こんにちは、副院長の石田です。
つい先日、今年の梅毒の感染者が過去最多になったというニュースが流れました 1)。「増えているらしい」というのは少し前から我々界隈で囁かれてはいたのですが、今年は9月頭の時点で8155人と、昨年の総数である7983人を上回っており流石にびっくりです。そこで本日は梅毒についてお話ししたいと思います。
梅毒とは
梅毒はトレポネーマ(Treponema pallidum)と呼ばれる細菌による感染症で、性病の一種です。オーラルセックスを含めた性交渉で感染するほか、妊婦さんが感染すると胎盤を介して赤ちゃんに垂直感染を起こすこともあります。梅毒が順調に進行していくととても重い合併症を発症したり、場合によっては死にいたる可能性も十分あるため社会に流行されると極めて厄介な感染症の一つです。記録のある中で最古のアウトブレイクは15世紀末のナポリらしいですが、日本でも南蛮人が渡来してきた16世紀ごろから流行が確認されているようです。また、吉原などの遊廓で遊女の方が多数犠牲になったようですが、そのことについては「JIN-仁-」や「鬼滅の刃」といった漫画でも取り上げられているのでご存知の方も多いのではないでしょうか?
どんな症状?
書籍によって微妙に違ったりすることもあるのですが、基本的には3つに分けられるステージを、発症と改善を繰り返しながら徐々に進行していきます。感染後約3週間して1期に入りますが、症状は感染した部分にできる単発の潰瘍だけです。通常は陰部ということになりますが、女性の場合はただでさえ見えにくい部分である上にこの潰瘍は痛くないので気がつかないことも多いと言われています。潰瘍が自然に消失した後3ヶ月ほど経って今度は全身に細菌がばら撒かれる2期に突入します。2期では体中に発疹が出たり、発熱や倦怠感なども自覚されますが、人によっては肝炎や腸炎、めまい、耳鳴り、眼病なども発症することがあります。そしてこの2期の症状も自然と回復し、そこから再び潜伏期に入りますが、おおよそ30%前後の患者さんたちは平均3年程度で3期梅毒を発症します。3期は心臓の弁や大動脈、そして中枢神経に深刻なダメージを来すほか、ゴム種と呼ばれる塊を体表から骨、そして内臓まであらゆるところに発生させ、著しい機能障害を引き起こします。(”tertiary syphilis”で画像検索すると痛々しい写真がたくさん出てきます。)一方妊娠中の垂直感染(母子感染)を起こした場合、出生直後はほとんど症状がないものの、赤ちゃんの発育とともに肝機能障害や骨・歯の異常、神経発達障害などが現れます。
梅毒の治療
梅毒は細菌感染なので、抗菌薬(抗生物質)を使用します。具体的にはペニシリンと呼ばれるグループのお薬を使いますが、日本の場合は飲み薬として1ヶ月以上服用し続けなくてはいけません。病期にもよりますが、海外では原則1回の注射で治療が済むのと比べると随分煩雑ですよね。これは、日本で同製剤によるアレルギー反応が大きな社会問題になったことから国内で使用することができなくなってしまったためでしたが、2021年より再び注射薬が承認販売され始めたことから今後は患者さんの負担が大きく軽減することが期待されています。
まとめ
というわけで本日は激増中の梅毒についてのお話でした。抗生剤が出てくる前は死の病でしたが今ではちゃんと診断できれば治る感染症です。しかし上記のように進行すればするほど症状も重くなるし場合によっては治療もややこしくなったり長くなったりすることがあります。ハイリスクな性行動を取らないように気をつけた方が良いのはもちろんですが、万が一気になる症状が出てきたときは最寄りの産婦人科に相談するようにしましょう。
1) NHK: https://www3.nhk.or.jp/news/html/20220913/k10013815451000.html