更年期障害に対するホルモン補充療法のやめ時

こんにちは、副院長の石田です。

40代に入るとホットフラッシュや発汗、イライラ、ウツウツなど更年期症状が出てくる女性が多くいらっしゃいます。これらは年齢を重ねたことによる卵巣機能の低下のために女性ホルモンが少なくなった結果として起こります。治療としては不足した女性ホルモンを薬で補うホルモン補充療法(HRT)が一般的ですが、始めたはいいもののいつまで続けたらいいのか不安になっている女性も少なくありません。そこで本日はHRTの継続期間についてお話ししたいと思います。

ホルモン補充療法の継続期間

一般的には投薬5年目、もしくは60歳が近くなってきたら「そろそろやめますか?」と医師から声がかかりやすいのかなという印象があります。これは投薬5年目以降で乳がんの発生率が上昇するる可能性を、そして60歳を過ぎると新規のHRT開始に関しては心臓発作や血栓の発症率が増加する可能性をそれぞれ示唆する研究があること、加えて何となく数字的にもキリが良いことからそうなっているのかもしれません 1)2)3)。ただ、実際にはHRTをどのくらい続けるべきかについては決まった見解はありません。女性ホルモンの欠乏症状は早ければ治療開始から数年程度で治ってくることが多い一方で、人によっては強い症状が10年以上続くこともあります。そのため日本国内だけでなく国際的にもHRTの継続期間については一人ひとりの女性のコンディションに合わせて調整していきましょうということになっています 4)5)。具体的には1年に1回は続けるべきかどうかを治療効果や年齢、検査などを踏まえて検討する約束になっています。

まとめ

本日はホルモン補充療法はどのくらい続けるのかについて解説しました。上記の通り、お薬を使用する期間については人によって差がありますが、一般的な話をすると目立った副作用が無く効果が得られている場合は2〜5年程度使う人が多いような気がしていますし、実際イギリスの政府機関のウェブサイトにもそんな感じで書いてありました 6)。いずれにしてもゼロリスクの治療はありませんので、治療によって得られるメリットと続けるリスクを天秤にかけながら判断し続ける必要がありますので、現在治療中の患者さんにおかれましては主治医としっかりコミュニケーションをとっていただくのが良いと思われます。

参考文献
1) Rowan T Chlebowski, et al. JAMA. 2003 Jun 25;289(24):3243-53.
2) Jacques E Rossouw, et al. JAMA. 2007;297:1465-1477.
3) Mary Cushman, et al. JAMA. 2004:292:1573-1580.
4) 日本産科婦人科学会・日本女性医学学会. ホルモン補充療法 ガイドライン. CQ403.
5) T J de Villiers, et al. Climateric. 2016 Aug;19(4):313-5.
6) National Health Service. When to take hormone replacement therapy (HRT).

更年期障害かもしれないから血液検査しようと思ったときの話

こんにちは、副院長の石田です。

日本の人口ピラミッドからも分かるように、年々更年期世代の女性は増加しており、それに伴ってテレビや雑誌、インターネット上でも更年期に関する情報を目にしない日はないほどです。そうした影響もあってか、「更年期かもしれないのでホルモンバランスを採血で調べてほしい」と受診される方が少なくありません。そこで本日は、更年期障害の診断について解説していきたいと思います。

血液検査で確認できる更年期の指標

医学的に「更年期」とは、閉経を挟んで前後およそ5年間(計10年間)の時期を指します。この時期には卵巣が徐々にその役割を終えていく過程で、女性ホルモンであるエストロゲン(E2)が低下し、その一方で卵胞刺激ホルモン(FSH)は上昇していきます。そのため血液検査ではこの2つのホルモンを測定することが多く、施設や医師によって基準値はやや異なるものの、一般的にはE2が20を下回ると低値、FSHが30を超えると高値と判断されることが多い印象です。

検査する前に知っておくべきこと

さて、有用に見えるこれらの数値ですが、更年期におけるホルモン検査にはいくつか知っておくべき注意点があります。まず大前提として、ホルモン検査だけで更年期障害を診断することはできません。更年期障害は、ホットフラッシュや発汗といった血管運動症状や、イライラ・気分の落ち込みなどの精神症状などで知られていますが、同じような症状は甲状腺の病気やうつ病、心不全、重度の貧血などでも起こり得ます。そのため、更年期障害を疑った場合には、こうした他の病気ではないことを診察や検査で確認したうえで更年期としての治療を行い、症状が改善するかどうかを見て診断につなげていきます(逆にとりあえず更年期の治療を始めてみて、改善しない場合に別の病気を疑うこともあります)。また、閉経が近づけばホルモン値は前述のように変化していきますが、更年期症状が出るかどうか、そしてその重症度には大きな個人差があります。さらに言ってしまうと、ホルモン値は計測時期によって大きく変動することがあったり、更年期的な変化をする前に症状が先んじて出ることもあるのです。したがって、血液検査の結果だけで診断や治療が決まるわけではありません。

まとめ

このように言われると「検査する意味なくない!?」となりそうですが、実際特に40代後半の女性においてこれらの女性ホルモンの計測は、更年期の診断として有用ではないとされています 1)。ただ、40代前半以前の閉経にはやや若い女性など、なんらかの理由で補助診断的に計測することも多くあるため全く不要というわけでもありません。ご自身で更年期を疑われた場合、ついつい「採血して調べてもらわなきゃ」となってしまう方も少なくありませんが、まずは最寄りの産婦人科でご自身に何が必要なのかを主治医とご相談いただければと思います。

参考文献
1) 日本産科婦人科学会 産婦人科診療ガイドライン 婦人科外来編2023 CQ407

ジエノゲスト

子宮内膜症や月経困難症において、医師からジエノゲストの服用を勧められたり、現在内服している方がいらっしゃると思います。

ジエノゲストと、他のピル(LEP*)との違いはご存知でしょうか。

※LEP: Low dose Estrogen-Progestin(低用量エストロゲン・プロゲスチン配合薬)

まずはジエノゲストは濃度の違いで2種類あり、適応が異なります。

ジエノゲスト1mg

適応:子宮内膜症、子宮腺筋症に伴う疼痛の改善

ジエノゲスト0.5mg

適応:月経困難症

ジエノゲストは第四世代の黄体ホルモン製剤で、強いプロゲステロン活性を持ちます。またアンドロゲン活性がないので、多毛やニキビの心配はしなくて大丈夫な製剤です。

なお黄体ホルモン[プロゲストーゲン]は総称です。天然型であるプロゲステロンと、合成の医薬品のプロゲスチン製剤があり呼称が微妙に異なることも覚えておいてください。天然型のプロゲステロンは、更年期症状に対するホルモン補充療法にも現在用いられています。

上述のとおりジエノゲストは「第四世代のプロゲスチン製剤」とも言え、プロゲスチン製剤では最新の世代の薬剤となります。

ジエノゲストは黄体ホルモン単独の製剤

LEPと異なり、エストロゲンが含まれていません。エストロゲンの成分が血栓症の大きなリスク因子となります。

OC**・LEPガイドラインにおいて40歳以上はピル服用の慎重投与対象であり、これは血栓症のリスクを懸念しています。

※※OC: Oral Contraceptive(経口避妊薬または低用量経口避妊薬)

40歳以上の方でも生理痛(月経困難症)でお困りの方はいらっしゃるでしょうから、その場合ジエノゲスト0.5mgを医師から提案される事があるのです。

ジエノゲストの内服によって子宮の内膜は次第に薄くなっていきます(菲薄化)。子宮の内膜が剥がれ落ちて出血するのが生理[消退出血]なので、子宮内膜が薄くなれば生理時の出血も減り、ひいては生理痛も軽減されていきます。

ジエノゲスト内服での注意点

ジエノゲストは体内に長く留まらないので、1日2回内服する治療薬となります(肝臓や腎臓に負担をかけにくいとも言えます)。他のピル(OC・LEP)は1日1回の内服です。よってジエノゲストの内服は、高い内服コンプライアンスが求められます。

ジエノゲストを服用し忘れたときは、気づいた時にすぐ服用してください。ただし、次の服用時間が近いときは、1回分をスキップしていただき、2錠を一度に服用しないようにしてください。

生理痛が辛い、40歳以上、ジエノゲストなど定期内服は難しいという方はミレーナ®︎の選択肢があります。ミレーナ®︎は子宮内に装着し、黄体ホルモンだけを放出する器具となります。

ただしミレーナ®︎も全ての方に適応となるわけではありません。子宮筋腫や子宮腺筋症が大きい場合は挿入処置が難しいだけでなく、出血コントロールが難しくなるからです。

執筆 院長

血栓症の症状

ピルの内服または妊娠において、血栓のリスクがあります。

ご自身でも、以下の症状を認めれば受診をすべき、という基準を知っていただくと良いかと思います。

ACHESの症状があるか

「ACHES」とは症状の頭文字からなります。以下症状を認めれば血栓もしくは塞栓の症状の可能性があり、受診をすべきです。

A: Abdominal pain(腹痛)

C: Chest pain(胸痛、息苦しさ)

H: Headache(頭痛)

E: Eye/speech problems(視野異常、舌のもつれなど)

S: Severe leg pain(ふくらはぎの痛み、むくみ)

Wellsスコアを確認する

検査を行う前の血栓症の臨床確率を評価する方法として、危険因子や症状の所見を点数化する「Wellsスコア」というものがあります。検査結果が出るまでににはある程度の時間を要するため、以下項目をスコアリングして血栓症の確率を把握します。

Wellsスコア(深部静脈血栓症). 日本静脈学会HPから

ACHES症状、かつWellsスコアを確認したうえで、

下肢超音波検査や採血のDダイマー検査を行います。

血栓が肺の方を飛び「塞栓症」を来した場合は生命予後に直結します。血栓症・塞栓症は婦人科のみならず循環器内科や血管外科等の他科の協力が不可欠ですので、早めの対処が必要です。ピルの内服や妊娠において血栓の気になる症状があれば、すぐにかかりつけの医療機関へ連絡しましょう。

執筆 院長

ピルの服用についてよく聞かれる質問

こんにちは、副院長の石田です。

私が医者になりたての頃と比べて今は非常に多くの女性がピルに関心を持っているように感じます。実際、ひと昔前と比べてピルを服用するということに対する社会の偏見もだいぶ無くなってきています。避妊だけでなく生理症状の緩和や生理時期の調整、ニキビの治療に至るまで幅広い機能を持つ便利なピルですが、「私も使おうかなー」と悩まれている患者さんたちからよく聞かれる2つの質問について、本日は整理していきたいと思います。

ピルを服用すると太りますか?

ピルの服用について最も多くの方が心配されるのが体重変化です。ピルを始めたら太ったという友人知人の証言が少なくないため「生理が楽になるのはいいけど太るのはなー…」と悩む方も多いです。ですが、結論を申し上げますとピルの使用により体重が変化する(増加も減少も)という副作用は無いことが分かっています 1)。そのため「ピルのせいで太った」という方に関しては、ピルとは関係なくたまたまその時期に体重が増えたか、あるいはピルを使用した結果元気になり食欲も増えてしまったかだと思われます。

ピルを服用すると将来妊娠しづらくなりませんか?

ピルを服用しても将来妊娠しづらくなることは無いと言われています。確かにピル服用終了後は排卵周期が戻るまで少し時間がかかる可能性が言われていますが、198人を対象とした臨床研究によると98.9%の女性が3ヶ月以内に生理周期が回復、もしくは妊娠に至ったそうです。生理周期が回復するまでの日数は中央値で32日間であり、多くの女性が内服終了後それほど時間をおかずに自前の生理周期が始まっていることが分かります 2)。また、ヨーロッパの7カ国共同で行われた臨床研究によると、妊活のためにピルを止めた2064人の女性において79.4%が1年以内に妊娠成立しており、これはピルの服用歴が無い女性とほぼ同等であったということが示されています 3)。以上のことからピルの服用による将来の妊娠に対する悪影響は心配しなくてよさそうです。

まとめ

本日はピルを使うか悩んでいる人の多くが心配している質問について解説しました。10代の女性とかですと、飲む本人はそれほど心配していなくてもお母さんが副作用を気にしているなんて状況もよく見られますが、この記事で少しでも安心してもらえれば幸いです。院長と私もよく外来で患者さんに説明していますが、ピルは女性が人生をより能動的にコントロールする道具として世界中で使用されています。もしピルの使用を検討されている方でその他にも気になることがあれば、気軽に最寄りの産婦人科へ相談してみましょう。

参考文献
1) Gallo MF, et al. Cochrane Database Syst Rev. 2014 Jan 29;2014(1):CD003987.
2) Anne R Davis, et al. Fertil Steril. 2008 May;89(5):1059-1063.
3) Maureen Cronin, et al. Obstet Gynecologist. 2009 Sep;114(3):616-622.