こんにちは、副院長の石田です。
女の子が初めて迎える生理を初潮(初経)と言いますが、日本人の平均は12.2歳頃ということです 1)。ただ、これにはそれなりの個人差があるため医学的には14歳までに生理が始まれば正常という扱いになっています。一方で15歳以降で初経が発来した状態を遅発初経、18歳になっても生理が来ない状態を原発性無月経と定義されますが、特に原発性無月経の場合には様々な健康上のリスクが発生するため医療介入が必要となります。というわけで本日はなかなか生理が始まらなくて心配されている女性とそのご家族に向けて解説させていただこうと思います。
生理のメカニズム
生理は子宮内部の膜が定期的に剥離し腟を経由して体外に排出される現象ですが、これは卵巣から分泌されるエストロゲンとプロゲステロンというホルモンによって調整されています。しかしこれは卵巣が勝手にやっているわけではなく、脳の下垂体というところから分泌されるLHとFSHというホルモンによってコントロールされているし、さらに言うと下垂体はその上位にある視床下部という大ボスみたいなやつの管理下で働いています。つまり「生理が来ない」という場合には視床下部から腟までのどこかに不具合がある可能性が高いと言うことになります。上記のどこに異常があるのかでも状況が変わりますが、二次性徴の遅れは本人の精神的な負担に止まらず、性器発育の遅延、骨粗鬆症、動脈硬化、糖脂質代謝異常などのリスクが上昇する可能性があるため適切な医療介入が求められます 2)3)。
原発性無月経の原因
極端なダイエットやストイックなスポーツによる栄養失調、あるいは脳腫瘍などがある場合は、視床下部や下垂体など脳からのホルモン分泌が障害されることがあります。Turner症候群などの染色体異常やミュラー管形成不全といった病気ではそもそも生まれる前にうまく子宮や卵巣が作れません。脳、卵巣、子宮が正常に機能していても処女膜が閉鎖している場合は生理の血液が子宮と腟内に溜まり続けるため下腹部の膨満感や痛みなどが出現します。また、別のホルモンに機能障害が起こると女性ホルモンも巻き添えになって生理が来なくなることがありますし、珍しいところでは見た目は女性なのに染色体を調べると実は男性だったというアンドロゲン不応症という病気もあります。その他にも様々な原因疾患が鑑別となるため、実際の診察では自覚症状、既往歴、家族歴などを幅広く問診するほか乳房の発達や陰毛を含めた外性器の発達、そして血液検査や画像検査などを行なって確定診断を導いていくことになります 4)。
病院を受診するタイミング
日本と違って海外では15歳頃が診断基準となることが多いこと、またあまり介入が遅れると身体的にも精神的にも患者さんの負担が重くなることから、15歳くらいまでに生理がこない場合は受診することが勧められています 3)。治療は無月経の原因によって異なりますが、状況によっては将来の妊娠や社会生活に影響が出ることもあるのでご本人との相談の上で必要に応じて複数の専門科や地域社会、教育現場などを含めた多職種で協力しながら介入していくこともあります。
まとめ
今回は生理がなかなか来ない女の子についての記事でした。ちなみに病気のことをたくさん書いたので不安にさせてしまったかもですが、単に“遅咲き“だったというケースも多いです。特に親がそうであった場合は子供もそうなることが多いと考えられています 5)。しかし中には上記のように疾患があったり、場合によってはいじめや虐待などから生理がはっきりしないうちに妊娠してしまっていたということもあり、我々としては多角的なアプローチが求められる症状でもあります。それ故に診断を得るまでは時間を要することが多いので患者さんも大変ですが、気になった方は是非最寄りの産婦人科に相談してみてください。
1) 日野林 俊彦. 発達加速現象に関する進化発達心理学的研究:https://kaken.nii.ac.jp/ja/file/KAKENHI-PROJECT-22330189/22330189seika.pdf
2) Catherine M Gordon, et al. Curr Opin Obstet Gynecol. 2003 Oct;15(5):377-84
3) 産婦人科診療ガイドライン 婦人科外来編2020. CQ311
4) Tarannum Master-Hunter, et al. Am Fam Physician. 2006 Apr 15;73(8):1374-82
5) Sasha R Howard. Front Endocrinol. 2019;10:423