出産時に立ち会うお父さんたちに写真撮影のアドバイス

こんにちは、副院長の石田です。

出産の立会いに臨まれるお父さんたちの最も重要な役割の一つに写真撮影があります。その日、その時間にしかない最高の瞬間を切り取って思い出として残しておくことはお産の痛みを代わることができない我々男性にとって、妻と子供のためにできる数少ない大切な仕事の一つですよね。しかしその一方で、(自戒の意味でも)これほど男性がしくじることが多い場面もありません。そこで今回は何一つ客観的な根拠はありませんが、私の個人的な思いのみで皆さんにアドバイスを送りたいと思います。

撮影量が少ない

まず99%くらいの男性に言えるのですが、撮影量が圧倒的に少ないです。自分では結構撮ったつもりでも、後で見返してみるとよく撮れている写真は思った以上に少ないんですね。でも後悔してもあの瞬間は撮り直すことができません。だから皆さんには是非自分で思っているのの10倍くらいは撮影して欲しいです。
とは言え自分も男性ですし、正直皆さんの気持ちも分かる気はするんですよ。一部の医者を除けば自分以外は全て女性なうえに、分娩中の奥さんは一人称の当事者で、それを囲む医療者は全て出産の専門家です。一通りの両親学級は受けたし本も何冊か読んだけど、それでも圧倒的なアウェー感を感じながらどう振る舞ったら良いか分からない男性がほとんどだと思います。ましてや写真と動画を撮りまくって妻や赤ちゃんの処置の妨げになったらどうしよう?写真や動画を夢中で撮りすぎた結果、後で医者や助産師から笑われてたらどうしよう?などご不安は尽きないかもしれません。でも大丈夫、写真も動画もいっぱい撮ってあげてください。もし撮影に適さないような、医学的に危険だったり緊迫した状況になる時はちゃんとお伝えするのでご安心ください。もちろんご自身の肉眼で赤ちゃんを見てあげることも大事ですが、家で固唾を飲んで待っているご家族や友人のためにもその瞬間をできるだけ記録して持って帰ってあげましょう。

奥様の撮影

出産直後の奥様の姿を撮影する方も非常に多いです。こんなに可愛い赤ちゃんを産んでくれた最愛の女性の勇姿を残したいと考えるのは当然ですよね。でもちょっと待っていただきたい。我々男性にとって命を賭けて出産をやり遂げた妻の姿は、美と戦の女神であるアフロディーテを凌駕するほど美しいと感じるでしょうが、一方で女性側からすると滝汗+髪ボサ+ノーメイクという極めて無防備な状態です。人によっては最も撮影されたくない瞬間かもしれません。そのためかお産でぐったりしている奥様を無断撮影して強めの怒られが発生していることが少なくないです。男性の皆様におかれましては臨月に入ったら奥様に分娩直後の撮影許可を得ておくか、あるいは最低限その場で「写真、撮っていい?」と聞くようにしましょう。くれぐれもいきなりレンズを向けることのないようにしていただくのが無難です。

まとめ

本日は分娩立会い時の男性へのアドバイスを書かせていただきました。色々と書きましたが、分娩室の父親は身の置きどころの無い中でそれでも必死に妻と子の無事を祈り続けていますし、にしじまクリニックはそんなお父さんたちが少しでもお産の輪に入りやすいようにマッサージなどのお手伝いをお願いしたり、写真撮影のタイミングで積極的にお声掛けしたりしています。当院で立会されるお父さんにおかれましては、分娩室での過ごし方について分からないことや不安なことがあればいつでもスタッフにお声掛けください。

ロシアのウクライナ侵攻による周産期医療への影響

こんにちは、副院長の石田です。

ロシアがウクライナへ侵攻を開始してから2年半以上が経過しています。この間首都であるキーウを含む多くの街でロシアからの攻撃による甚大な被害が出ていますが、この侵攻が周産期医療に関して国際的な影響を及ぼしていることは日本ではあまり知られていません。そこで本日はその件についてお話ししてみようと思います。

代理懐胎とは

皆さんは「代理懐胎」をご存知でしょうか?「代理母」「代理出産」という言葉に置き換えるとピンとくる方も多いかもしれませんが、不妊に悩むカップルが手を尽くしても授からない場合、主に二人の精子と卵子を使って体外受精で作成した受精卵を第三者の女性の子宮内に移植し、妊娠から出産までを代わりにやっていただくという医療です。医学的には一定の有用性があるものの、当然そこには宗教や倫理、法律など様々な問題があるため国や地域で見解や扱いは大きく異なります。また、どうしても商業的な要素が入るため先進国から新興国、あるいは富裕層から貧困層への合法・非合法を含めた搾取に発展する可能性もあり、国際的にもどう取り扱うべきか共通見解は得られていません。ちなみに代理母になる女性や生まれてくる子供の健康リスクについては一般的な不妊治療と比較してあるとも無いとも言われており、まだよく分かっていないようです 1)2)。日本では今のところ代理懐胎に関する法律はありませんが、日本産科婦人科学会が会員に対して代理懐胎への関与(斡旋を含む)を禁止しているため基本的に国内でこの医療を受けるのは難しいです 3)。

なんでウクライナ侵攻と関係があるのか

実はウクライナは世界で最も代理懐胎に関する医療技術や実務運用、法整備が進んだ国の一つとして知られています。また、ウクライナでの代理懐胎は一部の先進国で行われているものと比べて半額以下の値段で行えるため、世界中から希望者が集まってくるのです。公的な統計は無いものの、ロシアによる侵攻以前には国内外から集まった患者さんに対して年間数千件の代理懐胎が実施されていたそうです 4)。しかし今回の紛争によって依頼者がウクライナに入れなくなる、凍結保存された受精卵が電力不足による融解や攻撃による破壊のため使えなくなる、妊娠中の代理母が避難などで行方不明になる、新生児の受け渡しが難しくなるなど様々な問題が発生しているようです。また、妊娠した代理母の避難先がウクライナ国外だった場合、出生地によっては代理懐胎で出生した新生児の親権に関する法的な問題も出てくるため代理懐胎を考えていた人も、現在妊娠が進行中の当事者たちも非常に困難な状況にあるということでした 5)。

まとめ

というわけで本日は周産期医療と国際情勢にまつわる世間話でした。代理懐胎の是非はさておき、普段から目にするニュースの向こうにはこんな話もあるんだと知ると、その解像度も少し変わるでしょうか?いずれにせよ、ウクライナや中東だけでなく世界中の人たちの健康と幸福が、戦争や紛争によって理不尽に脅かされないことを祈るばかりです。

参考文献
1) Shinya Matsuzaki, et al. JAMA Netw Open. 2024 July 1;7(7):e2422634
2) Maria P Velez, et al. Ann Intern Med. 2024 Sep 24.
3) 日本産婦人科医会ウェブサイト
4) S Marinelli, et al. Eur Rev Med Pharmacol Sci. 2022;26:5646-5650
5) The Guardian. ‘The bombs won’t stop us’: business brisk at Ukraine’s surrogacy clinics

妊婦さんへのりんご病の影響

こんにちは、副院長の石田です。

私の妻が小児科医なのですが、先日「今年はりんご病が流行ってる」という話になりました。確かに「この前、子供がりんご病になっちゃいました。」という妊婦さんもたまにいらっしゃるので調べてみると、どうやら本当に患者さんが増えているようです。
NHKのサイトより

そこで本日は妊娠とりんご病について少しお話ししてみようと思います。

りんご病とは

パルボウイルスB19感染による伝染性紅斑という病気の別名です。経過中に両頬が赤くなるその見た目からりんご病とも呼ばれますが、日本では約5年周期で流行が見られ、1回の流行は1〜2年続くとされています。(実際、前回の流行は2019年頃でした。)一度感染するとその後は終生免疫を獲得すると考えられており、現在本邦における妊娠可能年齢女性の抗体保有率は概ね50%程度と推計されています。一般的には感染すると5〜10日程度の潜伏期を経て発熱、咳、咽頭痛、関節痛などのいわゆる風邪症状で発症し、その後5日程度して特徴的な頬と体の赤みが出現します。このうち患者が最もウイルスを排出するのは風邪っぽい症状の時であり、頬の赤みが出てりんご病だったと気づく頃にはもはや感染力はありません。

妊娠中の感染

妊婦がパルボウイルスB19に感染すると17〜33%に胎児感染を生じますが、このウイルスは胎児の造血システムに干渉して胎児貧血や胎児水腫を引き起こすことが知られています。また、特に妊娠初期で感染した場合は流産や胎児死亡の原因になることが知られており注意が必要です。一方で胎児水腫は母体感染から8週以内に起こることがほとんどであり、それを過ぎると確率は大きく下がります。また、胎児水腫となった場合も34%は自然寛解したという報告もあるため感染したかもと思ってもそれだけで悲観し過ぎることはないのかもしれません。また、感染後に胎児死亡とならず無事出産された場合、赤ちゃんに長期的な後遺症が残るかどうかは研究によって結果にバラつきがあるため、今のところはあるとも無いとも言えない状況です。

まとめ

本日は妊娠とりんご病について解説いたしました。妊娠中の感染に対しては超音波などで胎児貧血の徴候が見られた場合に胎児輸血を行ったりすることはあるものの、できる治療は極めて限定的です。加えてワクチンなども無く感染予防も簡単ではありませんが、現在妊娠している方は注意してお過ごしください。

濃度計算

今回は、以前のブログでの次男との勉強関連の第2弾です。

私達大人になっても使えるもので濃度計算があります。今回は産科で使われる薬からお話します。

・エフェドリン塩酸塩(エフェドリン®︎):β刺激薬で、帝王切開の麻酔後に血圧が低くなった場合に用いられます。

エフェドリンは注射液で1アンプル1mLです。

生理食塩水9mLで希釈したものを分けて静脈注射します。

濃度計算はエフェドリン1mL÷エフェドリン1mLと生理食塩水9mLを合わせた10=0.1、よって100分率としてエフェドリンは10%含まれている(10倍希釈)ということになります。

・アドレナリン(ボスミン®︎):昇圧薬として「カテコラミン」に分類されます。主にショック時に扱われる薬です。

アドレナリンは誤投与量を防ぐため、濃度が0.1%製剤として統一されています。

この「0.1%」はどういう状態か考えてみましょう。

まず『1gの個体を溶液に溶かして全体を100mLとした時、1%と表される』

また『水の密度はおよそ1g/mL』であることを知っておく必要があります。

アドレナリン注射アンプルは1mL中1mgのアドレナリンが含まれています。

よって、1000mg(=1g)/1000mLともいえるので、濃度は0.1%、ですね。

ちなみに、新生児蘇生でアドレナリンを用いる場合、先ほどのエフェドリン同様にアドレナリン1アンプル(1mL)を生理食塩水9mLに合わせ10倍希釈したものを分けて投与します。

したがって、アドレナリンの10倍希釈したものの濃度は「0.01%」ということになります。

執筆 院長

あなたの分娩予定日は何曜日?

最近、次男と日暦算について勉強する機会がありました。これは日常でも使えるものなので、求め方を覚えておいて損はないと思います。

99日(月曜日)に受診し、分娩予定日410日と言われた。410日は何曜日?

2024年9月:30−9+1=22日←9月9日〜30日までの日数

10月:31日

11月:30日

12月:31日

2025年1月:31日

2月:28日

3月:31日

4月:10日←4月10日までの日数

日数の合計は214日となります。1週間は7日ですので、合計日数から7を割ります。

214÷7=30あまり4

この7で割ったあまりの数が重要で、『1週間に満たなかった最後の週の日数』となります。

この時の30は、「30週間」ということです。

9月9日は月曜日で、起点を月曜日としています。月曜日を含め4日経った『木曜日が4月10日』となります。

*余りがない場合は同じ曜日、ということではありません。余りがない時は起点の曜日から1つ前の曜日になります。

余りが1の時に起点と同じ曜日となります。例えば、来週の月曜日は9月16日ですが9月9日を含めると7日ではなく、8日あることでご理解いただけるかと思います。

いかがでしたでしょうか?皆さんもこの計算とカレンダーで是非お調べになってみてください。

院長 執筆