男性不妊症について

こんにちは、副院長の石田です。

日本産科婦人科学会では、生殖年齢の男女が一定期間適切な妊活を行ったにも関わらず妊娠に至らなかった場合を不妊、治療を必要とする場合を不妊症と定義しています。「一定期間」とは1年間を指すことが多いですが、医学的介入が必要と判断された場合には期間は問われません。(ちなみにアメリカでは女性が35歳未満の場合は1年間、35歳以上の場合は6ヶ月としています 1)。)近年日本では晩婚・晩産化の影響もあってか不妊治療の件数が増加しており、2017年には全新生児のうち6%(5万6千人)が体外受精によって誕生しました 2)。
さて、不妊と言うとなんだか女性のこととして捉えてしまう方も少なくないですが、その一方で報告によってばらつきはあるものの男性因子が関与している不妊(男性のみに因子がある不妊+男女ともに因子がある不妊)も全体の50%程度と考えられています 3)。そこで本日は男性不妊症について少しお話ししてみようと思います。

男性不妊の原因

厚生労働省の報告によると、不妊の男性因子としては造精機能障害(精子を作ることができない)が82.4%、性機能障害(勃起や射精ができない)が13.5%、閉塞性精路障害(精液が詰まって出ない)が3.9%だったそうです 4)。このうち圧倒的に多い造性機能障害になる原因として精索静脈瘤という病気が30%程度を占めるほか、男性自身の染色体異常、停留精巣、薬剤性(抗がん剤など)などが挙げられますが、一方で原因不明のものも42.1%あるとされています。

男性不妊の治療

生活習慣が造精機能に様々な影響を与えることが知られています。特に喫煙は影響が大きいため禁煙が強く勧められますが 5)、それ以外にも飲酒、睡眠、食事、肥満なども関与するためいわゆる「丁寧な暮らし」を実践することが大切です。そのほかビタミン剤や亜鉛、補中益気湯などの漢方が使われることがありますが、これらはいずれも作用機序や有効性について必ずしも明らかになってはいません 6)。精索静脈瘤、精路閉塞、性機能障害やホルモン不足などの治療可能な疾患については泌尿器科で投薬や手術を含めた治療が検討されますが、重度の精子無力症では体外受精を、無精子症ではTESEと言って精巣を切開して精細管を採取し、そこから精子を取り出して体外受精を行うという手段が取られます。それでも妊娠が難しい時には最終手段として精子提供による人工授精が用いられることもあります。

まとめ

本日は男性不妊について解説しました。繰り返しにはなりますが、不妊のカップルにおいて半分は男性因子が関与しています。そのため不妊治療はしばしば産婦人科医と泌尿器科医が緊密に連携しながら行われます。いずれにしても妊娠を強く望んでいるにも関わらず想いが遂げられないお二人につきましては、まずは最寄りの専門施設に足を運んでみることを強くお勧めいたします。

  1. American Society for Reproductive Medicine. Definition of infertility: A committee opinion (2023): https://www.asrm.org/practice-guidance/practice-committee-documents/denitions-of-infertility/
  2. 野村総合研究所. 令和2年度 子ども・子育て支援推進調査研究事業. 不妊治療の実態に関する調査研究 最終報告書. 2021年3月:https://www.mhlw.go.jp/content/000766912.pdf
  3. Vander Bortht M, et al. Clin Biochem. 2018 Dec:62:2-10.
  4. 湯村 寧:我が国における男性不妊に対する検査・治療に関する調査研究, 平成27年度厚生労働省子ども・子育て支援推進調査研究事業報告書, 2016(III)
  5. Reecha Sharma, et al. Eur Urol. 2016 Oct;70(4):635-645.
  6. 日本産科婦人科学会. 産婦人科診療ガイドライン 婦人科外来編 2023. CQ321

あなたの分娩予定日は何曜日?

最近、次男と日暦算について勉強する機会がありました。これは日常でも使えるものなので、求め方を覚えておいて損はないと思います。

99日(月曜日)に受診し、分娩予定日410日と言われた。410日は何曜日?

2024年9月:30−9+1=22日←9月9日〜30日までの日数

10月:31日

11月:30日

12月:31日

2025年1月:31日

2月:28日

3月:31日

4月:10日←4月10日までの日数

日数の合計は214日となります。1週間は7日ですので、合計日数から7を割ります。

214÷7=30あまり4

この7で割ったあまりの数が重要で、『1週間に満たなかった最後の週の日数』となります。

この時の30は、「30週間」ということです。

9月9日は月曜日で、起点を月曜日としています。月曜日を含め4日経った『木曜日が4月10日』となります。

*余りがない場合は同じ曜日、ということではありません。余りがない時は起点の曜日から1つ前の曜日になります。

余りが1の時に起点と同じ曜日となります。例えば、来週の月曜日は9月16日ですが9月9日を含めると7日ではなく、8日あることでご理解いただけるかと思います。

いかがでしたでしょうか?皆さんもこの計算とカレンダーで是非お調べになってみてください。

院長 執筆

出生前診断に関する情報提供の歴史

こんにちは、副院長の石田です。

最近はドキュメンタリーや映画、特集報道などが頻繁に組まれるほど出生前診断が世間で注目されています。少し前までは医療者側から患者に対して出生前診断の話を積極的にするのは控える風潮だったのですが、数年前からはむしろ全ての妊婦さんとその家族にご案内していく方向に方針転換されたためより身近に感じやすくなったことも影響しているかもしれません。でもなんで「聞かれるまでは話さない」から「妊婦全員に情報を伝える」という正反対の方向に舵が切られたのでしょうか?本日はその辺について少し説明してみようと思います。

出生前診断の情報提供が進まなかった背景

クアトロテストに関しての通知ではありましたが、平成11年に厚生省(当時)の出生前診断に関する専門委員会から「医師は妊婦に対し本検査の情報を積極的に知らせる必要はなく、本検査を勧めるべきでもない」という見解が示されたこともあり、永らく現場では出生前診断については医療者側から安易に触れないという空気がありました 1)。この背景には闇雲にこの検査が行われることによって障害を持つ方々を社会から排除するような流れになってしまうのではないか、必要以上に羊水検査や中絶が増えてしまうのではないかといった懸念があったわけです。医師としてもただでさえ複雑で内容が難しい出生前診断について外来で一人ひとり丁寧にご説明というのも現実的ではなく、「聞かれれば答える」が標準的な対応となっていきました。

インフォームドチョイス(説明と選択)の時代へ

しかしそこから時を経て日本の妊婦さんを取り巻く環境は大きく変化します。医学的にはNIPTの実用化、新生児医療の進歩、遺伝カウンセリング体制の整備、社会福祉制度やピアサポートの充実などにより難しい病気を持つ赤ちゃんとそのご家族がより健康に社会生活を送りやすくなったことから、妊娠中から胎児染色体異常を調べることの意義が増してきました。社会的には出産の高齢化により胎児の状態を知るニーズが高まりますが、一方でネット上には信憑性の低い情報が溢れていたり、非認定施設において不十分な情報提供のもと標準検査に加えて精度不明のオプション検査が高額で販売されていたりと妊婦さんにとって望ましくない状況も見られるようになりました。そのため令和3年の厚労省専門委員によるワーキンググループが「これからは出生前診断に関する正しい情報を積極的に発信し、妊婦さんと家族に選んでもらうようにしよう!」というインフォームドチョイスの方針を打ち出したのです。それを踏まえて現在は産婦人科医療施設だけでなく自治体窓口やNPOなど様々な窓口で情報提供と相談支援が全ての妊婦さんを対象に行われるようになりました。

まとめ

本日は出生前診断に関する情報提供の姿勢がどのように変わってきたかのお話でした。出生前診断をどう扱うかという問題はしばしば医療科学技術のイノベーションに社会の理解や受容が追いつかないことで起こります。これは前述の報告書の中で「滑りやすい坂」と表現されていますが、今後も技術革新に伴って検査の幅が広がったり価格が落ちることで検査の裾野が広がっていくと、思いがけない問題が滑りやすい坂を転げ落ちるように暴走する可能性が懸念されています。その坂の先に障害を持つ人々が生きづらくなるような世界がないよう、社会全体でしっかりと手綱を握っておくことも大切なのかもしれませんね。

  1. 厚生省児童家庭局母子保健課. 厚生科学審議会先端医療技術評価部会・出生前診断に関する専門委員会「母体血清マーカー検査に関する見解」についての通知発出について:https://www.mhlw.go.jp/www1/houdou/1107/h0721-1_18.html
  2. 厚生科学審議会科学技術部会・NIPT等の出生前検査に関する専門委員会. NIPT等の出生前検査に関する専門委員会報告書:https://www.mhlw.go.jp/content/000783387.pdf