こんにちは、副院長の石田です。
まだ上のお子さんが小さいうちに次の妊娠をされる方がいらっしゃいますが、その方々にとって授乳をどうするかは大きな問題です。赤ちゃんの栄養としてだけでなく愛着形成などの精神的なメリットもある授乳をできれば止めたくないけど、お腹の子に何か影響があっても困りますよね。と言うわけで本日は妊娠中の授乳について書こうと思います。
授乳が妊娠に与える影響
授乳が妊娠に与える良くない影響として考えられるのは2つで、1つ目は栄養面での問題です。通常妊娠するとお母さんの基礎代謝率は最大で25%程度上昇するとされています 1)。つまり妊娠すると栄養の必要量が増えるわけですが、これに加えて授乳はさらに栄養需要を増加させるため、これらの全てをしっかり補えないと栄養失調になってしまうリスクが懸念されます。そしてもう1つがホルモン的な問題です。授乳によって乳首と乳腺が刺激されると脳からオキシトシンが分泌されますが、このホルモンはおっぱいから母乳が射出されるのに必要なだけでなく、分娩後などに分泌されて子宮を収縮させる作用があります。そのため妊娠中に分泌されると流産の原因になる可能性があるのです。
実際の影響
妊娠中の授乳は妊娠の予後や赤ちゃんの出生体重には影響がないとする論文もありますが、2019年に発表された10,661人のアメリカ人の妊婦さんを細かく分析したデータによると、完全母乳での育児中の妊婦さんは授乳していない妊婦さんと比べると3.9倍流産しやすくなることが分かりました。その一方で離乳食がメインでおっぱいは少しくわえさせている程度の場合は流産率は上がらないことも同研究で確認されています 2)3)4)。ただ、このデータは飽くまでアメリカ人を対象としていることから日本人に当てはまるかは分かりませんし、具体的にどれだけの量の授乳をどのくらいの長さ行うといけないのかということも明らかにされていないので、今後授乳と妊娠に関してはさらなる研究が必要になるでしょう。
まとめ
授乳にはたくさんのメリットがあるのでできれば妊娠中でも続けていただきたいのですが、その一方で上記のようなリスクもあるため注意が必要です。目の前で上のお子さんがおっぱいを欲しがって悶えているとつい手を差し伸べたくなりますが、お腹の赤ちゃんとのバランスをとることが大切ですね。当院におかかりの方は卒乳、断乳などもご相談にのりますので是非お気軽にお声かけください。
1) CM Donangelo, et al. The Encyclopedia of Food and Health. 2016;4:484-490
2) G Lopez Fernandez, et al. Women Birth. 2017 Dec;30(6):e292-e300
3) Aylin Ayrim, et al. Breastfeed Med. 2014 Apr;9(3):157-60
4) Joseph M. Perspective Sex Reprod Health. 2019 Sep;51(3):153-163