こんにちは、副院長の石田です。
妊娠すると体に様々な変化が出ますが、中でも代表的なお悩みの一つは下腹部を中心に縦に入る妊娠線でしょう。統計によってバラつきはあるものの40〜90%もの妊婦さんにできるそうです 1)。というわけで今日はそんな妊娠線についてのお話です。
なぜできるのか?
妊娠線ができるメカニズムははっきりとは分かっていないようですが、遺伝的、ホルモン的、そして機械的な要因などが絡み合って作られるというのが大筋の見方のようです 2)。妊娠の場合は性ステロイドホルモンがたくさん出ることと、急激にお腹が大きくなってくるため皮膚を構成するコラーゲンが破壊されてあのような線が形成されるということでした。また、妊娠線がある家族がいると自分も妊娠線を作りやすいということみたいです。
妊娠線ができると何がまずいのか?
妊娠線があっても健康に影響はありません。ただ、温泉に入ったり水着を着たりする時に目立つので、人によっては著しくQOL(人生の質)を損なうと言われています。紀元前にはローマの詩人であるオヴィディウスが妊娠線を苦にした女性に中絶をほのめかしたとか、古代エジプトではオリーブオイルや塩などを使った妊娠線の治療薬がたくさん開発されたとか色んな話が残っているようですが、昔から人類はこの皮膚変化をどうにかしようと悩んでいたようですね 3)。
妊娠線の予防と治療
残念ながら現在のところ確立した治療法はありません。海外でよく言われているのはツボクサのエキスを抽出したクリームが僅かながら有効性があるかもということですが、確定的なデータにはなっていないようです。また、ニキビなどにも使用されるレチノインクリームは悪化を防ぐのに効果がありそうなものの、生憎赤ちゃんへの影響から妊婦さんは使用できないことになっています。そのほか保湿、レーザー治療、高周波治療など様々な治療が検証されていますがいずれも有効性を示唆するデータはあるものの、その全てが科学的には十分なエビデンスとはなっていないようでした 1)4)5)6)7)。
まとめ
ということで現在のところ妊娠線への対応は医療的にははっきりと提示できるものは無さそうです。なので、もし妊娠線ができてしまったとしても様々なウェブメディアや雑誌などで言われる「ちゃんとケアしてなかったせいで妊娠線ができた」という理屈を鵜呑みにして自分を責めたり後悔し過ぎる必要はありません。その一方で上記のような治療は必ずしも無効と断定されているわけでも無いので、あれこれ試してみるのは妊娠中の楽しみの一つとして良いかもです。それに妊娠線の予防効果はさておいても、例えばクリームを旦那さんに塗ってもらうのは夫婦で妊娠に向き合うためのスキンシップとして効果があるかもしれませんね。
1) Amanda MO, et al. In: StatPearls. Treasure Island: StatPearls Publishing; 2019 Jan-
2) Rabinerson D, et al. Harefuah 2018 Dec; 157(12): 787-790
3) B. Farahnik, et al. Int J Womens Dermatol. 2017 Jun; 3(2): 77-85
4) Rawlings AV, et al. Int J Cosmet Sci. 2012 Dec; 34(6): 519-24
5) Timur Tasman S, et al. J Clin Nurs. 2012 Jun; 21(11-12): 1570-6
6) Korgavkar K, et al. Br J Dermatol 2015 Mar; 172(3): 606-15
7) National Health Service: https://www.nhs.uk/conditions/pregnancy-and-baby/stretch-marks-pregnant/