こんにちは、副院長の石田です。
体外受精など、「基本治療」とされる一連の不妊治療が2022年4月に保険適用されてから1年が経ちました。この間、不妊治療から無事妊娠が成立して当院を受診してくださった患者さんも大勢いらっしゃいますので、恐らく多くの方が保険診療の恩恵を受けられたことと思います。さて、そんな折ですが、学会誌に「諸外国における不妊治療の公費負担状況」という面白い論文が投稿されていたので本日はそちらから世界の不妊治療事情をご紹介させていただこうと思います 1)。
各国の公費負担割合
まずはご参考までに、International Federation of Fertility Societies(IFFS)という生殖医療に関わる代表的な国際組織が出したレポートによると、回答を得た88カ国のうち、53%にあたる47カ国で不妊治療をする患者さんに何かしらの経済的支援が行われているそうです 2)。そんな中で冒頭の論文を読むと、ヨーロッパでは大半の国で何らかの公費負担が実施されているようで、たとえばフランス、イギリス、スペイン、デンマーク、スウェーデンなどではそれぞれに設定した条件のもと、100%の治療費が公費で賄われているということでした。また、保険の種類や州によってはドイツでも100%補助が出ることがあるほか、オランダでも加入している保険次第で90%がカバーされることもあるようです。ちなみに日本では43歳未満の女性が対象で、子供一人あたり6回(40歳以上では3回)まで保険適用としていますが、上記の国々では年齢制限は概ね40歳前後、治療回数は3回前後に設定されていることが多いです。他の国や地域で言うと、台湾は日本と大体同じような内容、韓国では自己負担10〜50%(年齢や所得による)、そしてなんとイスラエルでは婚姻状況を問わず45歳までのすべての女性が、第2子が出生するまで無償・無制限で治療を継続することができるみたいです。
上記の補足
さて、ここまでの流れだと「日本、まだまだじゃん。少子化なんだしもっと頑張らないと。」って思う方もいらっしゃるかもですが、もちろんそれぞれの社会にはそれぞれに抱える問題点もあります。例えば手厚そうに見える欧州各国の制度ですが、国によっては薬剤費は自腹だったり肥満女性は対象外になるなど必ずしもみんなに使い勝手が良いわけでもないようです。また、公費診療だと診察予約が1〜2年先になることもザラにあるようで、そこまで待てない女性に関しては結局自費での治療を選ぶことも少なくないみたいです。イスラエルは大盤振る舞いに見えますが、恐らくは文化的な事情に加えて常に亡国の緊張感がある歴史的背景などから「子供を産むことへの同調圧力」が極めて強く、加えて上記の制度がそれを後押ししているため一部の女性に対してかかる精神的負担の大きさが社会問題になっているということでした。そこで言うとフリーアクセスで予約も取りやすく、かつ国際的に見ても低単価とされている日本の不妊治療費用がさらに保険適用になっているのは、妊娠、出産を希望するカップルや個人にとって優しい社会と言えるのかもしれません。
まとめ
というわけで本日は不妊治療についてのお話でした。不妊治療はもともと産婦人科医の中でも知識や技術がそれに特化した人材でないと扱いきれないという特殊性があります。そのため私自身はこの分野に関して何か偉そうなことを言える立場にはないのですが、こうして制度の国際比較とその背景の考察をすることで様々なことが見えてくるのは興味深いなと思い記事にさせていただきました。とは言え当院でも、妊娠を希望しているけど専門施設にかかるのはちょっとハードルが高いという患者さんのご相談や初期診療はお受けしております。ご希望の方は是非気軽に予約を取ってお越しください。
1) 前田恵理 日本産科婦人科学会雑誌 Vol. 75, No. 3, pp.392-399, 2023
2) IFFS 2022. Global Trends in Reproductive Policy and Practice, 9th Edition. Global Reproductive Health 2022;7:e58