濃度計算

今回は、以前のブログでの次男との勉強関連の第2弾です。

私達大人になっても使えるもので濃度計算があります。今回は産科で使われる薬からお話します。

・エフェドリン塩酸塩(エフェドリン®︎):β刺激薬で、帝王切開の麻酔後に血圧が低くなった場合に用いられます。

エフェドリンは注射液で1アンプル1mLです。

生理食塩水9mLで希釈したものを分けて静脈注射します。

濃度計算はエフェドリン1mL÷エフェドリン1mLと生理食塩水9mLを合わせた10=0.1、よって100分率としてエフェドリンは10%含まれている(10倍希釈)ということになります。

・アドレナリン(ボスミン®︎):昇圧薬として「カテコラミン」に分類されます。主にショック時に扱われる薬です。

アドレナリンは誤投与量を防ぐため、濃度が0.1%製剤として統一されています。

この「0.1%」はどういう状態か考えてみましょう。

まず『1gの個体を溶液に溶かして全体を100mLとした時、1%と表される』

また『水の密度はおよそ1g/mL』であることを知っておく必要があります。

アドレナリン注射アンプルは1mL中1mgのアドレナリンが含まれています。

よって、1000mg(=1g)/1000mLともいえるので、濃度は0.1%、ですね。

ちなみに、新生児蘇生でアドレナリンを用いる場合、先ほどのエフェドリン同様にアドレナリン1アンプル(1mL)を生理食塩水9mLに合わせ10倍希釈したものを分けて投与します。

したがって、アドレナリンの10倍希釈したものの濃度は「0.01%」ということになります。

執筆 院長

あなたの分娩予定日は何曜日?

最近、次男と日暦算について勉強する機会がありました。これは日常でも使えるものなので、求め方を覚えておいて損はないと思います。

99日(月曜日)に受診し、分娩予定日410日と言われた。410日は何曜日?

2024年9月:30−9+1=22日←9月9日〜30日までの日数

10月:31日

11月:30日

12月:31日

2025年1月:31日

2月:28日

3月:31日

4月:10日←4月10日までの日数

日数の合計は214日となります。1週間は7日ですので、合計日数から7を割ります。

214÷7=30あまり4

この7で割ったあまりの数が重要で、『1週間に満たなかった最後の週の日数』となります。

この時の30は、「30週間」ということです。

9月9日は月曜日で、起点を月曜日としています。月曜日を含め4日経った『木曜日が4月10日』となります。

*余りがない場合は同じ曜日、ということではありません。余りがない時は起点の曜日から1つ前の曜日になります。

余りが1の時に起点と同じ曜日となります。例えば、来週の月曜日は9月16日ですが9月9日を含めると7日ではなく、8日あることでご理解いただけるかと思います。

いかがでしたでしょうか?皆さんもこの計算とカレンダーで是非お調べになってみてください。

院長 執筆

出生前診断に関する情報提供の歴史

こんにちは、副院長の石田です。

最近はドキュメンタリーや映画、特集報道などが頻繁に組まれるほど出生前診断が世間で注目されています。少し前までは医療者側から患者に対して出生前診断の話を積極的にするのは控える風潮だったのですが、数年前からはむしろ全ての妊婦さんとその家族にご案内していく方向に方針転換されたためより身近に感じやすくなったことも影響しているかもしれません。でもなんで「聞かれるまでは話さない」から「妊婦全員に情報を伝える」という正反対の方向に舵が切られたのでしょうか?本日はその辺について少し説明してみようと思います。

出生前診断の情報提供が進まなかった背景

クアトロテストに関しての通知ではありましたが、平成11年に厚生省(当時)の出生前診断に関する専門委員会から「医師は妊婦に対し本検査の情報を積極的に知らせる必要はなく、本検査を勧めるべきでもない」という見解が示されたこともあり、永らく現場では出生前診断については医療者側から安易に触れないという空気がありました 1)。この背景には闇雲にこの検査が行われることによって障害を持つ方々を社会から排除するような流れになってしまうのではないか、必要以上に羊水検査や中絶が増えてしまうのではないかといった懸念があったわけです。医師としてもただでさえ複雑で内容が難しい出生前診断について外来で一人ひとり丁寧にご説明というのも現実的ではなく、「聞かれれば答える」が標準的な対応となっていきました。

インフォームドチョイス(説明と選択)の時代へ

しかしそこから時を経て日本の妊婦さんを取り巻く環境は大きく変化します。医学的にはNIPTの実用化、新生児医療の進歩、遺伝カウンセリング体制の整備、社会福祉制度やピアサポートの充実などにより難しい病気を持つ赤ちゃんとそのご家族がより健康に社会生活を送りやすくなったことから、妊娠中から胎児染色体異常を調べることの意義が増してきました。社会的には出産の高齢化により胎児の状態を知るニーズが高まりますが、一方でネット上には信憑性の低い情報が溢れていたり、非認定施設において不十分な情報提供のもと標準検査に加えて精度不明のオプション検査が高額で販売されていたりと妊婦さんにとって望ましくない状況も見られるようになりました。そのため令和3年の厚労省専門委員によるワーキンググループが「これからは出生前診断に関する正しい情報を積極的に発信し、妊婦さんと家族に選んでもらうようにしよう!」というインフォームドチョイスの方針を打ち出したのです。それを踏まえて現在は産婦人科医療施設だけでなく自治体窓口やNPOなど様々な窓口で情報提供と相談支援が全ての妊婦さんを対象に行われるようになりました。

まとめ

本日は出生前診断に関する情報提供の姿勢がどのように変わってきたかのお話でした。出生前診断をどう扱うかという問題はしばしば医療科学技術のイノベーションに社会の理解や受容が追いつかないことで起こります。これは前述の報告書の中で「滑りやすい坂」と表現されていますが、今後も技術革新に伴って検査の幅が広がったり価格が落ちることで検査の裾野が広がっていくと、思いがけない問題が滑りやすい坂を転げ落ちるように暴走する可能性が懸念されています。その坂の先に障害を持つ人々が生きづらくなるような世界がないよう、社会全体でしっかりと手綱を握っておくことも大切なのかもしれませんね。

  1. 厚生省児童家庭局母子保健課. 厚生科学審議会先端医療技術評価部会・出生前診断に関する専門委員会「母体血清マーカー検査に関する見解」についての通知発出について:https://www.mhlw.go.jp/www1/houdou/1107/h0721-1_18.html
  2. 厚生科学審議会科学技術部会・NIPT等の出生前検査に関する専門委員会. NIPT等の出生前検査に関する専門委員会報告書:https://www.mhlw.go.jp/content/000783387.pdf

性分化疾患について

こんにちは、副院長の石田です。

さて、現在パリオリンピックが開催されていますが、女子ボクシング競技で性分化疾患の方が出場し波紋を呼んでいます。遺伝子的には男性であるアルジェリアのイマネ・ヘリフ選手が女子競技に出場したことの公平性が問われているわけですが、昨今の多様性尊重問題とごちゃごちゃになりながら著名人が炎上したり同じ疾患を持つ当事者が悲しい思いをしてしまったりとかなり混乱した状態になっています。そこで本日は性分化疾患について少し解説してみようと思います。

前提知識として性別の決まり方について

生物の体は遺伝情報を元にして作られます。遺伝子はとても長い二重鎖の形をしていますが、これをコンパクトに細胞内にしまっておくため何回も折りたたんだ塊が染色体です。そして人間の場合はこの染色体を2本1組(父親と母親から1本ずつ)で23組持っています。そのうちの1組が性別を決める性染色体ですが、それが両親からX染色体を1本ずつもらったXXだと体は女性に、母親からXを、父親からYをもらったXYだと体が男性に形作られていくわけです。そして、この体づくりに際してX/Yそれぞれの染色体が果たす役割が重要です。すごく雑な説明になりますが、人間の体は女性型が基本であり特に何もしなければ受精卵は女性の体を作ろうとするんですね。そんな中でY染色体は様々な方法でその工程を軌道修正することによって男性の体を作る役割を担っています。そのためY染色体がうまく働かないと、(場合によっては外見からでは分からないくらい)女性っぽい体を形成してしまうのです。同様の原理でXXXXXYという極端な染色体異常の方でも体は男性型になりますし、逆にターナー症候群という性染色体がX1本だけという方の体は女性型になります。

トランスジェンダーと性分化疾患の違い

トランスジェンダーは生物学的性と性自認の不一致であるのに対して性分化疾患は遺伝子と体のミスマッチです。言い換えるとトランスジェンダーの場合は男女どちらかの完全な体を持って生まれるのに対して、性分化疾患では体が男性とも女性とも言い切れない形であったり、例えば染色体が男性であっても現実的には体も心も女性として生活している点でこれら二つは大きく異なります。もちろん性的マイノリティの方々がより住みやすい社会を作っていくことはとても大切な話ではありますが、それと性分化疾患を混同して同じ土俵で話そうとすると様々な矛盾が生じて議論が進まないばかりか双方の当事者をいたずらに傷つけてしまうため注意が必要です。

まとめ

本日は性分化疾患について簡単に解説いたしました。社会にはスポーツだけでなくトイレや更衣室など様々な点で男女のどちらかを選択せざるを得ない場面が多々ありますが、性分化疾患を持つ方やそのご家族は生まれた時からずっと医療者や保健専門家、教育者などとチームを組んでライフステージごとに起こるあらゆる課題に取り組んでおられます。私としては今回の議論がそういった方々の存在を社会が改めて認識し考える機会になることを期待するとともに、当事者の方々が積み上げてきた努力を残酷に否定するような方向にならないよう強く願います1)2)。

1) Selma Feldman Witchel. Best Pract Res Clin Obstet Gynaecol. 2018 Apr;48:90-102
2) Chromosomal Sex Determination in Mammals – Developmental Biology. 6th edition.

水中分娩について

こんにちは、副院長の石田です。

最近友人から水中分娩ってどうなの?と相談されることがありました。日本では取扱施設がそれほど多くないと思いますが(当院でも行っていません。)、調べてみると欧米を中心に関心が高まっているような記事も散見されます。そこで本日は水中分娩に関しての基礎的なお話をしたいと思います。

水中分娩とは

水中分娩とは陣痛中をバスタブにはった温かいお湯のなかで過ごす分娩方法です。妊婦さんの体調を見ながらお湯に出入りして過ごすわけですが、実際に赤ちゃんを出すところまで水中でやるかは母体のコンディションや施設ごとの考え方によると思われます。分娩中に水中にいることで陣痛が緩和される、体の向きを変えやすくなる、リラックス効果があるなどのメリットが期待されます 1)。

実際にメリットは医学的に証明されているのか?

実は水中でお産をすることによる医学的なメリットは今のところ証明されていません。この件に関する有名なメタ解析によると、水中分娩にすることで帝王切開率、吸引・鉗子などの器械分娩率、出血量、会陰裂傷の重症度などに関して改善効果は見られなかったようでした 2)。局所麻酔薬の使用量は水中分娩で10%減ったかもということですが、それが現実的にどのくらいインパクトのある話かは判断が難しいです。また、新生児側についても新生児集中治療室への入院率、新生児感染症などについて比較されていましたが、こちらもやはり水中分娩で増えたり減ったりはしなかったようです。

水中分娩はお勧めされているのか?

水中分娩を経験した個人のレベルでは高い満足感を得た方ももちろんいらっしゃると思いますが、その一方で米国小児科学会と米国産科婦人科学会が2014年に共同で出した声明では水中分娩の選択には十分な注意が必要だとしています 3)。これは上記の通り医学的なメリットが明確に示されていない一方で、汚染されたお湯・バスタブの使用を含めた不適切な妊娠・分娩管理により母児に深刻な健康被害が見られた症例報告があるためです。

まとめ

2023年、日本の合計特殊出生率は1.20でした。お産が一生のうち何回もあるイベントで無くなってきている昨今、分娩に色々な選択肢があるのは女性がお産を楽しめる幅が広がるという意味で歓迎するべきことかもしれません。水中分娩に関しても医学的に証明されたデメリットが無い現状では、一部の女性にとっては素晴らしい体験にもなりえるでしょう。しかし広く行われている分娩方法ではないということは、病院によって管理の質に大きな違いがある可能性も否定できません。水中分娩を検討されている妊婦さんはその施設が細かいルールを定めて実施しているかどうかしっかり確認されるとよいかもしれませんね。

1) NHS. Water birth and home birth: https://www.bradfordhospitals.nhs.uk/parent-education-modules/waterbirth-and-homebirth/
2) Elizabeth R Cluett, et al. Cochrane Database Syst Rev. 2018 May 16;5(5): CD000111
3) AAP, ACOG. Pediatrics. 2014 Apr;133(4):758-61