新型コロナウイルスのワクチンはmRNAワクチン

日本で医療従事者から接種が始まったファイザー製の新型コロナウイルスに対するワクチンは、『mRNAワクチン』というこれまでになかった全く新しいタイプのワクチンです。

これまで私たちが接種を経験してきたワクチンはウイルスの一部のタンパク質を投与し、それに対して免疫を得る仕組みでした。

新型コロナウイルスは、表面に多数のブロッコリーが突き刺さった様な形をしています。このブロッコリーに当たるものは『スパイク蛋白』といい、新型コロナウイルスが人体の細胞に侵入するための蛋白質です。ワクチンで利用するmRNAとはこのスパイク蛋白の情報の一部でいわば「設計図」にあたります。

よってmRNAワクチンは、スパイク蛋白の情報の一部であるmRNAを投与しているのです。ワクチン投与後、細胞内ででスパイク蛋白のみが作られ、これを目印に免疫の働きによって新型コロナウイルスに対応する抗体が作られます。

mRNAワクチンは新しい技術のため、なかには将来身体への影響を懸念する方もいらっしゃるかもしれませんが、その心配はいりません。細胞の核内にあるDNAからmRNAが作られる流れはありますが、この流れは一方通行で、逆にmRNAからはDNAは作ることはできません。またmRNAは核内に入ることができません。よってこのmRNAは人の遺伝情報(DNA)に組み込まれることはありません。

参考文献

新型コロナワクチンについて. 国立国際医療研究センター病院ホームページ

産休と育休について

こんにちは、副院長の石田です。

女性の社会進出が日本社会にとって重要課題となっている昨今、妊娠・出産・育児とキャリア形成は非常に大事なトピックです。男性の育児参加は解決策の一つとしては重要ですが、そうは言っても妊娠、出産、おっぱいからの授乳ができるのが女性だけという状況は、人間をやめでもしない限りは今後もしばらく変わらないでしょう。そこで今回は産休と育休に関してちょっと書いてみようと思います。

産休とは

「産休」は産前休業、産後休業のことで労働基準法65条に規定されています。期間は産前6週間、産後8週間ということで決まっていますが、産後休業が義務であるのに対して産前休業は本人の請求によって与えられます。ちなみにこの場合の「産」は妊娠4ヶ月以降の分娩に対して使われる言葉であり、たとえ流早産(中絶を含む)であっても適応されます。「産後はいいとして、産前6週間っていつ産まれるか分からないのにどうやって決めるんだ!」って思われるかもしれませんが、これは出産予定日から決定します。なので早く産まれれば産前休業は短くなるし、逆に予定日を過ぎれば結果的には6週間より長くなるということですね 1) 。

育休とは

一方産休後に取得されるのは育児休業、通称「育休」で育児休業法に基づいて取られます。原則子供の1歳の誕生日前日まで仕事から離れることができますが、産休が全ての労働者に適応されるのに対して育休取得には同一事業者のもとで1年以上継続して働いていることや、1年後も雇用継続が見込まれていることなど一定の条件があります 2) 。

休業中の賃金について

産休中は基本となる賃金の2/3が、育休中は2/3〜1/2が支払われる決まりなので、収入は減りますがいきなり0になるということはありません。こういうことを言うと「うちの勤め先は小さいから、働いてもいないのにその間の手当てを払わせるのは申し訳ないです。」という心優しい女性を拝見することがありますが、それは大きな誤解です。実は産休中の手当ては健康保険から出産手当金として、育休中も雇用保険から育児休業給付として支払われているため雇用主には賃金負担が発生しないようになっているのです。さらに言えば社会保険料も会社負担分を含めて全額免除になるため皆さんが気を遣う必要は一切ありません 3) 4) 。

要するに、一部本人の請求が必要とはなりますが産休も育休も法律で明確に定められた労働者の権利であり、加えて勤め先にも金銭的な負担が発生しないシステムなので「取らせてもらえないかも」と不安になる必要は全く無いし、当然の権利として遠慮なく取得すれば良いという話になります。

その他の取り決め

妊産婦は自分の求めだけで多くの優遇措置を事業主から得られるように法律で決まっています。例えば妊婦健診を受けるための時間の確保 5) 、妊婦の軽易業務転換 6) 、時間外労働、休日労働、深夜業の制限 7) などがこれにあたります。もし事業主がこれらの措置を講じなかった場合、法的に罰せられる可能性があります 8) 。とはいえ自分の意見として何となくお願いしづらい、あるいは細かいところでモメるのもめんどくさいということであれば、必要に応じて医師の意見を雇用主に伝えるべく診断書や母性健康管理指導事項連絡カードを発行することもできます。これらの書類はより正確に妊産婦さんの健康状態と必要な措置を組織に伝えることができるため、とても便利なツールとして使用されています。

それでもマタハラは起こっている

このコンプライアンスにうるさい時代にマタニティハラスメントが存在する職場があることがびっくりですが、でも実際にあります。そもそも妊娠・出産を契機とした解雇や雇い止めは明確に違法行為ですし、2017年1月からは男女雇用機会均等法および育児・介護休業法の改正により企業によるマタハラ防止措置が義務化されていますが、毎日たくさんの妊産婦さんたちと触れ合う中ですぐには解決しない根深さを感じています。男性から女性のベクトルが圧倒的なセクハラと違い、女性から女性、あるいは育児休業を取ろうとする男性に対しても向けられる性別の枠にはまらない嫌がらせという意味ではより誰にでも起こり得る問題なのかもしれません。これには巷で言われるような感情的な原因だけでなく、欧米と比べて解雇規制が強い終身雇用型の労働環境や都市部に一極集中する人口分布とそれに伴う保育環境確保困難と産後社会復帰の遅延など、社会的な要因も様々に関与している可能性があり決して理論武装だけで防げるわけではありませんが、まずはご自身や家族、あるいは妊娠した仲間を守るためにも是非皆さんは正しい知識を身につけてください。

末筆になりましたが、「休暇」じゃなくて「休業」ですからね!休暇とか言うと悠々自適な雰囲気が出ちゃいますけど、特に赤ちゃんが産まれてからの休業中は不休の闘いです。産休、育休中の人たちをみんなで気持ちよくサポートしていけるような社会づくりをしていきたいものです。

子育てにコミットする全てのお母さんとお父さんに愛とリスペクトを。

1) 労働基準法第65条第1項及び第2項

2) 育児休業、介護休業等育児又は家族介護を行う労働者の福祉に関する法律第2条

3) 健康保険法第102条

4) 雇用保険法第61条の4-5

5) 男女雇用機会均等法第12条

6) 労働基準法第65条第3項

7) 労働基準法第66条第2項及び第3項

8) 労働基準法第119条

HPV9価ワクチンのシルガード9®︎(概論)

日本人女性は毎年10000人が子宮頸がんと診断され、毎年3000人の命が失われているのをご存知でしょうか?

新型コロナウイルスが猛威を奮って約1年が経ちましたが、子宮頸がんの原因も『ウイルス』であることをぜひ認識していただきたいです。

子宮頸がんの発症年齢は20代後半から30代の出産年齢のピークにも重なり、仮に妊娠と子宮頸がんが合併した場合は出産に対して大きな支障がでるのは間違いありません。

子宮頸がんの原因ウイルスは「ヒトパピローマウイルス(Human PapillomaVirus: HPV)」で、このウイルスは決してめずらしいウイルスではなく、生涯に80%以上の方はHPVに感染するといわれています。ちなみに男性もです。

そのHPVにはたくさんの『型』があり、特に『16型』と『18 型』は20〜30代で発見される子宮頸がんの80〜90%を占めるといわれています。

日本ではHPVワクチンとして16および18型に対するサーバリックス®︎と

さらに6と11型にも対するガーダシル®︎が認可されていました。ちなみに6, 11型は尖圭コンジローマの原因HPV型でもあります。

そして先月からいよいよ9価ワクチンのシルガード9®︎の接種が日本でも認可されました。6, 11, 16, 18型の他、子宮頸がん高リスク型である

31, 33, 45, 52, 58型にも対応することができます。このシルガード9®︎に含まれる9つのHPV型の対応により、日本人の子宮頸がんの原因HPV型の88.2%をカバーすることが可能なのです。

シルガード9®︎は9歳以上の女性が任意接種の対象となります。

(ガーダシルは小学校6年生〜高校1年生の女性を対象に市町村が主体となって定期接種を実施し、公費負担を受けることができます。)

HPVワクチンはどれも3回接種することになります。

子宮頸癌を防ぐためには、HPVに感染するワクチン接種が有効で、これを『1次予防』といいます。

日本では厚生労働省や各学会が『風疹ゼロプロジェクト』といって風疹抗体価が十分でない非妊娠女性や男性に風疹ワクチン接種を積極的に推奨するキャペーンが行われています。子宮頸がんにおいても、HPVワクチンの接種により子宮頸がんもいよいよ征圧を目指せる時代となってきました。

にしじまクリニックでは私院長と副院長がシルガード9®︎をオーダーできるようになりました。もちろんガーダシル®︎も当院で接種可能です。満9歳以上の女の子のいらっしゃるご家庭は、まずは当院へご相談されに来てはいかがでしょうか。

赤ちゃんとの初外出はいつから?

こんにちは、副院長の石田です。

無事にご出産を終えてご退院、産後の健診が始まると決まって患者さんから聞かれるのは「いつになったらこの子と外出しても大丈夫ですか?」ということです。ご実家のサポートが十分に得られる初産婦さんとかだと比較的余裕があるのですが、サポートの受けられないシングルマザーであったり、既に上のお子さんがいらっしゃるご家庭だと赤ちゃんを連れて外に出られないというのは時として死活問題だったりします。そこで、医学的にいつ頃なら安心して連れて出られるのかを解説してみようと思います。

世間一般ではどのように指導されているか?

恐らくみなさんがよく耳にするのは「1ヶ月健診までは家でゆっくり過ごして、それ以降は外気浴から徐々に慣らしていきましょう」というコメントかもしれません。実際にこちらのサイトの小児科医に対するアンケートだと実に半数が1ヶ月以降としている他、次に多いのは生後3ヶ月以降で22%です 1)。その他にもいくつかのサイトを回覧しましたが、医師監修も含めて多くの場合は1ヶ月案を採用しているようでした。ひょっとしたらママ友の間でも1ヶ月が常識になっているかもしれません。

何故1ヶ月なのか?

しかしこれだけ実しやかに言われている1ヶ月ですが、実は全く根拠がありません。どこのサイトを見ても「赤ちゃんの感染症リスクが〜」とか「お母さんの体力が回復するのを待って〜」とかもっともらしいことを書いているのですが、赤ちゃんの免疫状況が1ヶ月で劇的に変わるわけでもなければ予防接種が始まるのも生後2ヶ月以降だったりして1ヶ月を超えて何かが好転するとは考えにくいです。お母さんの体力に関しても分娩様式(経膣分娩か帝王切開か)、出血量、年齢、会陰裂傷の程度、初産婦か経産婦かなど多くの要素によって個人差があるため1ヶ月経ったら全員OKというのは乱暴過ぎます。実際我々産婦人科医はお母さんの状況を見ながら必要に応じてフォロー期間を1ヶ月より長く取ることもあります。

世界的にはどうなの?

そこで海外のサイトを調べてみたところ、欧米のこの手のサイトでは多くの場合で1ヶ月説を”old wives’ tale and completely false(おばあちゃんたちの迷信で完全なウソ)”として全否定しています。「むしろ赤ちゃんが元気ならちょっと近所に外出して新鮮な空気でも吸っておいで!家にこもりっきりじゃお母さんも参っちゃうでしょ?」という論調がほとんどです2)3)4) 。私が以前に月1回出張してた東南アジアの病院でも、赤ちゃんが産まれたら風通しの良い日陰で赤ちゃんを並べてお母さんが談笑しているのをよく見ますが、どの子もとても気持ち良さそうにスヤスヤ寝ています。ちなみに本当にそういう習慣があるのかどうかよく分からないのですが、北欧では-10℃とかでも赤ちゃんをベビーカーで外に並べて体温調節に気を使いながらお昼寝させておくそうです。その方が長く寝てくれるんだとか…5)6)。

で、結局どうすればいいのか

これ、賛否両論あると思うんですが、私はお母さんや赤ちゃんに特別な事情がない場合は特に制限していません。冒頭にも書きましたけど、ご家庭によってはお母さんが外出しないと生活に支障が出るケースも多くありますし、それでお母さんが追い詰められていくのは本末転倒だと思うからです。そこによっぽど大きな理由があるなら別ですが、そもそも科学的根拠も曖昧ですし。ただし、赤ちゃんというだけでまだ未熟なのは確かなので、以下のことには気をつけていただくようにしています。

1)体温調節

赤ちゃんは自分の体温を調節する機能がまだしっかりしていません。なので外気温や服装などの影響で簡単に高体温や低体温になってしまいます。これは時として命に関わることになりますので、こまめに赤ちゃんのお熱を気にしながら行動してもらうようにお願いしています。

2)日焼け

赤ちゃんの肌はとてもデリケートです。とくに直射日光などにとても弱いので、シェードなどでしっかりと刺激から守ってあげるようにしてください。

3)感染症

外の世界にはインフルエンザをはじめ、様々な感染症がウヨウヨしています。お母さんからの移行抗体などで守られているとはいえ、まだまだ抵抗力には課題があるのでよほどの必要性がない限りは人混みに近づくようなことは避けていただいた方が無難です。

まとめ

育児はどうしても赤ちゃんを中心に生活が回っていきがちですが、そこにはご両親や兄弟姉妹などたくさんの人が関わっています。あまりに赤ちゃんにかかりっきりになるあまり、ご自身や周りの人が無理をしすぎて生活が破綻してしまっては結局育児自体が不可能になってしまいます。できるだけ家で過ごせれば確かに上記のような心配も少ないですが、そもそも上のお子さんが保育園や小学校に行っていれば病気を持って帰ってくることも多々ありますしね。

もちろん最低限気をつけなければいけないことはありますが、気軽に考えられるところは妥協しながらゆっくり育児を楽しみましょう!

1) https://ishicome.medpeer.jp/entry/1156

2) https://www.hopkinsallchildrens.org/Patients-Families/Health-Library/HealthDocNew/When-Can-I-Take-My-Newborn-Out-in-Public

3) https://www.webmd.com/parenting/baby/features/can-i-take-my-newborn-outside

4) https://www.verywellfamily.com/when-can-my-newborn-go-outside-289876

5) Tourula M, et al. Int J Circumpolar Health. 2008 Jun; 67(2-3): 269-78

6) https://www.bbc.com/news/magazine-21537988

骨盤計測について

骨産道を評価するための骨盤計測について本日は説明します。

骨産道はすなわち『小骨盤』のことをさし、ざっくり言うと恥骨と仙骨・尾骨のスペースでお産の時に赤ちゃんが通る所です。

赤ちゃんは頭が大きく、一方骨産道はご想像通り形が個々に既に決まっているので、「狭くないか」を判断する必要があります。小骨盤が狭いと経腟分娩が困難な可能性があるからです。

骨盤計測が必要な要因を知っておくとよいかと思いますので、以下羅列させてもらいます。

・身長150cm未満の低身長

・初産婦で37週以降の健診時、児頭が恥骨より上の位置のまま

・巨大児の分娩が予想される

・著明な体重増加などがあり分娩停止の可能性がある

・遷延分娩(難産)の既往がある

・初回のTOLACにのぞむ

方々などが骨盤計測の適応となります。以前当院では初産婦の方々全例に骨盤計測を行なっていましたが、現在は上記に当てはまる方々に原則保険診療として評価を行っています。

一般的に『骨盤計測』といえば、X線による骨盤評価のことをさします。

骨盤X線の撮影方法は2つあり、

・『Guthmann(ガットマン)』法:骨盤の側面を撮影

・『Martius(マルチウス)』法:骨盤の入口面を撮影

があります。

小骨盤腔最初の『骨盤入口面』の前後径は「恥骨上縁〜仙骨の岬角(こうかく)」の径線です。岬角は腰椎から仙骨として曲がる部分となります。

児頭は第1回旋で縦長の児頭が屈曲してまず横向きに骨盤入口面へ入ります。よって

児頭に対して、骨盤入口面のスペースに余裕がないと、児頭は小骨盤への進入および児頭の回旋が困難となってしまうのです。

骨盤入口面〔産婦人科研修の必修知識2016-2018から〕

(院長執筆)

参考文献

産婦人科研修の必修知識2016-2018