は無料で再検査いたします」と書いてあり、もしかしたら従来のNIPTを早くにやっているだけなのかもしれません。「早くに分かれば内服薬による中絶を選択できる」とする意見も散見されますが、一般的にNIPTの結果だけで中絶を受けてくれる産婦人科はほとんど無いと思われます。

まとめ

本日はNIPTを受ける時期について解説いたしました。赤ちゃんのことを早く知りたい気持ちもあるとは思いますが、闇雲に焦るとかえってモヤモヤする時間が長くなったりとストレスが増えてしまう恐れもあります。日本の妊婦健診や出生前診断は必要な検査を適切な時期に受けられるよう配慮されていますので、慌てず一つひとつ進めていくようにしましょう。

参考文献
1) Lisa Hui, et al. Prenat Diagn. 2019 Dec 10;40(2):155-163.
2) Sanaz Mousavi, et al. BMC Pregnancy and Childbirth. 2022 Dec 8;22(1):918
3) Guibert J, et al. Hum Reprod. 2003;18(8):1733.
4) G Ashoor, et al. Ultrasound Obstet Gynecol. 2013 Jan;41(1):26-32.
5) Glenn E Palomaki, et al. Genet Med. 2011 Nov;13(11):913-20.