英米式の回旋表現法

分娩の進行状況を診る際、児の回旋を確認する事は欠かせません。

今回は英米式の回旋表現法について解説します。

英米式についてはとてもシンプルで、児(頭)の向き[position]を表現する事で回旋を示します。すなわち『方位点を確認し、それが母体の前後(左右)どこに位置するか』というものです。

頭位のうち、(先進部が)後頭位や前頭位の場合、方位点は後頭(Occiput)となります。要は内診で後頭(実際には小泉門がメルクマール)を確認し、

後頭が母体前方(Anterior)に位置する:Occiput Anterior(OA)

後頭が母体後方(Posterior)に位置する:Occiput Posterior(OP)

とPositionを表現するのです。

ちなみに骨盤位の場合、内診では当然ながら児頭は触れませんので方位点は臀部仙骨(Sacrum)となります。

よって表現法は「SA」や「SP」となります。

では顔位/頤位の場合の方位点は?

顔位または頤位では後頭・小泉門は触れることができないので、方位点は児の顎(Mentum)となります。

第3回旋にて、児頭は「恥骨をくぐり抜ける」方向へ進む事が経腟分娩可能な条件となります。となると、前方前頭位が反屈位であるものの、経腟分娩が可能となる事を考えていただくと

・MA(Mentum Anterior)⇨経腟分娩可能

・MP(Mentum Posterior)⇨経腟分娩不可能

という事がお分かりいただけると思います[産婦人科ファーストタッチpp282-283]。

文責 院長

引用文献

産婦人科ファーストタッチ

高血圧の対処法

こんにちは、副院長の石田です。

当院は町の一次医療施設ということで中高齢の女性も多くいらっしゃいますが、そんな中で患者さんたちの既往症としてよく見られるのが高血圧症です。血圧が高いと体中の血管や臓器に負担がかかるため良くありませんが、皆さんは健康的な血圧の維持のためにどのようなことに注意するべきかご存知でしょうか?運動、食事など何となく頭に浮かんでくるとは思いますが、その一方で具体的な方法論に関してご存知の方は結構少ないので、本日はデータを見ながら解説したいと思います。
※ちなみに本日は妊娠中の高血圧症ではなく、一般的な生活習慣病としての高血圧症のお話です。

そもそも高血圧症とは

病院で計測した血圧が140/90 mmHgを超える場合は高血圧症と診断されます。高血圧の病態は様々ですが、最も多いのは本態性高血圧といって腎臓病や腫瘍などの明らかな原因がなく発症した高血圧で、高血圧症全体の約95%を占めるとも言われています 1)。みなさんご存知の通り、高血圧が続くと心不全や脳卒中、心臓発作や腎不全などの原因となるため診断がついた場合は適切な管理が必要です。ちなみに令和元年の国民健康・栄養調査(厚生労働省)によると日本では20歳以上で収縮期血圧が140 mmHgを超えている人の割合は男性で29.9%、女性で24.9%とされており、多くの方が健康上のリスクを抱えていることが分かります 2)。

血圧改善のために気をつけるべき生活習慣

生活習慣の見直しは血圧の改善効果があることが知られていますが、実際に心がけることとしては肥満解消、健康的な食生活、運動、ストレスの緩和などが挙げられます 3)4)。
順番に触れると、まず減量に関してはBMIで18.5〜24.9を維持するように気をつけましょう。食生活はDASH食(Dietary Approaches to Stop Hypertension:高血圧を防ぐ食事方法)という果物・野菜・食物繊維を豊富に含む一方で脂肪と塩分を抑えた食事や、飲酒量の制限が推奨されています。運動に関しては筋トレよりも有酸素運動が効果的と考えられていますが、運動量としては週3日以上、1回50分以上ということで結構大変そうですね。また、ストレス解消には1日2回、1回20分の瞑想が有効ということですが、どうでしょうか…?ちなみにこれらの中で最も効果的なのは2011年の報告によると減量で、10kgの減量ごとに最大20 mmHgの降圧効果が見込まれるということでした 5)。

まとめ

というわけで本日は高血圧症に対する生活習慣の改善に関してのお話でした。ある程度の年齢になってくると血圧が高い人が周りに増えてくるのでついつい自分も高くても油断してしまいがちですが、高血圧は万病のもとです。少子高齢化社会にあって日本の社会福祉制度の在り方についても見直しの必要性が叫ばれる中、いかに健康寿命を伸ばしていくかが今後はさらに大切だと考えられます。もう高血圧になってしまった方も、まだ自分は大丈夫と言う方も、ずっと元気でいられるように是非ご自身の生活習慣を見直してみましょう。
そして、繰り返しになりますが上記は生活習慣病としての高血圧症のことであり、妊娠高血圧症は違うアプローチが必要です。なので妊婦さんは安易に上記のような対策にはしらずに、主治医の話をしっかりと聞くようにしてください。

1) Oscar A, et al. Circulation. 2000;101:329-335
2)厚生労働省. 令和元年 国民健康・栄養調査結果の概要:https://www.mhlw.go.jp/content/10900000/000687163.pdf
3) Jinming Fu, et al. J Am Heart Assoc. 2020 Oct 20;9(19):e016804
4) Estefania Oliveros, et al. Clin Cardiol. 2020 Feb;43(2):99-107
5) S Susan Hedayati, et al. Kidney Int. 2011 May;79(10):1061-70

腹帯はした方が良いのか

1ヶ月が経過し、やっと背中と首の痛みがとれました。最近は忙しく、PCを操作している姿勢が続いたり、処置中はどうしても「巻き肩」姿勢が続いていたのが痛みの原因だったようです。最近はストレッチや正しい姿勢の保持を心がけています。

姿勢に関連するトピックということで、妊娠中に訴えの多い腰痛についてご説明します。

妊娠の腰痛の機序

妊娠によりおなかが大きくなってくると、体の重心が前に移るため、上半身を反らした反り腰の姿勢で立ったり座ったりするようになります。

そのため背中から腰にかけて負担が大きくなり、腰痛をきたすのです。

対策

腹帯を着用し、腹部・腰部を支持することで姿勢の安定を取るとよいでしょう1)。

私がいう「腹帯」とは、戌の日に安産を願うためのものではなく(腰痛が出やすい時期と関係はします)、骨盤を引き締め腹部・腰部を支えるためのタイプのものを言っております。腰痛の時期によって腹帯の形は異なりますので、ご質問あれば外来助産師と是非相談なさってください。

腰痛に対し、湿布は推奨しません。どうしても薬剤等に頼りたい場合は、漢方の「芍薬甘草湯(しゃくやくかんぞうとう)」を処方することがあります。

ACOG(American College of Obstetricians and Gynecologists)は

・ヒールの低い(全てフラットのものではなく)シューズを履く

・重い荷物を持ち上げる時は誰かにお願いする

・ベッドは柔らかすぎないようにする

・立ち上がる時は背筋が真っ直ぐに保持する

・椅子に背中をサポートする用具を付ける

・痛みのある部位を把握し、マッサージをしてもらう(整体など)

ことらを推奨しています2)。

引用文献

1) 産婦人科ファーストタッチ

2) Maternal adaptations to pregnancy: Musculoskeletal changes and pain, UpToDate

文責 院長

妊娠中の体重は適切に増やしましょう

こんにちは、副院長の石田です。

当たり前ではありますが、妊娠すると赤ちゃん、胎盤、羊水や、大きくなる子宮とそれを維持するために増加した母体血液量など様々な重さが加わってくるため自然と体重は増加します。しかし頭ではそれが分かっているものの、数値として客観的に評価できてしまう“体重“を見せられてしまうとついつい太ったような気になり痩せようとしてしまう妊婦さんが少なくありません。もちろん体重が増え過ぎてしまうのが良いわけではありませんが、最近では増えなさすぎることの弊害が注目されています。そこで本日はこの問題について解説したいと思います。

日本の妊婦さん、せ過ぎ問題

突然ですがみなさんは、日本では小さく生まれる赤ちゃんがとても多いことをご存知でしょうか?2017年のOECD(経済協力開発機構)のデータによると、主要先進国の中で日本における2500g未満で生まれる低出生体重児の割合は9.4%と最も高い国の一つになっていますが、その原因として現在有力視されているのが日本人の成人女性における“やせ“です 1)。厚労省がまとめた2016年のデータでは、BMI <18.5 kg/m2の痩せている女性の割合が日本では9.3%とOECDにおいては2位の韓国(5.2%)を大きく引き離して1位になっています 2)。この数字は成人女性全般での話なので妊婦さんに限定するとどう変わるかは分かりませんが、もともと妊娠中の体重増加が小さいと早産や赤ちゃんの体重が小さくなるリスクは指摘されているため上記の傾向から言ってもこれが原因なのではないかと考えられているわけです 3)。

増やした方が良い体重の目安

妊娠中の体重増加量の目安は以下の通りです。ひと昔前は妊娠中の体重増加と妊娠高血圧症候群の発症リスクに関係があるのではないかという見解のもと日本では「増やし過ぎないでね!」という意識で指導がされることが多かったのですが、その後の研究で肥満女性以外は体重制限をしても周産期予後が改善しなさそうだということが明らかになってきたため、生まれてくる赤ちゃんのためにも「このくらいは増やしましょうね」というトーンで、より体重増加に寛容な形で2021年3月に新たな基準へと改訂されました。最近では低出生体重児で生まれた子は成長の過程で高血圧、糖尿病、精神疾患など様々な面で健康への影響が出てくる可能性が少しずつ明らかになっているため 、胎児をしっかりと育ててあげる意味でもご自身が増やす必要のある体重をしっかり確認していただき、妊娠中の無理なダイエットは控えることが大切です 4)5)。

まとめ

というわけで本日は妊娠中の体重に関するお話でした。実は本邦におけるこの問題は、2018年にもScienceという科学雑誌で日本ご指名にて指摘され、世界中に晒されたという経緯もあり見直されるに至りました 6)。「スリム=きれい、かわいい」というイメージを持つ日本人女性が多いことが問題なわけですが、その根源は女性のみならず男性側の需要が強いこともまた一因であることは疑いようもなく、それが日本人の赤ちゃんたちにご迷惑をおかけしてしまっているのはとても心苦しいことです。このような美に対する意識を変革することは容易ではありませんが、妊婦さんにおかれましては是非とも我が子の健康がかかっているのだという視点から、愛情をもってご自身の体重と向き合っていただければと思います。

1) OECD Family Database: https://www.oecd.org/els/family/CO_1_3_Low_birth_weight.pdf
2) 厚生労働省. 活力ある持続可能な社会の実現を目指す観点から、優先して取り組むべき栄養課題について:https://www.mhlw.go.jp/content/10904750/000761522.pdf
3) Goldstein RF, et al. JAMA. 2017;317(21):2207
4) Davies AA, et al. Hypertension. 2006;48(3):431
5) Christian Loret de Mola, et al. Br J Psychiatry. 2014 Nov;205(5):340-7
6) Dennis Normile. Science. 2018 Aug 3;361(6401):440

血圧測定法と高血圧の定義

「外来だといつもより血圧が高い」、そんな声を度々耳にしますので、今回は血圧の測定方法と高血圧の定義に触れようと思います。

血圧測定法

5分以上の安静後、上腕に巻いたカフが心臓の高さにあることを確認し、座位で1〜2分間隔にて2回血圧を測定し、その平均値をとります。通常院内にある自動血圧計は、計測機の高さや測り方はそのまま指示どおり行ってください。

測定の30分以内はカフェインや喫煙は控えましょう

・初回の測定時には左右の上腕で測定し、10mmHg以上異なる場合は高い数値を採用します。もちろん何かしらの合併症を見落とさないためです。

定義①高血圧とは収縮期血圧140mmHg以上または拡張期血圧90mmHgです。この数値は妊婦も一般成人も同様です。

定義②:妊娠時に高血圧を認めた場合、妊娠高血圧症候群と定義されます1)。

妊娠高血圧症候群は

・妊娠高血圧腎症

・加重型妊娠高血圧腎症

・妊娠高血圧

・高血圧合併妊娠

に分類されます。各詳細はまた今後のブログでお話させていただきます。

健診において高血圧(140/90mmHg以上)を認めた場合

・家庭でも血圧測定を行ってもらい、白衣高血圧との鑑別を行います。

・家庭血圧でも135/85mmHg以上の場合はやはり高血圧を疑います。

*白衣高血圧と判断された場合でも、妊婦さんは注意が必要です。その後約40%の妊婦さんが妊娠高血圧を発症したとの文献もあるのです2)。

文責 院長

引用文献

1) 妊娠高血圧症候群の診療指針2021. メジカルビュー社

2) Brown MA, et al: The natural history of white coat hypertension during pregnancy. BJOG 2005

産婦人科ファーストタッチ. じほう, 2022