逆子とはどのような状態なのか

妊娠末期以降、いわゆる妊娠28週以降から逆子を気にするようになるのですが、一体どういう状態か、確認しましょう。

「逆子」とは、ご存知のとおり児の位置として「骨盤位」が正式名称です。

母体に対し、児の位置や向きは胎位胎向胎勢の3つから表現されます。

胎位とは母体軸に対し胎児軸はどのようになっているかを示すものです。分類として

・縦位

・横位

・斜位

があります。そのうち縦位は内診時の児の先進部分によって

▪️頭位

▪️骨盤位

とさらに分けられるのです。

骨盤位においては主に

⚫️単殿位(児のお尻が1番下)

⚫️複殿位(児が足を曲げて、あぐらをかいているか体育座りになっている様な状態)

な状態があります。

骨盤位は英語で” Breech presentation”と訳されます。この「presentation」とは英米式の児の産道における位置と先進部の表現の一つに相当します。英米式はその他の表現で『position』という分娩中の児の向きを表現するものがあります。

骨盤位においても「position」の英語表現を用いられる時もありますが、この場合は分娩経過の表現と捉えてください。現在は骨盤位分娩が少なくなっているのであまり耳にしたことがないと思いますが、骨盤位分娩において(当然ながら内診で頭位の方位点[determining point]である後頭[Occiput]は触れないので)児の仙骨(Sacrum)を主として分娩中の児の向きを表現します。よって骨盤位分娩で内診時、児の仙骨が母体の左斜め前を向いているとpositionの表現法は

『LSA』

となるのです。

文責 院長

夫婦でできる産み分けについて

こんにちは、副院長の石田です。

妊活中のご夫婦の中でなんとなく気になることが多いのが「産み分けってできるの?」という疑問です。産み分けに関してはたくさんの書籍が出ているほか、インターネット上にも様々な情報が飛び交っており混乱してしまいますよね。そこで本日はご自宅でできる産み分けについて少し解説してみたいと思います。

そもそも赤ちゃんの性別はどうやって決まるのか?

人は通常23組、46本の染色体と言われる遺伝情報を保有しています。2本1組になっているのは父親由来と母親由来をそれぞれ1本ずつ持っているからですが、このうち性染色体が生物学的な性別を決める働きをしています。性染色体にはXとYの2種類がありますが、これがXXの組み合わせなら女性、XYの組み合わせなら男性に分化していくことになります。精子や卵子には本人由来の2本の性染色体のうちで片方だけが入ることになりますが、女性がもつ卵子にはいずれにしてもXしか入れないのに対して男性が作る精子にはXもしくはYが入るので、これらが受精して1セットとなる際にXの精子が受精すれば女の子に、Yの精子が受精すれば男の子になるわけです。

工夫次第で産み分けはできるのか

先に結論からお伝えすると、あまり期待しない方が良いようです。ナトリウムやカリウムを多く含む食事を摂ると男の子が、カルシウムやマグネシウムを多く含む食事を摂ると女の子が生まれやすいという話がありますが、実際にそれでやってみたら差が出たという研究がある一方で、エビデンスの質という点では必ずしも高くないため有用と結論づけるには早い印象でした 1)2)3)。また、セックスの仕方で産み分けるという方法もあります。有名なところでは挿入の深さや体位などに変化をつけるShettles法などがありますが、実はこちらに関しても効果があるかは疑わしいです。わずかながら産み分け効果が見られたというデータもありますが、より綿密に行われた研究では産み分けにはならなそうという結論でした 4)5)。そのほか、妊娠するまでの期間で性別に差が出るかという研究でも明らかな違いは見られなかったようで、結局夫婦が自分たちでできる期待値の高い産み分けは無さそうだなという印象でした 6)。

まとめ

医学的には(倫理的な議論はあるものの)フローサイトメトリーを用いた精子の選別や、体外受精で作成した受精卵をPGTという技術で調べて希望する性別のものを移植するなどの方法でより確実な産み分けが可能ですが、自分たちの力でとなるとお勧めできるような方法はなさそうです。とはいえ、あまり真剣になりすぎずに占い程度のテンションで楽しめるのであれば色々と調べて試してみるのはありかもしれませんね。
ちなみに私が以前働いていたミャンマーでは、男性の睾丸が右の方が大きければ女の子が、左の方が大きければ男の子が第1子に生まれると現地スタッフに言われたことがあります。実際、その場にいた子持ちスタッフで検証したところ、なんと100%の正確性でした。

1) Stolkowski J, et al. Int J Gynaecol Obstet. 1980;18(6):440
2) Dariush Farhud, et al. Iran J Public Health. 2022 Aug;51(8):1886-1892
3) A M Noorlander, et al. Reprod Biomed Online. 2010 Dec;21(6):794-802
4) R H Gray. Am J Obstet Gynecol. 1991 Dec;165(6 Pt 2):1982-4
5) Wilcox AJ, et al. N Engl J Med. 1995;333(23):1517
6) Mike Joffre, et al. BMJ. 2007 Mar 10;334(7592):524

妊娠中に飛行機に乗って大丈夫?

こんにちは、副院長の石田です。

さて、世の中が徐々にアフターコロナの雰囲気になる中で国内外とも飛行機を使って移動される方も増えているようです。もうすぐお盆ということもあり妊婦さんの中には旅行や帰省を検討中の方も多いかとは思いますが、良く聞かれるのが「飛行機乗って大丈夫ですか?」というご質問です。そこで本日は妊娠に対する飛行機移動の影響について解説したいと思います。

飛行機での移動は妊婦さんにとって安全なのか

結論から言うと、飛行機での移動は妊娠中でも特に問題ないと言われています。妊娠中に1回でも飛行機に乗った妊婦さんを調査したところ、乗らなかった人と比べて性器出血の発症率、早産率、妊娠高血圧症候群の発症率などで差はなかったというデータが出ていました 1)。また、60万人以上の妊婦さんを対象とした臨床研究において飛行機に搭乗した妊婦さんでは出生体重が平均9g、妊娠週数が平均0.36日ほど統計学的に優位に増加したという報告もありましたが、もしそれが正しいとしても赤ちゃんの健康に影響があるような重大な話ではないでしょう 2)。宇宙線と言われる放射線による赤ちゃんへの影響を懸念する人もいますが、こちらは地上と比べると被曝量は高まるものの、その違いは微々たるものであり気にする必要はなさそうです。ただし、パイロットやキャビンアテンダント、そして頻繁に飛行機を使用する人に関しては問題となるレベルに到達することがあるようで、そういった仕事や生活環境にある人は個別に対応する必要があるということでした 3)4)。

飛行機での旅行の際の注意事項

さて、妊婦さんが飛行機に乗ること自体は問題ないわけですが、その一方で注意すべきこともあります。まず、妊婦さんは深部静脈血栓症という危険な病気にかかるリスクが高いです。細かい解説は別の記事に改めますが、この病気は特に飛行機内のような長時間動けない状況でかかりやすいです。そのため妊婦さんは着圧ストッキングの着用、こまめな水分補給、座席でできる体操などを行なって予防に努めていただくのがおすすめです。また、飛行機で移動する先は当然遠方になりますが、例えばもし旅行先で早産になってしまった場合、場所と週数によっては赤ちゃんは助からないか、良くて新生児集中治療室での長期入院になります。その際には少なくとも父母のどちらかは赤ちゃんが退院するまでずっとその街での生活を余儀なくされるため精神、体力、そして経済的に大きな負担が強いられることになります。国内での帰省であればまだいいでしょうが、もし海外旅行の場合は旅行保険が妊娠関連の疾患や新生児の治療をカバーすることは極めて稀であり高額の治療費が請求されることもありえます。そのため私は外来で経過良好な妊婦さんに「飛行機で旅行してもいいですか?」と聞かれた時には「どうしても必要な移動であれば止めませんが」と前置いたうえで上記のリスクをお伝えして慎重に検討してもらうようにしています。

まとめ

というわけで本日は妊婦さんと飛行機での旅行についてのお話でした。妊娠は常に状態が急激に変わり得る不安定な状態なので、本音を言うと妊娠中はあまり遠方に出かけないほうがいいかなと思っています。ただ、どうしても移動しなければいけない事情がある妊婦さんにおかれましては上記のようなリスクを十分ヘッジできるような旅行計画をたてられることをお勧めします。

1) Mala Freeman, et al. Arch Gynecol Obstet. 2004 May;269(4): 274-7.
2) Hila Shalev Ram, et al. PLoS One. 2020 Feb 6;15(2):e0228639.
3) Robert J Barish. Obstet Gynecol. 2004 Jun;103(6):1326-30
4) ACOG Committee Opinion No. 746. Obstet Gynecol. 2018 Aug;132(2):e64-e66

にしじまクリニックの入院生活

こんにちは、副院長の石田です。

産後の入院生活は妊婦さんたちが施設を選ぶ際に重要視することの一つだと思います。「できるだけ豪華なところがいい」とか「美味しい食事も付随するサービスも要らないからとにかく安く済ませたい」など人によって様々なニーズがありますが、皆さんはいかがでしょうか?そこで本日は参考までに当院の入院生活の特徴とそこに込める想いについてご紹介させていただきます。

当院の産後ケアに対する考え方

妊娠、出産は言うまでもなく体力的にも精神的にも妊婦さんに大きな負担がかかるイベントです。さらには出産前は意外に意識されていないことも多いですが、それに続く子育てもまた大変な作業です。そして、その出産と育児を繋ぐのが産後の入院期間です。それを踏まえて当院では、せめて産後の入院中に産婦さんの肉体・精神両面での体力をできるだけ回復させた状態で家にお帰しできるよう、以下のような取り組みをしています。

全室個室

相部屋だと赤ちゃんの泣き声や物音、においなどが気になったり気を遣ったり遣われたりしてしまいますが、当院は全室個室のため他の患者さんに気兼ねすることなくご自身のペースで入院生活を送っていただくことができます。また、現在では少しずつですが面会も解禁しているので病院に会いに来られたご家族とも周りを気にすることなく過ごしていただけます。

アロマサービス

当院では高い技術を持ったセラピストによるアロママッサージのサービスを産前から分娩中、産後まで提供しています。当院のセラピストが厳選した高品質なアロマオイルにより疲労した妊婦さんの回復が少しでも後押しできるようにオプションサービスを含むアロママッサージやシッツバスなどをご用意しています。また、上記の通り全室個室のためお部屋に用意したディフューザーで好みの香りでリラックスできるのも特徴です。

夜間の赤ちゃん預かり

産科施設や医療者によって様々な考え方がありますが、当院では産婦さんのご希望がなければ無理に24時間同室をお願いしてはいません。できるだけ母児を分離しない方が良いという考えもありそれ自体に反対はしませんが、当院としては家に帰るまではできるだけ気力体力を回復してほしいという想いから夜間等はナースステーションでお預かりするようにしています。ちなみにお預かりしている間はスタッフによる粉ミルクでの授乳になります。

アメニティーサービス

そのほか、シャワー室のシャンプーやコンディショナー、ボディーソープにJohn Masters OrganicやAesopなど日常的に使うにはちょっと高級なものを揃えたり、ダイソンのドライヤーを置いたりしてお産で傷んだ髪のコンディションを整えてもらえるようにしています。また、授乳中は頻繁に小腹が空きますが、好きな時につまんでいただけるようにラウンジに軽食やお菓子、飲み物をご用意しています。

まとめ

本日は当院の入院環境の一部をご紹介させていただきました。他にもスタッフみんなで話し合って用意したサービスがありますので、是非ホームページもご覧いただければと思います。繰り返しになりますが、にしじまクリニックはエビデンスに基づいた医療提供をベースにしながらも、産後のお母さんたちに可能な限り妊娠出産によるダメージを回復して元気に育児を始めていただけるように入院環境を整備しています。妊娠を契機に当院を受診してくださった患者さんには院内見学もご案内していますので、皆さんにとって快適に過ごせそうな空間かどうかを是非ご自身の目で確認してみてください。

子宮収縮薬(陣痛促進剤)のあれこれ

こんにちは、副院長の石田です。

予定日超過などの何らかの医学的な理由や無痛分娩を含む社会的な理由で分娩誘発を行う妊婦さんは少なくありません。そんな時に使用するのが子宮収縮薬と言われるお薬です。このお薬にはいくつか種類があって、医師は病歴や診察所見をもとにその患者さんに最も望ましいと思われるものを選択して使用します。医師によって選び方に個性がありますが、大雑把な使い方は共通しているため我々からすると個々の患者さんの使用薬剤を見るだけで現在の状況がざっくりと把握できます。しかし患者さんからするとどんな理由で昨日と今日の子宮収縮薬が違うのかが分かりにくくて不安になるかもしれないので、本日はこれについて少し解説したいと思います。

プロスタグランジンとオキシトシン

子宮収縮薬にはおおまかにプロスタグランジンとオキシトシンという2種類の薬剤があります。いずれも分娩の進行に重要な役割を担うホルモンで、本来は体内で自然に分泌されて陣痛発来に寄与しますが、人工的に陣痛を起こしたい場合にはお薬として妊婦さんに投与します。細かい使い分けは長くなるので割愛しますが、プロスタグランジンは現在点滴で使用する注射薬、口から飲む経口薬、腟の中に入れて使用する坐薬の3種類が日本で使用できます。


ところで、分娩の三要素という言葉をご存知でしょうか?娩出力(陣痛の強さ)、産道(赤ちゃんの通り道)、娩出物(赤ちゃん)という3つの要素が噛み合って初めて分娩は成功するということで、要は陣痛が弱い、産道が通りにくい、赤ちゃんの大きさや向きが良くないなどどれか一つでも状況が許さないと赤ちゃんは生まれてきてくれないわけですが、プロスタグランジンはこの中で産道の状態を改善する力が大きいとされています。そのため「子宮の出口が固く閉じてて陣痛を起こしても出てこられなさそう」という患者さんにまず使うことが多いです。この製剤は永らく点滴薬と経口薬のみでしたが、最近になって世界に遅れて日本でも経腟坐薬が発売され使われ始めました。坐薬に関しては国内では新しい薬なのでなかなか使い方に迷う施設が多いと聞く一方で、院長と私はそれぞれ海外で似たような薬を使い慣れていたためか、気がつけば意図せず当院が県内で最も使用実績のある施設となっているようです。


オキシトシンは点滴薬で、陣痛(娩出力)を強くする効果がとにかく強いです。また、プロスタグランジンよりも使用に関しての制限が少なく使いやすいのも特徴です。その一方で子宮の出口を開きやすくする効果はあまり期待できないため、「既にある程度出口が開いていて、あとは赤ちゃんを押し出してあげるだけ」という状況で使うことが多いです。

まとめ

というわけで本日は分娩誘発に用いられる薬剤について解説しました。まとめると、分娩誘発の基本戦略は様々な方法で産道を通りやすくしてから最後にオキシトシンで陣痛を誘発してお産にするというのが一般的です。子宮の出口である頸管はBishop scoreという国際的に用いられる指標で6点以上なら熟化しているとみなされますが、薬剤の種類や剤型の選択は子宮頸管の状態だけでなく妊婦さんの年齢、週数、経産数、体型、基礎疾患の有無、そして赤ちゃんのサイズ等様々な要因を考慮した上で医師の経験や好みも織り交ぜて決定されます。子宮収縮薬に関しては各種メディアで定期的に危険性が訴えられることで何か悪役のような扱いを受けることがありますが、使用基準や方法は膨大に積み上がったエビデンスに裏打ちされたガイドラインで厳格に定められており、適切に使用される分には極めて安全な薬剤です。それどころかこれらの薬がなければ多くの母子の命が失われていたことに疑いの余地はありません。分娩誘発と言われるとなんだか怖くなってしまう人もいるかもしれませんが、主治医によく話を聞いた上で安心して臨んでいただければと思います。