声門上気道デバイス

新生児蘇生法(NCPR)は2025年度版として新たにアップデートされ、よりHigh Performance NCPRを意識したアルゴリズムとなっています。

なかでも『声門上気道デバイス』の検討が大きな特徴といえます。

新生児の人工呼吸において、質の高い換気を行うため(胸骨圧迫を伴うならなおさら)に、長い時間となってくれば気管挿管を検討する事になります。

謝辞 2025年度版NCPRの一部から

気管挿管を行うには気管チューブはもちろんのこと、他に喉頭鏡の準備が必要です。日々練習を重ねていても、救命の流れの緊迫した状況では気管挿管の適切な処置(食道挿管とならない、チューブ位置と固定)が難しい可能性もあります。

「換気ができない」という致命的な状況を回避するため、声門上気道デバイスの『i-gel®︎』 は従来の声門上気道器具(ラリンゲルマスク)よりシンプルで有効的といえるでしょう。

i-gelはソフトな材質と解剖学に基づいた形状で簡便で迅速な挿入を可能とします。これはラリゲルマスクより小さく、かつカフが膨らまない(膨らめる必要のない)構造も寄与しているでしょう。

カフは熱可塑性エラストマーと言われるゴムのような弾性を持ちながら、プラスチックのように熱を加えると柔らかくなり、冷やすと固まる 素材です。

新生児のi-gelサイズは1となります。サイズ1で体重の目安は2 〜5kgなので、低出生体重児にも使用可能です。

使用方法としては水溶性潤滑剤をカフ全体に塗布し、児をスニフィングポジション(sniffing position. 児頭と首が過度に伸展せず屈曲しない状態)にしてi-gelを挿入していきます。

(下図参照)i-gelを硬口蓋に押し当てる様に挿入し(8c)、抵抗があるまで進めます。カフ先端が食道開口部にはまり(8a)、かつカフ開口部は喉頭をシールする様な位置関係(8b)となります。

i-gal®︎添付文書から

i-gelは口の中の手技は必要ないのも特徴です。

サイズ1は胃管チャネルがないので、人工呼吸が長くなり仮に胃が膨張する様であれば一旦外して空気を抜く必要があります。ただし再度挿入も容易に行える事も特徴でしょう。

執筆 院長

にしじまクリニックの立地

皆さんは、大切なお産の場として防災の点から施設の場所をお考えになった事はございますか。

今回は富士見市の防災ガイドブックから、にしじまクリニックの立地をご紹介します。

地震ハザードマップから、建物倒壊危険度は『極めて低い』地域に当院は建てられています。また近隣の指定避難場所である「ふじみ野交流センター」へも歩いてすぐの距離です。

*最寄りの指定避難所:ふじみの交流センター。徒歩圏内

*最寄りの指定緊急避難所兼指定避難所:ふじみ野小学校。徒歩圏内

当院はふじみ野駅も徒歩圏内であり、クリニックの規模としては駐車場も広めに設置されています。屋外避難や災害時の交通手段の選定も幅広いと言えるでしょう。

液状化可能性マップでは当区域は『極めて低い』場所です。

荒川による浸水ハザードマップでは当区域は最大で0.5m前後の浸水が想定されています。

高低差の少ない当区域は土砂災害は想定されておりません。

参考資料;

富士見市防災ガイドブック(保存版)

執筆 院長

ご挨拶

こんにちは、副院長の石田です。

私事で恐縮ですが、当院の受付やウェブサイトで4月からお知らせしているとおり、個人的な事情により本年末をもってにしじまクリニックを退職させていただくこととなりました。それに伴い、このブログでの私の記事執筆も今月末で一旦おしまいとなります。2019年9月に院長と2人で執筆を始めてから、気がつけば7年間休まず続けてきました。外来で患者さんから「ブログ記事、楽しみにしています!」とお声がけいただいたり、ブログをきっかけに各種メディアから取材や執筆の依頼をいただいたりと、書き続けるのはなかなか大変でしたが多くの素晴らしいご縁に繋がった、とてもやりがいのある仕事の一つでした。

さて、実は私にとって、にしじまクリニックのような「街の診療所」で腰を据えて働くのは初めてのことでしたが、この8年余りは非常に充実した日々でした。私には中学生の息子が2人おりますが、皆さんの妊婦健診や分娩などに携わらせていただくと、妊娠が分かったときの興奮やつわりで苦しむ妻を前に何もできなかった無力感、胎動を感じた時の喜び、そして誕生の瞬間にあふれ出た幸福感など、皆さんと同じように当時自分が味わった感情が今でも鮮明に蘇ります。平日はもちろん、夜間や休日に出血や腹痛で受診される妊婦さんもいらっしゃいますが、中には「時間外に来てしまってすみません」と謝られる方もおられます。でも私からすると、皆さんの診療を通して同じように焦っていたあの頃の自分を、時間を巻き戻して自分で助け直しているような感覚があり、むしろ私自身が救われているような思いがしていました。同様に、婦人科疾患で来院された患者さんの診療を通じても、一人ひとりのお悩みを解決する中で自分がこの地域にとって少しずつ必要な存在になれているような気がして、喜びを感じられる日々でした。もちろんこれらが「大病院には無い」ということではありませんが、当院のような地域密着型の診療所だからこそ患者さんとの距離も近く、より一層強く実感できたのだと思います。

私がそのように充実した毎日を過ごしてきたのと同じように、にしじまクリニックは喜びややりがいを感じながら働いているスタッフが多い職場だと感じています。それぞれの強みやスキルを活かして患者さんの健康に貢献できることに誇りを持っているからこそ、職種を問わずスタッフ全員が常に業務の効率化や質の向上に取り組んでいます。また、院内での頻繁な勉強会をはじめ、多様な講習会への参加や資格・認定の取得・更新を通じて、絶えずスキルアップを図ってもいます。これまでいくつもの病院で勤務してきましたが、にしじまクリニックには大病院にも引けを取らない質の高いスタッフが揃い、心から患者さんのことを思って医療を提供する素晴らしいチームがあると確信しています。残念ながら私はあと少しでここを卒業いたしますが、地域の皆様におかれましてはこれからもぜひ安心してこのクリニックを頼っていただければ幸いです。

私自身、これまでご縁をいただいた多くの患者さんや、院長はじめ当院のスタッフに支えられてきました。この場をお借りして、心より感謝申し上げます。本当にありがとうございました。

中には思っていたようにお力になれなかったこともあり、そうした患者さんには申し訳ない気持ちが今も残っておりますが、一方でご満足いただける形で関われた方々のことを思うと胸をなでおろす心地です。またどこかでご縁がございましたら、皆様が元気に過ごせるようにお手伝いさせていただけますと幸いです。

石田 健太郎
にしじまクリニック 副院長

女性の健康と気候変動の関係

こんにちは、副院長の石田です。

今年の夏も暑いですね。地球温暖化のせいか年々夏の暑さが過酷になる中で、私が通っていた小学校では6年生の伝統行事であった海の遠泳が、この暑さから子供を守りきれないという判断で終了してしまったそうです。
さて、そんな気候変動ではありますが、実は男性以上に女性の健康に大きな影響があるということをみなさんはご存知でしょうか?これは男女の生物学的な違いだけでなく、女性がもつ傾向のある社会的・文化的な役割も影響していると言われています。そこで本日は女性の健康と気候変動の関係について少し解説していきたいと思います。

気候変動による女性への影響

「気候変動」と聞くと「地球温暖化」という言葉が真っ先に思い浮かぶ方が多いのではないでしょうか?実際に化石燃料の使用により発生する温室効果化ガスの影響で、地球の平均気温は上昇し大気汚染も深刻化していると言われています。これらの現象はさらに、水害や食糧生産の不安定化と飢餓、疫病の蔓延など様々な問題へと繋がり得るわけですが、これらは妊婦さんを中心として女性の健康に対してより大きな影響があることが知られています 1)。例えば妊婦さんが猛暑にさらされると、早産や死産、低出生体重児のリスクが上昇することが分かっています。(結論は出ていませんが、体温調節のための血流再配分による子宮血流の低下や脱水による羊水量の減少などが原因として考えられています 2)3)。)
大気汚染は心肺機能への影響が兼されますが、PM2.5という汚染物質が増えると、男性以上に女性で心臓発作のリスクが上がることが知られています。また、大気汚染でも猛暑と同様早産や死産、低出生体重児のリスクが上昇します。実際にアメリカのカルフォルニア州のある地域では、火力発電所が閉鎖してからの10年間で早産が27%減少したというデータもありました 4)。
そのほか注目すべきは水害の影響です。アメリカでハリケーン被害にあった妊婦さんはそうでない方と比べて低出生体重児のリスクが2〜3倍になったことが分かっています。加えて妊婦さんに限らずハリケーンに被災した女性では性的なものを含めた暴力被害にあうリスクが3倍程度に上昇したことも判明しました 1)。

まとめ

本日は気候変動と女性の健康について少しお話しさせていただきました。環境問題が体に良くないことは皆さんご存知かと思いますが、より女性に負担がかかりやすいことまでは知らない人も多かったのでは無いでしょうか?加えてこれらの影響は貧困層や有色人種など、社会的に不利に扱われる機会の多いグループにも偏っていることが知られており、弱い立場の人ほどダメージが大きいことも問題視されています 5)。これから生まれてくる赤ちゃんたちも含めて地球に住むみんなが気持ちよく過ごせるように、一人ひとりが自然環境について考え、行動を起こすことが大切ですね。

参考文献
1) Emily Sbiroli, et al. J Clim Change Health 2022;8:100169.
2) Louisa Samuels, et al. Int J Biometeorol. 2022 Aug;66(8):1505-1513.
3) Siyi He, et al. Environ Int. 2018 Feb;111:295-300.
4) JA Casey, et al. Am J Epidemiol. 2018;187(8):1586-1594.
5) American College of Obstetricians & Gynecologists. Committee Statement Number 30. July 2026.

妊娠中の休業についてよくある誤解

こんにちは、副院長の石田です。

さて、産婦人科医をやっていると「妊娠してから出勤や勤務が大変なので仕事を休みたいです。人事に相談したら、医者から診断書を出してもらったら休めると言われました。書いてもらえますか?」と相談されることがしばしばあります。話を深掘りしていくと、ご本人や勤務先は傷病手当金を取得しての休業を考えていらっしゃることが多いのですが、結論から言うとご協力できないことが少なくありません。ここには妊婦さんご本人だけでなく、意外とお勤め先の人事責任者も含めて制度への誤解があるのではないかと感じたので、本日はこの件について少し解説させていただこうと思います。

診断書や傷病手当金とはどういうものか

傷病手当金とは、病気やケガを原因に会社を休むために十分な給与が受けられないときに、加入している健康保険から生活を保障するために支給されるお金のことで、健康保険法第九十九条に定められています 1)。原資は加入者から集められた保険金であり、法に則った厳正な審査のもとに支給が決定します。そのため診断書の内容に疑義が生じた場合は、保険の運営側から申請書を記載した医師にかなり細かい問い合わせが来ます。
以上のことから妊娠悪阻や切迫早産などの明確な労働不能と判断されるような医学的理由が無く、「妊娠している」「仕事がつらい」だけではこれらの書類を出すことはできません。それでも無理に医師が診断書や傷病手当金申請書を記載・発行した場合は医師・患者双方とも刑事/民事責任および行政処分の対象となる可能性もあるため、皆さんが妊娠した体で出勤し働くのが大変なのは理解しつつも、制度上の要件として客観的な評価が必要ということになります。

でも、つらいもんはつらい

医学的に働けるかどうかと、ご本人がしんどい思いをしているかどうかはしばしば折り合わないことがあります。我々としても目の前の苦しんでいる患者さんに対して本当に歯がゆい気持ちになるのですが、そういう場合は「フルで働くか休むか」という二択ではなく、出勤時刻をずらす、休憩を増やす、勤務内容を軽くする、勤務時間を減らすなどの、間をとるような対策であれば比較的ご協力しやすいことが多いです。また、比較的目にするのは「職場のマタハラによって心身の不調をきたしている」というパターンです。そう聞くと「そんな仕事、むしろさっさと辞めた方がいいでしょ」って思われる方も少なくありませんが、実際には辞めてしまうと家計や上のお子さんの保育園などの面で苦しくなってしまうご家庭もあるため、問題はそれほど簡単ではありません。確かにそういうケースでは早く休めるようにしてあげた方がよいことも多いですが、それでも切迫早産など虚偽の診断で書類を作成することは適切ではなく、飽くまで病態を正しく評価することが肝心です。例えばマタハラにより抑うつや強い不安、不眠や動悸などの症状が出ている場合は精神症状として評価が可能かもしませんので、心療内科や精神科に受診していただくのがよいです。その際には必要に応じて、かかりつけの産科から紹介状などを出してもらいましょう。

まとめ

本日は医師が発行する妊娠中の診断書について解説させていただきました。基本的に産科医は制度の厳正さを理解しつつも、可能な範囲内で妊婦さんやそのご家族にできるだけ寄り添おうとしています。ただ、それでも「書類発行は難しい」と判断する場合にはそれだけの理由があるのだとご理解いただけると幸いです。とはいえ上記のように、状況次第では別の方法で力になれることもありますので、お困りの際には遠慮なくご相談いただければと思います。

参考文献
1) https://laws.e-gov.go.jp/law/211AC0000000070