コーチングとティーチングの使い分け

皆様も職場で上の立場の場合、リーダー役または他スタッフをまとめる事があるかと思います。そこでコーチングとティーチングを使い分けをされているでしょうか?

コーチング(Coaching)の基本概念

コーチングは『人の目標達成を支援する』事を理念としています。問いかけて聞く事を中心とし、双方向のコミュニケーションを通して相手がアイディアや選択肢に自ら気づき、自発的に答えを導き出す手法・スキルとなります。

ティーチングとは

学校教育など「教える側」が存在し、知識や経験が少ない相手にルールやノウハウを教える事をいいます。

コーチングとティーチングの使い分け

相手をよく観察し、習熟度を知り、コーチングとティーチングの使い分けを行う事が可能となります。

ティーチングは『答えは教える側が持っている』

コーチングは『答えは相手の中にある』

のです。

コーチング原則

・アドバイスをしない:上記のとおり、『答えは相手の中にある』、『人の目標達成を支援する』事が重要のため、一方通行のアドバイスは行いません。

(私院長の個人的意見としては、価値観を押し付けてはいけませんが、到達目標をはっきり共有していないとコーチングはブレてしまうと思います。また、コーチングを行う人が知識と経験が豊富で、何よりコーチングを受ける人達に対し、なんでも言いやすい(話しやすい)環境『心理的安全』を整えることが重要です。)

・カウンセリングをしない:相手の過去の問題を扱い、問題を解決するようなことをしないのがコーチングの一原則です。

・相手の行動を制限しない:繰り返しますが、自分の価値観を押し付けて「この人には無理」と判断する事は危険です(そう思ってしまうなら、インストラクターとして担うのは難しいでしょう)。

このコーチングやティーチングは、医療従事者のみならずどの職業でも必要なスキルだと思います。にしじまクリニックでは、上の立場を目指すスタッフにはこのスキルを習得し、インストラクションしてもらうようにしてもらっています。

(院長執筆)

参考文献;

2022年1月8日ALSO/BLSOインストラクターコース資料から

NCPR Aコースを開催しました

先日、にしじまクリニック内でNCPRのAコースを開催しました。コロナ禍ではありますが、標準感染予防策を行なったうえで充実した講習会となりました。

「Aコース」とは、新生児の気管挿管処置や薬物投与を含めた臨床知識の学習と実技で構成される、高度な新生児蘇生法を習得するためのコースです。

にしじまクリニックの看護師および助産師は、全員このNCPR Aコースを取得してもらっています。生まれた赤ちゃんの救急時の蘇生と安定化は分刻みで行われるためです。

また、クリニックの規模として、どの医師またはどの助産師および看護師から高いかつ偏りのない医療提供を行う事を私院長のモットーとしております。これが当院の患者様が『にしじまクリニックの価値』として感じてくださってくれている一つかと思います。

なお、先月の当院の朝練でもスタッフ全員でNCPRの確認を行いました。ただ大きい講習会を単発で行なって終わらせるのではなく、継続して学習し続けることでとっさの判断と適切な手技が行えるのです。

今後も患者様の安全を高めるために、にしじまクリニック全スタッフはチーム一丸となって医療安全とその質の向上を進めてまいります。

チームSTEPPSの実践

患者安全のため、私達スタッフのチームビルディングは欠かせません。WHO患者安全カリキュラムガイドにも引用されている『チームSTEPPS』をにしじまクリニックでは重要視し、各分野で導入しています。

https://nishijima-clinic.or.jp/blog/2019/09/17/patient-safety-day/

今回はチームSTEPPSについての基本原理とテクニカルタームをお話しします。

チームSTEPPSは4つのスキルが柱となってチームを運用します。

①コミュニケーション

情報が明確かつ正確にチームメンバー間でやりとりされる構造化されたプロセスを用います。

・Call out:緊急事態の時、全てのチームメンバーへ同時に伝えます。

チェックバック:発信者が意図した事が受信者に確実に理解しているかを確認します。

②リーダーシップ

チームの活動が理解され、情報の変化を共有し、チームメンバーが必要なリソースを有してリーダーシップを確立します。

情報と計画を共有するためのイベントは3つあります。

・ブリーフ(打ち合わせ)

ハドル(途中協議)

・デブリーフ(ふりかえり)

③状況モニター

状況の様々な要素に目を向けて評価を行うプロセスで、チーム機能を維持するために情報を再確認します。

医療状況の評価を支援するツールである『STEP』を用いてメンタルモデルの共有を行います。

Status:患者の状況

□病歴

□バイタルサイン

など

Team:チームメンバー

□業務量

□パフォーマンス

□疲労

など

Enviroment:環境

□施設の情報、設備

□人材

□的確なトリアージ

など

Progression (for goal):目標に向けての進捗

チームが担当する患者の状態と、それに向けた業務・活動は?

など

④相互支援

他のチームメンバーの責任と業務量を正しく認識し、お互いのニーズを予想して支援するスキルです。

業務支援

・フィードバック:適時、敬意を持って、思いやりを持って

・2回チャレンジルール:チームメンバーが重大な安全に関わる事象を見つけた場合は『業務を中断する』事ができるようにする

・CUS(Concerned, Uncomfortable, Safety issue)の表現

当院では毎朝、朝礼・ブリーフ後にチームビルディングを強化するため、様々な事例に対応するための取り組みを行なっています。明日からはこの『チームSTEPPS』の実践練習を行います。

全脊髄くも膜下麻酔が起こったら

無痛分娩の硬膜外麻酔において、万が一硬膜を貫通し、脊髄くも膜下腔にカテーテルが流入・迷入した場合、そのまま局所麻酔薬が入り続けると体の痛みに対する麻酔効果レベルが腰部から胸部へ上がります。この状態を放置してしまうと『全脊髄くも膜下麻酔』が起こり、いずれは呼吸停止に至ってしまいます。

にしじまクリニックでは事前の予防や対策から、今まで一度も全脊髄くも膜下麻酔が起こったことはありませんが、万が一に備え、当院医療従事者は気道確保や人工呼吸の練習を繰り返し行なっています。

(全・高位)脊髄くも膜下麻酔の初発症状は下肢の運動麻痺です。

テストドーズ(初回の局所麻酔試験注入)時に脚の動かしにくさを訴えたら、

またいきなり「陣痛が楽になった」の訴えがあれば、

脊髄くも膜下腔に局所麻酔が入っている可能性を疑います。

Th4(乳頭の高さ)以上の麻酔レベルでは呼吸抑制が起こります。

麻酔等により、呼吸状態の悪化または停止が疑われた場合

・気道確保を行います。

他スタッフへ情報を共有するとともにバイタルサインの確認を行います。

血圧低下なども予想し、救急カート類をすぐ使えるようにしておきます。

母体急変時の初期対応(メディカ出版)から

・呼吸停止時にはただちに人工呼吸を行います。

気道確保をしつつマスクを口鼻に密着させるために、手の添え方はE-C法を行います。

母体急変時の初期対応(メディカ出版)から

人工呼吸を行うには空気および酸素を送り込むバッグが必要となり、2 種の様式があります。

A.自己膨張式バッグ(バックバルブマスク)

ガス源(圧縮空気や酸素)を必要としません。

母体急変時の初期対応(メディカ出版)から

B.流量膨張式バッグ(ジャクソンリース)

患者の呼吸状態に応じた呼吸管理を行うことができます。手順としては

①酸素回路を接続する

②麻酔器の電源を入れる

③手動換気が行えるようガス回路のセレクトし、手動換気側へレバーを向ける。

④酸素投与開始

⑤APLの調整;

Adjustable Pressure Limitingの略で、バルブ調整を行うことで気道内圧をコントロールし、ひいては肺損傷を防ぎます。要は自発呼吸がある時は圧を少なくし、呼吸がない時は圧を高くして人工呼吸・換気を行います。

呼吸がない場合は1分間に10回の人工呼吸・換気を行います。

なお心肺停止の場合、『胸骨圧迫30回と人工呼吸2回』がセットとなります。

胸骨圧迫を行う場合は高濃度酸素が必要となってくるため、バックバルブマスクよりジャクソンリースを選択する方が望ましいと言えます。

参考文献;

無痛分娩プラクティスガイド(MEDICAL VIEW)

母体急変時の初期対応(メディカ出版)

J-CIMELSベーシックコースインストラクターマニュアル第2版(メディカ出版)

胎児先天性疾患の早期発見のための取り組み

こんにちは、副院長の石田です。

先日他院で妊娠の診断となった患者さんがにしじまクリニックを受診されましたが、その方は分娩施設をどうやって選んだらいいか分からなくてご相談に来られたということでした。

確かに妊娠した時に産婦人科を選ぶのって大変ですよね。ネットやママ友の口コミなんかも参考になると思いますが、実際に行われている医療がどの程度ちゃんとしているかを知るのは容易ではありません。何なら我々専門家でも他地域の病院の実態は分からないことも多いです。そこで本日は手前味噌ではありますが、当院での取り組みの一部をご紹介させていただこうと思います。

赤ちゃんの奇形

先天性疾患というと本当にたくさんの病気が存在しますが、妊婦健診で見つかる確率が高いのは超音波で分かる奇形です。胎児奇形は概ね2〜4%の赤ちゃんに見つかりますが、これらは大きく大奇形と小奇形に分けられます 1)2)。大奇形というのは放置すると医学的、あるいは社会的に損失を伴うため確実に治療を要するようなもので、具体的には心臓や腸などの内蔵や骨格の奇形を指します。一方で小奇形というのはそれ自体が生命や機能に異常をきたさないもので、見た目の問題だけという疾患です。一般的に妊婦健診で重点的に検索されるのはもちろん大奇形です。

当院のシステム

当院では可能な限り赤ちゃんの大きな疾患を見逃さないようにいくつものステップで確認しています。

1. 妊娠11〜13週:以前院長のブログでもご紹介いたしましたが、この時期に赤ちゃんの首の裏が厚く浮腫んだりする場合にはダウン症などの染色体異常を疑う必要があります。染色体異常がある場合は大奇形を伴うことが多いですが、当院では英国のFetal Medicine Foundation(FMF)という胎児診断に関する組織の認証を受けた院長と私がしっかりと超音波で確認しています。
2. 妊娠20〜21週:当院ではこの時期の健診を「超音波外来」として赤ちゃんに病気がないかをチェックしています。確認の範囲は中枢神経、顔面、胸腹部臓器、脊椎、四肢、臍帯などですが、チェック項目はリスト化してあるため、どちらの医師を受診しても同様のスクリーニングが受けられます。
3. 妊娠30〜31週:妊娠中期の超音波外来で問題なければ大丈夫なことがほとんどですが、当院では万全を期してこの時期にも再度、赤ちゃんの心奇形を中心にスクリーニングをかけています。その際には(診療状況によりますが)原則的に超音波外来の時と違う方の医師が担当することで目を変えてダブルチェックができるように配慮しています。
4. 出生後:通常の妊婦健診に加えて上記のようなステップを行っていても出生前の診断が難しい病気があります。特にそれが心奇形の場合は多くの他の疾患と違って出生後数日以内に状態が急変することもあるため、当院では出生24時間後の赤ちゃん全例に腕と足の酸素飽和度の差を利用した先天性心疾患スクリーニングを行っています。

クオリティーコントロール

これらのステップはただ定めただけでなく、院内で日常的に行われる医療者間の話し合い、学会、勉強会への参加、年1回のFMFの認証更新試験などを通じて不定期かつ頻回にプロセスを見直しながらより良いものへと進化させています。また、異常が疑われた段階で正確な診断と早期医療介入が実現できるように埼玉医科大学の胎児超音波外来をはじめとした周辺の周産期センターとも緊密に連携を取りながら母児のリスクを最大限ヘッジできるような体制を敷いています。

まとめ

当院のような小規模施設ではきめ細やかなケアを提供しやすいというメリットがある一方で大病院と比べると医療資源の制約を受けがちです。しかし、にしじまクリニックでは決してそれを仕方なしとせずに、患者さん一人ひとりに寄り添いながらも高品質な医療を提供できるような体制づくりを日々行っています。もし他にも当院での妊婦健診や出産に関して疑問に思われることがありましたら外来でご説明可能ですので、ご予約の上お気軽にお越しください。

1) Mai CT, et al. Birth Defects Res. 2019;111(18):1420

2) Feldkamp MI, et al. BMJ. 2017;357:j2249