CIN2の管理

子宮頸がん検診は「細胞診」と呼ばれる検査を行います。その後、精密検査が必要と判断された場合は拡大鏡にて子宮頸部をみる「コルポスコピー」と、「組織診」を行います。

がん検診の子宮頸部細胞診は、子宮頸部を擦過して検体を採取するので痛みはありません。

一方、精密検査の子宮頸部組織診は「punch biopsy」とも呼ばれ、コルポスコピーにて疑う病変部位の肉片を専用の器具を使って採取します。よって痛みを伴ったり、止血に時間がかかることをご承知ください。

組織診では子宮頸部上皮腫瘍(CIN)として(大まかに)3とおりの結果が出ます。CIN 1, CIN 2, CIN 3といわれます。

CIN 3[高度異形成もしくは上皮内癌]に関しては子宮頸部円錐切除などの診断・治療を行います。

CIN 1[軽度異形成]またはCIN 2[中等度異形成]と判断された場合、

・CIN 1→6ヶ月ごとの経過観察(フォローアップ)

・CIN 2→3〜6ヶ月ごとの経過観察(フォローアップ)

となります。ただし子宮頸がん発症のリスクであるヒトパピローマウイルス(HPV)のハイリスク型、以下

HPV 16, 18, 31, 33, 35, 45, 52, 58が事前に見つかっている場合は、病変の進展リスクが高いので注意が必要です。それらHPV型でCIN 2の場合は経過観察とせずレーザー蒸散や円錐切除も考慮されます。

また上記型でなくともCIN 2において患者が心配な場合や1〜2年の経過観察でも病変が消失しない場合は、診断・治療を推奨される状態と言えるでしょう。

この方針に関しては現2023年のガイドラインにおいて、2020年のガイドラインと変化はありません。

ちなみに上記のHPVハイリスク型HPV 16, 18, 31, 33, 35, 45, 52, 58に対し、HPVワクチンのシルガード9は(性交未経験のうちに接種すれば)上記型の感染を予防でき、ひいては子宮頸がんの90%を防げるのです。いかにHPVワクチンの接種が重要か、おわかりいただけると幸いです。

執筆 院長

参考資料

産婦人科診療ガイドライン 婦人科外来編2023, CQ204

臨月を過ごす時間におすすめの映画

こんにちは、副院長の石田です。

以前このブログで臨月の過ごし方について「好きなように過ごしてもらって大丈夫ですよ」という記事を書かせていただきました。

しかし、そうは言っても時間を持て余してしまうご夫婦も多いようで、毎日「どうやって過ごせばいいか悩んでます」という相談を受けます。そこで本日は(別に観るのが妊娠末期である必要は全く無いんですけど)臨月を過ごすのにおすすめの映画を2本ご紹介したいと思います。
(以下、小見出しがYouTubeの予告編のリンクになっています。)

クリード 炎の宿敵

誰もが知るシルベスター・スタローン主演、ロッキーシリーズからのスピンオフ作品第2弾です。ロッキーの親友でありライバルでもあるアポロの息子、アドニス・クリードはロッキーの指導のもとついにボクシングヘビー級王者となりました。最愛の人との間に娘も生まれ幸せな時間を過ごしていたアドニスでしたが、そこにかつて父の命を奪ったロシア人ボクサー、イワン・ドラゴとその息子ヴィクターが現れます。世代を越えた因縁の中でアドニスとヴィクターはリングで戦うことになるが…というお話です。
「なんで臨月にボクシング映画?」というご意見は重々承知の上で、こちらは父親になる皆様へのお勧めです。親となったアドニスは、家族を持つことで与えられる父親としての役割と本来の自分の夢、そして守るものができたことにより得た強さと弱さという様々な葛藤の中で苦しみます。しかしそこを抜けて新たな自分を手に入れる様は、世界中の多くの男性が初めて父親になった時に直面する課題として普遍的なテーマだと言えるでしょう。実は円満ではない家庭の方が多く出てくるのがこの時期にお勧めするにはどうなのかと言う感じもありますが、出産を控えた男性方にとっては響く内容かと思います。ただ問題は、この映画を理解するにはアドニスとロッキーの出会いを知る必要がありますし、さらにはロッキーとドラゴ、アポロとドラゴ、そしてロッキーとアポロの関係もおさえておく必要があります。つまりロッキーシリーズを一から全部観るハメになりますが、父親にとってのロッキーは英文学生にとってのシェイクスピア、経済学生にとってのマルクスと同様必須教材となりますので(諸説あり)、時間をかけても全部観ることをお勧めいたします。

ワンダー 君は太陽

遺伝子疾患により人とは違う見た目で生まれてきた少年オギーは、小学5年生で初めて学校に通うこととなります。家族が当初予想していた通り露骨ないじめや偏見を受けてオギーは苦しみますが、本人の勇気と家族をはじめとする周りの人々の愛情で困難と試練をたくましく乗り越えていくというお話です。
世界的なベストセラー小説「ワンダー」を映画化した作品ですが、主人公のオギーだけでなく、両親や姉、そして友人など様々な当事者の苦悩を丁寧に一人称で描いており、一つひとつに頷きながら半泣きで観ていくと最終的に感動と愛情で温かい気持ちになって終わる感じの映画です。本作ではオギーに身体的特徴という強烈なアイコンがありますが、そうでなくとも人は誰でも必ずコンプレックスがあって、それが故に傷ついたり傷つけたりすることが多々あると思います。私も自分の子供のことでは常に葛藤だらけですが、この映画を観てどんな時も愛情と寛容が困難に立ち向かう最強の武器なのかもしれないと改めて思わされました。主演の天才子役ジェイコブ・トレンブレイ、母親役のジュリア・ロバーツはもちろん最高なんですけど、頼りなさそうなのに実はすごくちゃんとしている父親という絶妙な感じを出すオーウェン・ウィルソンが自分的にはすごく刺さりました。是非ご夫婦で楽しんでみてください。

まとめ

というわけで本日は臨月に観るおすすめの映画についてでした。以前臨月に読む本をご紹介した時と全く同じ導入の記事で恐縮ですが、それと合わせて皆さんが良い時間を過ごすきっかけになれれば幸いです。

リトドリン塩酸塩の内服方法と副作用

今回は、切迫流早産時に用いられるリトドリン塩酸塩(以下、リトドリン)についてです。

・処方の適応:妊娠16週から36週までとなります。

よって妊娠15 週以内の切迫流産に用いることはできず、それでも子宮収縮の抑制をはかりたい場合は別の薬を処方することになります。

・薬理学機序:リトドリンは子宮筋選択性のβ2刺激薬です。

子宮収縮を抑制をするほか、β2刺激薬であるため動悸を自覚される方も少なくありません。

・内服方法:内服薬は1錠5mg、原則1日3錠(計15mg/日)です。

子宮収縮の時間帯や状態によっては1日4回の内服を指示することもありますが、上記の動悸などを考慮し、4時間の間隔をあけて内服するとよいでしょう。

・効果:妊娠24週から37週未満の切迫早産118例を対象としたランダム化比較試験では、1日3回内服、14日間の内服で切迫早産に対する有用性が確認されています。

・特に注意すべき副作用:横紋筋融解症、汎血球減少、血清カリウム値低下、高血糖らがあります。

高血糖の懸念から妊娠糖尿病においては原則、リトドリンを用いることはできません。

長期内服の場合は副作用対策にて定期的な経過観察が必要です。特に入院管理でリトドリンの注射薬を用いる場合は定期的な採血を行い、

白血球の減少、血小板の減少、肝機能障害などがないか、を確認します。

院長執筆

参考資料;

今日の治療薬

早産のすべて. メジカルビュー社

妊娠と喘息

こんにちは、副院長の石田です。

小児喘息を含め、気管支喘息の既往がある妊婦さんはたくさんいらっしゃいます。地域差や人種差もあるかもしれませんが、実際にいくつかのデータを見てみると概ね3〜8%の妊婦さんで喘息を合併しているそうでした 1)2)。そのためか喘息を持つ妊婦さんたちから赤ちゃんへの影響やお薬のことまで幅広くご質問を受けることが多いので、本日は妊娠と喘息について少し解説したいと思います。

妊娠が喘息に与える影響

妊娠は体に様々な変化をもたらします。具体的には横隔膜が大きくなる子宮に押し上げられることによる肺換気機能の変化、酸素需要の増加、ホルモンバランスの変化を一因とした免疫系統の変化などがありますが、これらの影響もあってか喘息を持つ女性のうち30~40%程度の方が妊娠すると喘息症状が悪化するというデータもあります 3)4)。一方で喘息のコントロールが良くなる妊婦さんも少なからずいるらしく、必ずしも妊娠が喘息に悪いというわけでもないようです。

喘息が妊娠に与える影響

喘息が妊娠に与える影響には注意が必要です。具体的には、喘息のコントロールが悪い妊婦さんでは妊娠高血圧症候群、早産、赤ちゃんが胎内で育ちにくくなってしまう子宮内発育遅延、低出生体重児、そして帝王切開率の上昇など様々な関連が観察されています 5)6)。一方で発作が起きないようにしっかり治療されている喘息ではこれらのリスクが上昇しない可能性も示唆されており、妊娠中の喘息は積極的に治療されることが推奨されています 6)。

妊娠中の喘息治療

喘息の治療は気管支拡張薬やステロイドの吸入薬を柱として組み立てていきます。妊娠中はお母さんが使う薬の赤ちゃんへの影響を懸念する妊婦さんが多く、実際に自己中断してしまう人も少なくありませんが、吸入薬の多くは胎児への安全性が確立されており、安易に止める必要はありません。むしろ勝手に薬をやめてしまうと発作を起こしやすくなってしまうため妊娠前以上に適切に使用することが大切です。重症の患者さんでは内服薬を使用することもありますが、薬によってはメリットとデメリットを比較して慎重に判断することもありますので、妊婦さんだけでなくこれから妊娠を希望する女性もかかりつけの内科で相談してみてください。

まとめ

というわけで本日は妊娠中の喘息についてのお話でした。喘息はありふれた病気であるものの、妊娠や出産に影響のあるなかなか大変な疾患です。喘息をお持ちの妊婦さんは闇雲にご自身で判断することなく主治医としっかり相談しながら発作が出ないように適切にコントロールしていきましょう。

1) Kwon HL, et al. Ann Epidemiol. 2003;13(5):317
2) Cohen JM, et al. J Allergy Clin Immunol Pract. 2019;7:2672-2680
3) Daniele C Bravo-Solarte, et al. Allergy Asthma Proc. 2023 Jan 1;44(1):24-34
4) Danielle R Stevens, et al. J allergy Clin Immunol Pract. 2022 Mar;10(3):793-802.
5) Pauline Mendola, et al. Am J Obstet Gynecol. 2013;208(2):127.
6) V E Murphy, et al. BJOG. 2011 Oct;118(11):1314-23

出生前遺伝学的検査(概論)

染色体疾患のある児の大部分は流産に終わり、出生できる子はほんのわずかです。

出生児の3〜5%*は先天性疾患をもって生まれます。そのうち25%が染色体疾患による(全出生の0.4%が染色体疾患による)ものです。

(*出生時に確認できるものが2〜3%で、生後に診断・確認されるものも全て含めた場合に3〜5%)

染色体疾患においては50%がDown症候群(21トリソミー)、20%が18トリソミーと13トリソミーを占めます。

先ほど述べましたとおり、全出生の1%にも達しない染色体疾患ですが、高年妊婦さんをはじめ、児についてただ漠然と不安を持つ妊婦さんがいらっしゃるのは当然のことと思います。

そこで児の状況を提供できる検査として出生前検査があります。

出生前検査は必ずしも全ての全ての妊婦さんが受ける検査ではありませんが、検査を受けることで妊婦さんやご家族の不安の一部を解消できる手立てとなり得ます。ただし、わかる病気・疾患は一部であることもご理解いただくことも必要です。

各出生前検査においては行う適切時期があります。当院でも引き続きテキスト、リーフレット、直接のご案内、第1回両親学級を通じて情報を提供してまいります。来年からは初期対応としての遺伝カウンセリング外来枠も設置いたします。妊娠初期の外来で出生前検査についてご質問がございましたら、まずは私院長までお申し付けください。