妊娠中期のおなかの張りと腹痛

なぜおなかが「張る」のか

おなかが大きくなってくる妊娠中期以降、働いたり、階段をのぼったり、重いものを持つなどの動作で腹圧がかかったり、疲れたりするとおながが固くなっていることがあります。これが「張り」と言われるものです。

原因の多くは生理的な子宮収縮によるもので、こうした「張り」が胎児に影響することはほとんどありません。

生理的な子宮収縮以外では子宮の増大(子宮筋腫や多胎妊娠を含む)によって腸や膀胱などが圧迫されて起こるものや、便秘、胎位が原因の場合もあります。

生理的な張り・子宮収縮は安静にすれば次第におさまってくるのが特徴です。

切迫早産とは

定義として要点は2つです。

・早産の危険性が高いと考えられる状態(文字どおり早産が「切迫」している)

・周期的・規則的な子宮収縮に加え頸管が熟化していることを伴う状態(子宮収縮だけであれば切迫早産とはいえない)

規則的な子宮収縮についてはCTG (胎児心拍数陣痛図)の子宮収縮波形にて客観的な評価が可能です。また頸管の熟化については経腟超音波にて子宮頸管長の測定と内診により子宮口開大の評価が行われます。

その他検査に関し、子宮頸管が炎症を起こすとプロスタグランジンの生成を導き、それが子宮収縮に関与するため、子宮頸管や腟内をぬぐう検査(バイオマーカー、培養)なども行われることがあります。

安静にしてもおなかが張る場合は早めに受診を

安静にしたのにも関わらず周期的におなかが張る場合は切迫流産・切迫早産の可能性があります。出血に関わらず早めの受診をしましょう。特に1時間に何回も痛みを伴う場合はすぐに受診をしましょう。お仕事をされている時もあるかと思いますが、なるべく仕事を切り上げて、皆さんの妊婦健診をみてもらっている医師に相談すべきです(夜間の場合は普段みてもらっている医師と異なる場合があります)。

痛みが持続する場合は胎盤が剥離してしまうこともあり得ます。その場合は母胎ともに悪影響を及ぼしてしまいます。

早めに受診され、その時の診察では問題なかったとしても、翌外来診療日に再度受診し、改めて子宮頸管長の測定を行い頸管長の短縮傾向がないこと、その他の異常所見がないことを時間が経過して確認するのも大事です。

執筆 院長

繰り返す流産について

こんにちは、副院長の石田です。

在胎22週未満で胎児心拍が停止してしまう、あるいは胎児が娩出されてしまうなどの理由で妊娠が終わってしまうことを流産と言います。診察で確認された正常妊娠のうち概ね15%程度が流産になると言われていますが、2.6〜5.0%の確率で2回連続する反復流産や、0.7〜1.0%の確率で3回以上連続する習慣流産となることがあります。ただでさえつらい流産を複数回経験するのは本当に悲しいことですが、本日はこのことについてガイドラインに沿って解説したいと思います 1)。

流産を繰り返してしまう原因

国際的に明確な定義はありませんが、日本では流産または死産を2回以上経験した状態を不育症と呼びます。最も重要な流産リスクは加齢とされていますが、それ以外の原因としては子宮奇形や子宮筋腫・腺筋症などの子宮因子、抗リン脂質抗体に代表される自己免疫疾患、甲状腺機能異常症などの内分泌疾患、そして夫婦の隠れた染色体異常などがよく挙げられます。その一方で半分近くの患者さんで原因不明というデータもあり対応は決して簡単ではありません 2)。いずれにしても複数回の流産を主訴に受診された患者さんにはこれらの異常を念頭に検査を行っていくことになります。「夫婦の隠れた染色体異常」というのが分かりづらいかもしれませんが、染色体異常には「均衡型」と言って保有していても症状が出ないものがあります。具体的には相互転座やロバートソン転座などですが、これが男性か女性のどちらか(あるいは両方)にあると受精卵の染色体異常はより深刻なものとなり、流産のリスクが上昇すると考えられています。しかし夫婦の染色体検査は値段が高い割に必ずしも頻繁に異常が見つかるわけでもなく決してコスパの良い検査ではないこと、仮に異常が見つかっても治療法が存在しないため当人に責任を感じさせるだけになってしまう可能性があることなどから、検査前には患者さんと医療者が検査の意義について十分に話し合っておくことが重要です。

不育症の治療

原因と思われる疾患が見つかった場合には可能な範囲でそれに沿った治療を行っていくことになりますが、原因不明の際に有効とされる治療ははっきりしていません。しかしその一方で流産を5回経験している患者さんでも50%以上の人が最終的に無治療で赤ちゃんを授かれるというデータもあり、必ずしも悲観的になり過ぎる必要はないようです。

まとめ

というわけで本日は流産を繰り返してしまう患者さんの対処法についてご説明しました。一般的には2〜3回流産を経験した場合には不育症専門の施設へご紹介することが多いと思いますが、必ずしも統一した基準はないためその都度医療者と患者さんでよく話し合って対応していく形になります。もし「自分たちは流産を繰り返しているけどどうかな?」と思う方は一度最寄りの産婦人科に相談してみるといいかもしれません。

1) 日本産科婦人科学会/日本産婦人科医会 産婦人科診療ガイドライン 産科編2023 CQ204
2) Abramson J, et al. Thyroid. 2001;11(1):57

なぜ超音波検査でゼリーが必要なのか

音は空気を振動させながら波として進んで行きます。振動する回数が多ければ高音となり、それが一定以上に達すると人の耳には聞こえない音となります。これが超音波なのです。

超音波検査機器として人体に当てるプローブは超音波が放射されます。

プローブとの間に空気があると超音波が先に進まないため、その隙間をゼリーで埋める必要があ流のです。腹部超音波ではプローブにゼリーをつけ、経腟超音波ではプローブにゼリーをつけ、さらにゴムをつけて検査を行います。

ゼリーの種類としては粘度や硬さ、アルコールや界面活性剤の有無など微妙に成分が異なります。

当院ではGEヘルスケア・ジャパンの製品を使っており、製造元は花王でグリセリン、プロピレングリコール、メチルパラベン、そしてゼリーが薄青色となる着色剤が成分となっています。

当院で使用するものには含まれておりませんが、アルコールに弱い方や皮膚が弱い方などはアルコールや界面活性剤が含まれているエコーゼリーだとかぶれ・接触性皮膚炎を起こすことがあります。

ちなみにプローべにつけるものはゼリーの他、羊水検査等で用いられるイソジン®︎クリームの塗布でも超音波検査が可能です。

お腹の中に腸管ガスが溜まっていると超音波が減衰してしまい、体内の観察したい位置まで届かなくなってしまいます。また超音波は深部へ行く程反射してくる超音波が弱まり、暗く描出されてしまうので、体格がよい方がエコーが見えにくいのはそのためです。

また、ゼリーにはプローブのすべりをスムーズにする働きもあります。当日エコー検査の際には、ゼリーが洋服についてしまうこともあるため、おなかを出しやすい服装が良いでしょう。

院長執筆

妊娠中の寝る向きについて

こんにちは、副院長の石田です。

当院にかかられている妊婦さんたちによく聞かれる質問の一つに「仰向けで寝ない方がいいですか?」というものがあります。この件は妊婦さんの間では思った以上に一般的な情報のようですが、一方でそう言われる理由については意外に知らない人が多い印象でしたので本日は妊娠中の寝る向きについて解説したいと思います。

なぜ仰向けで寝てはいけないと言われるのか

妊娠すると赤ちゃんを抱えた子宮がどんどん大きくなってくるわけですが、仰向けに寝ると大きな子宮が背骨の右側に沿うように縦に走っている下大静脈という大きな血管を押し潰してしまうことがあります。下大静脈はお腹から下にある血液を心臓に戻すという重要な役割がありますが、潰されてしまうと心臓が新たに体に向かって押し出す血液が不足し、その結果母体の心拍数異常や低血圧から母体の眩暈・悪心といった症状を呈する仰臥位低血圧症候群という状態になることがあります。すると子宮の血液循環も悪くなり、赤ちゃんにも影響が出るのではないかと考えられているんですね 1)。これを避けるために、特に子宮が大きくなってくる妊娠後半期は左側を下にして寝ることが勧められるわけです。実際世の中には下大静脈のある右側を下にして寝ると胎児死亡のリスクになるという研究結果が複数あるんですね 2)3)。

そうは言っても寝て起きたら仰向けだったりするんですけど

そんなこと言ったって朝起きたら仰向けとか右向きになってること結構あるんですけどっていう妊婦さんも多いと思います。それなのに「仰向け寝が胎児死亡のリスクを上げる!!」とか言われるとどうしたらいいか分かりませんよね。ただ、上で紹介したデータは症例対象研究(Case-Control study)というバイアスの入りやすいデザインで集められており、本当に寝方と胎児死亡に相関関係があるかは慎重に見る必要があります。むしろより精密なデザインで行われた研究では左向きに寝た方がリスクが上がるというデータも出ていてどっちつかずになっていることに加え、妊婦さんといえど常識的に考えて睡眠中は寝返りをうっているはずで左下だけでいられているわけがありません 4)。以上のことから私は、妊婦さんが苦しくなければ(お腹が圧迫されるような体勢以外で)ご本人が快適に過ごせるように寝てもらったらいいですよとお伝えしています。

まとめ

ということで本日は妊娠中の寝方について解説いたしました。とはいえ上記のように本件に関しては医療者の中でも何が良いのか結論が出きっているとは言いがたく、聞く相手によっていろんな意見が出てくると思います。そのため妊婦さんやそのご家族を混乱させてしまうと申し訳ないのですが、いずれにしても皆さんにおかれましてはストレスのない範囲でご自身の腑に落ちる考え方を採用しながら過ごしていただければと思います。

1) Diann M. Krywko, et al. StatPearls. Treasure Island(FL): StatPearls Publishing;2023 Jan.
2) McCowan LME, et al. PLoS One. 2017;12(6):e0179396.
3) Gordon A, et al. Obstet Gynecol. 2015;125(2):347.
4) Robert M, et al. Obstet Gynecol. 2019;134(4):667-676.

帯状疱疹はうつるのか?

帯状疱疹は、水痘(水ぼうそう)と同様に水痘・帯状疱疹ウイルス(VZV: Varicella Zoster Virus)によるものです。幼少期に水痘にかかったことがある人はこのウイルスが体内に潜伏しており、その後免疫の働きが低下しウイルスの再活性化により帯状疱疹として皮疹や痛みを起こす可能性があるのです。

帯状疱疹になった場合、他の人が帯状疱疹になることはありません(免疫の働きが低下した人を除き、既に水痘にかかったことのある人が帯状疱疹がうつることはありません)。ただし

主に接触によって水痘になったことのない人は水痘になるおそれがあります。

帯状疱疹を発症した場合に気をつけること

・帯状疱疹の主な感染経路は皮疹との接触感染であることを認識しましょう。お風呂の共有は控えましょう。

・まだ水痘にかかったことのない人、特に乳幼児との接触、また免疫の働きが下がりやすい妊婦との接触は避けましょう。

妊婦が帯状疱疹になった場合は一般的には児の異常は認めません。

ただし、免疫をもたない妊婦が水痘にかかると自身の重症化(水痘性肺炎)や経胎盤的に胎内感染をおこし先天性水痘症候群のおそれがあります。

・帯状疱疹は皮疹の場所を保護すれば出勤停止などの措置はありません。ただし痛みが強く伴う場合は回復を待ち、安静につとめましょう。

院長執筆