癒着胎盤、付着胎盤、嵌頓胎盤

胎盤は児娩出後5〜15分以内に剥離し娩出されます。しかし30〜45分経過しても胎盤が娩出されない場合は胎盤の娩出遅延と言えます。近年は産後異常出血の予防のために分娩第3期の積極的管理として胎盤の自然剥離を待つより正しい臍帯牽引を用いた胎盤娩出を行います。

胎盤の娩出遅延として考えられる状態は以下となります。

癒着胎盤:胎盤が子宮壁に癒着し、胎盤剥離が起こらないものをいいます。

胎盤は絨毛膜の一部が成長することで作られます。この時母体側(子宮側)の脱落膜は絨毛の子宮筋層内への侵入を防ぎます。何らかの原因(リスク因子として帝王切開既往、子宮内掻爬術の既往、前置胎盤など)で脱落膜が欠損すると絨毛組織は直接子宮筋層内に侵入し、癒着胎盤となるのです。

付着胎盤:胎盤が子宮壁に付着しているが子宮筋層との結合が密でなく、脱落膜の欠損を伴わず「真の癒着胎盤ではない」状態です。

嵌頓(かんとん)胎盤:組織上での脱落膜と子宮筋層の関係は問題ないのですが、児の娩出後子宮頸部・下節がけいれん性の過度の収縮が起こり、胎盤の娩出が困難な状態です。

胎盤娩出遅延の場合、子宮内検索と胎盤用手剥離術を試みます。

参考文献

産科婦人科用語集・用語解説集

産婦人科ファーストタッチ

文責 院長

子宮頸がん検診で要精密検査って言われた時の話

こんにちは、副院長の石田です。

女性は20歳を迎えると子宮頸がん検診の受診がおすすめされます。病院で検査を受けた場合はその都度担当医から結果について説明があるのであまり混乱しませんが、健康診断の一環として受けたりすると結果だけ送付されてくることも多く分かりにくいかもしれません。それでも「判定:A」とかなってれば安心できますが、読み方も分からないアルファベットの羅列とともに「要精密検査」とか書いてあった日にはがんの検査ということもあってびっくりしてしまう人も少なくありません。実際、当院にもしばしば青い顔で受診される方がいらっしゃいます。そこで本日は子宮がん検診結果の見方について少し解説したいと思います。

細胞の判定につい

子宮頸がん検診は腟内に見えている子宮の出口(子宮腟部〜頸部)をブラシや綿棒で擦って採取した細胞一つひとつの顔つきを見る検査です。結果欄には恐らくNILM、ASC-US、ASC-H、LSIL、HSIL、SCC、AGC、AIS、adenocarcinomaのいずれかが記載されていると思いますが、それがあなたの細胞の判定となります。簡単に言うとNILMは正常、それ以外は全て異常判定となりますが、その中でも扱いが少し違ってきますのでそちらについてさらに説明していきます。

ASC-USか、それ以外か

異常判定の中で言うと、ASC-USに関しては「形がおかしいとも言い切れないけど、かと言って正常とも言いづらいよね」という解釈です。そのため異常結果としてこの判定が出たからといってすぐに慌てる必要はありません。ただ、この結果が出た場合、それに加えて子宮頸がんの原因とされるパピローマウイルスがいるかいないかでリスクが変わってくるため、ASC-USを確認したらウイルス検査を行い次のステップに進む必要があるか判断するのが一般的です。一方でそのほかに関してはがんやその前段階の異形成と言われる病的な状態である疑いがより高い状態になりますので、これらに関しては次の段階としてコルポスコピーという特別な拡大鏡を使用した検査を行うことになります。ではどのくらいまずいのかという話ですが、もちろん異常判定が出ること自体は良いことではないものの、細胞診で異常が出たとしても実際に子宮頸がんになっているかどうかは細胞一つを見ていても分からないことがほとんどです。そのため必要に応じてコルポスコピーで観察しながら怪しいところを小さな塊でちぎってきて詳しく調べますが、実はその検査まで行ったとしても結果的に「これなら慎重に再検査しながら経過観察していけば正常組織に回復していくことも期待できますね」となることの方が多いんですね。なのでまずは落ち着いて(でも放置せずに)最寄りの婦人科を受診することが大切です。

まとめ

というわけで本日は子宮頸がん検診で「要精密検査」と出て焦った時に読むお話でした。子宮頸がん検診で異常判定が出るととても悲しい気持ちになって何も手がつかなくなってしまったり、恐怖も相まって婦人科受診を躊躇ってしまう人がいらっしゃいますが、落ち着いて婦人科に来てね!ってメッセージが伝われば幸いです。

産後新型コロナウイルスに感染した場合の授乳

今回は「産後、褥婦さんが新型コロナウイルス感染が判明した」時、授乳(と児の対応)はどうするかをお話します。

原則、児にも抗原検査・PCRを行います1)。結果陰性であっても濃厚接触者として対応します。

授乳に関しては以下3つが考えられます。

直接授乳:褥婦さん本人がマスクを着用と手指消毒、乳輪回りを清潔にしたうえでの直接授乳は可能と考えます2)。可能であれば、褥婦さんの着衣に触れさせないように直接授乳ができればより良いです。褥婦さんが隔離期間中は、児のお世話をしない時はある程度距離(約2m)をおくとよいでしょう。

搾乳した母乳を別介護者が授乳:母乳栄養は通常どおり行うことを推奨している施設が多いです3)。搾乳した母乳を褥婦さんではなく別介護者が哺乳瓶で飲ませる手段もあります。母乳を冷凍保管する場合は詳しくは看護師および助産師にお尋ねください。

別介護者が人工栄養(ミルク)で授乳:上記どおり母乳栄養を行うことは海外においても問題ないと現時点でいわれています4)が、ご家族にとっては濃厚接触者となる児を今後隔離期間中はできるだけ感染リスクを減らしたいお気持ちもある場合もあります。その場合は濃厚接触者に該当しない方がミルクの授乳をするということになります。ただし、隔離明けに母乳育児を速やかに開始するために搾乳を続けて母乳分泌を維持しておくことは必要です。

濃厚接触者の待機期間については、未就学児は現時点で無症状であっても期間短縮の対象とはならず5日間です。

参考文献

1) 産科診療における感染防御ガイド〜2022年版. 日本産婦人科医会

2) 新型コロナウイルス感染症と母乳育児について. 国立成育医療研究センターHP

3) 新型コロナウイルス感染症と赤ちゃん(濃厚接触者扱い)の対応について. 亀田総合病院・亀田クリニックHP

4) COVID-19: Intrapartum and postpartum issues. UpToDate

文責 院長

更年期障害のホルモン補充療法ってどうなの?

こんにちは、副院長の石田です。

日本人女性の閉経の中央値は50歳とされていますが、実際の閉経年齢は個人差があり、早い人では40代前半、遅い人では50代後半くらいまで生理があることも珍しくありません。いずれにしても閉経年齢の前後5年間(合わせて10年間)を更年期と呼びますが、この間にはホルモンバランスが乱れることから更年期障害と呼ばれる発汗、のぼせ、めまい、動悸、頭痛、イライラなど様々な症状が起こることがあり、多くの女性がこれに苦しんでおられます。更年期障害に対する代表的な治療はホルモン補充療法ですが、「ホルモン剤」と聞くとなんだかハードルが高く感じてしまう人も多いかもしれません。そこで本日はホルモン補充療法について少しお話ししてみようと思います。

どんなホルモンを使うのか

更年期症状はエストロゲンと呼ばれる女性ホルモンが欠乏することによって引き起こされます。そのため治療ではエストロゲンを薬として補充することによって症状の緩和や予防を行います。投与方法として飲み薬、塗り薬、貼り薬、腟壁錠などがありますが、大雑把に言うと経皮剤は経口薬と比べて血栓症のリスクが低いと考えられているため当院ではパッチと呼ばれるお腹に貼るシールのようなお薬を処方することが多いです。ただ、肌が荒れやすい方の場合は腕に塗るジェルや内服薬での処方に変えたりと柔軟に対応もしています 1)2)。また、エストロゲンを単独で使用すると子宮体がんのリスクが上昇してしまうことから病気で子宮を摘出した人以外はプロゲステロンというホルモンの薬も併用します。

リスクについて

もちろん医療介入なのでリスクはあります。使い始めの性器出血やちょっとした頭痛などを除くと、大きなものでは血栓症や乳がん、卵巣がんなどのリスクが上昇する可能性が指摘されています 3)4)5)。しかし上記の通り血栓症に関しては剤形を選ぶことである程度抑えられますし、悪性腫瘍に関してもこれらのがんに対するリスク上昇度がそれほど大きくない一方で、胃がんや大腸がんなどに関してはむしろ抑制してくれる可能性も示されています 6)7)8)。

ホルモン補充療法を避けた方がよい人

多くの人にとってデメリット以上のメリットを期待できる治療ですが、その一方で乳がんや心筋梗塞、脳卒中などの既往歴がある人は使えません。また、必ずしも絶対ダメではないのですが、個人的には慎重投与として定められているもの(肥満、糖尿病、高血圧、片頭痛など)のある方には他のお薬や生活習慣の改善などによる対応をご相談するようにしています。また、喫煙者の場合はリスクが高まるだけでなく効果も減弱すると考えられているため注意が必要です 8)。

まとめ

更年期症状を主訴に外来に来られる患者さんたちとお話ししている中でホルモン治療に対して必要以上に不安を感じていらっしゃる方が多い印象があったので、今回はそんな方々の心配が少しでも和らげばいいなと思って書かせていただきました。その即効性もさることながら長い歴史の中で知見がしっかりとたまっている治療ですので、更年期症状にお困りの方は治療の選択肢の一つとして積極的に検討していただく価値があると思います。更年期症状は不定愁訴のような症状のため周囲に理解されにくいこともあり、そのせいで余計に辛くなってしまう人も多いですが、是非一人で抱え込まずにお近くの産婦人科にご相談ください。

1) Canonico M, et al. Circulation. 2007;115:840-845
2) Canonico M, et al. BMJ. 2008;336:1227-1231
3) Cushman M, et al. JAMA. 2004;292(13):1573
4) Chlebowski RT, et al. JAMA. 2003;289(24):3243
5) Collaborative Group On Epidemiological Studies Of Ovarian Cancer, et al. Lancet. 2015;385(9980):1835
6) Lavasani S, et al. Cancer. 2015 Sep;121(18):3261-71
7) Camaro MC, et al. Cancer Epidemiol Biomarkers Prev. 2012;20-38
8) Jensen J, et al. N Eng J Med 1985;313:973-975

ファモチジンの妊娠・授乳中の服用

ファモチジンは胃・十二指腸潰瘍や逆流性食道炎などで処方される薬です。商品名は「ガスター®︎」と言えばわかりやすいでしょうか。

実際の処方としては1回20mg, 1日2回(朝・夕食)となります。

作用機序

胃酸は胃の壁細胞にあるヒスタミンH2受容体にヒスタミンが作用することで分泌されます。

ちなみに胃酸の分泌を高める食品は脂肪分の多い物、柑橘類、香辛料、コーヒー・紅茶が挙げられます。

ファモチジンはH2ブロッカーと言われ、作用(ヒスタミンがH2受容体に結合すること)を妨害することで、胃酸の分泌を抑えます。

妊娠・授乳中の服用

一般的にH2ブロッカーは腎機能正常者での副作用発現は低く、まれに血小板減少をきたすことが報告されています。

妊娠中は「有益性投与」です。ただし、催奇形性が報告されていないことから実際の現場では妊婦さんに処方されることはよくあります。褥婦さんにとっても”HALE’S MEDICATIONS & MOTHERS’ MILK 2021″によるとRID(Relative Infant Dose:薬物の新生児へ影響を示す指標)は1.9%とかなり低く「最も安全:L1」の位置づけですので、ファモチジンの内服後に授乳を控える必要はありません。

文責 院長